第五話『牢獄』
ワームテール達が炎の中に消えた後、僕はシリウスに掴み上げられた。
「貴様!!」
憎しみの篭った眼差し。僕がじっと見つめると、シリウスは僕を殴った。
「なんだ、その眼は!!」
蹴られ、殴られ、また蹴られる。
思わず笑ってしまった。まるで、ダーズリーの家に戻って来たかのようだ。
みんなが僕を化け物のように見る。みんなが僕を傷つけようとする。
「止めろ!!」
気を失っていた筈のドラコがシリウスの前に立ちはだかる。
「ハリーに手を出すな!!」
その隣にロンが立つ。
「お前ら、みんなおかしいよ!! ハリーがヴォルデモートの手先? 頭の中に脳みそ詰まってんのか!?」
その前にフレッドとジョージが立つ。
「よく言ったぜ、ロン! それでこそ俺達の弟だ」
「大人の癖に子供でも分かる理屈が分からないなんて、本当に哀れだね」
彼らの周りに人が集まり始める。
「……ハリーは俺のチームメンバーだ」
キャプテンのフリントが言った。
「お前達よりずっと知ってる。帝王の後継者だって? バカバカしいね」
チェイサーのグラハムが言った。
「黙って聞いてたら、なんだよ、お前」
ビーターのデリックが言った。
「ピーピー喚きやがって、ウザってんだよ!!」
ルシアンが怒鳴った。
「大体、ダンブルドアやハリーを捕まえて、それでどうなるってんだ?」
キーパーのマイルズが言った。
スリザリンのチームだけじゃない。グリフィンドールのチームも僕を守るように立ちはだかった。
「目を覚ますんだ!! 敵を間違えるな!!」
ウッドが言った。
「大体、フレッドやジョージのお父さんが闇の陣営に協力するわけないじゃん。あんなマグル好き、そうそういないよ?」
ケイティが言った。
「ダサい真似しないでよ、おじさん達」
アンジョリーナが言った。
「子供に一方的に暴力振るって、捕まえる? 処刑する? どうかしてるわ!」
アリシアが言った。
ハーマイオニーとジニーが僕の怪我を手当してくれた。
「大丈夫?」
「……アイツラ、酷いわ」
嫌われていた筈のジニーまで心配してくれている。
「……みんな」
誰もが僕を攻撃すると思った。味方など居ないと思った。
昔はそうだった。だけど、今は違う……。
「あの記事を忘れたのか!? あの写真を見ろ!!」
「私の家族は死喰い人に殺された!! そいつの仲間に!!」
他の生徒達の間から僕を糾弾する声が上がる。だけど、不思議と怖くなかった。
僕は僕を囲むみんなを見た。誰も動かない。僕を信じてくれている。
気付けば、パンジーやダフネ、アリステア、ミリセント、ベイジー、一匹狼のノットまで僕の周りに立っていた。
「……僕の友達をコレ以上傷つけるな!!」
ドラコが叫ぶ。だけど、闇祓い達の眼は冷たいままだ。彼らは杖を振り上げた。
みんなを攻撃するつもりなんだ。僕なんかの為に立ち上がってくれたみんなを……。
「みんな……、ありがとう」
僕は手当をしてくれたハーマイオニーとジニーを引き離し、みんなの前に立った。
「連れて行って下さい。抵抗はしません。だから、みんなを傷つけないで」
「ハリー!? 何を言ってるんだ!! ダメだ!!」
ドラコが叫ぶ。嬉しくてたまらない。僕は微笑んだ。
「ありがとう、みんな。十分だよ」
「……良い心がけだ」
シリウスは僕のお腹を殴った。痛みで意識が薄まっていく。
「なっ、てめぇ!!」
「……だ、め」
ドラコ達が心配なのに、意識が闇に沈む。
そして、気付いた時には牢獄にいた。まだ、アズカバンではないみたい。きっと、処刑を行う関係だろう。牢獄の入り口の隙間から微かに見える案内板に魔法省の文字があった。
冷たい正方形の箱の中で僕はみんなの顔を思い浮かべた。
「みんな……、大丈夫かな……?」
処刑がいつ執り行われるのかは分からない。今日かもしれないし、明日かもしれない。
だけど、恐怖は特に沸かなかった。死は僕を魔王に近づけてくれる。
魔王の声がさっきからずっと響き続けている。
――――安心しろ。貴様には俺様がついている。
だから、僕の不安はみんなの安否だけだった。