第一話「三年目のはじまり」

第一話「三年目のはじまり」

 二年目の事件は一年目の事件とは比べようもない程大規模なものとなった。秘密の部屋が開かれ、バジリスクが暴れ回り、闇祓い局が出動する騒ぎになり、多くの犠牲者が出た。事件はハリー・ポッターの活躍によって収束した。だけど、全てが終わったわけじゃなかった。
 秘密の部屋を開いた犯人は日記に封じ込められたヴォルデモートの魂の一部である事を知っている者は限られている。でも、実体化したトム・リドルを目撃した者はたくさん居た。ヴォルデモートに操られたロナルド・ウィーズリー、パーシー・ウィーズリー、ジニー・ウィーズリーを守る為にダンブルドアを初めとした教師陣と闇祓いは一人の架空の人物と架空の物語を作り上げた。
 公式の記録として残す為に証拠を捏造したり、マルフォイやディーン、シェーマスを納得させる為の作り話をロン達に徹底的に覚えさたり、被害者や加害者となった生徒全員にカウンセリングを受けさせたり、彼らの仕事は文字通り山のようにあった。そんな彼らの最後の仕事は俺の事情聴取だった。
 
「生死の間際を彷徨っていた直後に申し訳ないと思っている」

 スクリムジョールは頭を下げた。映画で見た彼の役の俳優よりもずっと若々しくて生気溢れるおじさんだった。彼の登場はずっと先だった筈なのに、この時点でハリーと接点を持った事が今後どう影響するのか、なんて、もう俺は考えていない。とっくの昔にこの世界は物語の世界とは違う時間を歩んでいるのだから、先の事を考えても仕方ない。

「単刀直入に聞こう。君はあの日記の事をどこで知ったんだ? 初め、我々は何らかの形で君があの日記の内容を知り、継承者の陰謀を食い止め様とした結果、継承者に襲われたと考えていたが、あの日記の真実を知った今ではその仮説が誤りであると認めぬわけにはいかない。話してくれるね?」
「はい……。俺が最初に日記を見つけたのは夏休みにダイアゴン横丁に行った日です。ロックハート先生のサイン会の日です。あの日、俺はマルフォイ君のお父さんがジニーちゃんの大鍋に何かを入れるのを見ました」
「ルシウス・マルフォイか……」

 スクリムジョールは口の中で転がすようにルシウスの名前を呟いた。

「続けてくれたまえ」
「……俺はそれが何なのか気になって、手に取りました。そして、その日記にはトム・リドルの名前があって……」
「君は闇の帝王の幼名を知っていたのかね?」
「知っていました」

 俺は隠さずに言った。スクリムジョールは探るように俺を睨み付けた。
 秘密の部屋について、俺は自分で秘密を抱え過ぎた。そのせいで事件の解決が遅れたと言っても過言じゃない。
 秘密を明かせば、俺がどういう存在かを知られてしまうかもしれない。アルやソーニャやジェイクに知られたら嫌われるかもしれない。それどころか、憎まれるかもしれない。俺は自分がただ生まれ変わっただけなのか、それともユーリィ・クリアウォーターという子供に魂が憑依しただけなのか、何も知らない。でも、そんなのは重要じゃない。重要なのはソーニャとジェイクが生んだ子供は純粋無垢なただの赤ちゃんじゃなくて、俺という意識を持った元高校生の男だっていう事。自分の赤ちゃんがもし、見ず知らずの男の魂を持っていたら気持ち悪いと感じる。自分の赤ちゃんだと認められないと思う。俺の赤ちゃんを返して、と泣き叫ぶかもしれない。
 でも、もうそんな事を言っていられない。気づかれそうになったら、その時は俺は……。

「俺は知っていました。トム・リドルがヴォルデモートである事を知っていたんです」
「……驚いたな、まあ、奴の真名を調べようと思えば、調べる手は幾らでもあるが、そもそも、闇の帝王の事を知ろうと行動する者はそうは居ない。他に知っている事はあるのかね?」
「俺は……」

 分霊箱の事を言うか迷った。これはヴォルデモートと全ての善なる魔法使いの戦いの行方を左右するあまりにも大き過ぎる情報だからだ。今、言ってしまえばもしかしたら全てが良い方向に向かうかもしれない。闇祓いが本格的に動いてくれるなら、ヴォルデモート復活前にヴォルデモートの分霊箱を全て破壊する事も不可能じゃない筈。
 そもそも、ダンブルドアが物語の中でハリー以外に分霊箱の事を伏せていたのは、既にヴォルデモートが復活し、分霊箱の守りをより強固にされる事を恐れたからだ。そして、ハリーを自分の命を投げ出す事も厭わぬ戦士に鍛える為だ。だけど、今ならどうだろう。ヴォルデモートは復活していない。ハリーだって、物語の中で結局死んでいない。なら、構わない筈だ。ヴォルデモートさえ居なくなれば、世界は平和になる。俺が居なくなっても、アルが平和な世界で生きていけるなら、それに勝る喜びなんてある筈が無い。

「ヴォルデモートの事を知っています。ヴォルデモートが復活しようとしている事を知っています」

 俺の言葉にスクリムジョールは目を見開いた。怖い。スクリムジョールはまるで、俺がたった今、目の前で人を刺し殺したみたいな目で見てくる。

「ヴォルデモートが復活するだと? 馬鹿も休み休み言いたまえ!!」

 スクリムジョールの怒鳴り声に外に居たスネイプ先生が様子を見に現れた。俺の事情聴取は内容が内容であったので地下の誰にも声の届かない一室で行われていた。つまり、スネイプの部屋。
 スネイプは何事かとスクリムジョールに詰め寄っている。最近、男女問わず大人気となったクールな仮面を被った熱血教師のスネイプ先生。言われる度に顔を真っ赤にして否定する姿に女子からの好感度が鰻上り。

「どうしたました?」
「……なんでもない。どうやら、この子は少し錯乱しているらしい。無理も無い。ヴォルデモートに散々拷問を受けたのだからな。もう少し、時間を置くべきだった」

 そう言うと、スクリムジョールは立ち上がり、杖を一振り。熱々のホットチョコレートを俺の前に出して、スクリムジョールは心底済まなそうに頭を下げた。

「怒鳴ったりして済まなかった。君の経験した事を思えば致し方の無い事だ。だが、復活した日記の亡霊のヴォルデモートは既にこの世には居ないのだ。もう、怖い思いをする事は無い。それを飲んで、後はゆっくり休みなさい」

 スクリムジョールは心から俺を哀れんでいるのが分かった。俺の言葉をリドルが日記から飛び出し、復活を宣言した事と結びつけたらしい。

「違う。違うんです!!」

 俺の叫びはもはやスクリムジョールには届かなかった。只管慈愛に満ちた表情で俺を慰めようとするスクリムジョールに俺は何も言えなくなった。彼の中ではもはや俺は恐怖に錯乱している哀れな子供になってしまっている。どんな言葉も彼には通じないのかもしれない。だけど、俺は言った。

「分霊箱なんです!!」
 
 その言葉に一瞬、スクリムジョールは動きを止めた。俺は畳み掛けるように言った。

「日記は分霊箱なんです!! 他にもあります!! ヴォルデモートは分霊箱を作ったんです!! 日記はその一つなんです!! それ以外にもヴォルデモートはマールヴォロ・ゴーントの指輪とスリザリンのロケット、ハッフルパフのカップ、レイブンクローの髪飾り、そして、彼のペットの蛇!! 全てを壊さないとヴォルデモートはいつか復活してしまうんです!!」

 俺の叫びは今度こそスクリムジョールに届いたのを確信した。信じられないという表情を浮かべながら、彼はスネイプを見た。スネイプは凍り付いたように口をぽかんと開けていたけど、スクリムジョールと目が合うと小さく頷いた。

「確かに、分霊箱と考えればあの日記の事が説明出来る……。しかし、まさか……いや、その事を奴自身から聞いたのかね!?」

 スクリムジョールの言葉に俺は頷いた。本当の事を言うより、その方が信じて貰えると思った。

「今すぐにダンブルドアと話をしなければ!!」

 血相を変え、スクリムジョールは部屋を飛び出して行った。スネイプも青白い表情を浮かべながら腕を摩っている。そこに何があるのかを俺は知っている。

「この事はくれぐれも秘密にするのだ」

 スネイプは言った。

「お前の言葉が真実だとすれば、情報源となったお前を狙い闇の帝王の手の者が襲いかかるかもしれん。よいな?」

 真剣な眼差しのスネイプに俺は頷いた。
 殆ど何も考えずに喋っていたのだけど、想像以上に上手く事が進んだ。俺がヴォルデモートに拷問を受けた事が良い方向に話を進めてくれたらしい。例え、どんな情報を持っていても不思議では無いほど、俺はヴォルデモートに接近したからだ。痛い思いをしか甲斐があったというものだ。

 それが夏の終わりの事だった。あれからエドはあまり家に帰らなくなった。俺の情報を下に大規模な分霊箱の捜索が行われているらしい。ヴォルデモートが何らかのアクションを起こす前に全ての分霊箱を掌握し、破壊しようとしているらしい。日記という分霊箱の存在がヴォルデモート復活の可能性をスクリムジョールに信じさせた。日刊予言者新聞の一面にはアズカバンに収容されている囚人達の金庫に家宅捜索が入ったというニュースが載っていた。金庫を暴かれた囚人の中にレストレンジの名前もあった。もしかすると、既にハッフルパフのカップは闇祓いの手に渡っているのかもしれない。
 ニュースでは小鬼が魔法使いの今回の暴挙に怒りを感じているという報道もあった。世界は今、大きな流れの中にある。ヴォルデモートが復活する前に全てを終わらせたいという思いは少しずつ輪郭を見せ初めている気がする。
 俺の周りにも変化が生じている。例えば、俺の家には常に闇祓いが常駐するようになった。誰あろう、マッドアイ・ムーディーだ。分霊箱の事で俺が狙われる事を危惧したスクリムジョールがマッドアイに俺の護衛を頼んだそうだ。本来ならば、若造の頼みなど断るところだが、ヴォルデモートを追い詰めるためとあれば話は別だとの事。
 他にも変わった事がある。闇祓い達が俺達の家にこれまで以上の防衛策を講じたのだ。その際にダンブルドアやマッドアイまでが手を加えた為にエドが以前敷いていた守護は今や見た目には変化が無くとも、実際には要塞の如き様相を呈している。
 それと、うちに来てからマッドアイはアルに訓練を施している。専門的な闇の魔法使いとの戦い方や闇祓いに必要な知識の伝授。まるで、後継者を育てているみたい。おかげでアルと遊ぶ時間が少なくなってちょっと不満。俺も混ぜてもらおうと思ったんだけど、俺が眠っている間にアルはびっくりする程魔法の使い方が上手になっていた。俺も一年目の時に散々訓練したつもりだったけど、専門家の指導の下で鍛えられたアルとは比較にならない。スタミナも前よりずっとあって、今までなら気絶していただろうくらいの魔法の連続使用も難なくこなしている。なにより、アルはマッドアイとの訓練の時間に夢中になっている。
 アルは向上心の塊になってしまったみたい。訓練の度に悔しそうにしながら次の訓練の事ばかり考えている。とても邪魔する気になれない。まるで、アルが遠くへいってしまったみたい。凄く寂しい。
 俺も個人的に魔法の練習をしているけど、マッドアイから俺には戦闘用の呪文に対する適正が低いと言われてしまった。だから、チマチマと俺に向いているらしい治癒呪文の練習をしている。俺は生命に関わる魔法に適正があるらしい。そう言えば、最初に魔法の力に目覚めた時も治癒の魔法だった。でも、この訓練は大っぴらには出来ない。治癒をするには治す為の怪我が必要なんだ。だけど、俺が少し自分の手にナイフを突き立てると、ソーニャ達が血相を変えて止めに来る。なんだか、皆少し過保護になってないかな。
 今、俺はアルとマッドアイの訓練を遠目に眺めながらナインチェが届けてくれた日刊予言者新聞を読んでいる。今日の新聞には日刊予言者新聞ガリオンくじグランプリの当選発表がある。ウィーズリー家が当選していれば、今年、シリウス・ブラックが動く。シリウスの無罪を証明するのは簡単だ。ロンのネズミ……ワームテールを捕まえて、大勢の前で正体を暴けばいい。後はダンブルドアが全て解決してくれると思う。
 だけど、肝心の記事にウィーズリー家の姿は無かった。代わりに老年の夫婦が穏やかな笑顔を浮かべて手を振っている。驚きは大きくないけど、失望は大きかった。でも、もしかしたらこれでいいのかもしれない。このまま、アズカバンに居れば、少なくとも、シリウスは死なずに済む。ワームテールがどう動くかは分からないけど、シリウスが刺激をしなければ、このままずっと、ロンのペットとして人生を終えるかもしれない。でも、ヴォルデモートが復活すれば、その限りでは無いかもしれない。恐怖で付き従い、仲間を裏切ったワームテールにとって、もはや寄る辺になるのはヴォルデモートしか居ないかもしれない。
 
「ワームテールはやっぱり……」

 今年はうちに皆を招待する事になっている。懸賞金が当たらなかった以上、ロンもうちに来る筈だ。その時はきっとワームテールも来るだろう。熟練の闇祓いの結界という檻の中へ。
 この秘密だけは誰にも話せない。ワームテールは確実に捕らえなきゃいけないから。
 やる事は決まった。俺は朝作った弁当を持ってマッドアイとアルの下へ向かった。
 明日はハリーを家に迎えに行く日だ。

 翌日、俺はプリペッド通りにアルとマッドアイと一緒に向かった。今回はちゃんと前日に電話でアポイトメントを取ってある。お昼に叔母さんが来るから、迎えに来るならその前に来るように、とペチュニアに言われているから、早朝に向かう事になり、アルもマッドアイも凄く眠たそう。でも、朝一番の電車に乗らなきゃ間に合わない。

「俺一人で迎えに行っても良かったのに」
「冗談止せ!! 一人になんかさせられるわけないだろ!!」

 これである。一体、どうしてしまったんだろう。アルは俺が少しでも一人で出歩こうとする事に神経質になっている。確かに、分霊箱の事で狙われる可能性はゼロではないけど、幾ら何でも警戒し過ぎだと思う。分霊箱の情報源が俺である事を知っているのはダンブルドアとスネイプ、それに闇祓いの中でも一部だけだ。俺の家に呪文を掛けに来たスクリムジョール、キングズリー、マッドアイ、エド。スクリムジョールは拷問されながらも死ぬまでハリーの事を黙っていたし、ダンブルドアやスネイプは決して漏らしたりしない。キングズリーとマッドアイ、エドも言わずもがなだ。
 それに、正直マッドアイが付いて来るのは問題が盛り沢山だ。魔法界ではヒーローでも、マグルの世界では変人奇人としか思われない奇抜な格好と言動。服装こそまともだけど、クルクル動く義眼なんてダーズリー家の信奉する普通からは掛け離れ過ぎている。それに、二人の事だからダーズリー家の人達とまともに会話する事も出来るかどうか怪しい。激しく不安だ。

「いい? 二人共、プリペット通りについたら十メートル離れた場所で待っててね」

 最寄の駅に降りて歩きながら俺は今日何度目になるか分からない注意をした。二人共あからさまに不満そうにしている。

「絶対に来ちゃ駄目だからね?」
「分かっておるわい! そう、口喧しく言うでないわ!!」
「そうやって、道端で大声を出すのもマグルの世界ではNGだからね」

 俺が言うと、マッドアイはげんなりした顔で「へいへい」と首を鳴らした。本当に分かってるのかな……。

「アルも絶対にマッドアイから目を離さないでね」
「分かってるってば……」

 アルも疲れたような溜息を零す。もう一度念を押すと、二人は盛大な溜息を零した。
 プリペッド通りに到着すると、俺は長い旅路を追えた冒険者の如く疲弊し切っている二人を置いてダーズリー家に乗り込んだ。約束の時間の十分前。
 チャイムを鳴らすと、中から慌しい音が聞こえて扉が開いた。出迎えてくれたのはペチュニアだった。

「お久しぶりです、ダーズリー夫人。お忙しい中、すみません」
「久しぶりね。ハリーならもう準備を済ませて二階で待っているわ。私達、親戚を迎えに行かないといけないのよ。お構いは出来ないわ」
「いえ、滅相もありません。あ、これ、カーディフで買った紅茶葉なんです。よろしければ……」
「まあまあ、この銘柄知ってるわ! 前に飲んで凄く美味しかったわ」
「ブルーベリーのシフォンケーキとぴったりなんです。あの……、よければこちらも」
 
 来る前に作ったシフォンケーキは大事に持って来たから潰れたりはしていない筈。一応、さっき確認もしたし、味もソーニャのお墨付きだ。
 ペチュニアはケーキを見ると頬を綻ばせた。

「そう言えば、料理が得意なのよね? まあ、美味しそう!」
「ブルーベリーはうちの庭で育てたんです。毎年たくさん出来るんです。とっても甘くて美味しいんですよ。もしよろしければ、今度お持ちします」
「まあまあ、悪いわね。じゃあ、お願いしちゃおうかしら」

 クスクス笑うペチュニアに「もちろん」と応えると、奥の方からバーノンの声が聞こえた。

「ペチュニア! ネクタイはどこだ!?」
「テーブルに出してありますよ!」

 ペチュニアは叫び返すとケーキと紅茶を玄関に置いて階段の上に向かって声を張り上げた。

「ハリー!! お友達が迎えに来たわよ!! 早く降りて来なさい!!」
「は、はい!!」

 上からドスンドスンという音と共にハリーが重そうなトランクを担いで降りて来た。

「ユーリィ!!」

 ハリーはワッと笑みを浮かべて俺に手を振り、バランスを崩して階段から転げ落ちてしまった。

「だ、大丈夫!?」

 俺が駆け寄ると、ハリーは問題無いとばかりに親指をあげてよろよろと起き上がった。

「久しぶり!!」

 満面の笑顔。階段から転げ落ちたばっかりなのに元気だ。

「久しぶり。本当に怪我は無い?」
「うん! っと、そうだ。あの、おばさん」
「まったく、慌て過ぎよ。それで、なにかしら?」

 ペチュニアは呆れたように眉を上げた。

「あの……、学校から書類が来て……。保護者のサインが必要で……」

 そう言って、ハリーはおずおずと羊皮紙を取り出した。ペチュニアは取り上げるように羊皮紙を手に取ると、舌を鳴らしながら流し読みして、ポケットからボールペンを取り出した。

「これ、ボールペンでいいのよね? 魔法のペンじゃなきゃ駄目って言うならサインしないわよ」
「ボールペンでばっちりです!!」

 ハリーはガッツポーズをしながら声を張り上げた。ペチュニアは鼻を鳴らしながらボールペンでさらさらとサインをした。

「お友達の家で粗相をするんじゃないわよ?」

 ジロリと睨むようにハリー顔を向け、羊皮紙を手渡しながら言うペチュニアにハリーは涙目になっていた。

「あ、ありがとう……」

 そんなハリーにペチュニアは鼻を膨らませて手拭いを取り出した。

「みっともないから外では泣くんじゃありませんよ」

 そう言って、ハリーの目下を拭うと、ペチュニアはぶっきらぼうな口調で「いってらっしゃい」と言った。
 ハリーはまた、泣きそうな顔で「いってきます」と言った。少しだけど、おばさんとの関係は上手くいってるみたいだ。
 帰りにマッドアイとアルと合流するとハリーはびっくりした顔をした。二人共凄くぐったりしている。そんなに待つのに疲れたのかな?

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