第四十六話「黒幕」

 会話が聞こえ、目を覚ました。
 
「凛!」

 安堵に満ちた声。瞼を開く手間すら惜しい。早く、彼の顔が見たい。もどかしい思いをしながら、瞼を薄く開き、十分な時間を使って、光に目を慣らす。彼の顔を確認出来て、心に安堵感が広がった。
 
「すまない、凛。僕がアイツに掴まったりしたせいで、セイバーと……」
「慎二が気にする事じゃないわ。この状況を彼らに教えられただけで上出来よ」

 昨日、あの後、私達はライネスとセイバーに接触を図った。驚いた事に彼らは私の裏切りに対し怒りを向けて来なかった。元から、アーチャーの狙いに察しがついていたらしく、協力してくれたらしい。
 けれど、協定を結ぶ事は出来なかった。優先するべきものが違う以上、背中を預ける事は出来ないと言われ、反論する事が出来なかった。
 
『先の事を考えると、アーチャーをここで倒すのはあまりに軽率だし、あの少年を救う事自体は簡単だったからな。ただし、次に同じような事態に陥った場合、君達を排除する』

 彼女なりの優しさだったのか、それとも魔術師らしい合理的な考えに基づいての判断だったのかは分からないけれど、彼女は慎二を救ってくれた。それだけで十分過ぎる。
 彼女らと連携する事が出来れば、この世界の謎に挑む上で頼もしい事この上無かっただろうけど……。
 
「とりあえず、今何時かしら?」
「もう、夕暮れだ。ほぼ一日中、君は眠ってたんだ」

 慌てて飛び起きた。時計を確認すると、確かに夕方の五時を指している。今は何よりも迅速な行動が求められるのに、貴重な時間を眠りで費やしてしまった。

「落ち着くんだ、凛。今、アサシンが動いてくれてる。ルーラーと落ち合って、情報を集めているんだ」
「情報……?」
「イリヤスフィールを探している。前周回での彼女の拠点には居なかったらしいんだ」
「まだ、彼女が黒幕だと決まったわけじゃ……」
「ルーラーもそう主張してる。彼女と一緒に居て、協力関係を結んでくれたライダーのマスターもだ。彼らはイリヤスフィールを保護しようとしているんだよ」
「保護って?」
「セイバーやランサーの陣営が先に彼女を見つけてしまったら、あまり愉快な展開にならないだろうって、アサシンが。だから、先に見つけ出して、保護して、なるべく彼女を傷つけないように情報を聞きだすつもりだ」

 どうやら、私が暢気に眠っている間にも優秀な人達がそれぞれ動いてくれていたらしい。驚いたのはアサシンだ。彼はイリヤに対して慈悲を向ける理由が無い。にも関わらず、彼女の身柄を保護するべきだと率先して主張してくれた理由が分からない。
 私がその事を慎二に問うと、慎二は口元を緩ませた。
 
「アサシンは何よりも僕を尊重してくれている。だから、僕が凛の意思を尊重したいと言ったら、御覧の通りさ」
「素晴らしい相棒を手に入れたのね、慎二」
「君だって」
「うん」

 私達の相棒はどちらもとても信頼出来る人達だ。ギルガメッシュに対しては時々、何を考えているのか分からなくなる時があるけれど、彼は常に私の意志を尊重してくれる。
 
「腹は減ってる? 何か、持って来ようか?」
「ううん。平気よ、慎二。それより、他に何か情報はあるの? イリヤの事以外で」
「ある。ライネスがバーサーカーのマスターが根城にしている郊外の森に攻め入った」
「クロエの下に!?」
「どうやら、消息不明のイリヤスフィールより、拠点が判明しているクロエの方を優先したらしい」
「ど、どうなったの!?」

 聞いてから後悔した。ライネス達がクロエとバーサーカーに負けるとは思えない。バーサーカーは強力なサーヴァントだし、クロエ自身も夢幻召喚という反則技が使えるから、一方的な展開にはならないだろうけど、それでも、セイバーの強さは群を抜いている。
 今尚、ルーラー達がイリヤを探しているという事はクロエが黒幕では無いと分かったから?
 
「ライネスが撤退したよ」

 不安に駆られた私に慎二は言った。思わずガックリしてしまった。
 
「撤退? ライネスが?」
「偵察していたアサシンからの報告によると、郊外の森にはサーヴァントクラスの戦闘能力をもったホムンクルスが居たらしい。さすがのセイバーもクロエとバーサーカー、それにホムンクルスを相手にしてはライネスを守るのが難しくなって、撤退したみたいだ。多分、体勢を整えたら、また襲撃を掛けるだろうとアサシンは見てる」
「ランサー陣営はどうしてるの?」

 クロエが黒幕かどうか、未だ不明である事実に安堵しながら私は慎二に問い掛けた。
 
「どうやら、臓硯を探しているらしい。イリヤを僕らが、クロエをライネスが調査しているから、役割分担のつもりなんだと思う」
「危険過ぎないかしら。ランサーじゃあのサーヴァント達には……」
「自分の意思で捜索しているわけだし、大丈夫なんじゃないかな?」

 とにかく、大体の現状は掴めた。それにしても、体がだるい。この疲労感は一体何なんだろう。
 
「……凛、無理は駄目だ。君は僕を通じてアサシンにも魔力を送ってくれているだろう? それに、アーチャーもかなり派手に戦ったから、その分、君から魔力を奪っている。君自身が思っている以上に君は疲弊しているんだ。眠いなら、このままもう一眠りした方が良い。肝心な時に倒れたりしたらそれこそ最悪だ」

 慎二の言い分は分かる。でも、私にはやるべき事がある。
 
「慎二。協力して欲しい事があるの」
「何でも言ってくれ。君の力になれるなら、何だってやるよ」
「遠坂の魔術刻印に関する書物を探したいのよ。このままじゃ、私は単なる役立たずのままだもの。せめて、足手纏いにならずに済むよう、刻印を自分のものにしたいの」
「僕は構わないけど、そんな事、一朝一夕で出来る事なのかい?」
「刻印はそれその物が一種の|魔術書《グリモワール》なの。だから、刻印が保有する魔術の中で必要なのをピックアップして、魔力を流すだけでいいの。ただ、刻印にどんな魔術が内包されているのかが分からない」
「それを調べる為に遠坂の書物か……。分かったよ。じゃあ、それは僕が探しておく。君は大人しく寝ておくんだ」
「そんな! 私だって――――」
「君の今の仕事は休息を取る事だよ。それに、一番の役立たずは僕なんだ。君に負担ばかり強いてしまっている僕に挽回のチャンスをくれないか? 君に必要な物は僕が必ず見つけ出す。信じてくれ」
「慎二……。分かったわ」

 彼はニッコリと微笑んだ。頬が火照る。彼の命が失われる結果にならなくて、本当に良かった。
 
「慎二」
「なんだい?」
「眠る前に、キスをしてくれない?」

 一呼吸置いて、慎二は苦笑しながら私の唇を啄ばんだ。
 
「可愛いな、凛。ほんと、君の為なら僕は何だって出来る気がするよ」
「……でも、自分の命を最優先にしてよね」
「……おやすみ、凛」

 彼は私を心から愛してくれている。でも、それが凄く不安。彼は自分の命を軽んじている。前周回もこの周回でも彼は英霊召喚を行った。魔術師としての素養の無い彼がそんな事をすればどうなるか、結果は分かっていた筈だ。多分、知識だけなら私より彼の方がずっと多い筈。だって、彼はずっと屋敷にある様々な書物で魔道を学んできたのだから……。
 今になって思うと、前周回のアサシンの行動は一貫していたように思える。彼は常に私を救うと発言していた。彼は慎二を喰らった事で慎二の意思を受け継いでいたのかもしれない。死した後まで、私を気に掛けてくれたんだ。
 どうか、分かってほしい。彼の苦しみは私の苦しみ。彼の死は私の死。その事を彼は理解していない。愛してくれるなら、何よりもその事を理解して欲しい。
 唇に残る彼の唇の感触を何度も反芻しながら、私は眠りに落ちた。
 
 第四十六話「黒幕」

 再び目を覚ました時、屋敷の一階にあるリビングにルーラーとライダー、そして、フラットの姿があった。起きて来た私に気付くと、誰も気を悪くした様子を見せずに挨拶をしてくれた。暢気に寝ていた私を責める人が一人も居ない事にむしろ罪悪感を感じる。
 
「イリヤは見つかった?」
「いいえ。私の感知能力でもセイバーを探し切れず……」

 悔しそうに唇を噛んだルーラーの肩をフラットが励ますように抱いた。
 
「雲行きが怪しい感じだね。悪い方向に進まないといいんだけど……」

 フラットの言葉に頷きながら、私はアサシンを見た。
 
「何か新しい情報はある?」
「何も……。セイバー陣営もあれから動きを見せていません」
「直ぐにリベンジするかと思ったのに」
「ライネスは典型的な魔術師ですが、戦闘者としても極めて優秀な女性です。恐らく、策を練る必要があると考えたのでしょう」
「バーサーカーがそこまで強力なサーヴァントとは思えないんだけど?」

 ギルガメッシュは前周回でバーサーカーを圧倒した。彼と同等の力量を誇るセイバーがバーサーカーに後れを取るとは思えない。
 
「凛殿。その認識は改めた方がよろしいかと」

 アサシンは固い口調で言った。
 
「凛、バーサーカーは極めて強力な英霊です。恐らく、前周回でギルガメッシュが彼を圧倒したからこそのその認識なのでしょうが……」

 ルーラーは前周回での戦いを経験しているにも関わらず、アサシンと同意権らしい。
 
「そこまでなの?」
「凛、バーサーカーの正体はヘラクレスだ」

 慎二が言った。
 
「その宝具は|十二の試練《ゴッド・ハンド》。かの大英雄が為した偉業の数だけ彼には命のストックがある。その上、彼に同じ攻撃は二度通用しない。アーチャーは無数の宝具を所有しているから、十二の試練を単騎で削り切る事が出来るけど、他のサーヴァントには不可能なんだ。セイバーですらね」
「ジャンケンと同じだよ、凛ちゃん」

 凛ちゃんと呼ばれて、むず痒さを感じた。そんな風に呼ばれたのは初めてだ。落ち着かない気分になりながら、発言元であるフラットに視線を向ける。
 
「セイバーもアーチャーもバーサーカーも最強を名乗るに相応しい力を持っている。けど、この三騎にはジャンケンのような相性がある。セイバーはバーサーカーの守りを突破する事が出来ず、バーサーカーはアーチャーの無数の宝具の前では無力。けど、アーチャーもセイバーの圧倒的な戦闘力の前では苦戦を強いられる。多分、一対一で戦った場合、セイバーに軍配が上がるだろうね」

 正にジャンケンだ。グーチョキパー。三騎はいずれも相性の良い相手と悪い相手が居る。
 
「無策で飛び込めば、今度はバーサーカー一人にセイバーは苦戦を強いられるでしょう」

 ルーラーが言った。
 
「でも、バーサーカーを倒す策なんてあるの? 聞いた限り、何をどうしたって、セイバーには攻撃手段が足りてないじゃない」
「マスターを狙うのが一番手っ取り早いし、最善の策でしょう」

 アサシンは極めて冷徹に冷酷な事を口にした。サーヴァントの相手が無理なら、マスターを狙え。それが聖杯戦争の定石だと知ってはいても、身が竦む。
 
「ランサー陣営はどうなの? 臓硯は見つからないまま?」

 ルーラーが頷いた。
 
「ついさっき、一度彼らと落ち合って、情報を交換したのですが、協会や旧遠坂邸などにも足を伸ばしたそうですが、間桐臓硯の存在を確認する事が出来なかったそうです」
「そう……。これからどうするの? 何か、方針は?」
「とりあえず、アサシンには引き続きイリヤさんの捜索をお願いして、私とライダーは一度、大聖杯の洞窟に赴こうかと」
「大聖杯に!? それは……」
「危険は承知の上ですが、これはバゼットの提案です。全ての元凶たる汚染された大聖杯。臓硯の捜索を一時中断してでも、調査に向かう必要があると」
「だったら、私も――――」

 その時、訪問を知らせる鐘の音が響いた。時刻は深夜の二時過ぎ。ただの訪問客が訪れるには夜が更け過ぎている。

「どうやら、ライネスのようです」

 ルーラーが言った。裁定者の感知能力で訪問者の正体を見破ったらしい。
 
「ライネスが?」

 玄関に向かうと、そこには彼女の言う通り、ライネスの姿があった。隣にはセイバーも居る。
 
「夜分に済まないな」
「どうしたの?」
「昨日、そこの少年を助ける手助けをしてやっただろう。その借りを返してもらいに来た」
「借りを……?」
「バーサーカーを倒す為にアーチャーの力を借りたい。遺憾だが、セイバーでは奴を倒し尽くす事が出来ないからな」

 どうするべきだろう。ライネスには確かに恩がある。大きな借りだ。ここで彼女の提案を断れば、恩を仇で返す事になる。
 ギルガメッシュに視線を向ける。彼は黙ったまま壁に背を預けている。私の判断次第というわけだ。
 
「……分かったわ」
「感謝する」
「出発はいつ? これから直ぐ?」
「いや、攻め入るのは日中にしようと思う。あの森はアインツベルンが完全に支配し掌握している。視界の悪さは此方を不利にするばかりだ」
「分かった」
「では、邪魔したな。明日、またここに来る。その後に出発しよう」
「待って! どうせ、明日一緒に戦うなら、ここで一泊しない?」
「悪いが、そこまで馴れ合う気は無いよ。所詮、この異常事態に片がついたら、殺し合う仲に戻るわけだしね」
「……分かったわ」

 ライネスが去った後、私はギルガメッシュに視線を投げ掛けた。
 
「って訳だから、明日、お願いね?」
「ああ、任せろ。奴とは手合わせをしたいと思っていたところだ。大英雄・ヘラクレス。バーサーカーである事が実に惜しい相手だ」

 ギルガメッシュは愉快気に微笑んだ。頼もしい事この上無い。

「ルーラー。大聖堂の洞窟に向かうのは郊外の森に向かった後にしてもらってもいい? やっぱり、あの場所を調査するなら、戦力を整えてから向かった方が良いと思うの」
「分かりました。バゼットには私の方で連絡を入れます」
「お願い」

 ルーラーがバゼットの下に向かい、アサシンがイリヤの捜索に向かった後、私はフラットと慎二に魔術の手解きを受けながら時間を過ごした。
 慎二は私が眠っている間に見事に必要な書物を見つけ出してくれていた。その書物を二人で読み解いて、私に解説してくれる。途中、フラットが限界を迎えてライダーに膝枕をしてもらいながら眠った後も慎二は粘り強く私の勉強に付き合ってくれた。
 夜が空け、太陽が真上に来る頃には必要そうな魔術を一通りピックアップする事が出来た。と言っても、全体から見れば一分にも満たないけれど、これである程度、自分の身を守れるようになった筈。
 ライネスが来るまで仮眠を取り、彼女の訪問と共に屋敷を出た。ルーラーも戻って来て、私が屋敷を離れている間、慎二を守ると約束してくれた。
 ちなみに、フラットとライダーは私達について来た。ライネスは足手纏いになると最初、難色を示したけど、戦闘に入ったらマスターを幻馬で空に退避させる事でセイバー達の勝率を上げる事が出来る筈と言われて承諾した。
 無論、私もライネスも彼の本当の思惑を察している。彼はクロエに会いたいと思っているのだ。前にカフェで会話をした時、彼はクロエと共に在る自分の姿を幻視した。その事を彼はずっと気に掛けていた。
 午後二時過ぎ。郊外の森に到着した。真昼であるにも関わらず、木々の枝葉が陽光を遮り、森の中は薄闇が広がっている。今でも十数メートル先がまったく見えない状態。夜に来ていたら、それこそ何も見えなかった事だろう。
 森に足を一歩踏み入れた途端、痺れるような感覚が走り、どこからか見られているような奇妙な感覚に陥った。結界の中に足を踏み入れた証拠だ。
 森の中は不気味な程静かだった。鳥も獣も息を顰めているのか、それとも元々棲んでいないのか、その息遣いが聞こえてこない。長い道のりを歩き続ける。
 
「妙だな……」
「どうしたの?」

 ライネスは突然立ち止まり、周囲を見回した。
 
「もう二時間も歩いている。前は一時間歩いた所で迎え撃ちに現れたのだが……」
「まさか、逃げた?」
「……その可能性もあるな。気付いたか? 監視の目が失せている。セイバーだけでなく、アーチャーまでが現れた事に恐れを為したか……」
「なら、どうするの?」
「一応、奴の根城に向かおう。何か、情報を得られるかもしれない」
「分かった」

 それから十分程歩いた所で、木々の隙間から奇妙な建造物が見えた。信じられない光景が広がっている。森を抜けた先の円形の広場に巨大な城が佇んでいた。ドイツのノイバンシュタイン城に似た立派な古城。日本にはあまりにも似つかわしくない建物だ。
 
「ここね……。じゃあ、行きましょう……。ライネス?」

 ライネスは険しい表情を浮かべ、古城を見上げている。まるで、敵と対峙しているかのような緊張感を帯びている。
 
「居る」
「クロエが?」
「恐らくな。だが、奴だけじゃない」
「それって……」
「行くぞ、セイバー。私を抱えて跳んでくれ。あの窓から侵入する」

 ライネスが指示を飛ばすと、直ぐにセイバーは行動に移った。ライネスを抱え、二階の窓を蹴り破り、中に入って行く。私も慌ててギルガメッシュに指示を出した。ギルガメッシュに抱えられ、二階の窓から中に入ると、中の内装の豪華さに目を奪われるより先に城内の異常に気を奪われた。
 戦いの音が鳴り響いている。誰かが戦っている。でも、誰が? セイバーとアーチャー、それにライダーはここに居る。アサシンとルーラーは屋敷に残っているし、ランサーも落ち合うまでは柳洞寺の周辺を調査する予定らしいとルーラーに聞いた。
 一方はバーサーカーだろう。ここはクロエの城なのだから、戦闘が起きるとすれば、それは彼女達が敵を迎撃する時のみ。
 
「行くぞ」

 ライネスが走り出す。その後をセイバーが追う。私も慌てて彼女についていく。
 不慣れな城を駆け抜ける。ライネスは只管音の場所に向かって足を動かす。
 
「よし、あそこから吹き抜けに出られるぞ」

 廊下はTの字に分かれている。それぞれ、城の中央にある広間のテラスに続いているらしい。
 
「二手に別れるより、固まっていた方がいいだろう。行くぞ!」
「うん!」

 廊下を進む。テラスに出た。
 
「ちょっと待て、アレは……」

 ライネスの目が見開かれる。直ぐ横で彼女が何かを口ずさんでいるけれど、まったく耳に入って来ない。私の目と耳は目の前に広がる光景に集中している。
 信じられない光景。信じたくない光景。
 
「嘘よ――――」

 戦っているのは二騎のサーヴァント。一方は黒い巨人、バーサーカー。もう一方は――――、
 
「イリヤ……」

 まるで、綺礼や臓硯が率いていたサーヴァント達のように黒い光を帯びた|セイバー《モードレッド》。そして、彼女の後ろには優しい笑顔が印象的だった少女。私を救うと本気で口にした愚か者。イリヤスフィールの姿。

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