ホグワーツの二年目が始まる。今年から妹のジニーもホグワーツの一年生だ。甘えん坊の上に癇癪持ちだから、ホグワーツでちゃんとやっていけるか心配だ。
ジニーはハリーの事がすっかり嫌いになってしまった。兄貴達やママがハリーの事ばっかり気に掛けるからすっかりグレちゃった。
「……ジニー。そろそろ許してやったら?」
「兄さんはどっちの味方なの!?」
面倒くさい。ビルはダンブルドアの秘書になり、チャーリーはパパを助ける為に魔法省に就職した。おかげで僕がジニーの面倒を見る事になった。
「へいへい。ジニーの味方だよ」
「返事がてきとう!」
「……それよりカエルチョコレート食べようよ。カードは僕がもらうからね!」
「話を逸らした―!」
ジニーの相手をしているとコンパートメントの扉が開いた。
「やっぱり! 声で分かったわ」
入り口から顔を覗かせたのはハーマイオニーだった。
「久しぶりね、ロン」
「久しぶり、ハーマイオニー」
ハーマイオニーはジニーを見た。
「妹さん?」
「ジニーだよ。今年からホグワーツなんだ」
「そうなんだ! 私はハーマイオニー・グレンジャーよ。よろしくね、ジニー」
ジニーはハーマイオニーを睨んでいる。
「……おい、挨拶」
「ジニーよ」
つっけんどんな言い方。
「えっと……」
ハーマイオニーは気まずそうだ。
「失礼だろ! 彼女は僕の友達なんだぞ」
「……うるさいな! 別にいいでしょ!」
「ジニー!」
いろいろとあって、気が立っているのも分かる。だからって、何も関係のないハーマイオニーにあたるなんてどうかしてる。
「ストップ」
説教をしてやろうと口を開くと、ハーマイオニーにカエルチョコレートで口を塞がれた。
「ジニー」
ハーマイオニーはジニーの隣に座った。ギョッとした表情を浮かべるジニーに笑いかける。ちょっと怖い。
「ファ、ファーファイオフィー?」
「口に物を入れたまま喋らないの!」
誰が入れたんだよ!
「それじゃあ、うるさい誰かさんが黙ったところで」
うるさいとはなんだ! 僕は兄として妹の躾をしていたんだぞ!
まだカエルチョコレートが残っているから口にこそ出せなかったけど、僕は目で訴えた。
そして、華麗にスルーされた。
「お話をしましょう」
「ええ……」
若干引いているジニーにハーマイオニーは積極的に話し掛けた。それこそ、どうでもいいような日常会話だ。
二人の声を聞いている内に眠くなった。この分なら、ジニーの事を任せても問題ないだろう。僕は一眠りすることにした。
第八話『友情』
ガタンと汽車が大きく揺れたせいで目が覚めた。空はすっかり暗くなっている。
隣ではかしましい声が聞こえていた。
「でねー、最近はー」
「そうなんだ! それでそれで!?」
おかしいな。さっきまで親の敵をみるような目を向けていた相手とジニーがすごく親しげに話している。
「あー、兄さんってば、漸く起きた!」
「ロン! そろそろ到着するわよ!」
息までピッタリだ。なんだこいつら……。
「へいへい」
手荷物から制服を取り出して廊下に出る。
女の子の前で着替える趣味はない。廊下の端から端まで見渡して、誰もいない事を確認する。
ささっと着替えて、中の二人の着替えが終わるのを待っていると、隣のコンパートメントから見知った顔が現れた。
「おっ」
「あっ」
ドラコ・マルフォイはポカンとした表情を浮かべた。
「なんで、こんな所に突っ立ってるんだ?」
「中で妹とハーマイオニーが着替え中なんだ」
「ああ、なるほどね」
「それより!」
右拳をマルフォイに向ける。
「負けないぞ!」
僕の言葉にマルフォイは首を傾げた。
「なんの話だ?」
「おいおい、寝惚けてるのか? クィディッチの話に決まってるじゃないか! 今年のシーカー選抜試験で僕は絶対にシーカーになる! そして、お前と勝負する!」
「あっ……」
なんだろう。いつもなら捻くれた態度と皮肉の混じった言葉で返してくる筈なのに、様子がおかしい。
「……お、おい、どうしたんだ?」
反応してくれないと、僕が一人だけで盛り上がっている恥ずかしいヤツみたいになるじゃないか!
向けた拳をどうしようか悩み始めた頃、漸くマルフォイが口を開いた。
「ウィーズリー」
「な、なんだ?」
マルフォイはいつもの冷笑を浮かべた。こちらを小馬鹿にしたような苛々する笑み。だけど、今日は何故かホッとした。
「……精々、がんばる事だね」
「お前こそ、試験に落ちるんじゃねーぞ!」
「自分の心配をしたまえ」
マルフォイは僕が仕舞えずにいる拳に自分の拳を打ち付けた。
そのまま、廊下の向こう側へ去って行く。
僕は打ち付けて赤くなった拳を見つめる。気合を入れないとね。
「さてさてさーて、選抜試験を頑張るぞ!」
ウオーッと気合を入れてると、コンパートメントの扉が開いた。
「……兄さん、うるさい」
「ロン……。廊下で一人で何を騒いでるの?」
この野郎共……。
◇
ウィーズリーは相変わらずだ。何も変わらない。裏も表もなく、ただ真っ直ぐに闘志をぶつけてくる。
おかげで少し心が軽くなった。
シーカー選抜試験。本当は出る気など無かったけど、やっぱり出よう。
この先、何があろうとアイツとの決着だけは……。
「……不思議だな」
ウィーズリー家と言えば、血を裏切る者達の筆頭だ。
本当なら不倶戴天の敵。憎悪と敵意が入り混じる関係こそ、あるべき姿の筈。
だけど、僕はヤツに清々しい程の闘志しか抱いていない。
「ククッ……」
初めからこうではなかった。やはり、最初の殴り合いが無ければ、こうはならなかっただろう。
僕は足を止めた。目の前のコンパートメントにはハリーがいる。
意を決して、中に入った。
「こんにちは、ハリー」
「ドラコ!?」
ウィーズリーの兄弟もいたけど、今は無視する。
「久し振りだね」
「う、うん」
ハリーの瞳が揺れている。
彼に言いたい事は山程ある。だけど、その殆どを口にする事が出来ない。
監視の目、破れぬ誓い、僕には自由など無いのだから……。
「ハリー。ホグワーツに到着したら……」
だけど、これだけは伝えたい。
「殴り合わない? 全身全霊を懸けて」
僕の言葉にウィーズリーの兄弟達は唖然とした表情を浮かべた。
対照的にハリーは花が咲いたように笑顔を浮かべた。
「うん!」
僕はハリーの友達だ。あの男が何を考え、何を企もうと、それは変わらない。
ヤツは父上と母上を傷つけた。これからも利用し、苦痛を与えると言った。
――――覚悟しろ。僕はお前を許さない。お前の思い通りになんてさせない。
相手が何者だろうと関係ない。僕は両親と友達を守るんだ。
この命に代えても……。