第十話「終わりの始まり」
クリスマス・ダンスパーティの日がやって来た。朝、目を醒ますとベッドの足下にはプレゼントが山のように置いてあった。
アル達もとっくに起きていて、それぞれのプレゼントを開封している。アルは俺のプレゼントした高級箒磨きセットで早速ニンバス2000の手入れに勤しんでいる。ハリーはハグリットから貰ったらしいお菓子の詰め合わせを吟味していて、ネビルは新しい思い出し玉が早速赤くなっているのに吃驚している。ロンはハリーからのクィディッチ用のグローブを腕に嵌めている。
俺も自分のプレゼントを開封し始めた。まずはパパとママからのプレゼント。ママはどこでも調理が出来る簡易キッチンセット――――トランク型で、開くと簡易的なキッチンになる。パパからは以心伝心ブローチ――――ブローチに手を当てて念じると、対になるブローチが光り輝いて念じた言葉が映り込む。ただし、二十文字までしか表示不能。対になるブローチはパパが持ってるみたい。試しに《ありがとう》と念じてみると、《メリー・クリスマス》という文字が浮かんで来た。
ブローチを早速胸元に着けて、今度はアルからのプレゼントを開いた。出て来たのは小さな鏡。何だろうと思って鏡を見つめると、鏡にアルの顔が映った。
『どうだ? 【両面鏡】ってんだ。前にダイアゴン横丁で見つけたんだけど、面白いだろ?』
確かに面白いけど、パパからのプレゼントと被ってる。
「ありがとう」
お礼を言って、鏡をポケットに仕舞った。割れないように慎重に扱わなきゃ。
ハリーからはクィディッチのルールブック最新版。ロンからはチャドリーキャノンズの試合年鑑。ハーマイオニーからはお菓子の詰め合わせ。
驚いた事にルーナからもプレゼントが来ていた。俺も蝶々の髪飾りを送っておいて良かった。前に彼女が蝶々の形の奇抜なメガネを掛けていたのを思い出して選んだ。
ルーナからは不思議な模様のミサンガだった。どうやら、強力な魔除けの力が備わってるとの事。もう、保健室に運ばれないで済むようにって。
「ルーナ……」
早速、腕に着けてみた。結構オシャレ。
次のプレゼントはなんと、ドラコからだった。小さい箱から出て来たのは小さな石だった。細い鎖が付いていて、首から下げられるようになってる。最大級の盾の呪文が封じ込められていて、三回だけ、あらゆる魔法を撥ね退けてくれるみたい。何だか、凄いプレゼントを貰ってしまった。俺はこの前助けて貰ったお礼も兼ねて、ホグズミードで奮発して買ったお菓子と悪戯グッズの豪華詰め合わせを送ったけど、これでは全然釣り合わない。今度、別の贈り物をしようかな……。
プレゼントをあらかた開け終わると、皆で談話室に降りた。ダンスパーティーがあるからか、普段ならクリスマス休暇に入ると同時に家に帰る面々も寮に残っている。俺達も明日、煙突飛行で実家に帰る予定だ。みんな、今夜のダンスパーティーが気になってそわそわしている。
そう言えば……、
「アル達はパートナー決まったの?」
ハーマイオニーと合流して大広間で食事をしながら聞いてみると、何故かハーマイオニーが答えた。
「ロンはラベンダーと行くみたいよ。そうよね? ウォンウォン」
ロンが飲んでいたカボチャジュースを吹き出した。目の前でミートパイを頬張っていたハリーは顔面にまともにカボチャジュースを吹きつけられて呆然としている。
「な、何で知ってるんだ!?」
ウォンウォンこと、ロンは顔を真っ赤にしながらハーマイオニーに掴み掛かった。ハリーはまだ呆然としている。アルは腹を抱えて笑ってる。ネビルはよく分かっていないのか、それともどうでもいいのか、黙々とステーキを口に運んでいる。
「おい、ウォンウォン。ラベンダーといつの間に付き合いだしたんだよ?」
半笑いで聞くアルをロンは噛み突かんばかりに睨み付けた。
「いいか? それ以上、僕をその名で呼んだらお前のベッドの下にある物をユーリィに――――」
「うおおおい!! 待て!! 何で知ってるんだ!?」
ベッドの下って何の事だろう。
「お前がこそこそ隠してるのを見たんだよ!! 今後、僕をウォンウォンと呼んだら、お前の秘密を明るみに出してやる!!」
「分かった!! 分かったからそれ以上言うな!! そして、記憶から抹消しろ!!」
「それで、ウォンウォン。結局、いつからラベンダーと付き合ってるんだい?」
ハリーが聞いた。ロンは頭をテーブルにぶつけた。
「ハ、ハリー……」
「いやいや、ナイスなネーミングじゃないか。ラベンダーに付けて貰ったのかい?」
心底楽しそう。
「人にカボチャジュースをぶちまけるような奴にはピッタリだよ」
違う。凄い怒ってる。笑顔だけど、目が全然笑ってない。
「ご、ごめんなさい」
「そうそう。悪い事をしたら、ちゃんと謝らないとね、ウォンウォン」
「あの……、その呼び方は……」
「なんだい? ウォウォン」
ハリーが凄く怖い。ロンはそれ以上何も言わず、ハリーから逃れるように視線を逸らした。
「ちょ、ちょっと前に彼女に告白されたんだ。それで……」
「付き合い始めたんだ」
「……うん。あんな風に僕を見てくれる人が居るなんて思わなかった」
頬を赤く染めながらロンは言った。多くは語らないけど、彼も彼女の事を慕っているのが伝わって来る。物語だと、ロンは彼女をハーマイオニーへの当て付けに使っていただけだったけど、今の彼は真実の愛を彼女に向けているみたい。
「ちなみに、ネビルはジニーと行くのよね?」
「なん……、だと?」
パドマじゃないんだ……。
あまりにも予想外の名前が出て、ロンは絶句している。ジニーはロンの妹だ。アルも食事の手を止めてネビルをガン見している。ハリーはメガネを拭いている。
「って、ジニーと!?」
ロンは立ち上がって悲鳴を上げた。近くで談笑していた三年生の集団がギョッとした顔でロンを見た。
「ど、ど、どういう事だ!?」
取り乱しながらロンはネビルに掴み掛かった。
ネビルは視線を逸らしながら言った。
「じ、実は……、ディーンと喧嘩してる所に遭遇して……」
「え? どうして、ディーンと喧嘩なんか?」
「え? だって、元々彼女はディーンと付き合ってたんだよ?」
「え?」
ロンは驚愕に顔を歪めながら頭を抱えた。
「どういう事なんだ……。わけが分からない。何が起きてるんだ?」
何だか、凄く気の毒な気分になってきた。
「えっと、元々、レイブンクローのアレン・マーフィーと付き合ってたんだけど、三大魔法学校対抗試合の選抜試験の時に彼女にカンニングさせてくれるよう頼んで来たのが切欠で別れて、ディーンがチャンスとばかりにデートの申し込みをしたらしいよ。それで、ちょっと付き合う事にしたんだけど、ディーンがどんどん増長しちゃって、キス以上を強要しようとしてたんだって」
「何だと!? あ、あの野郎!!」
ロンは顔を真っ赤にしながらいきり立って走り出そうとした。
「落ち着け」
アルがロンの腕を掴んで無理矢理座らせた。
「な、何するんだ!? ジニーが!!」
「ネビルの話が終わってないだろ。その話、ジニー本人から聞いたのか?」
アルが聞くと、ネビルは小さく頷いた。
「ディーンが暴力を振るおうとしていたから止めたんだ。マッドアイ達の訓練のおかげでそんなに難しくなかったよ。そしたら、彼女から相談を持ち掛けられてさ。愚痴を聞いてあげてたら、ダンスパーティーに誘われたんだ。正直、誰かを誘う度胸なんて無かったから渡りに船だったよ」
「ジニーと付き合うのか?」
「まさか。愚痴を聞いて上げたお礼だと思うよ。僕なんか、女の子が相手をしてくれるわけないって、さすがに自覚してるよ」
あっけらかんと言うネビルに俺は納得出来なかった。
「そんな事無いよ。パドマだって、君を素敵だって言ってたじゃない」
「彼女はからかってただけだよ。あれ以来、一言も話してないし」
ムッとなって言うと、ネビルは事も無げに言った。
「でも、ネビルは自分が思ってるよりもずっと素敵だよ」
「え?」
ネビルは不思議に目を丸くした。
「ネビルには良い所がたくさんあるし、カッコいいよ。【僕なんか】、なんて言わないで欲しい」
「カッコいい? 僕がかい?」
信じられないって表情を浮かべるのが信じられない。
「自分を鏡で見た事が無いの? 背が高くてスラッとしてるし、顔も引き締まってて、凄くイケてるよ。その上、中身が外見以上に良いんだから。ジニーはきっと、相談に乗ってくれたネビルの魅力に気付いたんだと思う」
「ぼ、僕……、そんなカッコよくなんて……」
「カッコいいよ。きっと、今夜嫉妬されるのはジニーを相手にする君だけじゃない。君を相手にするジニーもだよ」
「き、君も嫉妬する……?」
「え?」
本音を言ったつもりだけど、褒めちぎられて、ネビルは恥ずかしそうに顔を赤らめながら聞いてきた。
「うん。俺が女の子だったらきっと、ジニーが羨ましいと思ったと思うよ」
「……そっか」
何だか、少し寂しそうに呟いてから、ネビルは小さく頷いた。
「僕、精一杯ジニーをエスコートするよ」
「うん」
気合を入れ直しているネビルを微笑ましく見ていると、ロンが凄く複雑そうな表情を浮かべた。
「うん。別にさ……。でも、ジニーと……。ううむ」
ネビルとジニーの交際の可能性に深い葛藤を抱いているみたい。
「ネビルなら少なくともジニーを不幸にするような選択は取らないと思うよ?」
助け舟を出すと、ロンは観念したように溜息を零した。
「……分かってる。認めるよ。ネビルなら安心だって、そう思ってる。でも……ううん」
葛藤はそう簡単に解決しないみたい。
ロンは妹の事を心から愛しているんだ。
「お前さ」
アルは肩肘をテーブルについて、手の甲に頬を乗せて呆れたように言った。
「ま、いっか。それより、本気であのルーニー・ラブグッドと行く気なのか?」
「ルーナだよ、アル。ルーニーだなんて……」
わざと言ってるんだ。ルーニーは【愚か】とか【狂っている】って意味の言葉。彼女の名前をもじった悪口をアルが言うなんて……。
「あ?」
アルは不機嫌そうに睨み付けて来た。
「お前、ラブグッドが好きなのか?」
「え?」
唐突過ぎる質問の答えに窮していると、アルは目を細めて「どうなんだ?」と畳み掛けてきた。
確かに、ロンやネビルのロマンスをネタに話していたけど、アルの目が真剣過ぎて、凄く答え難い。
「も、もしかして、アルってルーナの事が好きだったり……」
「なわけねぇだろ!!」
「……ごめんなさい」
物凄い剣幕で怒られた。もう、本当にどうしちゃったんだろう。
「ユーリィ」
ハーマイオニーが眉間に手を当て、呆れた様子で言った。
「もしかして、分かってやってる?」
「……えっと」
ハーマイオニーの言葉に俺は言葉を濁した。
もしかしたらって、思う考えはあるにはある。
だけど、そんな事あり得ない。ハーマイオニーの言葉で一気に現実味を帯びてしまったけど、あり得ないよね。
「そう言えば、アルは誰を誘ったの?」
この中でまだパートナーが分からないのはアルだけだ。
やっぱり、パーバティかな? それとも、他の女の子かな?
「俺は……、行かない」
「え?」
行かないって、まさか、ダンスパーティーを欠席するつもりなの?
「どうして!?」
折角、ドレスローブだって用意したのに……。
「パートナーが捕まらなかったんだ」
「え? でも、パーバティは?」
「……とにかく、俺は出ない。っつか、ダンスパーティーなんか出るより訓練してる方がよっぽど楽しいしな」
「アル……」
もしかして……、本当にアルは……。
そんな筈無い。アルはきっと、本当にダンスパーティーに興味が無いだけなんだ。
タイミング良く、フレッドとジョージが魔法のクラッカーを鳴らしたおかげで、大広間はクラッカー祭りになり、これ以上話が続く事は無かった。
夕方になり、俺は寮の部屋でドレスローブに着替えて、ハリー達と一緒に玄関ホールに向かった。ここで、女の子達と合流する予定。アルは寮に戻る途中で別れたっきり、どこかへ消えてしまった。
もやもやした気持ちのままでルーナを迎えるわけにはいかない。俺は頬をパチンと叩いた。すると、最初にジニーが現れた。ピンクのふわふわで可愛いらしいドレスを着ている。普段はストレートにしているロンとお揃いの赤い髪を顎のラインに沿ってカールさせ、様々な方向に飛び跳ねさせている。ジニーは自分の容姿の魅力を良く理解していて、よりその魅力が映えるファッションをコーディネイトしてきた。
ネビルは呆然と彼女を見つめ、誘われるように「可愛い」と呟いた。狙い通りの言葉を引き出し、ジニーは満足そうに微笑むとネビルの腕に自分の腕を絡ませた。
ロンはわざとらしい咳払いをしてみせたけど、まったく相手にされていない。
次にやって来たのはハーマイオニーだった。薄青色のドレスを優雅に着こなし、チャーミングな笑顔をハリーに向けた。
「どう?」
「最高だよ」
ハリーは人前にも関わらず、ハーマイオニーの手を取って、彼女の顔に熱い眼差しを注いだ。ハーマイオニーもウットリとした顔でハリーを見つめ返している。
「貴方も最高よ、ハリー」
ロンは少し寂しそうな顔を浮かべた。でも、直ぐに明るい笑顔に変わった。ラベンダーが来たみたい。
でも、俺の視線はその隣の女の子に向いていた。
「ルーナ!」
声を掛けると、ルーナは嬉しそうに顔を輝かせて駆け寄って来た。銀色のドレスにはスパンコールがキラキラと輝いていて、凄く華やかなだ。
「こんばんは」
「今日はよろしくね」
ルーナはいつもの奇抜なメガネや首飾りを付けていなかった。そのせいか、ちょっと違和感があったけど、とっても可愛い。
「あれ?」
「どうしたの?」
ルーナはキョロキョロと辺りを見回して、不思議そうに首を傾げた。
「あの人はどうしたの?」
「あの人って?」
「アルフォンス・ウォーロック」
ドキッとした。どうして、ルーナが彼を気にするんだろう。
「アルなら来ないよ」
「……そっか、やっぱり」
「やっぱりって?」
「あんたを取っちゃったから、もしかしたらって思ったの」
心臓が止まるかと思った。何を言い出すんだ。
「アルが来ないのは、ただ、ダンスパーティーに興味が無いからだよ」
「そうなの? でも、あんたが誘ったら、喜んで来たと思うな」
「ルーナ。アルは男の子なんだよ?」
「あれが女の子だって思う人、居ないと思う」
怪訝そうな顔をされてしまった。
「男の俺が男のアルを誘ってどうするのさ。ダンスパーティーは男女のペアで踊るのが普通なんだよ?」
「だって、あんたも気付いてるでしょ?」
「え?」
まただ。ハーマイオニーと同じようにルーナは言った。
【気付いてるでしょ?】って。それがどういう意味なのか、いくら俺でも分かる。
でも、そんなのあり得ない。
「アルと俺は友達だけど、ダンスパーティーで一緒に踊るのはちょっと違うよ」
「ふーん。つっこんで欲しくないんだね。じゃあ、もう言わないよ。折角のダンスパーティーだもの。すっごく楽しみにしてたんだ。誰かにパーティーに誘われるなんて初めてだもの!」
「じゃあ、いっぱい踊ろうね」
ホッと一息つきながら俺はダンスパーティーの始まりを待った。
しばらくして、大広間の扉が開いた。皆がゾロゾロと入って行く中、階段の上の方に誰かが立っている事に気が付いた。
いつもは後ろに流している髪を下ろしていて、その上、薄縁のメガネを掛けているものだから、最初は誰なのか分からなかった。だけど、良く見るとその人の立ち居振る舞いにデジャブを感じ、彼がドラコであると気が付いた。その傍らには緊張した様子の小柄な女の子の姿がある。
「ドラコ?」
ドラコは女の子と一緒にゆっくりと階段を降りて来た。俺とルーナ以外の生徒達はもう大広間の中へ消えてしまった。
「急いで入ろう。あまり、目立ちたくない」
「う、うん」
緑色の可愛らしいドレスを着た女の子の手を引きながらドラコは中へ入って行き、俺とルーナも直ぐに後を追った。
俺達が入ると同時に大広間の扉が閉じて、辺りは真っ暗になった。
「こっちだ」
ドラコの声に従って、後を追うと、丸いテーブルのまわりに椅子がたくさん並んでいた。俺達はその内の四つの椅子に座った。
「そっちの子は?」
囁くようにドラコに聞くと、女の子の方が答えた。
「あ、あたし、アステリア・グリーングラスです。ドラコせんぱ……ド、ドラコの彼女です」
緊張して声が震えている。そんな彼女の肩をドラコはそっと抱いた。
「ああ、僕の恋人だ。色々、助けられている」
「そうなんだ」
ちょっと、驚きだった。ドラコはパンジー・パーキンソンと恋仲にあるんだと思ってた。スリザリンから離れた後の恋人なのかもしれない。
「本当は来るつもりは無かったんだが、せがまれてね。色々、支えて貰った恩があるから参加する事にした。まあ、あまり目立てないから、僕らは隅の方で踊っているよ。構わないな?」
最後のはアステリアへの問い掛け。彼女はぶんぶんと首を縦に振った。
「すまないな」
「い、いえ。あたし……最高です」
「そうか……」
ドラコは深い愛情を声に乗せて囁いた。暗闇でよく見えないけど、ドラコの表情はとても優しい笑顔だった。
心の底から愛している相手でないと、出来ない笑顔だ。
俺はルーナに顔を向けた。彼女はどこか羨ましそうに二人の姿を眺めている。折角、ダンスパーティーに誘ったんだし、俺がしっかりエスコートしてあげなきゃ。
「俺達もいっぱい楽しもうね」
彼女の手を取って言うと、彼女は目をパチクリさせ、大きく頷いた。
「うん」
しばらくして、代表選手達が入って来た。セドリックはチョウと一緒に踊っている。チョウは俺とルーナに気が付くと、手を振ってくれた。俺達も手を振り返し、皆が踊り始めるのに合わせて席を立った。天井から伸びる宿木の下で音楽に合わせて楽しく踊った。細かい振り付けとかは気にしないで、曲のテンポに沿って体を揺らす。ルーナは凄く楽しそうに笑顔を振り撒き、俺も満面の笑みを浮かべた。
途中でハリーとハーマイオニーにすれ違うと、二人は完全に二人だけの世界を構築していて、熱い眼差しを交換し合っていた。ロンも似たり寄ったり。
ネビルはジニーにエスコートされる形で踊っていた。傍を通り過ぎる時にジニーがネビルに小声でダンスの指導をしているのが聞こえた。その時の彼女の表情は完全に恋する乙女だった。
途中で食事をしたり、ハリー達と四人で踊ったりして過ごし、ダンスパーティーを楽しみ尽くした後、俺はルーナをレイブンクローの寮に送り届けた。
「今日はすっごく楽しかったよ。ありがとう」
「こっちこそ、凄く楽しかったよ。ありがとう、ルーナ」
ニッコリ笑顔でお礼を言い合い、おやすみを言うと、ルーナは言った。
「あの人の所に行ってあげた方がいいと思うよ」
誰の事を言ってるのかは直ぐに分かった。
俺はどう答えるべきか少し悩んだ後、小さく頷いた。
「お土産を渡さなきゃだしね」
「……うん。おやすみ、ユーリィ」
最後にそう言い残して、ルーナは寮に帰って行った。
少し、名残惜しい。彼女とのダンスは凄く楽しかった。こんな風に女の子と接する日が来るなんて夢にも思わなかったから、凄く新鮮だった。
「さてと……、アルはどこかな?」
パーティーの食べ物を軽く包んでお土産にした。きっと、お腹を空かせてると思うから。
グリフィンドールの寮に戻ると、みんな今日のダンスの余韻に浸っていた。ハリー達もその一人で、ネビルに至ってはジニーと手を繋ぎ合い、見つめ合っている。どうやら、正式な恋人同士になったみたい。俺は彼らの邪魔をしないようにそっと寝室に向かった。すると、やっぱり彼が居た。
「アル」
声を掛けると、アルはゆっくりと振り向いた。
「よう」
アルは少し不機嫌そう。
「お土産持って来たよ」
「おう」
アルの隣に腰掛け、お土産を渡すと、彼は黙って食べ始めた。
「楽しかったか?」
「うん」
「そっか……」
それっきり、アルは何も言わなかった。俺も何も言わなかった。ただ、じっと隣に座って窓の外を眺めていた。
「なあ、俺がもしさ……」
「ん?」
「俺がもし、お前を――――」
アルの言葉を最後まで聞く事は出来なかった。
突然、胸元のブローチが光始めたのだ。
「パパのブローチ?」
何事かと思って、パパがクリスマスプレゼントとして送ってくれたブローチを見ると、ブローチには文字が浮かんでいた。
《I love you. And be happy――――愛しているよ。幸せに生きなさい》
どういう意味なのかサッパリ分からなかった。なんで、急にこんな文章を送ってきたんだろう。
アルを見ると、アルも首を傾げている。
その時だった。急に慌しく寝室の扉が開いた。ダリウスが入って来た。
「ユーリィ!! 大変だ!!」
「ど、どうしたの?」
ダリウスは血相を変えながら入って来て、言い難そうにしながら絞るように言った。
「ジェイクが……君のパパが死喰い人に攫われた」
俺は咄嗟にブローチを見た。ブローチには未だ、文字が刻まれたままだった。このブローチは新たに文字を刻まない限り、前の文字が残り続ける。
《愛しているよ。幸せに生きなさい》
その言葉の意味が分かった。分かってしまった。
どうして? なんで? 頭の中は疑問だらけだった。ただ、分かるのはジェイクの身に危機が迫っているという事だけだ。それも、息子に最後のメッセージを送ろうなんて決意を固めなければならないくらいの危機的状況に陥っている。
「今、緊急で対策会議を開いている。お前達も来なさい」
俺は恐怖で何も答えられなかった。
パパの身に何かが起きた。最悪な光景が頭を過ぎり、恐怖に震えた。
お願い、パパ。どうか、無事で居て……。俺はしきりにそればかりを祈りながらダリウスの後に続いた。