第十四話「――――これで、私の勝利が確定したわ」

「――――待ってくれ、セイバー!!」

 腕を突き出し、衛宮士郎は目を覚ました。伸ばした手は空を切り、士郎は自分の状態を確認して安堵した。
 温かい布団の中に居る。つまり、今のは夢だったという事だ。昨日は襲撃なんて無かった。セイバーはいつも通り、傍に居る。
 早く起きないと……。朝御飯は味噌汁と焼き魚にしよう……。最近分かってきた事だけど、セイバーは割りと濃い目の味付けを好む。
 ふらふらと立ち上がり、部屋を出て、廊下を歩く。

「セイバー。今日は俺が作るからな」

 道場に居て、アーチャーと稽古をしているかもしれないけど、一応言っておく。
 居間に入ると、凜が居た。

「ああ、遠坂。今、朝飯を作るよ。セイバーを呼んできてもらえるか?」
「……士郎」

 凜は何故か険しい表情を浮かべている。
 困惑した表情を浮かべながら、キッチンに向おうとすると、彼女に呼び止められた。

「セイバーは居ない」

 彼女の言葉の意味が理解出来なかった。

「……買い物にでも行ったのか? でも、昨日たっぷり冷蔵庫の中身は補充したし……。散歩かな? ああ、それは良い事だ。セイバーにはたっぷりこの世界を楽しんでもらわないと――――」
「そうじゃない。セイバーは連れ去られたのよ。覚えてないの? 昨夜の事……」
「……な、何言ってるんだよ、遠坂。それは夢の話だろ?」
「しっかりしなさい。昨夜の事は夢じゃない。まだ、錯乱したままなの?」

 凜は怒りに満ちた表情を浮かべている。士郎は首を振った。

「止めろよ。性質が悪いぞ、そんな冗談……。だって、セイバーは――――」
「現実を見なさい。貴方を護る為にセイバーはキャスターの軍門に下った。貴方自身が語った事よ? 散々暴れまわって、手を焼かせたくせに、まだ私を困らせる気?」
「……嘘だ」

 士郎の脳裏に昨夜の光景がフラッシュバックした。
 現れたキャスター。人質にされた自分。自らを差し出すセイバー。

「嘘だ……」
 
 守ると誓った。もう二度と、泣かせたり、苦しませたりしないように強くなって、守り抜く筈だったのに……。

「セイバー……。そんな……、だって、俺は――――」
「……言っておくけど、セイバーを守り抜けなかったのは貴方が弱かったからじゃない。そもそも、英霊相手に人間如きが立ち向かえる道理なんて無いもの。だから、必要以上に自分を責める必要は無いわ」
「だって、俺が守らなきゃいけなかったんだぞ!! 俺が召喚したから、アイツはこんな戦いに巻き込まれちまったんだ!!」

 セイバーは元々、こんな戦いと縁の無い人間だった。なのに、己が召喚してしまったが故に戦いを余儀なくされた。

「俺が黙って、ランサーに殺されてれば、セイバーはこんな世界に来なくて良かったんだ!!」
「……何ですって?」
 
 思いの丈を叫ぶ士郎に凜はイラついた表情を浮かべた。

「セイバーは貴方を守る為に我が身を差し出した。なのに、肝心の貴方がそんなんじゃ……」
「だけど、俺なんかが居なければ――――」
「……黙りなさい」

 低く押し殺したような声。士郎は凜の瞳に宿る深い怒りの感情に途惑った。
 
「――――人が助けてあげた命を……」

 立ち上がり、凜は踵を返した。

「と、遠坂……?」
「セイバーとの契約があるから、貴方を見捨てたりはしない。ただし、今後は行動を制限させてもらう。勝手な行動は許さないから、そのつもりでいなさい」

 凍えるような冷たい眼差しを士郎に向けて、凜は言った。

「……一時間後にここを出る。準備しなさい」
「出るって……、どこに行くんだ?」
「ここの結界は既に機能していない。だから、今後は遠坂家の屋敷を拠点にする。藤村先生と桜への連絡は私からしておくから、数日分の衣服と必要な荷物だけ持って、一時間後に玄関に来なさい」

 それだけを言うと、凜は去って行った。
 取り残され、士郎はいつもセイバーが座っている場所に目を向けた。
 急に心細さを感じ、そんな自分に腹が立った。

「……セイバーは救い出す。絶対に――――」
「やめておけ」

 独り言のつもりだったのに、返事が返ってきて、士郎はギョッとした。

「ア、アーチャー!?」
「……下らぬ事を考えず、凜の指示に従え」

 アーチャーは縁側に立っていた。

「今の貴様はマスターですら無い。貴様が下手に動けば、凜にそれだけ負担を負わせる事になる」
「……そんな事は分かってる。だけど、俺は――――」
「分かっていない。貴様は凜にとって、足枷でしか無い。令呪を使えば、二度限り戦力として扱えるセイバーが居たからこそ、あの契約は成り立っていた」

 アーチャーは嘲るように言った。

「全く、凜も甘過ぎる。セイバーが敵の手に落ちた以上、衛宮士郎とこれ以上関わる事に利は無い。さっさと見捨ててしまえばいいものを……」

 アーチャーの言葉に士郎は何も言い返す事が出来なかった。
 凜が士郎に手を貸す理由はセイバーが自らを凜に売り込んだからに他ならない。彼女の為に自らの力を使う。そう、セイバーが約束したからこそ、凜との同盟関係が成り立っていた。
 そのセイバーが居なくなった以上、凜に士郎と同盟を結び続ける理由は無い。
 見捨てられても文句は言えない立場なのだ。

「間違っても、貴様の勝手な判断で動こうとはするな」

 そう言い残し、アーチャーは姿を消した。
 
「――――クソッ」

 拳をテーブルに叩きつけ、士郎は顔を歪めた。
 
「……ちくしょう」

 涙が頬を伝い、滴り落ちた。

 衣服と最低限の私物だけを抱え、玄関で待っていると、凜がやって来た。

「……行くわよ」
「ああ……」

 凜の後に続き歩きながら、ここ数日の間、セイバーと共に街中を歩いた記憶を思い出す。
 二人で商店街を歩き、イリヤと会い、三人で過ごす。それがここ数日の日課だった。
 泰山で酷い物を食べさせたお詫びに、ちゃんと美味しいお店を教えてやるつもりだった。
 この世界で生きていきたいと思わせる為に連れて行こうと思っていた場所が幾つもあった。

「……セイバー」

 いつもイリヤと会う公園の近くを通った。彼女は今日も居ない。
 三人で一緒に衛宮邸で食事をしたのが遠い日の事のように思える。
 
 坂道を上がり、遠坂邸が見えて来た。高級住宅が立ち並ぶ区画の中でも一際立派な建物。
 凜は玄関口で士郎を待たせた。扉を開く手順を士郎に口頭で教え、中に入る。後に続く士郎。
 同級生の女の子。それも、学校一の美人。何より、士郎にとって憧れの女の子。そんな彼女の家に上がりこんだというのに、士郎は上の空だった。
 考えているのはセイバーの事ばかり……。

「一先ず、士郎にはこの部屋を使ってもらうわ。比較的、変な仕掛けが少ない部屋だけど、そこの壁と箪笥には触れないようにしてちょうだい」
「あ、ああ」

 物騒な事を言い残し、凜は自室に荷物を置きに行った。
 士郎に宛がわれた部屋は外観に合った洋室。大きなベッドと箪笥、鏡台がある。
 何だか、女性用の部屋である感じがする。
 荷物を置いて、ベッドに倒れ込む。

「セイバー……」
 
 キャスターの下で何をさせられているのだろう? まさか、人を殺す事を強要されているのではないだろうか……。
 いや、“まさか”じゃない。直ぐでは無くとも、確実にセイバーは人を殺させられる。それがサーヴァントなのか、人間なのかは分からない。けれど、キャスターはセイバーを戦力として欲した。なら、戦力として投入されたセイバーは人を殺める事になる。
 人を殺す恐怖に涙し、体を震わせていたセイバー。
 剣を取り落とし、ライダーに殺されそうになった時、酷く安堵した表情を浮かべていたセイバー。

「ちくしょう……」

 セイバーは自分が死ぬ事より、人を殺す事の方が怖いのだ。
 なのに、それを強要される。

「俺が人質なんかになったせいで……」

 何て、間抜けな話だ。
 守ろうとして、守られて、守れなかった。
 魔術の修練も、剣の稽古も意味が無かった。

「セイバー……」

 それから、時間だけがゆったりと過ぎていった。
 陽が落ちた頃、廊下から凜の声が響いた。

「――――士郎。こっちに来てくれる?」

 ベッドから起き上がり、廊下に出て少し歩くと、一つだけ開いている扉がある。

「遠坂?」

 部屋を覗き込むと、凜がソファーに座っていた。

「そこに座ってちょうだい。今後の事について話すから」
「あ、ああ」

 素直に席につこうとして、不意に見覚えのあるシルエットが目に入った。

「あ……」

 それは赤い宝石だった。

「これ……」
「どうしたの?」

 その宝石と同じ物を士郎は持っていた。どうして、これがここにあるのか、そう考えた時、数日前の記憶がフラッシュバックした。
 暗い学校の廊下。血に塗れた自分。近くに落ちていた赤い宝石。
 誰かに助けられた記憶があったのに、それが誰だか分からなかった。少し考えれば分かった筈なのに、己の鈍さに呆れるばかりだ。

「……そうか。遠坂が助けてくれたんだな」
「え?」

 目を丸くする凜にずっとお守り代わりにしていた宝石をポケットから出して差し出した。

「返すよ。これも遠坂のなんだろ? お礼を言うのが遅れたけど、ありがとう」
「……え?」

 士郎が差し出した宝石を見て、凜は更に大きく目を見開いた。

「こ、これって……」

 唖然としながら、二つの宝石を見比べる凜。
 まるで、お化けでも見たかのような奇妙な表情を浮かべ、やがて悲しげな表情を浮かべたかと思うと、「そっか……、やっぱり、そういう事か」と呟き、顔を伏せた。

「遠坂……?」
「ううん、ごめん。ちょっと、感傷に浸っちゃっただけよ。まったく、本当に貴方達って……」

 深く溜息を零し、凜は言った。

「とりあえず、今後の事だけど――――」

 凜は言った。

「これからは時間との勝負。最優先でキャスターを倒して、セイバーを奪い返すわ」
「…………え?」

 予想外の発言に目を丸くした。

「なに、アホ面下げてんのよ? 当然でしょ。今現在もキャスターは街中の人間から生命力を奪い続けている。それだけで、冬木の管理人として放っておけない。それに、考えてみたんだけど、セイバーが完全にキャスターの手駒となったら、手が出せなくなる」
「セイバーがキャスターの手駒にって……、もう、既になってるんじゃ――――」
「馬鹿ね。セイバーは今のままじゃ戦力にならない。中身がアレである以上、直ぐに手駒として扱う事は出来ないのよ」
「あ……」

 そうだ。現状、セイバーは令呪を使わなければ、己とどっこいどっこいで、宝具を発動する事も出来ない。
 だからこそ、二人で頑張って強くなろうとしていたわけで……。

「相手はキャスターだから、何らかの手段を講じる筈だけど、直ぐにどうこう出来るとも思えない。だから、セイバーが使い物にならない役立たずの内にキャスターの拠点を攻める」
「……そうすれば、セイバーを助けられるのか?」
「確約は出来ないけど、取り戻せる可能性もある。とにかく、キャスターさえ倒せれば、セイバーは解放されるから、その後に再契約すれば――――」
「セイバーを取り戻せる……」

 凜はニヤリと笑みを浮かべた。

「セイバーの役立たず振りは筋金入りな上、魔術でどうにかしようと思ったら、あの対魔力が邪魔になる。キャスターがそれらの問題を片付ける前に一気に叩く」
「遠坂、俺に出来る事は何か無いか!? 何でも言ってくれ、俺に出来る事があれば何でもする!!」

 詰め寄る士郎に凜は言った。

「何も無いわ」
「……え?」
 
 突き放すような言葉に士郎は途惑った。

「今の貴方じゃ、足手纏いにしかならない。だから、ここでジッとしていてもらう。貴方に出来る事は私の邪魔をしないって事だけよ」
「……で、でも」
「貴方が余計な事をすれば、セイバーが助けられなくなる。セイバーを取り戻したいなら、黙ってジッとしていなさい」

 凜の言葉に士郎は二の句が告げなくなった。

「安心なさい。貴方の可愛いセイバーは私がちゃんと取り戻してあげる。その後は私の手足として馬車馬のように働かせてあげるから、期待していなさい」
「……あ、ああ」

 セイバーが戻って来る。嬉しい事のはずなのに、その為に自分に出来る事が無いという事に士郎は酷く動揺していた。
 それがどうしてなのか、士郎自身分かっていない。ただ、不快な感情が胸を締め付けた。

「完全に陽が沈んだら、私とアーチャーは打って出る。その間、貴方には大師父の資料室に閉じ篭って貰うわ。あそこは殆ど異界同然で、如何に魔術を極めたキャスターのサーヴァントであろうと、おいそれと手が出せない筈だから」
「分かった……」

 元気の無い士郎に凜は溜息を一つ。

「セイバーが戻って来た時にそんなしょぼくれた顔を見せたら気分を悪くするわよ? シャキッとしなさい」
「ああ……、色々とありがとう、遠坂。本当に……」
「お礼はセイバーを助け出した後でいいわ。貴方は大船に乗ったつもりで――――」

 その時だった。凜の目が大きく見開かれ、アーチャーが姿を現した。

「どうやら、キャスターは閉じ篭っているつもりが無いらしい」
「……みたいね」

 凜が走り出す。士郎も慌てて追い駆ける。
 玄関に辿り着き、凜が扉を開いた瞬間、視界に飛び込んで来たのは単身で乗り込んで来たらしいキャスターの姿

「……まさか、単独で来るとは思わなかったわ」

 凜は挑発的な視線を向けながら言った。

「あらあら、威勢が良いのね、お嬢さん。だけど、そういう態度は相手を選ぶべきよ?」
「お生憎様。選んでやってんのよ」

 二人の間で視線が絡み合う。

「昨日は不覚を取ったけど、今日は昨日のようにはいかないわよ。一人でノコノコ現れた事を後悔させてあげる」
「……面白いわ。貴女のような向こう見ずな子は嫌いじゃない。だけど、ちょっと調子に乗り過ぎじゃないかしら?」
「人質を取らなきゃ、未熟者コンビの相手すら出来ないような奴、敵じゃないって言ってるのよ」

 空気が凍りつく。両者の殺気が空間を歪ませているかのようだ。

「……用があるのはアーチャーだったのだけど」

 キャスターは片腕を上げた。瞬間、光弾が放たれ、咄嗟にアーチャーが双剣を取り出して弾く。

「お仕置きが必要のようね、お嬢さん」
「お生憎様。お仕置きされるのは貴女の方よ」

 凜の視線がキャスターからアーチャーの背中に滑る。

「キャスターを倒しなさい!! 出来ないなんて言わせないわよ、アーチャー!!」
「無論だ。魔力を貰うぞ、凜!!」
「ええ、好きなだけ持っていきなさい!!」

 猛烈な殺気と共にアーチャーが前に出る。

「抵抗は無意味よ」

 キャスターが軽く手を振ると、地面が蠢き、首の無い骨が無数に現れた。

「これは――――、なるほど、竜の歯を寄り代とした人型か」
「一目で看破するとは、さすがね、アーチャー」

 火の様な敵意を向けながら、キャスターが冷え冷えとした声で言う。

「……これはコルキス王の魔術だな? ならば、貴様は――――」
「ええ、ご推察の通り。だけど、私の真名が分かった所で、貴方に勝ち目は無い。今日は前回と違い、貴方を無力化する為の策を講じてここに居る。貴方は少々小賢しいようだから、徹底的に調教して、私の従順な奴隷にしてあげるわ、アーチャー」

 薄ら寒い微笑みを向けるキャスターにアーチャーは嘲笑で返した。

「生憎だが、私にそのような趣味は無い。アレの対処をするに辺り、有用かと思って前回は見逃したが、懲りずに此方に牙を剥くならば是非も無い。貴様はここで倒れろ、キャスター」

 アーチャーが一歩、前に出る。

“I am the bone of my sword”

 耳鳴りのように響く声と共にアーチャーの頭上に幾つもの刀剣が浮ぶ。
 驚きは誰のものか――――、その刀剣は一つ一つが宝具だった。
 膨大な魔力を纏うそれらの矛先が首無しの骨に牙を剥く。
 
“Unknown to Death.Nor known to Life”

 その異変にキャスターは誰よりも早く気付いた。

「まさか、これは――――」

 それは果たして詠唱なのか――――、まるで、自らの在り方を謳う詩のような言葉。
 ソレは世界へ働きかける大いなる祝詞。
 
「こうなったら――――」

 キャスターが舌を打ち、片手を上げる。

“So as I pray,――――”

 アーチャーの詠唱が完了する刹那、それは現れた。
 アーチャーの片腕が飛ぶ。油断があったわけじゃない。ただ、それを為した人物があまりにも彼にとって――――、

「……セイ、バー?」

 士郎は目の前の現実に大きく動揺した。

「言ったでしょ? 抵抗は無意味だと……。此方には最強の手札があるのだから――――」

 キャスターの言葉と共に、虚空から飛び出して来たセイバーが後退したアーチャーに剣先を向ける。その威容は明らかに普段と違う。
 
「貴様……、セイバーに何をした?」

 アーチャーが片腕で干将を握り、凛を庇うように立つ。
 殺気の篭ったアーチャーの問いにキャスターは謳うように応えた。

「夢を見て貰っているわ。とろけるような甘い夢。外見が如何に可愛らしくても、中身がだらしの無い男じゃ興醒めだもの。目が覚めた時、セイバーは私好みに染め上がっている筈」
「……お、お前!!」

 飛び出そうとする士郎を凜が抑える。

「馬鹿! 今飛び出したら、セイバーに殺されるわよ!?」
「だ、だけど!」
「いいから、ジッとしていなさい!」

 凜はキャスターを睨む。

「本当に威勢が良いわね、お嬢さん。だけど、既に詰んでいるのよ。片腕を失った状態で、アーチャーが性能を引き出したセイバーに敵うと思う?」

 凜は唇を噛み締めた。セイバーの顔に生気は無い。虚ろで、意思を感じない。
 士郎が何を叫んでも、眉一つ動かさない。

「最後よ、アーチャー。我が軍門に下りなさい」

 キャスターの勝利の宣告にアーチャーは歯を食い縛り、セイバーを見つめた。
 やがて、観念したように顔を俯かせる。

「……この二人は見逃せ。それが条件だ。さもなければ、この身が砕け散ろうが、貴様の息の根は確実に止める」
「主従揃って威勢の良い事。まあ、いいわ。どうせ、サーヴァントが居なければ、マスターには何も出来ない。その条件、認めましょう。さあ、我が宝具を受け入れなさい、アーチャー」

 曲がりくねった奇怪な短剣を掲げるキャスターにアーチャーは瞼を閉ざし、背中越しに凜に語り掛けた。

「……無念だ、凜。お前達はこの街を出ろ」
「ア、アーチャー……」

 敗北を認めたアーチャーに凜は呆然とした表情を浮かべている。

「お、お前……」
 
 何も出来ない。セイバーは完全に敵の手駒となり、アーチャーもキャスターの軍門に下った。
 完全なる敗北。その事実に凜と士郎は打ちのめされた表情を浮かべている。

「――――破戒すべき全ての符」

 キャスターの宝具が赤い閃光を迸らせる。やがて、彼女の手に真紅の刻印が刻まれる。

「……これで、手駒は揃った。イレギュラーを排除し、聖杯を手にする準備が整った」

 哄笑するキャスター。

「――――これで、私の勝利が確定したわ」

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