第七話「アルフォンス・ウォーロックⅡ」

第七話「アルフォンス・ウォーロック Ⅱ」

その日、俺は夢を見た。懐かしくて、とても大切な日の夢を見た。
あの頃、俺はユーリィとまだ友達じゃなかった。俺にとって、ユーリィはたまたま家が隣で、たまたま親同士の仲が良くて、たまたま接する機会が多かっただけの赤の他人に過ぎなかった。でも、俺はマグルの通う学校には行かせてもらえなかったから、他に遊び相手も居なくて、妥協してユーリィと遊んでいた。何でもYesと答えるユーリィの事をむしろ俺は嫌っていたと思う。まるで、自分の意思が無い人形を相手にしているみたいで気味が悪かったし、つまらなかった。
七歳くらいになって、俺は一人でこっそり家の敷地を出て近所の公園に遊びに行くようになった。マグルの子供達の仲間に入れてもらうようになって、もうユーリィは用済みになった。人形遊びを卒業して、生身の人間と遊ぶようになった俺はもう用済みになった人形と会話をするのも面倒になり、ユーリィが何を言おうと無視を決め込んだ。父さんや母さんが何か言ったけど、俺は全部無視した。とにかく、マグルの子供達と遊ぶ事に夢中になっていた。
バスケットやアメフトの練習をしたり、時には誰かを虐めてスカッとする事もあった。
今思えば何て最低な野郎だ、と思う。だけど、クソ野郎にはクソ野郎に相応しい末路が待っていた。
俺は調子に乗りすぎていた。いつも公園で遊ぶメンバーの中ではある程度の地位を保っていたし、誰かを虐める時は常に加害者の側だった。泣いて許しを請う愚図の姿を見るのが愉しいとすら思っていた。
ある日の事だった。俺は魔法の才能に目覚めたんだ。手を触れずに物を動かす事が出来た。父さんや母さんはその事を決して誰にも話してはいけないと口を酸っぱくした。だけど、馬鹿な俺はそれを堂々とみんなの前で披露してしまった。もちろん、みんなからは賞賛と敬意の言葉をもらった。だけど、そんなものは被害者が加害者からそれ以上の危害を加えられないようにする為のおべっかに過ぎなかった。
一緒になって虐めをしていた奴等が裏切った。俺の不思議な力を奴等は欲しがったけど、使い方を教えない――というより教えられない――俺に対して憤り、被害者を加害者に仕立て、加害者を被害者に仕立てた。一方的な暴力を受けて俺は泣きながら家に帰ったのを覚えている。魔法の力があったのに、相手は同世代の子供だったのに呆気無く喧嘩に負けて、泣かされた。加害者の立場から被害者の立場に転落した事を俺はすぐには認められなかった。何度も加害者の側に戻ろうとした。だけど、いつも虐めてる奴を虐めようとしたらちょっと前まで一緒になって虐めてた奴が助けに入ってそいつと一緒に俺をぼこぼこにした。
そんな事が数日続き、俺はとうとう自分の地位が失墜した事を理解した。だけど、ある日の事だった。突然、暴力の日々が終わりを迎えた。誰も俺を見ても殴らなくなり、それどころか親しげに話しかけてきて、何が何だか分からなかった。ただ、俺は地獄の日々が終わりを迎えたのだと思い無邪気に喜んだ。
地獄の日々は終わりを迎えてなど居なかった事を知ったのはそれから更に数週間が経過した後の事だった。俺はいつも近づかない場所があった。前に俺がいつも虐めに使っていた場所だ。そこに行ったら、またあの地獄の日々が戻ってくるような気がして、無意識にそこに行くのを拒否していた。
その日、よくつるむ奴があまりにも機嫌良さそうにしているからどうしたのか聞くと、いつも遊んでいる玩具でもっと良い遊び方を見つけたのだ、と言った。
何の事か分からないまま、俺はそいつに連れられてあの場所に向かった。そこで見たのは……地獄の日々の続きだった。
終わったんじゃない。ただ、別の誰かが肩代わりしてくれただけだったんだ。
そこには人形が居た。うずくまりながら、ちょっと年上の子供に蹴られ続けている人形の姿があった。
俺を地獄へ引き戻した奴は言った。

『あいつは頭がイカレてる。自分に何をしてもいいから、お前の事は元通りの友達として扱ってくれ、とか言いやがったんだ』

なんで? 俺が真っ先に思ったのはソレだった。なんで、そんな事になってるんだよ。俺は頼んでない。こんな酷い目にあってるのはこいつが勝手に馬鹿な事をしたからだ。自業自得だ。
俺は逃げ出そうとした。だけど、奴は俺の手を離さなかった。

『まあ、待てよ。こいつ、殴っても蹴っても、小便掛けても何も言わないんだ。最初はそれでも面白かったんだけどさ。もちっと、趣向を凝らしたくなったんだよ。つっても、親とかにバレんのはキツイから顔をグチャとさせるのは無しだ。爪とか剥がすのもバレそうだしな。だからよ……』

寒気がした。なんだこれは? 同い年の子供の筈なのに、俺は目の前の奴の存在が化け物に見えた。悪意の塊のような言葉を平然と撒き散らす奴の顔は愉悦に歪んでいた。
その時、俺はその顔に見覚えがある事を思い出した。
虐めをしていた時の俺の顔そのものだった。愉しくて、愉しくて、もっと傷つけたい。もっと泣かせたい。そんな欲望が際限無く溢れて、どこまでもエスカレートしていった。
だから、俺は奴が何を言おうとしているかを察した。思わず後ずさる俺に奴は案の定、予想通りの言葉を吹き掛けて来た。

『お前がこいつを殴れよ。蹴り飛ばせ。助けた奴に殴られたら、こいつもさすがになんか反応するだろ?』

その顔にあるのは純粋な好奇心と無邪気な期待だった人形が人間みたいに絶望する顔を見たいのだ。
俺の回りは体つきのいい奴等に囲われて、逃げ口を塞がれた。
蹴らなければ、俺もこうなる。言葉にされなくても分かってしまう。
怖くて、俺は人形の顔が見れなかった。体が動かない。逃げ出したい。泣きそうになりながら足を踏ん張るけど、背中を押されて人形の目の前に突き出された。
蹴ったら、俺もまた化け物になる。だけど、蹴らなきゃ人形にされる。化け物か、人形か、そのどちらかだ。
恐慌に駆られそうになった俺を救ったのは人形が発した言葉だった。

『いいよ』

その声は痛めつけられ過ぎたせいだろう。掠れていた。
だけど、小さい頃から聞き続けた人形の声なのだと俺は直ぐに分かった。
俺は恐る恐る顔を向けると、人形は微笑んでいた。
理解出来なかった。なんで微笑むんだ? 俺はお前を裏切ろうとしているんだぞ? 助けてくれた恩を仇で返そうとしているんだぞ?
疑問は人形の一言に掻き消された。

『いいよ……、友達だもん』

その言葉に俺は言葉を失った。こいつは何を言ってるんだ? 友達? 一体、誰の事を言っているんだ?
お前の目の前に居るのは全員化け物だ。誰かを虐めて愉しいと感じる化け物しかいないんだ。俺なんかを助けようとして、無抵抗で一方的にぼこられるような馬鹿が友達になるような奴じゃないんだ。

『蹴ってよ。じゃないと……アルが酷い目に合うじゃない』

その言葉を聞いた瞬間、俺は目の前の人形が気持ち悪いと思った。自分がボコボコに傷つけられているのに、人形の目は只管俺を心配している。隣の化け物が悪意の化け物なら、こいつは善意の化け物だ。そうとすら思った。だけど、すぐにそれは違うと思い直した。
この人形が仮に善意の化け物なら、そもそも俺は虐めを行ったりしていない筈で、虐められたりもしていない筈だ。だって、こいつは虐めというゲームが繰り返されていた事を知っている。どこで見ていたのか分からないけど、どこかで見ていた筈だ。じゃなきゃ、そもそもこんな状態にはならない。虐めの事実を知らなきゃ、虐めの肩代わりなど出来ない。
恐らく、俺の虐めを止めなかったのは俺が愉しんでいるのを邪魔したくなかったからだ。俺が虐められるのを止めなかったのは放っておけば俺が戻ってくると思ったからだ。俺が虐められるのを止めたのは俺が戻ってこなかったからだ。つまり、こいつは俺が欲しかったのだ。友達を取り戻したかったのだ。その為に殴られて、蹴られて、小便を掛けられて、それでもなお、ここに居る。そのリスクにリターンが釣り合っているのかは分からない。それは人形にしか分からない事だ。
そう考えて、人形の目を見ていると、その目に期待の色が見えた。醜い、気持ち悪い、歪んだ感情の色が見えた。そう、感情の色が見えたんだ。
こいつは気が狂ってる。頭がおかしい。それは事実だろう。だけど、こいつは人形じゃなかった。
その事実を理解した時、俺の中で何かが切れた。ただ我武者羅に暴れ回った。隠せと言われた魔法の力も無遠慮に使い、暴れるだけ暴れて、俺はユーリィの手を掴んで逃げ出した。とにかく走った。
家の前まで来てホッとした瞬間、ユーリィの体がガクンと倒れた。どうしたのかと思ったら、ユーリィのズボンの端に酷い蚯蚓腫れが見えた。慌ててユーリィの体を見たら、ユーリィの体はボロボロだった。体のあちこちに痣があって、髪や服からは酷い臭いがした。そう言えば、小便を掛けたとか奴は言っていた。

『だい、じょうぶかよ?』

何馬鹿な事聞いてんだ。自分の口から飛び出した恥知らずな言葉に俺は愕然とした。
理由がどうあれ、ユーリィがボロボロになっているのは俺のせいだ。なのに、どの口でそんな言葉を吐けるんだ。

『大丈夫だよ』

そんな俺の内心とは裏腹にユーリィは嬉しそうに微笑んだ。
何がそんなに嬉しいのかと聞くと、俺に心配してもらえたのが嬉しいなんて言葉をほざきやがった。
やっぱり、こいつは気が狂ってると思った。なのに、俺はユーリィから離れようとは思えなくなっていた。
どうして、ユーリィの傷をユーリィの両親が知らなかったのかは直ぐに分かった。ユーリィも魔法の才能に目覚めていたのだ。
それも俺みたいに物を浮かしたり、なんてもんじゃない。ユーリィは傷を癒す力がずば抜けていた。しばらくジッとしていると瞬く間にユーリィの体は治癒された。
母さんが言うには、魔法の才能に目覚めたばかりの子供はとにかく強い魔法力を持つらしい。強力な魔法力でユーリィは自分の体を瞬く間に治してしまった。

『服……、捨てるしかないかな……。ママ達に怒られちゃうや……』

そんな事を言いながらユーリィは初めて少し哀しそうに自分の服を見た。

『良かったの?』

何が、そう聞き返すほどには俺も馬鹿じゃなかった。

『いいんだ。……いいんだ』

もう、あの公園には行けない。行くべきじゃない。
それだけは分かる。

『でも……、友達だったんでしょ?』
『いいんだよ。あいつらは……友達じゃなかった』

あいつらはただの化け物で、俺もただの化け物だった。俺とあいつらはただ同類だっただけだ。だからつるんでいた。友達だったわけじゃなかったんだ。最初から……。

『でも、寂しくないの?』

そう言うユーリィに俺は恥ずかしげも無くクソみたいな事を言った。

『お前は俺の友達なんだろ?』

友達になる資格なんて無い癖に、俺はそれでもユーリィの友達という言葉に惹かれた。
嬉しそうに頷くユーリィに俺は一つだけ約束した。

『俺に秘密にして何かしようとか、もうすんなよ? もう二度とごめんだぜ、あんなの……』
『うん……!』

醜いくらい、気持ち悪いくらいに俺を思ってくれるユーリィの存在は俺にとって一種のリミッターだ。こいつの献身的な態度を見ていると、あの日の事を昨日の事のように思い出す。その度に誰かを傷つけたい、泣かせたい、壊したいと思う欲求は抑えられた。
友達と言ってくれたこいつを裏切る真似をしたくないと思ったのも本当だ。
結局、約束した事を全然守らない奴だけど、挙句の果てに俺の目の前であんな姿を晒しやがった奴だけど、俺にとってユーリィは友達だ。
目が覚めてから俺は仮死状態のまま眠り続けるユーリィの横でユーリィに初めてもらった誕生日プレゼントの本を読んだ。
誰も敵わないような巨大な力を持つ悪の親玉をそれ以上の力で薙ぎ倒す正義の化け物。
どうせ、化け物なら俺は正義の化け物でありたい。別に他の誰にとって悪の化け物でも構わない。ただ、ユーリィの目に映る俺は正義でありたい。友達に嫌われるのは嫌だなって言う子供っぽい感情だけど、俺はこいつだけは裏切りたくない。だから、裏切らないために強くなりたかった。只管、自分の道を突き進める勇気と力が欲しかった。
なのに、この有り様だ。俺は何をやっていたのだろう? 俺の八歳の誕生日の日から続けてきた鍛錬は何の意味も無かった。守るために鍛えた力は発揮する事も出来なかった。
だから、殺してやる。ユーリィを傷つけた奴は誰だろうと殺す。理由も聞かない。命乞いも聞かない。泣き叫んで、苦しみに喘ぐ顔を見たい。
眠っているユーリィは俺を見ていない。なら、俺は悪の化け物になろう。守るために鍛えた力を暴力の為に使おう。自分の欲求を抑えるために鍛えた力を自分の欲求を晴らすために使おう。
それにしても、こいつ……、俺がクリスマスにプレゼントしたスニーコスコープを持ってなかったな。とりあえず、目が覚めたら説教してやらないとな。

本を読み終えた頃に保健室の扉が開き、ソーニャとジェイクが入って来た。
ソーニャとジェイクはユーリィの名を叫びながらベッドに駆け寄った。
発見当時のユーリィの姿を見なかったのはせめてもの救いだった。ソーニャはいつもの穏やかな顔をぐしゃぐしゃに歪めてユーリィのベッドにすがり付いて泣いている。ジェイクもユーリィの手を握って俯きながら涙を零している。後から入って来た父さんと母さんの顔はこれまで見た事の無い憎悪に彩られていた。二人にとって、ソーニャとジェイクは得難い友であり、その息子であるユーリィはもう一人の息子も同然であり、そのユーリィが傷つけられた。まるで、ソーニャとジェイクが二人の悲しみを引き受け、父さんと母さんは二人の怒りを引き受けたかのようだった。
父さんは俺の方にやって来た。

「何があったんだ?」

俺はソーニャとジェイクを見た。見たままを説明するには二人から離れないといけない。ユーリィがどれほどの苦痛を受けたかを聞いたら、二人は悲しみのあまり死んでしまいそうだと思ったからだ。
父さんも同じ事を思ったのか、後ろに立っている母さんとその向こうに居るダンブルドアとマクゴナガル先生に振り返った。

「どこか、ゆっくり話せる場所はありますか?」
「では、ワシの部屋に案内しよう」
「あっ、僕も……」

ジェイクが顔を上げると、エドは手で静止した。

「ジェイク。君はユーリィに傍に居てあげてくれ」
「でも……」
「ユーリィに酷い事をした奴は俺が必ず見つけ出す。約束する。信じろ」

表情を僅かに緩めてエドは言った。ジェイクは小さく頷くと、父さんの手を強く握り締めた。

「頼む……」
「任せろ。俺はプロだぞ」

茶化すように言いながら父さんはダンブルドアの後に続いて廊下に出た。俺も後を追い、校長室に向かった。
初めて入る校長室には歴代の校長の肖像画が並び、互いの絵に出入りしてひそひそと何かを話していた。

「では、話して頂こう。何が起きたのかを」

父さんは相手がダンブルドアであるにも関わらず虚言は許さぬとばかりの険しい表情を向けた。
ダンブルドアが語ったのは俺の知る事と概ね同じだった。ユーリィが受けた拷問の事やユーリィの血で書かれた文字の事を聞く間も父さんは表情一つ変えずに黙って聞き続けた。
表情が動いたのはユーリィが自分の体に刻んだ文字の事に話が及んだ時だった。

「ヴォルデモートだと……?」

ヴォルデモート。日記。バジリスク。秘密の部屋。継承者の敵。
父さんはその五つの単語を口ずさむと表情を一変させた。

「学校を閉鎖しましょう」
「父さん!?」

学校を閉鎖する。それはつまり犯人から逃げるという事じゃないのか? 俺は思わず父さんに掴みかかった。

「学校を閉鎖したら、犯人まで逃げちゃうじゃないか!」
「事が事だ。俺とて、ユーリィを傷つけた犯人の事は憎い。だが、それがヴォルデモートとなると話は変わってくる。仮にヴォルデモート自身でなくても、死喰い人を相手にするとなれば生徒達が危険に晒される事になる。第二第三の被害者を出すわけにはいかんのだ」
「しかし……」

口を開いたのはマクゴナガルだった。

「例の――――」
「ヴォルデモートじゃ、ミネルバ」
「……あー、ヴォルデモートやバジリスクの事を本気で信じているのですか?」

マクゴナガルはヴォルデモートの名を口にすると身震いしながら父さんとダンブルドアに問うた。気持ちは分かる。ヴォルデモートもバジリスクも今や伝説的な存在だ。容易く信じられる話じゃない。

「ユーリィは聡い子だ。あの子が拷問のすえに自分の身に刻み込んだ文字を疑う気は無い」

父さんの言葉にダンブルドアが頷いた。

「それにじゃ、ミネルバ。去年の事を忘れたわけではあるまい」

ダンブルドアの言っているのは去年の賢者の石を巡る事件の事だとすぐにわかった。

「あの時、ヴォルデモートの尖兵がホグワーツに入り込んで居ったのを忘れてはならぬぞ。それも、教師としてのう」

ダンブルドアの言葉にマクゴナガルは渋々と頷いた。信じたくは無い。だけど、信じる根拠がある。
父さんはダンブルドアに詰め寄った。

「学校を閉鎖し、バジリスクの捜索をするべきだ。バジリスクは蛇語を操るパーセルマウスにのみ従う。サラザール・スリザリンはパーセルマウスだった事で有名な人物だ。ならば、伝承にあるスリザリンの継承者が開くという秘密の部屋の怪物はバジリスクである可能性が高い」

父さんの言葉にダンブルドアが頷きかけた、その時だった。突然、校長室の扉が開き、スネイプが飛び込んできた。

「校長、大変です!!」

見た事の無い程焦燥に駆られたスネイプの顔に一同の目が集中した。

「また、継承者が現れました」
「誰か、殺されたのか!?」

父さんの言葉にスネイプは首を振った。

「幸い、クリアウォーターと同様に仮死状態で発見されました。レイブンクローのアラン・スペンサーです。近くにはまた血文字が残されていました」
「何と書いてあったのじゃ?」
「『学校を閉鎖する事は許さない。生徒を家に返せば無差別な殺戮が起こるだろう』と」

何が狙いなんだ? 学校が閉鎖になれば逃げ出す事も容易い筈。どうして、わざわざ自分から袋小路に入り込むような真似をするんだ?

「目的は何だ……? まさか、本当にマグル生まれを殺す為なのか? だとすれば、どちらにせよ……いや、しかし……」

父さんは犯人の意図が読めずに困惑している。
殺したいからという理由だけで学校の閉鎖を禁じたなら、犯人はただの愚か者だ。だが、他に理由があるとしたら、その理由は一体なんだろう?

「疑問が一つ」

スネイプが言った。

「スペンサーの体には傷一つありませんでした。クリアウォーターのように拷問を受けた形跡が無いのです」

スネイプの言葉に一同騒然となった。
アラン・スペンサーは拷問を受けずにただ仮死状態にされた。
それはつまり、ユーリィが受けた拷問にはただの享楽以外に意味があったという事。

「とにかく、現場に行ってみよう。案内してくれ、セブルスや」

ダンブルドアの言葉に頷き、スネイプはマントを翻して校長室を出た。
俺達もスネイプの後に続き、事件の現場に向かった。
事件現場では未だに多くの生徒がたむろっていたが、スネイプが一喝すると、散り散りになって場所を空けた。
血文字を見ながら父さんは言った。

「とにかく、闇祓いを召集しましょう。一刻の猶予もありませんぞ。ヴォルデモートとバジリスク。片一方だけでも第1級緊急事態だ。私は局長に……ルーファス・スクリムジョールに連絡をします」

駆け出して行く父さんを尻目に俺は静かに安堵した。
ああ、自分から檻に残ってくれてありがとう。何が目的なのかは知らないが感謝して、殺してやる。

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