朝、ルイズが目を覚ます前に寮の隣にある広場でデルフリンガーを振るっていた。
ここには俺の他にも二人居る。クリスとギーシュだ。
「ええい、上様の名を騙る不届き者め!」
俺の周りには十体のギーシュのゴーレムが連携を取り合っている。
それぞれがランスやロングソード、アックス、ハンマーなどを握っている。
「『成敗』!」
一番遅いハンマーを持ったゴーレムを真っ二つにして、そのまま次々にゴーレムに斬りかかる。
まるで豆腐を斬ってるみたいな気がする。デルフリンガーの刃は何の抵抗も無くゴーレムの胴体を切り裂く。
「貴様の悪事、明々白々の下に曝されているぞ。もはや、言い逃れは出来まい」
剣を握ったゴーレムを剣ごとデルフリンガーで真っ二つにする。
どうやらそれは囮だったらしい。残る全てのゴーレムがいつの間にか俺を囲んでいた。
同時に仕掛けてくる気らしい、だけど――――ッ。
「もはや、言い訳は不要、断じて許し難い……が、任命した余にも責はある」
上ががら空きだぜ! 四方八方が塞がれているなら、頭の上を跳び越えてやればいいだけだ。
一番鈍重そうなゴーレムに向かって俺はその場で跳び上がった。
「所詮は上様の名を騙る不届き者よ、浅はか浅はか!」
囲っていたのが全てのゴーレムでは無かったらしい。跳び越えようとしたゴーレムの背後に別のゴーレムが居た。
ゴーレムはショートソードを横薙ぎに振るいながら鈍重そうなゴーレムの背を蹴って俺に向かって飛び掛ってきた。
どうやら、俺が上に逃げる事は想定内らしいな。敢えて鈍重そうなゴーレムを混ぜて俺の行動を予測したらしい。
でも、残念だったな。俺はデルフリンガーでショートソードごとゴーレムを切り裂いた。
飛び上がらせる為に特別に軽量化したらしく、切り裂くと同時に吹っ飛んでしまった。
「天に代わって、成敗する!」
ゴーレムを操っていたギーシュの首筋にデルフリンガーの刃を向けて、俺は最後の台詞を言い切った。
か、かっこ良すぎる……。
「よし、じゃあ次は私だな!」
人が折角余韻に浸ってるってのに、クリスが空気を読まずに割り込んでくる。
どうして俺達がこんな事をしているのかというと、王宮で話した時代劇にクリスが関心を抱いて、自分でやってみたいと言い出したんだ。
剣の稽古を一緒にやる約束だったし、時代劇ごっこをしながらやろうって話になった。
どうせなら本格的にやろうと思って、ギーシュに声を掛けたんだけど、最初はあんまり乗り気じゃなかった。
『一国の姫君に杖を向けるなんて出来るわけが無いだろう』
呆れた様に言われてしまった。
稽古という名目上でも杖を他国の王族に向けるなんて真似をすれば実家にも迷惑が掛かると言われてしまった。それでも今はこうして付き合ってくれている。
朝、最初は俺とクリスだけで剣を交えていた。クリスは予想以上に剣の腕が達者だった。
俺のスピードやパワーがクリスの技術の前に手も足も出なかった。
ギーシュはそれを見ていたらしい。前に自分を負かした俺が手も足も出ずに居る様子に居ても立っても居られなかったらしい。
「ちょっと待ちたまえ! 今度は僕が上様をやる番だろう! 王族とはいえ、最初に決めた順番は護って頂かないと! 僕はもうアクダイカン役は嫌だ!」
「む、いいではないか! というより、お前以外にゴーレムを作れる者が居ないのだから仕方あるまい。お前はずっとアクダイカン役をしていろ」
「冗談じゃない、僕だって主人公がいいよ!」
最初はギーシュが緊張しっぱなしだったけど、今ではこの通りだ。
ずいぶん仲良くなったもんだな。口喧嘩するくらいに……。
「サイト、君がアクダイカンをやってくれ!」
「やってもいいけど、俺はゴーレムなんて作れないぞ」
「ああもう! どうして君達はゴーレムを作れないんだ!?」
「平民だからです」
「風のトライアングルだが、土系統は苦手だ」
「あんたら何やってんの?」
そんな事を言い合っていると、冷え切った声が聞こえた。
ルイズとモンモランシーが引き攣った顔で俺達を見ていた。
「や、やあ、モンモランシー、おはよう」
「よ、よう、ルイズ、おはよう」
いつの間にかルイズを起しに行かないといけない時間になっていたらしい。
あまりに楽しくて時間を忘れてしまっていた。
「おはよう……じゃなくて、何やってたのよ?」
「ギーシュ、あなた、一国の姫君になんて口の利き方してんのよ!?」
ルイズは呆れた様な顔をしているけど、モンモランシーは若干顔色を青褪めさせていた。
「何って、時代劇の真似しながら剣の稽古してたんだよ。昨日、王宮でルイズがお姫さまと話してる時に約束したんだ」
「朝っぱらから大声で変な事を叫んでると思ったら、時代劇って、あんたの国の演劇だっけ?」
「へ、変な事って、時代劇の台詞だよ。かっこいいだろ?」
「……まあ、特に何か言うわけじゃないけど、恥しいから今度からはもっと人の居ない所でやりなさい」
「ご主人様、泣いてもいいですか?」
「鬱陶しいからやめて」
本当に心が折れそうになった。
フリッグ舞踏会の時にルイズと距離が近くなったと思ったのに、なんか前よりもキツくなってないかな……。
「っていうか、まず言う事があるんじゃないかしら?」
「使い魔のお仕事をサボってしまい、申し訳ありませんでした」
「よろしい。それにしても、ずいぶん仲良くなったみたいね、クリスと」
ルイズの目が据わっている。物凄く怖いです。
とりあえず、隣でモンモランシーに叱られて小さくなってる男に習って謝ろう。
ゼロのペルソナ使い 第十七話『アンリエッタの頼み』
「ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール。二つ名は……『ゼロ』。使い魔の名前は『サイト・ヒラガ』です。種族は……に、『人間』です」
笑いが巻き起こった。俺達が立っているのは、寮と本塔と土の塔と水の塔に囲まれたアウストリの広場だ。
魔法学院に在籍している全ての生徒と教師が集まっている。郡服を身に纏った人達も居て、その中にはワルド子爵の姿もある。
寮を背景に大きな舞台が設えられていて、生徒達は舞台を中心に扇形に並んでいる。
その中で一区間だけ、隙間が開けられていた。丁度、舞台の目の前だ。そこに、一際大きくて豪奢なテントがある。その中にオールド・オスマンともう一人、この国の王女様であるアンリエッタが椅子に腰掛けている。
今日は前にギーシュと一緒にコルベール先生から聞いた使い魔の品評会だ。新二年生達が今年召喚した使い魔をアンリエッタに見せるという趣向だ。
キュルケのサラマンダーは炎を綺麗な帯のように吐き出して、ギーシュのグランモールは教師によって隠された宝石を瞬く間に見つけ出した。他の使い魔達も次々に見事な芸を披露していく。
横目でルイズの様子を伺うと羞恥に顔を赤らめながらも必死に耐えている。御姫さまの前で決して失敗は出来ないとルイズは何度も口にした。
クリスを迎えに行ったあの日から一週間弱、俺はクリスとギーシュと一緒に剣の腕を磨きながらルイズに色んな事を仕込まれた。
礼儀作法、敬語の使い方、文字の読み方、馬の乗り方。どれもいまいち上達しなかったけど、ここで失敗する事は出来ない。俺が失敗すれば、それはルイズの失敗になってしまう。
「サイトの芸を披露致します前に、協力して下さる方を御紹介致しますわ。『青銅』のミスタ・ギーシュ・ド・グラモンです」
今回の俺の芸の為にギーシュは協力を買って出てくれた。俺の芸をもっと派手に演出する為だ。
だけど、ギーシュが俺達の為だけに買って出てくれたわけではない事も分かってる。舞台に上がるギーシュの瞳は爛々と燃え上がっている。
「御紹介に与りました、ギーシュ・ド・グラモンです。二つ名は『青銅』。この度はミス・ヴァリエールの使い魔の芸に協力致します事になりました」
ギーシュが舞台に上がった事で広場に集まった者達はしきりに首を傾げた。ギーシュと俺の仲が良い事を知る者達はどこか面白がる様な顔をしている。
「それでは、これより私の使い魔、サイト・ヒラガの剣技をお見せ致します!」
俺とギーシュは舞台を降りた。使い魔の芸には炎や雷を伴うものも多いから、舞台の前はかなり広く空間が開けられている。この広さなら申し分ない。
俺の芸ってのは、つまり剣だ。ペルソナって選択肢もあったんだけど、あれは自分の意思で出そうと思っても出せないんだ。
いつも、気が付くと出していた。だから、ペルソナを当てにする事が出来ず、迷った挙句に剣技を披露する事にした。
最初は巻き藁でも斬ろうかと思ってたんだけど、ギーシュは剣技を披露するならもっと派手にした方がいいだろうと、クリエイト・ゴーレムで的を作ってくれる事になった。
だけど、ただの的じゃない。この一週間弱の間、俺はギーシュとクリスの三人で稽古をしてきた。これはその成果を試す舞台でもあるんだ。だから、ギーシュは本気で来る。
今まで、俺はギーシュに一度も負けた事が無い。もし、この場で俺が勝った場合、ギーシュは平民に負けた貴族という汚名を背負ってしまう。
それでも、ギーシュは目の前に立っている。その目が本気で来いと言っている。
ギーシュは背水の陣を敷いているんだ。負けるわけには行かない状況に身を置いて……。
俺だって負けられない。俺が負ければ、ルイズが笑われる。そんなのは嫌だ。ルイズの頑張りを俺は知っている。ルイズが誇りの為なら命すら投げ打つほど勇敢な事も知っている。
なら、そんなルイズの努力や信念を使い魔の俺が穢すわけにはいかないよな!
「いくよ、サイト! 君に敗北という花を手向けよう!」
「ぜってぇ、勝つ!」
もう、準備は万端だ。デルフリンガーを握り締め、体は今直ぐにでも戦いたいと疼いてる。
外野が決闘をするつもりなのか、とか騒いでるけど、もう耳には入って来ない。
目の前の空間にギーシュの魔法によって作られた十体のゴーレムが出現する。以前のゴーレムとはかなり変化している。
装飾はさらに細かくなり、前の銅像にしか見えなかったワルキューレ達は今や人と見紛う程に出来栄えだ。その手にはシンプルながら美しい装飾が僅かにのぞく剣が握られている。
準備は出来た。俺とギーシュはルイズを見た。ルイズは右手を上げ、振り下ろした。その瞬間、俺の足元が爆発した。
「な、ニ――――ッ!?」
足元から土の腕が伸びて来た。事前の打ち合わせじゃ、ゴーレムだけで戦うって言ってたのに、こんなのありか? 俺は舌を打ちながらデルフリンガーで絡み付いてくる土の腕を切り裂いた。
その間にゴーレム達は距離を詰めてきていた。五体のゴーレムが剣を振るう。四方に逃げ場は無い。なら、定石を踏むまでだな。
俺は向上した身体能力を利用して、ゴーレム達の頭上高くに跳び上がった。その瞬間、目の前に剣が飛んできた。
「危ねっ!?」
次々に剣が飛んでくる。どうやら、ギーシュの目の前に立っているワルキューレが地面から次々に生えてくる剣を拾っては投げ、拾っては投げって具合に剣を投擲しているらしい。
バランスが崩されて、剣を振るおうとしているゴーレム達の真っ只中に落とされてしまった。
『相棒、まずは真下の奴をぶった切れ! 休まず、右だ! 次は左だ! 背後から来るぞ! 右に避けろ! 上から剣が落ちてくるぞ!』
デルフリンガーの指示の通りにもはや我武者羅と言っていい具合に剣を振り回す。休んでいる暇が無い。ギーシュの奴、殺る気まんまんだ。
いくら負けるわけにはいかないたって、これはやりすぎだろ! そう思いながら、俺は剣を振るってる内になんだか叫びだしたい気持ちになった。
『地面の下から来るぞ! 左から接近! 右が振り被っているぞ! 真後ろに飛べ! 右から来るぞ!』
全力で動き続ける中で心が震えてくる。一瞬、ギーシュの顔が視界に入った。汗だくだくの癖に目をギラギラさせながら笑っていやがる。
ゴーレム達の剣の腕がかなり上がっている。以前までなら剣ごと切り裂いてやる事も出来たのに、剣戟を逸らすなんて、芸当が出来るようになりやがった。
クリスの剣を見ているおかげだった。俺もギーシュもクリスの卓越した剣技を見ながら少しずつ学び始めたんだ。ただ、力任せに振るえばいいってもんじゃないって事を!
速さでかく乱しようにも、足元から土の腕が飛び出す度に足止めを喰らう。ゴーレムの腕だけを作り出しているんだ。かなり距離が離れているのにこんな事まで出来るのかよ、魔法。
「ったく、魔法って言えばなんでも許されるとか思ってんじゃねーよ」
「許されるから、メイジは貴族なのだよ、サイト!」
ゴーレムは十体とも健在だ。二体がギーシュの近くで剣を投擲して、残りの八体が四体ずつ編隊を組んで襲ってくる。
いい加減、そろそろ数を減らさないと、格好がつかないな。
『相棒、あっちが投げて来たのを投げ返すってのもアリだと思うぜ』
「そっか、その手で行くぞ!」
動き回りながら回避していた降り注いでくる剣の一本を掴み取る。そのまま、一番手近なゴーレムに向かって投げつけた。
自分でも驚く程の威力でぶつかった剣はゴーレムに当たると同時に粉砕されてしまった。どうやら、数を量産する為に中身すかすかに作ったらしい。
「この剣全部ただの見せ掛けかよ……」
『相棒、油断するなよ! 中に一本くらいは頑丈なのがあるかもしれねーッ!』
ってことは、やっぱり避け続けなきゃいけないって事かよ。粉々になったとはいえ、剣がぶつかった衝撃で一瞬だけ動きが鈍ったゴーレムを切り裂きながら俺は思わず呻き声をあげてしまった。
残りは九体。一体ずつ確実に潰していくしかない。さっきと同じように剣をぶつけて動きを鈍らせて一気に斬りつけた。
思わず唇の端が吊り上がった。一体消えた事で連携が崩れたんだ。今の内に数を減らす。
三体目、四体目、五体目とゴーレムを真っ二つにしていくと、ゴーレムの動きが変化した。後衛に回っていた一体が前衛と合流して、四体で連携を取り始めた。だけど、さっきまでのようにはいかない。
降って来る剣も避ける必要が無くなった。続けざまに降って来るならまだしも、一本一本が間を置いて降って来るなんて、その度に掴み取ってこっちの武器にしてやるだけだ。
形勢は一気に動き出した。四体の連携はさっきまでより切れ味を増したけど、やはり隙間が大きくなっている。一体一体を確実に切り倒していけば何の問題にもならない。
最後の一体を切り裂いて、残るはギーシュを護らんと立ち塞がる一体のみ。俺は勝利を確信した。だから、気が付かなかった。
ギーシュが笑っている事を……。
『相棒、避けろ!』
「“ブレッド”」
デルフリンガーの叫び声に咄嗟に防御の構えを取った。
直後、まるで、散乱銃を浴びせられたかのように全身に凄まじい衝撃が走った。
「僕の勝ちだ」
勝利を確信して、喜悦に満ちた声で噛み締めるように呟くギーシュに俺は言った。
「いいや、相打ちだ」
『そう言うこったな。ま、お前さんも頑張ったぜ』
デルフリンガーの声を聞くと同時にギーシュは顔を歪めた。
腹に衝撃を受けて悶絶してるに違いない。俺も全身の痛みに悶絶中だから悶絶してるギーシュが見えないけど、これだけはどうしても言いたい。
「ざまあみろ」
「次は……勝つ」
『ったく、主旨忘れてんだろ、おめーら』
「あ……」
デルフリンガーの言葉に俺とギーシュは同時に間抜けな声を発した。
舞台上ではルイズがニッコリと微笑んでいる。
ルイズは美少女だから、一見すれば聖母の微笑みにも見える。だけど、騙されてはいけない。あれは鬼の微笑だ。
「ギーシュ、あとでお前もルイズの部屋な」
「……ぼ、僕もお仕置きされなきゃ駄目かい?」
「おめーが本気出し過ぎっからだろ」
「仕方ないか……。ああ、勝ちたかったな」
『最後に気を抜いたのがまずかったな。それがなきゃ、相棒がブレットを喰らう寸前に俺様を投げたのが分かっただろうによ』
最近はもう互いに遠慮が無くなってる。俺もギーシュもお互いが全力を出し合っても相手が絶対に死なないって信じられるからだ。
一応、ギーシュは剣の刃を潰してるし、俺もギーシュに向かってデルフリンガーを投げた時は柄をぶつけるようにしたけどな。
そうは言っても、割と狙い通りにいったみたいだ。会場は中々盛り上がってる。
痛みも引いて、起き上がると、モンモランシーが走り寄って来た。当然、ギーシュの方にだけどさ。
「う、打ち合わせと違うじゃないの! ゴーレムをちょっと動かして、それをサイトが次々に切り裂くだけだって話だったじゃない!」
「いや、男にはやらねばならない事がだね……」
「あんな誰から見ても本気で平民とやり合って負けたりしたら周りにどう思われるか考えなかったの!?」
「でも、負けなかったよ。あのサイトに負けなかったんだよ、僕」
「……あ、相打ちでも駄目でしょ。もう、今度は勝ちなさいよね」
「うん。頑張るよ」
「……ほら、怪我を治してあげるからお腹見せなさいよ。骨とかは……大丈夫そうね」
ちくしょう、イチャイチャしやがって。
俺もルイズとイチャイチャしたい。だけど、そんな望みは暗い笑みを浮かべたルイズの顔を見た瞬間に消し飛んだ。
「ぼ、僕悪くないもん……」
「気持ち悪いから止めなさい……」
呆れられてしまった。
「まったくもう、段取りが滅茶苦茶になっちゃったじゃないの。その上、ブレットをあんな至近距離で受けちゃうなんて、ギーシュに文句言わないと……。スピーチ終えたら直ぐに保健室に連れて行くから動いちゃ駄目よ?」
「は、はい」
「よろしい。じゃあ、ちょっと待ってなさい」
ルイズは壇上に戻って、スピーチを始めた。受けは悪く無いらしい。
スピーチを終えたルイズにアンリエッタを始め、何人かがまばらに拍手を送っている。
アンリエッタがテントから出て口を開いた。
「素晴らしい剣技でしたわ。青銅製のゴーレムを両断し、ブレットを間近で受けて尚反撃に転じる心意気は素晴らしい、とグリフォン隊隊長ジャン・ジャック・フランシス・ド・ワルド子爵も感嘆していらっしゃったわ。素晴らしい使い魔をお持ちですね、ミス・ヴァリエール」
「あ、ありがとうございます!」
アンリエッタの言葉にルイズは心底嬉しそうだ。
「使い魔さん。人の身で使い魔というのは大変でしょうが、使い魔とは主を護り、支えるモノです。その卓越した剣技でミス・ヴァリエールを支えて下さいね」
このまま寝転んでるわけにはいかないな。
アンリエッタの言葉に応える為に、デルフリンガーを支えに起き上がった。
この一週間弱の間、ルイズに教えられた作法や言葉遣いを披露するチャンスだ。
見ててくれよ、ルイズ。俺はしっかりとやり遂げて見せるぜ。
「勿論にございます。我が剣は主の為にあります。如何なる敵が目の前に立ちはだかろうと、必ずやルイズ……ミス・ヴァリエールを護ってみせます!」
俺が言い切ると、アンリエッタは満足そうな笑みを浮かべた。
アンリエッタに俺は約束した。ルイズを護る事を。改めてアンリエッタの前で誓う事で俺の中で何かが煌いた。
一瞬、視界が真っ暗になった。真っ暗な視界の中に更に真っ黒なナニカが居る。
『我は汝、汝は我。我は汝の心の海より生まれし者也』
視界は直ぐに元に戻った。ほんの一瞬映ったあのビジョンは一体なんなんだろう、俺はその答えを見つける前に気を失った。
どうやら、ギーシュとの戦いのダメージは思った以上に大きかったみたいだ。
目が覚めると、大きな瞳と目が合った。
「どわあっ!?」
「キャッ」
思わず叫び声を上げると、可愛い悲鳴が聞こえた。
よく見ると、その瞳はアンリエッタのものだった。
「コラッ! 姫さまに何してんのよ!」
「いや、起きていきなり目の前に目玉があったらビビルって……。っていうか、ここは……保健室? なんで、お姫様がここに?」
「ミスタ・グラモンにこちらに居るとお聞きしましたの。ルイズにお話がありまして」
「そ、そうだったんですか」
ベッドから起き上がると、ギーシュはルイズの隣に座っていた。
どうやら、俺よりも軽傷だったらしく、ベッドで寝込む事は無かったようだ。これじゃ、相打ちじゃなくて、完全に俺の負けじゃないか……。
「それで、お話とは?」
ルイズが口火を切った。
「ふむ、僕は出て行った方がよさそうだね。サイト、怪我を早く治してくれたまえよ? 早く再戦して、今度こそモンモランシーに勝利の報告をしたい」
「ヘッ、今度もボコボコにしてやるぜ!」
軽口を叩き合う俺達にアンリエッタは目を丸くした。
「随分と仲がよろしいのですね、ミスタ・グラモンと使い魔さんは」
「友人ですから。それでは、アンリエッタ王女殿下。このように殿下と御顔を合わせ、僅かな時を近くで過ごす事が出来、このギーシュ・ド・グラモン恐悦至極に御座います。愚鈍なる身ながら、殿下の為ならばこの命、散らす覚悟は出来て御座います。御用命あらば、なんなりとお申し付け下さい。それでは、失礼致します」
「……お待ち下さい、ミスタ・グラモン」
堅苦しい口上の後に出て行こうとするギーシュをアンリエッタは止めた。
「……もしよろしければ、貴方もわたくしの話を聞いては頂けませんか?」
「よろしいのですか?」
小さくアンリエッタは頷くと話し始めた。
始まりはゲルマニアの皇帝との婚姻だった。
これについてはルイズと俺は既に知っていたけど、ギーシュは口をポカンと開けたまま凍りついてしまった。
ギーシュが元に戻るまでまって、話は続いた。
今、トリステインは危機的状況にあるそうだ。国内では爆弾魔や人攫いが横行し、盗賊フーケも捕まっていない。更に、叛乱分子が裏で動いている事が最近の調査で判明したらしい。
フーケについてはなんとも言えないけれど、聞いただけでも国内が問題だらけだという事だけは分かった。
それに加えて、現在、同盟国であるアルビオンが内戦状態になっていて、反乱軍が優勢らしい。
反乱軍はトリステインと同盟を破棄する考えらしく、反乱軍が勝利した場合、トリステインは窮地に立たされる事になると言う。
「元々、トリステインは大きな国ではありません。帝政ゲルマニア、ガリア王国、アルビオン王国。アルビオンとの同盟を失った場合、この三大国のどこに攻められてもトリステインは敗北するでしょう……」
「その為のゲルマニア皇帝との婚姻なのですね……」
ギーシュの言葉にアンリエッタは力無く頷いた。
酷い話だと思った。アンリエッタは俺とそう変わらない歳に見える。
なのに、国の命運の為に好きでもない男に嫁がないといけない。嫁がなかったら国が滅びてしまうのだから、選択肢すら与えられないんだ。
「その婚姻に一つ問題があるのです」
「それがお話したい事ですか?」
「……ええ」
アンリエッタは気まずそうに頷いた。
「……この話はここだけにして下さい。もしも他の者にバレたら、ゲルマニアとの婚姻を最悪……破棄されてしまうおそれがありますから」
「どういう事ですか?」
アンリエッタは答える前に杖を振るった。盗み聞きをされていないかをチェックしているらしい。
念入りに呪文を唱えて、盗聴や盗撮が出来ないように部屋中に魔法を掛けた。
「私はアルビオンの現王子、ウェールズ・テューダーにその……思いを寄せていました」
アンリエッタはアルビオンの王子であるウェールズに恋をしていた。何度も秘密の恋文を送りあっていたらしい。
もしも、その手紙を反乱軍に見つかってしまった場合、ゲルマニアに密告され、婚姻の話は破棄されてしまうかもしれないと言う。
それだけではなく、隣国の王子と恋文を送り合っていたなどという醜聞が国民に知られれば、王女としてのアンリエッタの求心率は一気に下がる事になる。
「……アルビオンに赴き、恋文を破棄して欲しいのです」
話を聞いてる内に薄々気付いていたけど、内戦している国に行って手紙を破棄するなんて、幾ら何でも無茶苦茶だ。
ギーシュとルイズも顔を青褪めさせている。
だけど、俺はなんとなくこの後どうなるかが分かっていた。
他の奴だったらどうだか分からないけど、ルイズとギーシュなら、答えは決まってる。
「わかりました。ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール。この任務をお引き受けいたします」
「右に同じく、この“青銅”のギーシュ・ド・グラモン。王女殿下より賜りましたこの任、見事成功させてみせます」
「……ありがとうございます。本当はこのような事を学生の身である二人に頼むなど正気の沙汰では無いのでしょう」
アンリエッタは苦渋に満ちた顔で言った。
「ですが、私には真に信用の置ける人間が居ないのです。誰が叛乱分子なのかが分からない。頼れるのはルイズしか居なかったのです」
ルイズはアンリエッタの言葉に感激している様子だった。
アンリエッタに頼られた事が嬉しいらしい。
分かってた事だけど、内戦中の国に侵入するのか……。
映画なんかで内戦中の国に侵入するものがよくあるけど、実際に自分が行くなんて想像もした事が無い。
俺は怖くて仕方が無かった。
「ルイズ、そして、ミスタ・グラモン。貴方達の覚悟と言葉がどれほど私の心を揺さぶったか、言葉では伝える事が出来ないでしょう。どうか、お願いします」
手紙の事は臣下達にも内緒にしてあるらしい。本当にここに居る俺達四人だけの秘密だ。
アンリエッタの使いの証にと、ルイズはアンリエッタから綺麗な指輪と手紙、それに袋いっぱいの軍資金を預かった。
アンリエッタが去った後、空気が重かった。
アンリエッタの前では顔に出さなかったが、二人も恐怖を感じている事が分かった。
「とりあえず、明日はトリスタニアに行かないと」
「え? 直ぐに出発するんじゃないのか?」
明日出発するのかと思ってたんだけどな。
「あのね、内戦中の国に行くのに準備無しで出かける馬鹿は居ないよ。少なくとも、食料と衣服、それに武装も整えないとまずい。遠征の訓練を実家で受けた経験があるから、必要な物資については僕に任せてほしい。ルイズ、君は図書館でアルビオンまでの経路を幾つか練っておいて欲しい」
「え?」
「経路が一つだけじゃ、妨害工作や不測の事態が起きた時に直ぐに対処が出来ないだろう? 進むのが困難になった場合に備えて、直ぐに経路を変更出来るようにしないといけないんだ」
「分かったわ。やっておく」
「俺は何をすればいいんだ?」
「サイト、君も来るつもりなのかい?」
「え?」
当然ついていくものだと思っていた俺はギーシュの言葉に呆気に取られた。
見ると、ルイズも目を丸くしてる。だけど、ルイズが目を丸くする理由はギーシュと同じだった。
「サイト、あんたは留守番に決まってるでしょ」
「ちょっと待てよ。なんで俺が留守番なんだ!? ルイズが行くなら、俺も当然行くだろ!」
俺が言うと、ルイズは呆れた様に言った。
「アンタ、馬乗れないじゃない」
ルイズの言葉に俺は凍りついた。
「ここからアルビオンまで最短距離を行っても数日は馬の上での生活よ? そんなの無理でしょ」
「の、乗れるようにする! 出発までに絶対!」
「無理よ。散々、この一週間弱の間厳しく仕込んだのに、まともに操れた事が無いじゃない」
「それでも出来る様にする! だから、俺も行く!」
冗談じゃない。ルイズが行くのに俺がここに残るなんて出来る筈が無い。
ルイズを護るって決めたんだ。アンリエッタとも約束した。内戦の国に行くなんて、俺が護らなきゃ、誰がルイズを護るってんだよ。
「サイト、これはトリステインの問題なんだ。君には関係無い事なんだよ? 僕達が帰らずにトリステインが戦争になってしまったらどこか別の国に避難すればいいんだ」
「その通りよ。なんなら、むかつくけどキュルケに頼んでおいてあげるわ。とりあえず、命の危険は無いでしょ」
二人共何を言ってるんだよ。関係無いってどういう事だよ。
それに、帰らなかったらって何だよ。
「部屋の物、何でも持っていっていいから、換金するなりして自分の星に帰る手段を探しなさい。本当は私が探して送り返そうと思ってたんだけど……」
「ルイズ……」
「ま、まあ、アンタみたいな物覚えの悪い馬鹿な使い魔は要らないから返品したいだけだけど。とにかく、アンタは関係無いんだから、わざわざ来る必要は無いわ」
ルイズは顔を背けながら言った。ふざけんなよ。
俺は怒りで頭が真っ白になった。
「関係無いってなんだよ!」
「サイト?」
「ふざけんなよ。なんなんだよ、二人して関係無いって。俺はギーシュ、お前の友達だろ! ルイズ、俺はお前の使い魔だろ! ここで逃げ出せるわけないだろ! ふざけんな!」
さっきから聞いてれば、自分達は死ぬかもしれない所に行くけど、俺は関係無いから来るなだって、そんな言葉聞きたくない。
二人が死ぬかもしれない。それなのにここでジッとしてられるわけないだろ。
「ルイズを護るって決めたんだ。俺はルイズの使い魔だぞ。それに、ギーシュ! 友達を見捨てるなんて、出来るわけないだろ!」
「サイト、君の気持ちは嬉しい。だけどね、平民の出る幕じゃないんだよ」
「へ、平民だからどうしたってんだよ! 俺にはペルソナがある。それに剣だって使える!」
「僕と引き分けた程度の剣と自分の意思じゃ出せないペルソナがあるからどうしたって言うんだい?」
「お、俺は……」
「言っておくが、君を殺そうと思えば僕は殺せるよ。忘れてないかい? 君はもう一度マリコルヌに殺されているんだよ? 魔法に対しての対抗手段も無い君じゃ、レビテーションを使われるだけで簡単に殺される。剣が使える? ペルソナが使える? 自惚れるのも大概にしたまえよ、平民!」
ギーシュのあまりにも冷たい物言いに俺は言葉を失った。
確かに、俺はマリコルヌに決闘を申し込まれた時、レビテーションで浮かされて何も出来なかった。剣だってまだまだ未熟だし、ペルソナも自分の意思で自由に出す事が出来ない。
「でも、俺はッ!」
「サイト、アンタはこの任務には邪魔なのよ」
「ルイ……ズ?」
「馬に乗れないアンタを連れて行ったら身動きが取り難くなる。ギーシュの言った事も正しいわ。アンタは残ってなさい」
「……やだ」
「は?」
「嫌だ! 俺も行く!」
「だから、馬に乗れないアンタなんか――」
「乗れるようになる! 明日までに絶対に馬に乗れるようになるから、だから――ッ!」
「……わかった」
俺が必死に懇願すると、ギーシュは言った。
「なら、明日の夕方までに馬に乗れるようになりたまえ。君が見事に馬を乗りこなせるようになっていたなら、君の同行を認めるよ」
「ちょっと、ギーシュ!」
ルイズがギーシュを咎めるように睨み付けた。だけど、ギーシュは何処吹く風だ。
上等じゃねーか。やってやるよ、明日までに絶対に馬に乗れるようになってやる。
◆
――――interlude
サイトが寝静まってから私は隣に座るギーシュを睨み付けた。
「どういうつもりよ、ギーシュ」
「どういうつもりって?」
「サイトに何であんな事を言ったのかって聞いてるのよ!」
冗談じゃないわ。万が一にもサイトが馬に乗れるようになってしまったらどうするつもりなのよ。
姫さまから与えられた任務ははっきり言って恐ろしいわ。もちろん、姫さまの御用命ならこの命を散らす覚悟がある。それは本当。
たとえ死んでも、必ず任務をやり遂げなければならないわ。じゃないと、この国が滅んでしまうかもしれないのだから。
だけど、サイトを連れて行くわけにはいかない。少し前までなら連れて行くのが当たり前だと思ったかもしれないけれど、今は違うわ。
初めは平民の使い魔なんて最悪だと思ってた。
だけど、私が辛い思いをしている時、励ましてくれた。私が“ゼロ”だって事を笑わないでくれた。私の為に命を懸けて戦ってくれた。
昔みたいに直ぐに癇癪を起さなくなったのはサイトのおかげだわ。
サイトを家に帰してあげないといけない。フリッグの舞踏会の日に私は決めたの。
帰せなくても、少なくともこの世界で生きていけるようにしてあげないといけない。
ペルソナや剣があっても、それだけで生きていける世の中じゃない。だから、礼儀作法や乗馬なんかを教える事にしたわ。物覚えが悪くて中々上手くいかなかったけど……。
『泣かないでくれよ、ルイズ。俺が、何とかするから。あんな怪物なんて簡単に倒して、お前をゼロって馬鹿にする奴も一人残らず倒してやるから』
サイトのあの言葉、凄く嬉しかったわ。仕事だって文句も言わずにやるし、ちょっと褒めたりしただけでご主人様ご主人様って可愛いところもあるし……。
サイトは最高の使い魔よ。恥しいから口には出せないけど、私はそう感じてる。
最高の使い魔の主は最高の主でなくちゃ駄目。最高の主なら、使い魔の望みを叶えて上げなくちゃ。
私はまだ叶えてない。サイトを家に帰してない。サイトをこの世界で生きられるように出来てない。
サイトを死なせるわけにはいかないわ。例え、私に出来なくても、クリスやコルベール先生がサイトが帰る方法を見つける手助けをしてくれるかもしれない。
だから、サイトを連れて行くわけにはいかないわ。なのに、なんで余計な事を言うのよ、この馬鹿は!
「落ち着きたまえ。サイトが起きてしまうよ」
「でも――」
「シッ、外に出よう」
ギーシュに苛立ちながらも二人で外に出た。
外はもう真っ暗。所々にある松明の灯りしか光源が無い。
「どうして、あんな余計な事を言うのよ!」
「余計な事?」
「サイトが馬に乗れるようになったらどうするのよ!?」
私が言うと、ギーシュは呆れたように溜息を吐いた。
いちいち態度はむかつくわね、この金髪馬鹿。
「君さ、一日で乗馬が上手くなるわけないだろ。それに、怪我は治っていても、今朝はかなりのダメージを与えたんだ。明日は一日動けないさ」
そう言う事か……。
何て悪い男なんだろう。希望を持たせといて、実はそれが実現不可能だと理解してる。
それにしても、思い出したら腹が立ってきたわ。
「そうよ、朝のアレはなんなのよ! 段取りと違うじゃない!サイトにブレットをぶつけるなんて!」
「そ、それは悪かったと思ってるよ。でも、どうしても真剣勝負で勝ちたかったんだ……。普段の稽古じゃ無理だろう? お互いに絶対に負けられない時じゃないとさ。あの時は負ければ君が馬鹿にされるかもしれなかった。だからサイトは本気になってくれた」
「レビテーション一発なんでしょ?」
「君は使えないから知らないだろうけど、レビテーションは発動までに時間が掛かるんだ。サイトの速度ならその間に距離を詰められて終わりだよ。ゴーレムを最初から作った状態で漸くあの戦いが出来るのさ。ゴーレムを作る所から始めてたら、僕はサイトに秒殺されているよ」
「……そうなんだ」
「でも、それは未熟な僕だからだ。サイトは慢心してるように感じるね。せめて、慢心が無ければ連れて行ってもいいと思うんだけどさ」
「慢心?」
「少し前の僕みたいにね。完膚なきまでに負けないとわからないものさ。サイトは化け物二体、それに僕に何度も勝って来てる。一度も負けた事が無いんだ。マリコルヌのレビテーションを除いてね。ああ、後オールド・オスマンにも負けてるか。でも、あれはノーカウントだね」
ギーシュは苦い笑みを浮かべながら言葉を続けた。
「サイトは自分が負ける筈が無いと思ってるんだ。本人は気付いて無いけどね。いつも一緒に稽古してる僕やクリスには分かる」
「……モンモランシーには何て言うの?」
「本当の事を言うわけにはいかないし、少しの間帰省する事になったとでも言っておくよ」
「……私もそうするわ」
「お互い、死なないように準備はしっかりしないとね」
「ええ、絶対に成功させなくちゃいけないわ。例え、死んでも……」
「命を惜しむな、名を惜しめ。でも、女の子の命は惜しまないといけないな。君だけは何としても生き残らせてみせるよ。グラモンの名に懸けてね」
「……期待はしないでおくわ」
「君ね……。まあいいや、もう夜も遅いし今日は寝よう。おやすみ、ルイズ」
「ええ、おやすみなさい」
ギーシュと別れた後、私は心の中で必死に恐怖と戦っていた。
サイトを死なせるわけにはいかない。そう考えている内に自分が死ぬかもしれないって事を強く実感してしまった。
サイトの事が無ければ、使命感に身を委ねる事も出来たかもしれないのに、まったく、ご主人様を困らせる悪い使い魔だわ。
ちゃんと文字や礼儀作法を教えてあげたかったな……。