第十一話「バジリスク・ハザード」

 我らが対継承者レジスタンスにマッドアイが加わってからの三週間は瞬く間に過ぎ去った。その間にマッドアイは優秀な闇祓いであると同時に優秀な教師でもある事を証明した。
 特にハーマイオニーはポリジュース薬の調合の際にマッドアイが的確なアドバイスを送った事ですっかり心酔してしまっている。かく言う僕とアルも子供だからと馬鹿にしたり、手を抜いたりせずに実践的な呪文や戦い方を教えてくれるマッドアイの事が大好きになっていた。
 
「この一ヶ月でだいぶお前達の事が分かってきたぞ」

 ある日、マッドアイは唐突にそんな事を言い出した。
 マッドアイは僕らの呪文に対する得意不得意を見出したと言うのだ。マグルで言う所の文系や理系のように魔法も個々で向いている呪文というのがあるらしい。
 僕は防御や回避といった守護に関する呪文に適正があるらしい。盾の呪文や妨害呪文、武装解除なんかが二人に比べて早く修得出来たし、精度も僕が一番だ。
 アルは攻撃呪文が得意で、麻痺呪文や粉々呪文、爆破の呪文なんかを直ぐに覚えたし、威力も僕らが使うよりずっと凄い。
 ハーマイオニーは操作系の呪文が得意だ。襲撃呪文のように生き物を操作したり、木や水を操る呪文が上手だ。他にも繊細な魔法制御技術を要する呪文に秀でている。

「これは生まれ持っての適正もあるし、杖の向き不向きもある。まあ、杖は術者の適正に合った物故なのだろうが……。無論、不得意な呪文とて修得出来ぬわけではない。修練に励めば覚えられる術は無い。だが、やはり各々の長所を伸ばす方が手っ取り早い。これからはそれぞれに合う呪文を各々教えてやろう」
「ありがとうございます!!」

第十一話「バジリスク・ハザード」

 それから、また一週間が経過した。僕らはそれぞれ教わった呪文を練習しながらポリジュース薬の完成の日を待ち、この日ついに完成した。
 喜びもつかの間、今度はポリジュース薬で変身する為に対象の髪の毛が必要となり、夕食の時にこっそりとスリザリン生――マルフォイの取り巻き――の髪の毛を頂戴した。幸か不幸かマルフォイは食堂に居らず、間抜けでウスノロなクラップとゴイルから髪の毛を頂戴するのは簡単だった。
 ハーマイオニーの分も近くのスリザリンの女の子の分を手に入れ、意気揚々とキングズリーの引率の下、寮に向かった。僕ら三人はいよいよ一月掛けて準備した計画の実行の日を目前とし興奮していた。
 その興奮が八階の廊下に到着した瞬間に一気に形を顰めた。

「そんな……、馬鹿な」

 アルは呆然と廊下の中央を見つめている。ハーマイオニーも信じられない、という表情で廊下の一点を見つめている。僕も同じ気持ちだ。
 僕らの一ヶ月の頑張りはまったくの無意味だった。ポリジュース薬ももはや意味が無い。
 何故なら、廊下には僕らが怪しんでいた人物が倒れていたからだ。

「マルフォイ……?」

 僕はよろよろと冷たくなった彼の下へ歩んだ。
 継承者である筈のドラコ・マルフォイは第五の被害者として発見された。

「なんで……、マルフォイが?」

 僕だけじゃない。皆、不思議がっている。マルフォイは純血であり、純血主義者であり、スリザリンの生徒だ。なのに、どうして、そのマルフォイが被害者になっているんだ? そもそも、どうしてここにマルフォイが居るんだ? グリフィンドールの寮の前に。
 疑問が尽きぬまま、更なる混乱の波が悲鳴という形でやって来た。
 遠くから誰かの叫び声が聞こえた。僕は咄嗟に走り出していた。アルも後に続き、その後ろに闇祓いのロジャー、そして、その後ろに監督生パーシーを初めとした何人かのグリフィンドール生が居る。
 声のした場所に辿り着くと、再び僕らは声を失った。さっきとは違う。真相が霧に紛れ、一ヶ月の苦労が徒労に終わったというだけのたんなる落胆とは違う。
 僕らはこうならない為に動いて来たはずなのに……。

「……ネビル」

 そこにはネビルの姿があった。ネビルは驚愕に満ちた顔で固まっている。
 
「そんな……、嘘だ」

 僕は全身の力が抜けてしまったように膝を折った。僕らはこの一ヶ月何をしていたんだ? 見当違いの人間を犯人扱いして、その為に校則を破って、マッドアイを巻き込んで、肝心の友達を守れずに、一体何をしていたんだ? 
 僕の胸に去来するのは果ての無い虚しさと哀しさだった。もはや、怒りを覚える事すら出来ない。
 そんな僕らに継承者は更なる追い討ちを掛けてきた。三度目の悲鳴がホグワーツに木霊した。
 誰かが廊下の隅の影になっている部分を指差している。心臓が高鳴り、全身に鳥肌が立った。
 そこには体に呪文による攻撃を受けたらしい火傷の跡が点在する痛々しい姿のロンが居た。ロンもまた、石のように凍りつき、淀んだ瞳で宙を見つめている。

「ロン!! そんな、嘘だ!! 僕の弟だ!!」

 後ろからパーシーが血相を変えてロンに駆け寄って行った。散々ロンに馬鹿にされたり嫌味を言われたりして憎らしいと思っている筈のパーシーがこれ以上無い程取り乱す姿は胸が痛くなる光景だった。
 ロン曰く、いつも冷静で鼻持ちなら無い優等生であるパーシーは弟の体に縋りついて泣いている。ネビルだけじゃなく、ロンまでが継承者の魔の手に襲われた。まるで、悪い夢でも見ているような気分だ。
 

「どういう事……」

 ハーマイオニーは涙で顔をくしゃくしゃにして僕の肩を揺すった。

「どういう事なのよ!? どうして、ネビルやロンが襲われてるの!? どうして、マルフォイが襲われるの!? アイツは継承者じゃなかったの!?」
「僕だって分かんないよ!! もう、なにもかもがわけわからない!! どうなってるんだ!! 継承者は一体、誰なんだ!?」

 僕の問いに答えを持つ者は誰も居ない。誰もが僕と同じ疑問を抱き、恐怖に慄いている。姿無き悪意がホグワーツ全体を暗い霧で覆い隠そうとしている気がする。
 謎は謎のまま、僕らは大広間に集められた。スクリムジョールを始め、全ての闇祓いと先生方も集まっている。
 誰も彼もが鬼気迫る表情を浮かべている。今日、これで七人もの被害者が出たのだ。しかも、前回は二人で今回は三人。闇祓いの厳重な警備を嘲笑う大胆不敵な犯行に闇祓い達の怒りは頂点に達しようとしている。先生達も次は誰が犠牲者になるのかと恐怖と怒りの入り混じった表情を浮かべている。ダンブルドアでさえ。普段の穏やかな表情がなりを顰め、静かな怒りの炎を瞳に湛えている。
 今はまだ死人が出て居ないから良いものの、このままではいつ殺人に発展するか分からない。マルフォイが襲われた事でそれまで余裕があったスリザリン生までが恐怖にうろたえている。

「静まるのじゃ」

 ダンブルドアが壇上に上がった。だけど、誰もダンブルドアの言葉に耳を傾けようとしない。この狂気的な状況を打破出来ないで居るダンブルドアにみんな不信感を抱いている。スネイプの一喝さえ、誰も相手にしない。事態は悪い方へとどんどん傾いていく。現状、頼れるのは先生方や闇祓い達だけである事はみんな分かっている。だけど、みんな、彼らを心から信頼する事が出来ないでいる。このままではいずれ統制がきかなくなる事は目に見えている。
 ダンブルドアは懸命に現状を説明し、これからの行動について話した。今晩は全校生徒全員で大広間で眠り、明日以降も授業は中止し、寮からの外出を無期限に禁止すると言い出した。
 これが現状取れる策として最大級のものなのだろう事は誰の目にも明らかなのに、みんな我慢の限界を超えてしまい、ついにダンブルドアを批判する声が上がった。一人二人じゃない。批判の声は他の先生方や闇祓い達にも波紋を広げ、皆の言葉を彼らは黙って受け止めている。これがガス抜きになるなら構わないという事だろう。
 暴動こそ起こらなかったものの、みんな、恐怖と不信感に心を蝕まれ、誰彼が犯人なんじゃないか、なんていう憶測まで飛び交い出した。僕やアルまで犯人の名前として挙がった。
 疑心暗鬼に囚われた生徒達の間では何度も喧嘩が発生し、その度に闇祓いが批判の受け皿として参上した。
 
「お前がスリザリンの継承者なんじゃないのか!?」

 そんな事を僕に言ったのはパーシーだった。

「何を言ってるんだ!?」

 アルが僕を庇おうと前に出ると、パーシーはアルを睨み付けて言った。

「君も怪しいな。君は確か、最初に被害にあったユーリィ・クリアウォーターと仲が良かったそうじゃないか。ああ、そう言えば、あの子は可愛い顔をしていたな。もしかして、あの子に拷問染みた傷跡をつけたのは君だったんじゃないのか? それで行為がエスカレートして――――」
「それ以上は許さないぞ、パーシー!!」

 眼の前が真っ白になる程の怒りが僕の頭を沸騰させた。
 ユーリィを守る為に一生懸命なアルにパーシーは言ってはいけない事を言った。ロンの事で気が動転しているのかもしれないけれど、それでも言っていい事と悪い事がある。
 理性は機能せず、僕は杖を抜いていた。

「止せ、ハリー!!」
「見ろ!! こいつ、僕に杖を向けている!! 杖を向けているぞ!!」

 アルが僕の手を掴み、杖を取り上げた。すると、パーシーが騒ぎ出した。
 皆の視線はアルに向かい。皆の目に疑いの色がありありと浮かんでいる。
 最悪だ。僕のせいでアルが疑いの目を向けられている。それも、ユーリィを傷つけた犯人として……。

「違う!! アルは継承者なんかじゃない!!」
 
 僕の叫びはみんなの怒声に掻き消された。悪意の塊のような言葉がアルに浴びせられる。アルは表情一つ変えずに受け止めているけど、辛くない筈が無い。
 
「止めろ!! 止めろ!! 止めろよ!! 止めろ!!」

 必死に叫ぶ僕の声は誰にも届かない。涙が出て来た。こんな事、酷過ぎる。三人であんなに頑張って真相を追い求めたのに。マッドアイが認めてくれて、必死に修行したのに。全部無駄になった。
 それどころか、アルはこんな目に合わされて……。もし、アルがこんな目に合ってるのを知ったら、ユーリィはどう思うだろう。その事を考えると耐えられない。

「止めてよ!! 止めてくれよ!! 頼むから……止めてくれ」

 その時だった。誰かがアルに向けて杖を向けるのが見えた。

「継承者は継承者らしくしてろよ!! サーペンソーティア!!」
「ったく、面倒くさいな。ストレス発散なら他のとこでやってくれ」

 杖から飛び出したのは一匹の大きな蛇だった。アルは呆れた表情で蛇を見ている。

『なんだここは?』
 
 苛々とした声が聞こえた。

『クソッ!! 一体、ここはどこなんだ!?』

 その声が蛇のものだと気づいた時にはアルは杖を取り出して蛇に向けていた。

『何をする気だ!? クソッ!! 殺されてたまるか!! 殺される前に殺してやる!!』

 その物騒な言葉に僕は無我夢中で飛び出していた。

『駄目だ!!』

 僕の叫びに蛇は動きを止めた。蛇だけじゃない。アルや他のみんなもあり得ないものを見る目で僕を見つめている。

『お前……俺に言ったのか?』

 蛇は僕を不思議そうに見つめた。

『え? あ、うん。えっと、いきなりこんなとこに呼び出されて驚いたのは分かるけど、少し落ち着いてもらえるかな』

 僕が言うと蛇は『あ、ああ。こいつらを大人しくさせてくれるなら、俺は別に……』と言って大人しくなってくれた。
 見かけに寄らず素直な性格らしい。

『あ。ありがとう』

 僕が礼を言うと、蛇は僅かに体をくねらせた。人間で言う所の肩を竦ませたっていうやつかもしれない。

「あ、アル!! 大丈夫!?」
 
 僕が声を掛けると、アルは青褪めた表情で当たりを見回し、いきなり僕を抱き上げた。
 突然の事に目を丸くする僕に構わず、アルは入り口に向かって駆け出した。

『おいおい!! 俺をこんな場所に置いていくな!!』

 蛇は体を捻って跳び上がり、僕の腕に絡み付いた。

『おいおい、やべーぜ、旦那!! 周りの奴等、目の色がさっきより更にやべー!!』
「え!?」

 アルに抱えられたまま周りを見ると、皆の目はさっきまでとは比べ物にならない程狂気的な色が浮かんでいた。

「こっちよ!!」

 ハーマイオニーの声が響き、アルは方向を変えて駆けた。
 すると、誰かが呪文を放った。信じられない。あの赤い光は麻痺の呪文だ。幾ら何でも、そんな呪文を使うなんてどうかしている。
 放った奴の顔を見てやろうと思って顔をくねらせると、アルは舌を打ち、空いている手で杖を持ち、盾の呪文を放った。盾にぶつかった麻痺呪文はあらぬ所へ跳ね返り、ぶつかった生徒の悲鳴によって大広間はパニック状態に陥った。

「アル!!」

 ハーマイオニーの声が響く。アルは僕を抱えたまま大広間の外へ出た。

「こっちよ!!」
「あ、アル。離してよ! いきなりどうしたの!?」

 僕が暴れると、アルは漸く降ろしてくれた。だけど、その表情は相変わらず青褪めている。

「やばい事になった。このままだと八つ裂きにされるぞ」
「必要の部屋に行きましょう!! あそこなら隠れられるわ!!」
「それには及ばん!!」

 ハーマイオニーの言葉を遮るように、コツコツという音と共にマッドアイが現れた。
 マッドアイだけじゃない。スクリムジョールやエドワードおじさんの姿もある。

「こっちに来なさい!! まずは身を隠さねば!!」
「え? ど、どういう事!?」
「ハリー。忘れたの!? 継承者はパーセルマウスだって事!!」
「そ、それは知ってるけど、それが何なの!?」

 僕が心底困惑しているのを分かってくれたらしく、アルは頭を抱えた。

「スクリムジョールの言葉を忘れたのか? パーセルマウスとは蛇語を操る者の事だと」
「蛇語って……え? あ、ああ!?」

 なんて間抜けなんだろう。僕はさっき、蛇と会話をしたばかりじゃないか。あまりにも自然に話せたものだから、これが蛇語なのだと自覚が全く無かった。

「え、なんで!? 僕、なんで蛇語が!?」
「分からない。だが、少なくともあそこに居た連中は継承者と蛇語を話すハリーの事を結びつける筈だ。あの単細胞共め!! とにかく安心したいからって、生贄に飢えてやがる!!」

 スクリムジョールの先導でやって来たのは闇の魔術に対する防衛術の教室だった。中に入ると直ぐにエドワードは扉に幾重もの呪文を掛けた。
 完全に外界と遮断出来た事を確認すると、スクリムジョールは杖を振るい、教室中の机や椅子を片付け、代わりに中央に大きな机とふかふかの椅子を出現させた。

「座りたまえ、ハリー・ポッター。それに、アルフォンス・ウォーロック。ハーマイオニー・グレンジャー」

 スクリムジョールはゆっくりと僕らの顔を見て言った。

「どうして、俺達の名前まで……」
「本気で思っていたのかね?」
「何が……?」
 
 アルの不思議そうな顔にスクリムジョールは呆れたように言った。

「我々が君達の密かなる企みを認知していないと、本気で思ったのかね?」

 その言葉に僕達は一斉にマッドアイを見た。
 マッドアイは頬を掻きながら僕らをばつの悪そうな顔で見返した。

「言っただろう。思慮が足りんとな。油断大敵だ。否はあんな如何にも怪しげに登場したわしをアッサリ信じたお前達にある」
「そんな……」

 僕は言葉を失った。信じていたのに……。
 一生懸命、僕らを応援してくれていると思っていたのに、マッドアイは僕らの頑張りを嘲笑っていたのだろうか?

「酷い……。あんまりじゃない……そんなの」

 ハーマイオニーは泣き崩れた。もはや、何を信じればいいのかわからない。僕らが疑ったマルフォイは継承者じゃなかった。僕らが信じたマッドアイは裏切り者だった。

「お前達の気持ちが分からないでは無い。だが、我々にとっても賭けだったのだ。お前達の推理を私達は支持していたし、お前達がマルフォイ家の小僧から情報を引き出したなら、出来る限りの褒章を与える準備もあった。だが、事態が変わった……」

 スクリムジョールの言葉は何の救いにもならなかった。むしろ、僕らにとっては追い討ちでしかない。
 僕らは結局ただの道化だったんだ。大人達の掌で弄ばれる哀れなピエロだったんだ。

「そもそも、不思議には思わなかったのか? 如何に透明マントであろうと、そう何度も歴戦の闇祓いであるキングズリー達の目を盗んで寮を抜け出したり、厳戒態勢の中で城をうろつくなど、どう考えても不自然だった筈だぞ」

 スクリムジョールは呆れたように言った。

「僕らは……、僕は……マッドアイが僕らを信じてくれたんだって、信じてたんだ……」

 僕の言葉にマッドアイは顔を背けた。それが僕にとっての勇敢で偉大な闇祓いのマッドアイという理想を粉々に打ち砕いた。
 あんな風に逃げるみたいに顔を背けるなんて……。

「まあ、これ以上言っても詮無き事だろう。さて、君達のおかげで校内は大混乱なわけだが……」

 スクリムジョールはジロリと僕らを睨み付けた。

「ここからは反撃に転じようと思う。君達にもし、まだ戦う覚悟があるならば、君達も我々と共に戦う気は無いかね?」

 スクリムジョールの言葉に僕は唾を吐きかけてやりたくなった。
 あまりにもふざけている。何が反撃だ。僕らをコケにするばかりで、自分達は何の成果も得られていないじゃないか。そんな役立たずとどう一緒に戦えるというんだ。
 僕が憤慨の表情を浮かべていると、アルは言った。

「反撃か……。どこまで掴んでるんだ?」

 アルの言葉にそれまで黙っていたエドワードおじさんが口を開いた。

「お前に覚悟があるなら話す。だが、もう嫌になった、というなら話す事は無い。ここからは大人の時間だ」
「なら、言ってやる。誰が嫌になるもんか!! いいから、さっさと教えろよ、父さん」

 アルの言葉に僕は呆気に取られた。あれだけ侮辱されて愚弄されたのにも関わらず、アルは尚も戦おうとしている。僕らを裏切り、弄んだ大人達と手を組む事に一切の躊躇いも無い。

「アル……。どうして……?」

 それがあまりにも不思議で仕方無く、僕は気づくと問い掛けていた。
 
「言っただろ。俺はユーリィをあんな目に合わせた奴を絶対に許さない。それに、ハリー。君に掛かった疑いもさっさと解かなきゃいけないしな」

 アルの言葉に僕は自分の愚かさを呪った。
 そうだ。もう、大人は汚い、だなんて子供っぽい事を考えて居られる時間は終わりを告げたんだ。
 本当の意味で戦う時が来た。あらゆるものに抗い、真実を追い求めるための戦いはここからなんだ。

「……僕も聞きます」
「……私も」

 僕に続くようにハーマイオニーも言った。
 屈辱に耐え、怒りを抑え、僕らは一歩大人の階段を登る。
 僕達の叛逆はまだまだここからだ。

『やっべぇ。なんか、めちゃくちゃ面倒な事に巻き込まれた気がするんだが……』

 僕はそんな僕の手に絡み付いたままの彼の言葉を無視した。

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