第二十五話「戦闘激化」

 地上より放たれし赤雷をアーチャーは難なく回避した。彼が操る黄金の船、|天翔る王の御座《ヴィマーナ》は物理法則に縛られず、担い手の思考と同じ速度で天を駆ける事が出来る。地上の脅威を逸早く察知したアーチャーにとって、赤雷を躱す事は容易だった。
 だが、真紅の極光を伴う斬撃の余波を受け、ヴィマーナの挙動が一瞬アーチャーの思考を離れた、その刹那――――、|脅威《・・》はやって来た。
 
「|熾天覆う七つの円環《ロー・アイアス》!!」

 脅威に対し、アーチャーが選んだ守りはアイアスの盾。花弁が花開くと同時に地上より差し迫る脅威がその正体を顕にした。
 ソレは奇怪な形状の剣だった。切り裂くには不向きな、むしろ、突き抉る事に特化した螺旋状の刃を持つ美しい剣。
 刃と盾の激突と同時にヴィマーナの船体が大きく揺らいだ。一枚一枚が城壁並みの防御力を誇る花弁が散っていく。残す花弁は四枚。投擲武器に対し無敵の概念を持つ盾がただの一撃で半壊していく。
 
「……これは」

 アーチャーの表情に僅かに焦燥の色が浮かぶ。彼が脅威と感じたのはこの剣自体では無かった。むしろ、|この程度《・・・・》の宝具がアイアスを半壊させるなどあり得ない。
 確かに、優秀な宝具ではある。だが、コレは投擲武器として扱う物ではなく、まして、投擲した際に特別な効力を発揮する類の代物でも無い。
 にも関わらず、この宝具がアイアスを半壊させた理由はただ一つ。

「……これが貴様の真の力か」

 アーチャーが見下ろす先に男は立っていた。
 ファーガスと名乗る謎の英霊。否、アーチャーはとうの昔に彼の正体を暴いている。だが、ファーガスの力はアーチャーの予測を遥かに超えていた。
 
「だが、終いだ」

 直線距離にして約三千メートル。それも常に動き回る標的に対して、アイアスを半壊する程の威力の投擲を行った彼の技量と怪力は全くもって見事。並みの英雄に真似出来る仕業ではない。
 だが、そこまでだ。ファーガスが放った剣にゲイ・ボルグのような追尾機能は無い。アイアスを完全に打ち破れなかった以上、後は地に墜ち行くのみ。
 天上に浮かぶ船の上のアーチャーに対し、これ以上、ファーガスに出来る事など何一つ無い。アーチャーは蔵より無数の刀剣を取り出し、ファーガスに狙いを定めた。

「――――失せろ」

 刀剣が打ち出される――――その刹那、光が爆発した。音は聞こえるより前に耳の機能を破壊した。アイアスは崩壊し、アーチャーは咄嗟にマスターである桜を庇い、鎖と紐によって拘束されていたルーラーとライダーは船から弾き出され、奈落へと落ちていく。
 何が起きたのか、咄嗟に理解出来た者は一人も居ない。桜はアーチャーの鎧にしがみ付き、アーチャーは忌々しげに舌を打つ。
 ルーラーとライダーは勢い良く地面に向かって落下する途中、間一髪、ヒッポグリフによって救出された。

「……|壊れた幻想《ブロークン・ファンタズム》」

 ヒッポグリフの爪に掴まれた状態でルーラーはどうにか状況を整理した。
 今起きた現象は紛れも無く、|壊れた幻想《ブロークン・ファンタズム》。宝具の中に眠る莫大な魔力を爆発させる禁断の技。
 サーヴァントはこの技を一度限りの必殺技として使う事が出来る。だが、実際に使う者は殆ど居ない。
 そもそも、宝具とは英霊にとっての象徴であり、生前共にあり続けた半身でもある。それを破壊する事は即ち、己の身を引き裂くも同然なのだ。加えて、一度|壊れた幻想《ブロークン・ファンタズム》によって壊れた宝具は直ぐには修復出来ない。それはつまり、使用後、使用者は切り札の無い状態で戦いを続行しなければならないという事。
 サーヴァントとして、正気の沙汰とは思えない行為をファーガスは行ったのだ
 
――――さあ、仕上げだ。

 常軌を逸した行動を取ったファーガス。けれど、それすらも彼の真の狙いの布石に過ぎない。赤雷も、アイアスを半壊させた投擲も、壊れた幻想すらも単なる布石。
 本命の一撃はその直後にヴィマーナを襲った。
 それは一本の剣だった。真紅の輝きを放つ魔剣。投擲に使われたなどという伝承の存在しない剣が投擲によってアーチャーの船の船底を穿った。

「……船を捨てる。我にしがみ付いていろ、小娘」

 アーチャーの顔を彩るのは屈辱の色。桜の体を強引に引き寄せ、機能が停止したヴィマーナを捨てた。
 
「虚船よ……」

 ヴィマーナはアーチャーの保有する騎乗宝具の中でも特に移動能力に優れた宝具だった。
 だが、別にそれ以外の宝具を保有していないというわけではない。彼は人類最古の英雄王。この世の全ての財宝を手にした王である。
 彼が蔵より取り出したのは東洋に伝わる神の船。まるでフリスビーのような円盤状の船にアーチャーは降り立った――――、

「貴様ッ!!」

 直後、再び真紅の輝きを灯す剣がアーチャーの船を貫いた。盾を展開する隙など与えぬとばかりの速攻。
 アーチャーが船を蔵から取り出し、その上に足を乗せる。その刹那にファーガスは剣を投擲し、命中させた。
 再び、アーチャーは船を捨てる。
 まだある。空を往く船は他にも幾らでもある。だが、何を出しても奴に破壊される。
 一瞬の迷い。時間にして一秒にも満たない迷いが状況を動かした。

「貴様ら――――ッ!!」

 ファーガスの狙いがアーチャー自身へとシフトした。それと同時に動き出した存在があった。

――――その心臓、貰い受ける!!

 ランサーのサーヴァントが既に宝具の発動体勢に入っていた。
 地上から二つの脅威が迫る。この落下状態では盾の宝具を展開する事が出来ない。新たな船を出し、それから盾を展開していては間に合わない。
 万事休す。心臓破りの魔槍と真紅の極光を放つ魔剣が放たれる――――その寸前、アーチャーは己の鎧を解除し、桜に着せた。

「アーチャー……?」
「口を閉じていろ」

 アーチャーの選んだ選択は地上への加速。地上まで六百メートル。その距離をゼロにする。
 着陸する為の減速を一切せず、アーチャーは地面に向かって可能な限り加速した。
 激突の衝撃は凄まじく、落下位置にあった民家は崩壊した。桜はアーチャーの鎧によって護られたが、アーチャー自身は無傷とはいかなかった。
 全身から血を流し、苦悶の表情を歪める彼に桜は衝撃を受けた。傲慢不遜の王。絶対無敵の大英雄。そんな彼が己の命を優先し、負傷している。そのあまりにも現実離れした光景に桜は言葉を失っている。
 けれど、彼らに休む暇は与えられない。まだ、彼らを襲う脅威が晴れたわけでは無いのだから――――。

「ッハ!!」

 襲い掛かる真紅の魔槍と紅光の魔剣。アーチャーは傷だらけにも関わらず、間一髪のところで盾の展開を為した。
 桜が心配そうに彼を見つめると、彼は自嘲の笑みを浮かべた。

「……何という様だ、この我が。こんな、小娘に心配なんぞされるとはな……」

 振り返れば敗北続きだ。ランサー陣営に破れ、バーサーカー陣営から逃走し、今また、ランサーとファーガスに追い詰められている。
 人類最古の英雄王が聞いて呆れる。アーチャーは口元に笑みを浮かべた。

「あ、アーチャー?」
「中々に愉快だ」

 二つの脅威は未だアーチャーの盾を破壊しようと暴れている。にも関わらず、彼は実に愉しそうに笑った。

「これで隠れていろ」

 アーチャーは桜の鎧の上に更に大きな布を被せた。すると、桜の姿がどこにも映らなくなった。姿を晦ませる宝具の原典。その布に包まっている間、姿はおろか、臭いも気配も音すらも掻き消える。
 使用者に高ランクの気配遮断スキルを与える宝具である。
 アーチャーは桜に離れていろと命じ、二つの盾に手を伸ばした。
 
「なるほど、この戦い自体は悪くない。宝を求め、凡百な雑種共が英雄王たる我に並ぶ武勇を見せる。実に、良い!!」

 盾が二つの脅威を押し返した。それと同時に迫る存在をアーチャーは感じた。
 アーチャーは蔵より黄金の双剣を取り出し迎え撃つ。姿を現したのはファーガス。もはや、遠慮は不要とばかりに剣を振り落とし、アーチャーを吹き飛ばした。
 ファーガスの斬撃はそれだけに留まらず、コンクリートの地面を引き裂き、底の見えない溝を作り出した。評価規格外の怪力。それこそがファーガスの真の力。

「――――認めよう。貴様は我が本気を出すに足る英雄だ、ファーガス。いや――――」

 アーチャーは|王の財宝《ゲート・オブ・バビロン》を最大限に展開し、乖離剣を手に取った。
 傷だらけの体は傍目から見れば死に体にしか見えない。されど、彼は絶対的な強者としてそこに立ちはだかっている。
 ファーガスは己の魔剣を構えながら獰猛な笑みを浮かべた。

「――――勇者王・ベオウルフよ」

第二十五話「戦闘激化」

 死んだ。大切な人が死んだ。大切な相棒が死んだ。大切な友達が死んだ。
 皆が私を残して死んでいく。どうして、こんな事になったんだろう。私はただ、皆と一緒に居たかっただけなのに……。
 暗闇が広がる。誰かが囁き掛けて来る。誰だろう。耳を澄ましてみる。知らない声。何を言っているのかよく聞き取れない。

――――死ね。

 さっきまで、誰も居なかった暗闇にパパとママが現れた。声を掛けようとしても声が出ない。
 必死に手を振ろうとして、手が無い事に気が付いた。

――――死ね。
 
 ママの腕が奇妙に折れ曲がった。明らかに曲がってはいけない方向に曲がっている。にも関わらず、ママは笑っている。
 今度は足に穴が空いた。まるで、槍で貫いたような細くて丸い穴。そこから血が止め処なく溢れ出している。なのに、ママは笑っている。
 目玉が落ちた。空虚な穴が穿たれ、そこから涙のように血が流れ落ちる。でも、ママは笑っている。
 心臓のあるべき場所に穴が空いた。ママの姿が消えた。残されたパパは微笑んでいる。微笑んだまま、首が地面に落ちていく。

『ヤメテ』

――――死ね。

 パパも姿を消し、今度はクロエが現れた。クロエは微笑んでいる。
 クロエの腕が捻じ切れた。まるで、雑巾を絞って、勢いあまって破ってしまったみたいな跡が残っている。クロエは微笑んでいる。
 今度は反対の腕が捻じ切れた。足が捻じ切れた。なのに、クロエは微笑んでいる。
 クロエの体が血に染まる。傷口を見て、怖気が奔る。まるで、噛み千切ったみたいな形の傷。それも人間の口くらいの大きさの傷。
 傷が少しずつ大きくなっていく。内臓が露出し、そこにも噛み傷が出来る。
 喰われていく。クロエが姿無き存在に喰われていく。まるで、食卓に並ぶ肉塊の如く、喰われていく。だけど、クロエは微笑んでいる。

『ヤメテ』

――――死ね。

 クロエの体が完全に喰い尽されると、今度はセイバーが立っていた。
 セイバーだけじゃない。バーサーカーの姿もある。向かい合って、剣を構え合っている。
 二人は互いを斬りつけ、姿を消した。

『ヤメテ』

――――死ね。

 ライダーが立っている。微笑んでいる。
 嫌だ。もう、嫌だ。もう、見たくない。
 目を閉じようとして、誰かに無理矢理開かれた。
 ライダーの腕が肩から切り離された。全身に穴が空く。まるで、剣で刺されたような傷。
 
『ヤメロ』

 ライダーの髪飾りが飛ぶ。血だらけになりながら、ライダーは微笑んでいる。
 心臓に穴が穿たれた。ライダーは微笑んだまま、姿を消した。

――――死ね。

 知らない男が居る。男は満足そうな笑みを浮かべながら私を見ている。
 男はセイバーの首を持っている。

『ヤメロ!!』

 男はセイバーの首を踏み潰した。
 男はパパとママの首を両手に持った。

『ヤメテ!!』

 パパとママの首同士をぶつける。まるで玩具で遊ぶかのように……。
 男はクロエの首を持ち上げた。高々と放り投げられたクロエの首は放物線を描いて地面に落ちる。
 
――――嫌なら、殺せ。

 殺す。殺さなきゃ駄目だ。あんな酷い事をする人は殺さないといけない。
 殺す手段は私の手の中にある。男がいる。私の大切な人達の首を弄んだ男がたくさん。

「――――殺さなきゃ」

 最初に異常に気が付いたのはライダーのマスター、フラット・エスカルドスだった。
 夢幻召喚という人の身に過ぎた大魔術の代償だろう。イリヤは意識を失い倒れ伏した。慌てて駆け寄り、呼吸と脈を確認し安堵した。
 
「生きてる……」

 常識離れした現象を目の当たりにした彼はそれでも冷静だった。
 冷静にあの力の危険性を理解した。英霊を憑依させる事は悪魔憑依など比較にならない程危険な行為だ。薄い色の水に濃い色の水を混ぜれば色は濃くなる。当たり前の事だ。
 今、イリヤの体は英霊の力に汚染されている。一刻も早く処置をしないと命に関わるだろう。

「今、イリヤちゃんに手を出そうってんなら俺が相手になるッスよ?」

 バゼットの動く気配を感じ、フラットは顔も向けずに言い放った。

「……フラット・エスカルドス。エスカルドス家の神童にして、魔術協会きっての問題児。軽薄な外面に対して、その実力は本物らしい」
「試してみる?」
「いいえ。負ける可能性は万に一つもありませんが、今は共闘関係にある。不義理な真似をするつもりはありませんよ。彼女との戦いは次回に持ち越します」

 フラットは安堵した。彼女と戦うとなれば、まず間違いなく己は死ぬ。そして、イリヤも殺される。
 封印指定の執行者の名は伊達ではない。研究肌の人間が多い魔術世界において、限り無く戦闘に特化した存在。恐らく、低ランクの英霊相手ならばサーヴァント無しでも勝ち星を得られるだろう程の怪物。今、ランサーは上空の戦いに起きた変化に対応する為、単独行動に出ているが、それでも勝てる気がしない。
 
「まあ、次に会った時はマスターとしてだけでなく、封印指定の執行者としても彼女の前に立たねばならないでしょうけど……」

 息を呑んだ。彼女の言う事はつまり、イリヤの能力は封印指定に認定されるレベルの魔術という事。
 
「きょ、共闘関係を結んだ縁で黙っててもらうって訳には……」
「いきませんね。あくまで、これは一時的な同盟。今宵を過ぎれば無に帰すもの。もし、彼女の事を外に洩らされたくなければ、私を打ち倒してみせなさい、ライダーのマスター」
「……ッハハ」

 フラットは乾いた笑みを浮かべた。
 参った。ただ、英雄と友達になりたいと思って参加しただけの聖杯戦争だったのに、戦う理由が出来てしまった。
 横たわるイリヤを見つめていると、覚悟も決まってしまった。

「じゃあ、戦いますよ」
「ほう……」
「女の子の秘密は守られるべきだ。無闇に暴露するなんて、ナンセンスだよ」

 軽口を叩きながら、フラットは立ち上がり、真っ直ぐに拳をバゼットへ向けた。
 対するバゼットは微笑んだ。

「なるほど、ランサーが心を許したのも分かる気がしますね」
「え?」
「実に真っ直ぐな少年だ。行動原理が分かり易いし、好感が持てる。だから――――」

 バゼットは不意にフラットの目の前に迫った。
 殺される。そう思った直後、フラットはバゼットに腕を引かれ、地面に転がされた。
 
「最初に言った忠告をちゃんと守りなさい」

 気が付くと、バゼットがイリヤと向かい合っていた。
 イリヤの様子がおかしい。虚ろな顔で陰陽剣を構えている。

「――――殺さなきゃ」

 不吉な言葉を口にした途端、イリヤは肌が粟立つ程の殺気を放った。
 最初に動いたのはイリヤだった。陰剣を振り上げ、バゼットに迫る。

「――――甘いッ」

 英霊に比肩する疾さで放たれた斬撃をバゼットは軽々と避け、拳を彼女の腹部に叩き込んだ。

「なっ!」

 驚きの声はバゼットのもの。バゼットの拳が抉ったのは彼女の腹では無く、彼女の陽剣だった。
 軋みを上げながらも陽剣は健在。バゼットの拳の勢いを利用し、イリヤは一気に距離を取り、陰陽剣を投擲する。
 弾丸の如く打ち出された双剣をバゼットは拳で弾き返し、イリヤを追った。拳が振るわれる。イリヤは双剣を盾に防ごうとするが、バゼットの放つ拳の手数は尋常では無い。
 イリヤは防ぐ事を止め、バゼットの拳を双剣で逸らした。刹那の間に距離を空け、追いつかれないように投影した身の丈程もある剣を地面に降らせる。鏡の如く美しい刃を持つ剣の壁はされど、彼女の前では無力。瞬く間に砕かれ、壁としての役割を終える。
 その間は一秒にも満たない。けれど、その一瞬でイリヤは次なる手を打っていた。
 必殺の威力を伴う矢がバゼットに向かい一直線に飛来する。

「その程度の矢では、私には届きませんよ」

 最速で放たれた矢の数は四。その全てをバゼットはあろう事か掴み取り、そのままイリヤに向かって投げ放った。
 ギリギリで回避したイリヤにバゼットが距離を詰める。
 怪物。その戦いに圧倒され、尻餅をついたフラットの出した感想がソレだ。バゼット・フラガ・マクレミッツ。予想以上の怪物振り。
 神代の宝具を現代に伝えるフラガの末裔。封印指定の執行者。紛れも無く、今を生きる人類の中でも最強クラスにカテゴライズされる存在。
 戦うと決意したばかりだと言うのに、フラットは動く事が出来なかった。イリヤを守らなければという感情とは裏腹に体が言う事を聞かない。あの戦いに足を踏み入れれば死ぬ。その事を理性よりも強く本能が理解したが故の状況。

「ックソ……、イリヤちゃん」

 動けと命じても動かない体。悔しさに涙が溢れ出しそうになった時、上空から不思議な物体が落ちてきた。

「ふぎゃっ!」
「むぎゅっ」

 簀巻き……?

「って、ライダー!? それに、ルーラー!?」

 それは布で縛られたライダーと鎖で縛られたルーラーだった。

「ど、どうしたの二人共!? ちょっと、エッチだよ!?」
「エッチ!?」
「ちょっ!?」

 布と鎖の縛り具合が実に絶妙で、殺伐とした戦場が目前で繰り広げられているにも関わらず、フラットは鼻の下を伸ばした。
 仕方が無い。フラットは男の子なのだ。美少女二人があられもない姿を晒していて、劣情を催すのを誰が責められようか……。

「いいから解いてよ、フラット!!」
「変な目で見ないで下さい!!」

 セクハラ被害を受けた当の二人は顔を真っ赤にしながら叫んだ。

「あ、はいはい」

 とりあえず解放してあげようと手を伸ばすが、どちらも英雄王が蔵より取り出した至高の宝具。
 人間の身でどうにか出来るモノでは無い。

「うん。これは無理だね」

 ツンツンとライダーを縛る布をつつきながらフラットはあっさりと諦めた。

「ちょっと!?」
「諦めないで下さい!!」

 二人が喚き立てる中、フラットは思った。

――――そんな事よりイリヤちゃんを助けないと。

「ヒッポグリフ。とりあえず、二人の事をたの――――」

 言いかけて、フラットは二人を抱えると、走り出した。
 イリヤを助けたい。だけど、その前に無防備なライダーとルーラーを避難させる必要がある。背後に脅威の存在を感じ取り、フラットは即座に決断を下した。

「ヒッポグリフ!!」

 フラットの叫びに応えるようにヒッポグリフがフラットの隣を並走しだした。
 フラットは全身を魔力で強化しながら二人を抱えた状態で跳び上がり、ヒッポグリフの背中に乗った。
 幻馬が飛翔すると同時に山門が粉砕し、その向こうからバーサーカーが姿を現した。その手には彼のマスターの姿があり、その背後から更にセイバーとランサーが続く。

「バーサーカー!! アンタはセイバーとランサーを潰しなさい!!」

 まるで、イリヤのように強大な力を纏うクロエの姿にフラットは目を見開いた。バーサーカーが背後から迫る二騎の英霊を迎え撃つと同時にクロエはバゼットとイリヤの下に向かい、その剣をバゼット目掛けて振り落とした。

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