第二十三話「共闘」

「いざ仰げ! |天地乖離す《エヌマ》――――」

 直線距離にして7000メートル弱。ルーラーはその距離にありながら、アーチャーの宝具が今にも発動しようとしている事を察知した。
 普通なら間に合わない。この距離では、どうあっても辿り着けない。そもそも、相手は遥か上空。人の身で辿り着ける場所ではない。
 けれど、そんな弱音を吐いている暇は無い。アレが発動すれば最期、この地は滅びてしまう。命あるモノ達が皆、死に絶える。それを許すわけにはいかない。|裁定者《ルーラー》として以前に、英霊として、そのような暴挙を容認する事など出来ない。
 ルールの違反者は別に居るが、先に対処すべきはアーチャー。この身にはたった一つだけ、この距離を零とし、彼の暴挙を止める手がある。
 それこそが、ルーラーのクラスに備わる他のサーヴァントへの|強制命令権《令呪》である。

「宝具の発動を停止なさい、アーチャーのサーヴァントよ!!」

 本来、サーヴァントはこの世に現界する前に一つの誓いを立てなければならない。それは、令呪に従うという誓い。その誓いがあるからこそ、令呪はサーヴァントに対する強制命令権足りえている。
 されど、令呪の力は万能では無い。それ単体が可能とする事象はあくまで、マスターとサーヴァントの魔力の合計値で再現可能な命令の強制である。令呪自体も優良な魔力の結晶体ではあるものの、そこまで莫大な魔力を秘めているわけではない。だが、命令の再現が可能なだけの魔力さえあれば、令呪は『行動の停止』のみならず、『行動の強化』をも可能とする。サーヴァント自身ですら、制御不能な肉体の限界さえ突破させる大魔術の結晶。それが令呪なのだ。
 さて、この事から分かるように、令呪の強制にはあくまで『マスターとサーヴァントの魔力の合計値が命令の再現を可能とするに足る量に達している』事が条件である。この条件を満たしてさえいれば、遥か先の敵を斬る為にサーヴァントを弾丸の如く撃ち出す事も魔法の域にあるとされる空間転移も可能であるが、もしこの条件を満たさない命令を下した場合どうなるだろうか。答えは明確である。
 即ち――――、意味を為さない。
 例えば、『次の一撃を確実に命中させろ』、『あの対象にだけは攻撃を命中させるな』などの単一の命令ならば、必要とされる魔力も少なくて済む。だが、逆に『この戦いの間、私を守り通せ』、『この戦いに勝て』などの内容が曖昧で長時間継続される命令には莫大な魔力が必要となる。後者の場合、条件を満たす事が出来ず、発動したとしても令呪の力が弱くなる。重ね掛けによる命令の補強も後者の命令の場合、飛躍的に効果が強まるという事は無い。 
 |桜《凜》が初めにアーチャーに対し、『私を認めろ』という命令を下したが、この命令は後者に当たる。あまりにも曖昧かつ長期的な命令故に桜とアーチャーの魔力の合計値をもってしても、条件を満たすには至らなかった。加えて、精神に対して働きかける命令の場合、英霊自身の精神性も大きく関わって来る。命令に従順な英霊に対しては効果が強まるが、逆に命令に対して従順では無い英霊の場合、効果が弱まる。アーチャーは後者の中でも指折りの英霊であるが故に七つの令呪の重ね掛けも彼の精神を屈服させるには足りなかった。

「――――|開闢の星《エリシュ》を……ッ!?」

 さて、桜の七つの令呪に抗ったアーチャーに対して、ルーラーの令呪は効果があるのだろうか?
 答えは――――、『ある』。
 桜の命令とルーラーの命令には決定的な違いが二つある。
 一つは桜の命令が曖昧かつ長期的な命令だった事に対し、ルーラーの命令は単一的であった事。
 そして、もう一つは桜があくまで人間であり、人間が持ち得る量の魔力しか保有していないという事である。対して、ルーラーは裁定者に相応しい莫大な魔力を保有している。アーチャーに宝具の発動を停止させるという単一的な命令に必要な魔力の条件を満たしたのである。

「アー、チャー?」

 アーチャーの後方でへたり込んでいる桜の瞳に驚愕の色が浮かぶ。
 今にも発動しようとしていたアーチャーの宝具が突如停止したのだ。纏っていた膨大な魔力が霧散し、円柱型の刃は回転を止めている。
 何が起きているのか、彼女には理解が出来ない。ただ一つ、分かる事はアーチャーがさっきよりも更に怒っているという事だけ。

「……止まった」

 家々の屋根を飛ぶように駆けながら、ルーラーは安堵の息を吐いた。
 彼女が向かっているのはアーチャーの乗る船がある方角とは僅かにずれている。彼女が向かっているのは円蔵山。 マウント深山から走る事一分。本来、車でももっと時間が掛かる筈の距離をルーラーは走破していた。階段の麓まで辿り着き、登ろうと段に足を掛けたその時、頭上を紅き光が走った。
 その光から遅れる事二秒。続いて、先程とは違う暗紅色の光が中腹にある柳洞寺から放たれた。

第二十三話「共闘」

 天空に浮かぶ黄金の船。そこから広がる破滅の光と滅びの暴風を見た瞬間、ランサーのマスターは己が従僕に問い掛けた。

「アレに貴方の宝具は届きますか?」
「……ちょっとキツイな」

 ランサーは天を仰ぎ見ながら苦々しげに言った。

「さすがにあの距離だとな……。それに、バゼット。奴にはあの盾がある」
「ですが、アレの発動を見逃せば、この地が滅びてしまいます。駄目元でもやってみましょう」
「ま、待って! アレは何なの!?」

 首に痛みを感じながら起き上がり私はバゼットに問い質した。

「見て分かりませんか? サーヴァントの宝具です。恐らく、アーチャーのサーヴァントでしょう。これだけ離れていて尚、この威圧感……。恐らく、対城クラスかあるいは……。とにかく、このまま奴の暴挙を許せば、この地が火の海と化す事は確実。何としても止めねば」

 火の海ですって!? 
 天高く浮かぶ船に視線を向ける。英霊・エミヤシロウの鷹の目は遥か上空に浮かぶ船の上に立つアーチャーの姿を捉えた。その手に握る剣を見た瞬間、吐き気が込み上げて来た。
 エミヤシロウという英霊の特性上、それが剣であるならどんなモノでも解析出来る筈。にも関わらず、その剣がなんなのか理解出来ない。
 分かる事はソレが真価を発揮すれば、良くない事が起きるという事のみ――――。

「ランサーの槍で確実に止められるの!?」
「……保証は出来ません。ですが、やらなければどのみち……」
「なら、私がやる!!」
「……は?」
「私の矢なら確実にあの船に届く」
「届くって、この距離だぞ!?」

 ランサーが驚きの声を上げる。でも、今の私になら届かせる事が出来る。

「大丈夫。今の私にとって、この目に映る全てが射程範囲」
「……だが、奴には俺の宝具すら防ぐ盾がある」
「それは――――ッ」

 ランサーの宝具の脅威はついさっき、身を持って体験した。
 その槍すら防ぐ盾。そんなものを用意されたら、幾ら私の矢でも……。

「だから、いっちょ、ここは共闘といかないか?」
「……え?」
「ランサー?」

 驚く声は私のものだけじゃなかった。
 バゼットも目を丸くしている。

「俺の槍も嬢ちゃんの矢も恐らく、一方だけなら奴に防がれる可能性がある。だから――――」
「なるほど……。片方がアーチャーに盾を出させ、もう片方が盾を避けて船を叩くと……」
「やる!!」

 私は一も二もなく返答した。

「いいのか? こっちはさっきまで嬢ちゃんを殺そうとしてた相手だぜ?」
「そんなのどうでもいい!! このままじゃ、皆が死んじゃうんでしょ!? だったら、やれる事をしなきゃ!!」

 正直、ランサーもバゼットも怖い。でも、だからって共闘を躊躇したりしない。
 そんな事をしてる間にアーチャーの宝具が放たれたら、この街が滅ぶ。
 そんなの絶対駄目。

「……いいぜ、気に入った。名前を教えてくれ、嬢ちゃん」
「イリヤ。イリヤスフィール・V・E・衛宮」
「おっし、イリヤ。俺の槍はそこまで精密に狙いを付けられるってわけじゃねぇ。だから、船を狙うのはお前さんに頼む。出来るか?」
「出来るわ」
「おっし、良い返事だ。バゼット」

 ランサーは私の頭をポンと叩くと、バゼットに顔を向けた。

「令呪をくれ。確実に奴の盾を引き出さねぇといけないからな」
「……いいでしょう。不安はありますが、やらないよりはマシです。セイバーのマスター。改めて、この一時のみ、共闘を願い出ます。受けて貰えますか?」
「勿論」
「えっと、俺達は何かした方がいいのかな?」

 フラットが手持ち無沙汰気に頬を掻きながら言った。

「俺達に祈ってろ。失敗したら、そん時は多分、俺達も終わりだ」
「マジッスか!?」
 
 焦った表情でフラットは上空を見上げる。もう、猶予は残っていない。
 私は内に意識を埋没させ、この状況に最も最適な武器を検索した。ヒットしたのはとある王の剣。ソレをエミヤシロウが独自にアレンジした一品。
 
「|投影《トレース》、|開始《オン》――――!!」

 歪な形状の刃。弓で射る為にアレンジされたその宝具は本来、担い手の理想を具現化する特性を持つ魔剣。
 
「バゼット!!」
「ええ、令呪をもって命じます!! ランサー、あの船を確実に落としなさい!!」

 バゼットの令呪が発動する。その刹那、何故か船上のアーチャーの宝具が動きを止めた。
 理由は分からない。ただ、今がチャンスだ。

「いくぜ――――っ!!」

 ランサーが大きく跳躍する。狙いは遥か天空に浮かぶ黄金の船。

「――――|突き穿つ死翔の槍《ゲイ・ボルグ》ッ!!」

 膨大な魔力と共にランサーの魔槍が放たれた。
 今度は私の番だ。既にアーチャーはランサーのゲイ・ボルグに気付き、盾を展開している。私はゲイ・ボルグを隠れ蓑にし、盾を躱し、船を射抜く軌跡をイメージした。

「――――|我が骨子は捻れ狂う《I am the bone of my sword》」

 ――――元の剣の名は、|鮮血喰らう理想の剣《フルンティング》。
 そして、この矢の名は――――、

「|赤原猟犬《フルンディング》――――ッ!!」

 先を往く真紅の魔槍の軌跡を追い、放たれた猟犬は夜天を裂き、突き進む。
 その先で、高らかな雄叫びを上げる盾が展開されている。
 名を――――、|轟き吼える黄金の盾《オハン》。
 嘗て、神の剣を受けて尚、傷一つ負う事の無かった王の盾は担い手の危機に抗うべく高らかに吼える。
 拮抗する盾と槍の鬩ぎ合い。その隙間を縫うように猟犬はその刃を黄金の船へと突き立て――――、

――――王の宝物を穢そうとはな。

 聞こえない筈の声が聞こえた。
 悪寒が走る。
 失敗した。あの盾の特性を見誤った。あの盾の本質は山三つを吹き飛ばす剣の一撃を受けて尚、傷一つ負わない絶対的な防御力では無い。
 その真価は危機を主に報せる索敵能力。如何に攻撃を巧妙に隠そうと、その盾を騙す事は出来ない。
 新たに展開された盾は投擲宝具に対し、絶対的な防御を誇るかのトロイア戦争の英雄アイアスのもの。
 |熾天覆う七つの円環《ロー・アイアス》を前に私のフルンディングは完全に防がれてしまった。

「そんな――――ッ」

 言葉を失う私にライダーは拳を掌に打ち付けて言った。

「こうなったら、ボクが直接行って来る!!」
「でしたら、私も同行させて下さい」

 ライダーの暴挙を止めようと口を開いた私より先に山門より現れた第三者が口を挟んできた。

「ル、ルーラー!?」

 ルーラーのサーヴァントは真っ直ぐにアーチャーの船を見上げながら言った。

「私をアーチャーの下に連れて行って下さい。私は裁定者のサーヴァントとして、彼を止めなければなりません」
「ま、待って!! あいつは別格なんだよ!?」

 幾らなんでも無謀過ぎる。アーチャーは他のサーヴァント達と一線を画している。
 幾ら、ライダーとルーラーが伝説に名を馳せた英雄といえど、アレと戦えば命を奪われる。

「たとえ、相手が何者であろうと、無垢なる民を犠牲にするわけには参りません。彼を止めねば……」
「止められるのですか?」

 バゼットが問い掛けた。

「止めます」

 ルーラーは断言した。

「……なら、私から言う事はありません。私やランサーではあまり手助けも出来そうにありませんからね」
「ちょ、ちょっと、バゼットさん!?」
「私やランサーでは無理ですが……、セイバーのマスター。貴女なら、彼らの援護が出来る」
「……え?」
「貴女の矢なら彼らがあの船に辿り着くまでの脅威を払う事も出来るかもしれません」
「で、でも……」
「お願い出来ますか?」

 ルーラーが言った。

「わ、私……」
「貴女のその姿……。裁定者として、後で言わねばならない事があります。ですが、今はその力をお借りしたい。アレを止めねばなりません。その為にどうか、お力添えを……」

 ルーラーに頭を下げられ、私は困り果ててしまった。
 手助けする事に反対なわけじゃない。ただ、彼らを行かせていいものかと悩んでいる。
 だって、相手はあのアーチャーだ。セイバーですら、手も足も出なかった相手。そんな相手とライダーとルーラーが敵うかどうか……。

「イリヤちゃん」

 いつの間にか傍に来ていたフラットが言った。

「助けてくれないかな……」
「え?」
「アレは本当にヤバイよ。絶対に止めなきゃいけない。その為に、出来る事をしなきゃ」
「で、でも、ライダーが死んじゃうかもしれないんだよ!?」
「ライダーは死なない」
「フラット……」
「絶対に死なせない」
「でも、さっき……」
「さっきとは違うよ」

 フラットは軽く微笑んだ。

「さっき、俺、凄く哀しかった」

 フラットはライダーを見つめた。

「ライダーが死ぬ。俺が殺す。そう理解した時、胸が引き裂かれたみたいに痛んだんだ。さすがに、二度目は無理だよ。本当にイリヤちゃんには感謝してる。ライダーは俺にとって、何より大切な相棒なんだ。だから、絶対に死なせない」

 フラットの瞳には決意の光が宿っている。

「いざとなったら令呪でライダーだけでも逃がすつもりだよ」
「フラット……。さすがにそれは困るよ。ボクだけ逃がされても、君が死んじゃったら意味が無い」

 ライダーが言った。 
 フラットの手を取り、自分の胸に押し付けながら微笑んだ。

「君の命はボクと共にある。ボクの命も君と共にある。ボク達は一心同体さ。だから、必ず君を守ってみせる。この街の人やイリヤちゃんを守るのは当然だけど、なにより、君の命は最優先事項さ」
「……ッハハ。俺達、やっぱり相性抜群だね。同じ事思ってる」
「だろうともさ! ボク達はパートナーだもん」
「……絶対に帰って来てくれよ? 俺、ライダーが居ない日々ってのが、もう、なんか、想像出来ない。ってか、したくない」
「ッハハ! まるで、愛の告白をされた気分だよ。うんうん! ボクもさ! 君ともっともーっと一緒に居たい!! だから、必ず帰ってくるよ!!」

 ライダーはフラットを抱き締めた。フラットもライダーを抱き締め返し、お互いにおでこをぶつけ合った。

「頼むよ、アストルフォ」
「任せて、フラット」

 互いに微笑みあい、離れた。

「イリヤちゃん。頼むよ」
「……うん」

 設計図を展開する。彼らの意思は曲げられない。だから、せめて全力で彼らを援護する。

「俺も手を貸すぜ。お前等、ちょっとこっちに来い」

 ランサーの槍がいつの間にか手元に戻って来ている。その槍にランサーは光の文字を刻んでいく。
 ランサーは己の槍を文字で埋め尽くすと、ライダーとルーラーを呼んだ。
 彼は彼らの鎧にそれぞれ文字を刻んだ。

「多少はステータスを向上させられた筈だ」
「感謝します、ランサー」
「ありがとー、クー・フーリン!!」
「ッハ! 俺と再戦する前に死ぬんじゃねーぞ!!」
「うん!!」

 ライダーはヒッポグリフを呼び出した。
 ルーラーと共に幻馬に跨り、彼は天を仰ぐ。

「行って来る」
「……っか、必ず!!」
「うん、帰ってくるよ!! フラット!!」
「う、うん!!」

 決意が固まる。ライダーとフラットが引き離される事は何があっても許されない。その為に必要な手札の準備は終わった。
 
「|投影《トレース》、|開始《オン》――――!!」

 再度顕現させるは|赤原猟犬《フルンディング》。さっきは船を打ち落とす分だけの魔力を篭めた。だけど、次は更なる魔力を篭める。
 私の魔力はエミヤシロウの保有魔力を遥かに凌駕している。その魔力を限界まで篭めれば、|あの盾《アイアス》を貫通させられないにしても、アーチャーの意識を大幅に割かせる事が出来る筈。

「じゃあ、行くよ!!」
「はい!!」

 ライダーとルーラーを乗せた幻馬が走り出す。
 その瞬間、アーチャーの船から剣が打ち出された。
 
「――――|体は剣で出来ている《I am the bone of my sword》」

 さっきの意趣返しだ。幻馬の前に私はアーチャーの使ったアイアスの盾を顕現させた。

「芸達者だな、おい」

 ランサーが口笛混じりに言う。そう、これはただの大道芸。
 本来、剣のみに特化した英霊・エミヤシロウの奥の手だが、本来の属性では無いものであるが故に魔力の消費が激しく、距離が離れれば維持するのが難しくなる。
 だけど、それで構わない。本命はここからなのだから――――。

「んじゃ、俺から行くぜ!! ――――|突き穿つ死翔の槍《ゲイ・ボルグ》ッ!!」

 再度放たれし、真紅の魔槍。音速を超え奔る幻馬を越え、膨大な魔力を纏いながらアーチャーの船へと到達する。
 それと同時に私もアイアスから意識を外す。魔力の流れが一瞬止まるが、尚も幻馬の疾走を守護してくれている。
 限界まで弦を引き絞る。許容量限界まで魔力を篭められたソレはもはや狂犬。
 今にも暴れ出しそうなソレを一気に解き放つ。

「|赤原猟犬《フルンディング》――――ッ!!」

 ゲイ・ボルグから遅れる事一秒。
 猟犬は先程とは比べ物にならない速度でアーチャーの船に差し迫る。
 二つの宝具の襲撃にアーチャーは再び盾の宝具を展開する。けれど、私の目はアーチャーの表情が翳るのを視た。
 イケル。
 次の投擲の準備は整えてある。アーチャーを防御に徹しさせる為に更なる一手が必要だからだ。
 迎撃に割ける思考など残させない。

「|偽・螺旋剣《カラドボルグII》ッ!!」

 二つの宝具の襲撃を盾で防ぎ尚、幻馬を駆るライダー達に宝具の豪雨を降らせるアーチャー。
 宝具の豪雨を避けるべく、回避軌道を取る幻馬の動きを推測し、その隙間を狙い打つ。 
 この剣もまた、エミヤシロウが独自にアレンジを加えた名剣。空間を捻り切りながら、一直線にアーチャーへ迫る。
 新たに展開された盾の宝具に防がれる。だが、同時にアーチャーの宝具の雨が止んだ。
 その隙にライダーが幻馬を一気に加速させる。

「……あ」

 結果を見る為に意識を集中させていると、不意に眩暈がした。

「……あれ?」
「イリヤちゃん!?」

 フラットの声が聞こえる。何だろう……。
 体が酷く思い。意識が遠の……いて、い……く。

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