ホグワーツの三年目が始まる。アズカバンの事件が起きた翌日、ビルは僕達をキングス・クロス駅まで送り、そのまま何処かへ出掛けた。
平静を装っていたけど、顔が強張っていた。きっと、ダンブルドアの指示を受けている。
ホグワーツにも変化が起きた。城内にアズカバンの看守である吸魂鬼と闇祓い局の闇祓い達が警備をする事になったのだ。
「……久しいな、ハリー・ポッター」
新学期が始まり、しばらくした日の事だった。
僕は廊下でルーファス・スクリムジョールに呼び止められた。
あの日から四年と少し……。
「お久しぶりです」
「元気そうでなによりだ」
「ええ、おかげさまで」
あの頃とは違う。もう、この人からも逃げたりしない。
呼び止めた以上、何か用事がある筈だ。
「僕に何か用が?」
「いや、特にはない。折角の再会だから、挨拶をしておこうと思ってね」
「……そうですか」
なら、話は終わりだ。拍子抜けしながら、僕は彼に頭を下げた。
そのまま立ち去ろうとすると、スクリムジョールは言った。
「……魔王は元気かね?」
そんな事、僕が知りたいくらいだ。
「さあ、知りません」
「そうか……」
改めて確信した。僕はあの人が心の底から嫌いだ。
第七話『シーカー』
ハロウィンが目前に控えた日、スリザリンのクィディッチ選抜試験が始まった。
今はドラコがチェイサーの試験を受けている。去年まではフリント、ワリントンと共にエイドリアンが務めていたのだけど、今年から彼は引退している。
ドラコがチェイサーを選んだ理由は去年の学年末にフレッド達からアドバイスを受けたからだ。僕を元気づける名目て開いた練習会だったけど、中身は真剣そのものな内容で、僕もシーカーの適正があると認めてもらえた。だから、今年は僕も選抜試験を受ける。
ちなみにグリフィンドールではジニーもやる気を出しているみたい。だから、ロンは夏休みの間、必死に練習していたみたい。店の手伝いに来れなかったのもそれが原因。汽車で会った時に謝られてしまった。妹にだけは負けたくないそうだ。実際、練習の時はジニーの方が上手だったっけ……。
「ドラコ、頑張って!」
パンジーが声を張り上げている。
今回はスリザリンのみんなと応援している。パンジーもシーカーの座を狙っているみたい。僕をライバル視している。
だけど、今は関係ない。僕も声を張り上げて応援する。
「ドラコ、ファイト!」
負けじとダフネやその妹のアリステアも声を上げる。
上空でクアッフルを抱え、ドラコはブラッジャーや先輩選手達のアタックを巧みに避けている。
動きに無駄が無い。他の挑戦者達とは段違いの動きだ。
「いけいけ!」
アリステアが叫ぶ。
クラッブとゴイルも後ろでウホウホと興奮している。
ドラコがクアッフルをゴールにダンクした。チェイサーの試験はクアッフルを奪われるまで続く。それからドラコは二十回以上もゴールを決めた。
まさに圧倒的。他の人達は大抵一桁がやっとだもの。
降りてくるドラコをみんなで出迎えた。嬉しそうな笑顔を浮かべるドラコ。
向こうからキャプテンのフリントがやって来る。
「ドラコ、文句なしの合格だ! 今年から、君も我がチームのチェイサーだ」
歓声が上がった。
パンジーとアリステアがドラコをハグする。二人がドラコに恋をしている事は寮生の中で公然の秘密だ。
ドラコは困ったような笑顔を浮かべながら僕を見た。
「次は君の番だ」
「……うん!」
ドラコはやんわりと抱きついている二人から離れ、僕の手を握った。
「君なら間違いなく合格すると確信している。一緒に試合に出よう」
「がんばるよ!」
笑顔で握り返すと、ドラコは不思議な表情を浮かべた。
「どうかしたの?」
「……いや、別に。僕達は観客席で応援してるよ」
そう言って、ドラコはみんなを連れて観客席へ向かった。
僕は髪を紐で縛って、箒を呼び寄せた。
次は僕の番だ。
「それではシーカー選抜試験を始める! 一組目、空へ!」
シーカーの選抜試験は数回に分けて行われる。
三人一組で空に上がり、最初にスニッチを捕らえた人間が次に挑戦出来る。
僕は最初の組だ。一緒の組の人と同時に箒に跨る。
すると、いつもの事だけど体が軽くなった。箒に乗る事はすごく気持ちの良い事。地上を離れると、気分が高揚する。
本来、人は自力で空を飛べない。だから、昔から多くの人が空を飛ぶ手段を模索して、飛行機やヘリコプターを発明した。
だけど、魔法使いは自分の力で飛ぶ事が出来る。
上空で滞空すると、視野が一気に開けた。
「スニッチを放つぞ!」
フリントがスニッチを解き放った。一瞬で姿を消すスニッチ。
みんなも探し始めている。僕も探そう。
耳を澄ませてみる。風の音や観客席からの歓声が聞こえる。その中から嗅ぎ分ける。
「……見つけた」
誕生日にビルにもらったニンバス2001は素晴らしい性能だった。僕の思い描いた通りに動いてくれる。僕が動き出した後に他の人達も動き出すけど、もう遅い。
僕は誰よりも早くスニッチを手に入れた。
「スニッチ、ゲット!」
それから何度も同じことを繰り返した。
その度に僕は一番早くスニッチを手に入れた。
希望者が多くて、最後の三人に絞られるまでに陽が沈んでしまった。
夜闇の中だと、一層スニッチは見つけ難い。
だけど……、
「見つけた!」
僕は勝った。誰よりも早くて凄い事を証明してみせた。
スニッチを手に降りて行くと、みんなが賞賛してくれた。
「見事だ、ハリー! これからは君がシーカーだ! よろしく頼む!」
フリントも僕を認めてくれた。
魔王がいたら、きっと褒めてくれた筈。
どうして、ここに魔王がいないんだろう……。
「ど、どうした!?」
フリントが慌てている。思わず泣いてしまったみたいだ。
「ご、ごめんなさい。ちょっと、感極まっちゃって……」
「そ、そうか……。言っておくが、これからが本番だぞ。スリザリンこそ最強なんだ。それを証明する為に、我々に敗北は許されない! 涙は優勝杯獲得まで取っておくんだ。いいか、勝つのは我々だ!」
「……はいっ!」
僕はスリザリンチームのシーカーになった。
後日、ロンも見事にシーカーの座を射止めたと報告してくれた。ジニーも参加して健闘したみたいだけど、夏休み中訓練に励んだロンが一歩抜きん出たみたい。
どうやら、チャーリーにいろいろと教わったらしい。
もうすぐ、クィディッチシーズンが始まる――――……。