第十五話「決着をつけてやるよ、アーチャー!」

 楽しいなー、楽しいなー、楽しいなー。
 メリーゴーランドにように世界が回っている。クルクル回っている。
 天に昇るは黒い月。真紅の燐光を発する黒い月。
 地に広がるは黒い泥。一切の光を呑み込む黒い泥。
 狭間にたゆたうは黒い私。ドレスも鎧も泥に染まった黒い俺。
 瞼を閉じれば愛しい人達が手を振っている。親父もお袋も姉貴も同級生も皆が手を振っている。
 瞼を閉じれば愛しい人達が手を振っている。義父も義兄も異母姉も騎士達も皆が手を振っている。
 愛しくて愛しくて堪らない。
 殺したくて殺したくて仕方が無い。
 愛する人を愛したい。愛する人を殺したい。
 けれど、彼等は愛《殺》せない。彼等はここに居ないから。
 だから、他の人で満足しよう。たくさん、殺して満足しよう。

「はーやく、来ないかなー」

 後一人殺せば願いは叶う。アーチャーでも、ライダーでも、どっちでも良い。
 でも、出来ればライダーが良い。俺の崇高な願いを叶える最後の生贄は彼の方が良い。
 いっぱいいっぱい、愛してあげよう。

「AAAAAAAALALALALALALALALAie!!」

 天上より零れ落ちた二つの星。雷鳴轟く戦車と黄金の輝舟が大地に降り立つ。
 歓迎の準備は万全だ。黒い泥が俺に力を貸してくれる。
 
「往け、バーサーカー」

 大地に染み渡る泥が人型を創り出す。漆黒の甲冑を身に纏う魔剣士が黄金の弓兵目掛けて疾走する。

「――――下らんな」

 弓兵は己が蔵から無数の宝具をばら撒く。

「おい! そやつにソレは悪手だろう……」
「いいや、問題無い」

 バーサーカーが降り注ぐ宝具を躱し、奪う。そして、防ぐ。
 アーサー王伝説最強の騎士の冴え渡る剣技は魂を汚染されて尚、健在。
 むしろ、未熟なマスターから解き放たれ、聖杯そのものからバックアップを受ける今の彼は倉庫街での戦い以上のポテンシャルを発揮している筈。
 アーチャーは数で圧倒すれば容易いと侮ったのだろうが、それはバーサーカーを舐め過ぎで……、

「狂犬如きが我が財宝に触れた罰を受けよ」

 何が起きたのか理解出来なかった。いきなり、バーサーカーが苦悶の声を上げて四肢を崩壊させたのだ。

「な、なんだぁ!?」

 ライダーが叫ぶ。

「担い手を滅ぼす魔剣、呪剣の類よ。手に取り、己が物とした時点で破滅が確定している」
「……そんなもんまで入っとるのか」
「当然だ。我の蔵には古今東西のありとあらゆる宝具の原典が内包されているからな。まあ、我自身も手に取れぬ故、使う事は無いと思っていたが、思わぬ所で日の目を見る機会を得たな」

 ほくそ笑むアーチャー。

「さて、次は貴様の番だ、セイバー」

 紅眼をもって、我を睨めつけるアーチャーに思わず頬が緩む。

「その表情、いいねー」

 パキンという音と共に何かが崩れ去る。

「……ランサーか」

 アーチャーの発動した結界宝具がランサーの槍によって瓦解する。
 彼が居る限り、前回の焼き直しにはならない。

「次から次へと男を乗り回すとは、淫売振りに拍車が掛かったのではないか?」

 アーチャーとライダーを取り囲む黒い影の一団。アサシン達がそれぞれダークと呼ばれる短剣を手に二騎を睨み付ける。
 バーサーカーの修復も完了。一度回収してしまえば、幾らでも復活させられる。
 無限に等しい魔力に物を言わせ、バーサーカーをより最強の騎士に仕立て上げる。

「王様からの命令だよ、ランスロット。アーチャーを捕まえろ」

 傲慢不遜な彼の顔を屈辱に歪めさせたい。

「キャスター。最凶の魔を頼みますよ?」

 キャスターが自らの魔本を掲げる。膨大な魔力を贄として、泥の中から巨大な魔物が這い出て来る。
 
「ッハ」

 バーサーカーに迫られ、地面からは巨大な魔物が触手を伸ばす。
 にも関わらず、アーチャーがした反応は嘲笑。
 
「貴様等には上等過ぎる得物だが――――、クラウ・ソラスよ」

 光が瞬いたと思った瞬間、既に全てが終わりを告げていた。
 バーサーカーも魔物もキャスターもランサーもアサシンも全てが一撃で葬り去られていた。
 光の神が所有する究極宝具の一つ、クラウ・ソラスは一度抜けば世界を刹那に三周し、威力を増大させて敵を討つ。
 魔性であろうと、英雄であろうと、その剣の前では無力に等しい。

「けど、何度滅ぼしたって無駄だよ……」

 滅んだら、また甦らせれば良い。
 甦るサーヴァント達にアーチャーが浮かべるのはやはり嘲笑。

「無駄な事を繰り返すな、阿呆が」

 そう言って、アーチャーが取り出し樽は細長い水瓶に収められた槍。

「――――Ibur《開錠》」

 水瓶から一人でに引き抜かれる黄金の槍。五つの穂先を持つ槍が真っ直ぐに飛んだ。
 飛び散る雷。奔る光弾。貫く熱閃。駆ける稲妻。
 槍そのものに触れる事無く、サーヴァント達が消滅していく。最後にランサーを刺し貫き、槍は再びアーチャーの手元に戻った。
 その槍もまた、光の神が所有する究極宝具の一つ。名はブリューナク。たった一度の投擲で数千の魔を焼き滅ぼした太陽の槍。

「――――ッ」

 忌々しい。此方には聖杯の無限の魔力があるのだ。それに、四騎もの英雄を従えているのだ。
 負ける筈が無い。

「バーサーカー!!」

 再度復元されるバーサーカーにアーチャーは呟いた。

「いい加減、飽きて来たな」

 バーサーカーが虚空より伸びる鎖に繋がれる。

「貴様とて、無意味な死を繰り返すのは苦痛であろう。故にこれは英雄王の慈悲と心得よ」

 彼が手に取ったのは巨大な鎌だった。
 禍々しいというより、神々しさを感じる。なのに、どうしてか不吉な予感が胸を締め付ける。

「世に言う“死神の鎌”の原典だ。本来は豊穣の神が持つ物なのだが――――」

 鎌の刃をバーサーカーに向けるアーチャー。

「この鎌が刈るは稲や麦では無い。時を刈り、魂を刈り入れる為のものだ。これに刈られたものの魂はもはや聖杯には還らぬ。天に戻るが良い――――」

 バーサーカーの首が落ちる。同時に深い喪失感を覚えた。
 彼の命がこの世を離れたのだ。もはや、甦らせる事は不可能。何故なら、彼はもう聖杯の中にすら居ないから……。

「う、嘘……、嘘だ、こんなの!! ランサー!!」
「聖杯などという身に余る力を手に入れた事で思い上がったな、小娘。覚えて置く事だ。所詮、人が如何なる力を得ようと、この英雄王には決して敵わぬという真実を!!」

 ランサーの魂が天に還る。再び襲い来る喪失感に心が乱れた。

「嘘だ……。嘘だ、こんなの!! 反則だ!! なんで、そんな、お前ばっかり、そんな力を持ってるんだよ!?」
「それは我が英雄王だからだ」

 答えになってない。同じサーヴァントの癖に一人だけチートを使ってゲームをプレイしているみたいじゃないか。

「ふざけるな!! ふざけるなよ!! ふざけんな!! キャスター!!」

 サーヴァントで直接攻撃するのが無理なら魔物を使うだけだ。

「戯け。出した時点で終わりなのだと、未だに理解出来ぬのか?」

 鎖が伸びて、キャスターを捉える。
 もはや、それは戦いでは無く、作業だった。

「まったく、我の慈悲を安く見ているのでは無かろうな? 聖杯を取り上げた後で貴様にはたっぷりと代償を支払ってもらうぞ」

 キャスターの命が還っていく。瞬く間に俺を守る者がアサシンだけになってしまった。
 おかしい。体の震えが止まらない。
 心を奮い立たせていた何かが零れ落ちてしまったかのように恐怖の芽が顔を出す。

「どうした? 怯えているのか? 聞かせてみろ、今の貴様の心の声を」

 いつしか、天に浮んでいた筈の黒月が縮んでいる。未だ、起動状態を維持しているとはいえ、聖杯が内包しているのはアサシンの魂のみ。
 今の状態でアサシンを出現させようとしたら、聖杯は完全に停止してしまう。そうなったら、アサシンは再び聖杯に還るだけだ……。
 
「く、来るな……」

 輝舟から降り、此方に一歩ずつ近づいて来る脅威に体が縮こまった。
 何かが飛んでくる。飛来したのは一本の槍だった。

「ひぅ!?」

 真っ白な槍だった。僅かに脈動していた穴がそれで完全に消滅する。
 代わりに小さな塊が落ちて来た。黒ずんだ小さな塊。手に取った瞬間、それが何であるかが分かった。

「……あ」
「どうした?」

 アーチャーが眼と鼻の先に立っていても、俺にそれを気にしている余裕など無かった。
 アイリスフィールの心臓を手に震える事しか出来なかった。
 分からない。さっきまで、これが愛おしくて堪らなかった筈なのに、今は恐ろしくて堪らない。

「ッハ、聖杯の力が失われ、正気を取り戻しつつあるといったところか」

 アーチャーが何か呟いている。けれど、聞こえない。
 瞼を硬く閉じる。これ以上、何かを見たり聞いたりしたら、とても怖い事が起きる。
 何故か、そう強く確信があった。
 
「恐ろしいか? 汚染の度合いが弱まり、自らの行いに恐怖しているのか?」

 持ち上げられた。

「あぅ……、やめ……」
「ッハッハッハッハ! 良い! 良いぞ、その表情! 自らの悪行を悔いる罪人の顔では無いなぁ。自らの過去から必死に目を逸らす咎人の顔だ!」
「や、やめ……」

 瞼を無理矢理開かせられた。紅の瞳が俺の眼を覗きこんでいる。

「清廉なる魂が汚泥に塗れ、自らの咎から目を逸らす醜悪さ! 実に見応えがあるぞ」

 まるで、丸裸にされた気分だ。俺の全てを覗かれている。

「……しかし、未だ穢れは拭いきれておらぬか。どれ、貴様にこびり付いた錆を掃ってやろう」

 彼が手に取ったモノ。それは小瓶だった。

「飲み干せ。それで、貴様の穢れは完全に掃われる。その後、貴様は真なる絶望を味わう事になるだろう」
「い……、いや……」

 恐怖が全身を覆った。その小瓶が今迄彼の蔵から現れた他のどんな宝具よりも恐ろしかった。
 それを飲んだが最後、自分が自分で居られなくなるという確信があった。 
 いや、それよりもずっと恐ろしい事が起こる……。

「イヤだ!! ヤメて!! それを近づけないで!!」
「喚くな」

 冷たい言葉と共に俺の体は地面に押し付けられた。腹に足を乗せられ、彼の蔵から四本の細い槍が姿を現す。
 彼が何をするつもりなのか瞬時に分かり、俺は必死に抵抗しようと暴れた。けれど、体に思うように力が入らない。

「この痛みはこれから貴様が味わう事になる悦楽の前金だとでも思え」

 襲い来るであろう痛みに耐える為に瞼を閉じた。

「……あれ?」

 けれど、幾ら待っても痛みが来ない。

「何のつもりだ?」

 苛立ちに満ちたアーチャーの声に瞼を開く。 
 そこには槍を剣を抜き去ったライダーの姿がある。

「……貴様はよくやってくれた。多少煽ったとはいえ、ここまでキッチリと仕事をこなしてくれるとはな」

 困惑する俺を尻目にライダーは呟く。

「では、後は頼むぞ。さらばだ、今生のマスター、ウェイバー・ベルベットよ」
「貴様――――」

 一瞬だった。僅かに光が煌いたかと思うと、ライダーとアーチャーが姿を消した。
 代わりに駆け寄ってくる影が一つ。

「セイバー!!」
「き、切嗣さん……?」

 駆けつけて来たのは切嗣さんだった。
 
「時間が無い。今直ぐ、僕と再契約してくれ」
「え? あ、えっと、あの……」
「頼む! ライダーではアーチャーには敵わない。もって数分かそこいらで奴が戻って来る。その前に早く!」

 一方的に捲くし立てる切嗣さんに俺は呆気に取られながら頷いた。
 それにしても、再契約だなんて……、いつ、契約が切れたんだろう?

「告げる。汝の身は我の下に、我が命運は汝の剣に。聖杯のよるべに従い、この意、この理に従うのならば我に従え。ならばこの命運、汝が剣に預けよう」
「えっと、かしこまりました……」

 何だか置いてけぼりを喰らった気分だ。だけど、しばらくすると不思議と気分が良くなった。
 怖い事を遠ざける事が出来た気がする……。

「端からそういうつもりだったか、雑種」

 不吉な声に鳥肌が立った。振り返ると、そこにライダーの固有結界に閉じ込められた筈のアーチャーが居た。

「ラ、ライダーは……?」
「生憎、今の我の興味は貴様にのみ向けられている。故、奴には早々に退場してもらった。だが、しまったな……、勢い余って天に還す前に聖杯に送ってしまった」

 アーチャーの瞳が俺を真っ直ぐに射抜く。

「だがまあ、問題無かろう。今程度の汚染具合ならばどうとでもなる。さあ、そこを退け、雑種。その娘は我が持ち帰る」
「……断る。セイバーを渡す事は出来ない」
「き、切嗣さん!!」

 慌ててエクスカリバーで放たれた剣を弾く。

「理解出来なかったのか、雑種。我は退けと命じたのだ。ならば、疾く死ぬが道理であろう」
「……悪いが、まだ死ねない。まだ、やらなきゃいけない事があるんでね」
「……我の手を煩わせるな、雑種」

 放たれた殺気に体が竦んだ。

「令呪をもって、命じる」
「切嗣さん!?」

 切嗣さんが令呪を掲げると同時にアーチャーの表情が一変した。
 殺到する宝具の数は十。俺が捌き切れる数じゃない。
 けど、逃げるなんて選択肢は無い。だって、俺の目的は――――、切嗣さんをイリヤの下に帰す事だけだから。

「切嗣さん、俺の後ろに!!」
「――――全て遠き理想郷《アヴァロン》を発動しろ」
「……え?」

 俺の体は勝手に動き出した。持っていたのに、何故か使う気になれなかった……、それどころか魔力すら篭めなかった聖剣の鞘。
 そうだよ。これを使えばアーチャーにだって負けなかった筈だ。なのに、どうして俺はこれを今迄……、

「あれ?」

 殺到した宝具が俺の体をすり抜けていく。アヴァロンの能力は担い手を妖精郷に隔離する。
 五つの魔法、並びに六次元までの交信を完全に遮断する究極の守り。これを突破しようと思えば、それこそ神霊の力が必要となる。
 如何に神の力を有しようと、担い手が人の身であるなら、この守りを打ち破る事は出来ない。
 乖離剣の最大出力に対してでさえ、鉄壁を誇るこの宝具を何故、今迄使わなかったんだろう……。
 そもそも、魔力を篭めるだけであらゆる傷や呪いを防げた筈。アーチャーの結界宝具に囚われる事も無かった筈だ。
 でも、今はそんな事を考えていられる余裕が無かった。
 俺の体をすり抜けた宝具が俺の背後に立つ切嗣さんに殺到したのだから――――。

「切嗣さん!?」

 十の宝具に刺し貫かれた切嗣さんは虫の息だった。
 むしろ、この状況で未だ生きている事が不思議なくらいだ。

「な、なんで、こんな事……!」
「……君を、すく……いた、かった」

  途切れ途切れに呟く切嗣さん。

「待ってて! 直ぐにアヴァロンで治癒を!!」
「……いいんだ。それ……より、まだアー、チャーが……健在だ」
「で、でも、だって……」
「アイリを……無意味なこ、との為に……犠牲にして、しまった。だか……ら、彼女のねが、いを叶えたか……った」

 切嗣さんの声が小さくなっていく。

「待って!! 駄目だよ!! 切嗣さんは生きるんだ!! 生きて……、イリヤに会いに行くんだ!!」
「……イリ、ヤ。……セイバー、お願いだ」

 切嗣さんは最後の力を振り絞って呟いた。

「イリヤを助けてくれ……」
 
 そう言って、切嗣さんは瞼を閉じた。
 
「……うそでしょ?」 

 死んだ。こんなに呆気無く、守り通す筈だった人が息絶えた。
 
「嘘だ……、嘘だよ……。ねえ、切嗣さん……、起きてよ……、ねえ」

 手を触れようとして、すり抜けてしまった。
 
「……ま、まだ、間に合う」

 アヴァロンを解除し、切嗣の体に押し付ける。必死に魔力を篭めて、切嗣の体を癒そうとするが、一向に癒える気配が無い。
 そもそも、宝具を他者に貸し与える方法なんて分からない。
 小説では、切嗣は鞘をアイリスフィールやシロウの体に溶かし込んでいた。けど、そんな事、どうやってやればいいのかが分からない。

「や、やだ……、切嗣さん」

 助けられない。
 イリヤに切嗣さんを返してあげられない……。

「そんなのヤダ!!」

 何かある筈だ。こんな結末、認められる筈が無い。

「……茶番はその辺にしておけ」

 冷たい声。振り返ると、そこにアーチャーが居た。
 彼に対する恐れや憎しみがその瞬間、キレイさっぱり消え去った。
 
「ア、アーチャー……、お願いします!! 切嗣さんを助けて下さい!!」

 頭を地面に押し付けて懇願する。目の前の英雄王なら、何らかの宝具で切嗣さんを助けられるかもしれない。

「戯言を弄するな、小娘。何故、我がそのような雑種に施しを与えてやらねばならんのだ?」
「な、何でもします!! だから、お願いします!!」
「それが戯言だと言うのだ。貴様は今より我の所有物となるのだ。その貴様が何でもするなどと口にしたところで、そんな当たり前の事の為に何故我が動かねばならんのだ?」

 彼の表情を見て愕然となった。彼は本気でそう思って口にしている。
 これから彼に何をされるのか、そんな恐怖は微塵も無い。ただ、切嗣さんをイリヤの下に返せない。その恐怖の方が遥かに大きかった。
 だって、その約束だけが“俺を活かす唯一の柱”なのだから……。
 
「お願いします、アーチャー!!」
「クドイ!! それ以上喚き立てるならば、その雑種の肉体も焼き滅ぼしてやろう。それで、貴様の未練も断たれるであろう?」
「……なんだと?」

 アーチャーが炎を纏う剣を蔵から取り出す。

「や、止めろ、アーチャー!!」
「退いていろ、セイバー。直ぐに終わる。貴様はその後に相手をしてやる。骨の髄にまで我を刻み付けてやる故、しばし待て」

 向かって来るアーチャーに俺はエクスカリバーを向けた。

「何のつもりだ?」
「それはこっちの台詞だ!! 切嗣さんを焼き滅ぼすだなんて……、そんな事は許さないぞ!!」
「ッハ! この英雄王を利用しようとした罰を与えるだけだ。王に対する敬意を持たぬ者を生かしておく理由は無い」
「近づくな!!」

 俺が叫ぶと同時に俺の中で俺のものとは違う鼓動の音が聞こえた。

――――まさか……。

「退け、セイバー」
「……分かった」
「聞きわけが良くなったな。調教の際もあまり手を煩わせるなよ? 手酷く扱われたいならば、話は別だがな」
「……もういい、お前は死ね」

 エクスカリバーを振るう。アーチャーは間一髪で回避した。

「……何のつもりだ?」
「お前は邪魔だ。この場で倒して、切嗣さんを助ける!!」
「……なるほど、感心する生き汚さだ」
「黙れ!!」

 睨み合いは長くは続かなかった。

「我に敵うつもりか?」
「ああ、決着をつけてやるよ、アーチャー!」

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