第四話「二つ目の杖」

第四話「二つ目の杖」

 開心術を受けた後の事は覚えていなかった。何が起きたのか、誰も教えてくれない。

「すまない。頭を整理する時間が欲しい」

 そう言って、アルは何も教えてくれない。他の皆も話すのを躊躇うみたいに顔を背ける。俺が意識を失った後、俺の中の【絶望】が表に現れたのは間違い無いみたい。
 分かるのは、思った以上に俺の中に居る絶望が厄介な存在って事だけ。みんなが口を閉ざす俺の中の絶望って、一体どんな奴なんだろう。

「ユーリィ」

 声の方に振り返ると、ダンブルドアの憂いを秘めた瞳があった。

「お主の中に居ったのは想像以上に恐ろしく、されど哀れな魂じゃった」
「哀れ……?」

 アルは怪訝な表情を浮かべた。

「奴のどこに哀れみを感じろって言うんだ?」

 訳が分からない。アルの表情はそう語っている。
 アルとダンブルドアの間には俺の中の絶望に対して認識に齟齬があるみたい。
 ダンブルドアは絶望に対して、恐怖と同時に悲哀を感じたみたいだけど、アルはそうじゃないみたいだ。

「アルは俺の中の絶望をどう思ったの……?」
「危険だ」

 即答だった。

「奴の考え方はとても危険だ。それに……」

 それに……、何だろう。アルは言葉を途中で切って、黙ってしまった。
 彼が何を思っているのか、俺には分からない。それが、凄く焦れったい。

「お主はジャスパーの事を誰よりも理解出来ている筈じゃ」
「……理解なんて、出来る筈が無い」

 ダンブルドアの視線から逃げるようにアルは顔を背けた。それはダンブルドアの言葉を認めている証に他ならない。
 ジャスパーが誰かなんて、馬鹿な質問はしない。この話の流れからして、俺の中の絶望の事を指しているのは間違い無い。分からないのは、その名前は一体どこから来たのかって事。

「先生。ジャスパーっていうのは、俺の中の絶望の事ですか?」
「然様。彼には明確な人格があり、ソフィーヤとジェイコブに【名付け】を望んだんじゃ。己も二人の息子である。そう主張してのう」

 なるほど……。どんな話の流れがあったのかは想像も出来ないけど、少なくともジャスパーはママとパパの事を愛しているみたい。だって、そうじゃなかったら二人に名前を付けてもらう、なんて発想には至らない。そう思うと、俺の中に入る魂の同居人の事が少し可愛く感じる。
 ジャスパー。碧玉という意味のとても綺麗な名前。とても不思議な気分。
 今まで、超高校級の人殺しや絶望という言葉で表現していた彼の存在が名前を得た事で明確な輪郭を手に入れた。
 まるで、兄弟を得たみたいだ。アルに言ったら、【馬鹿を言うな】って、怒られてしまうだろうけど、俺の中でジャスパーに対する認識は大きく変容してしまった。
 もう、会う事は出来ないけど、俺には昔、妹が居た。冴島瑠璃。いつの頃からか、話し掛けても無視するようになってしまったから、ルリがどんな子なのか、兄妹なのに分からなかった。もっと、たくさん話したかった。もっと、たくさん一緒に遊びたかった。もう、叶わない願い……。
 話がしたい。彼に明確な人格があるというなら、彼の言葉を聞いてみたい。二重人格という設定のアニメやドラマだと、よく【もう一人の自分】と会話をしているシーンがある。例えば、昔のドラマだと【銀狼怪奇ファイル】の不破耕助と彼のもう一つの頭脳、不破銀狼。アニメなら【遊戯王】の武藤遊戯と千年パズルに宿るエジプトのファラオの魂であるアテム。
 彼らのように俺もジャスパーと会話が出来ないだろうか? 試しに心の中で呼び掛けてみても、反応は何も返って来ない。ちょっと、ガッカリ。

「……アルフォンス。お主と彼……ジャスパーはとても似ておる」

 ダンブルドアの言葉にアルの声は明らかに動揺していた。

「似ているってのは、どういう意味だ?」
「それは、お主自身が分かっておる事じゃろう?」
「分からないから聞いてるんだ!!」

 どうしたと言うの? ダンブルドアとアルの意見にはすれ違いがあるみたい。ダンブルドアの意見では、アルはジャスパーにある種の共感を覚えていると言う。だけど、アルはソレを頑なに認めない。
 ジャスパーとアル。ダンブルドアの語る、二人の共通点とは一体何の事だろう。
 でも、のんびり気にしてもいられない。アルは今にも爆発しそうな程、ダンブルドアに怒りを向けている。何がそんなに気に入らないのか分からないけど、まずは彼を落ち着かせないと……。

「アル」

 ダンブルドアとアルの間に割って入る形でアルと対面した。アルはあからさまに狼狽した。どうして?
 アルの燃えるような瞳を見上げるようにして覗き込むと、徐々に彼は落ち着きを取り戻した。興奮が消えて、穏やかになっていく。

「……すみません、先生。でも、俺は……」

 抑えた丁寧な口調。自らの行いを悔いているのが顔を見れば分かる。
 
「彼の人格を省みれば、認めるには時間が掛かるじゃろう。じゃが、いずれは認めねばならん。さもなくば、お主はジャスパーと同じ道を辿るじゃろう」
「なん……だと……?」

 ジャスパーと同じ道を辿る。俺は失念していた事を思い出した。
 ジャスパーは超高校級の人殺しだという事。つまり、彼は人を殺している。
 アルが認めたがらないのも当たり前だ。自分が人殺しと似ている、なんて言われて、アッサリと認められる人なんて居るわけがない。
 兄弟みたいだなんて、馬鹿な事を思ってしまった。ジャスパーはあくまでも殺人鬼なんだ。それを忘れてはいけない。

「俺が……、ジャスパーと同じ道を辿るだって……?」
「然様。あの予言の中の一節……【その者の死は新たなる絶望の呼び水となるであろう】という一文。新たなる絶望とはお主の事じゃろう」
「……違う」

 アルは苛立った声で言った。

「俺はあんな奴とは違う」
「お主は既に気付いておる筈じゃ。彼の者と己の共通点に」
「共通点だと……?」
「己自身を今一度見つめ直し、自身の手で答えを出しなさい。回りくどいと思うかもしれぬが、必要な事じゃ」

 アルとジャスパーの共通点。一体、何の事を言っているんだろう。
 少なくとも、俺にはアルが殺人鬼と似ている要素なんて見当たらない。
 心優しいアルが人を殺すなんて在り得ないし、在ってはならない。

「さて、ユーリィ。お主にはこれから【閉心術】の訓練を受けて貰おうと思う」
「閉心術をですか……?」

 あまりに唐突で意味が分からない。どうして、急に俺が閉心術の訓練を受けないといけないんだろう。
 ハリーが受けるなら分かるけど……。

「ジャスパーを封じ込めるためじゃ」

 まるで、俺の心を見透かしたみたいにダンブルドアは言った。
 ジャスパーを封じ込めるためって、一体どういう事?

「ジャスパーはおぬしの魂に寄生しておる。取り除く事は不可能じゃろう。されど、封じ込める事は出来る。本来は外部からの精神干渉を防ぐための術じゃが、今回は逆に内部からの精神干渉を防ぐために閉心術を使う。通常の閉心術よりも更に高度な技術を要求される故、修得には時間が掛かるじゃろう。ハリーにも閉心術を修得してもらう予定じゃから、学校が再開したら君達にはスネイプ先生の個人レッスンを受けて貰う」

 封じ込める。それが正しい事なのか、俺には分からなかった。
 俺はもう逃げる事を止めようと誓った。
 ジャスパーを心の奥底に封じ込める事は逃げるという事じゃないだろうか?
 分からないまま、俺は悶々と時を過ごした。

 不死鳥の騎士団と闇祓い局の合同組織・【不死鳥の連合】が発足した日からしばらく経った。
 ホグワーツがもう直ぐ再開するから、アルの杖を買いに俺達はダイアゴン横丁に来ていた。
 アルの杖が無くなった訳を聞いた時、俺は卒倒してしまった。アルが死に掛けた。その事を教えて貰ったのは昨日の事だった。
 半身は炭化する程の重度な火傷。全身の骨折。もしも、ダンブルドアが直ぐに彼を見つけてくれていなかったら……そう考えると、怖くて仕方が無い。
 バーテミウスの言葉はあながち嘘というわけでもなかった。彼の視点からすれば、アルは死んでいた筈なんだ。こうして、一緒に歩く事も二度と出来なかったかもしれない。

「……また泣くし」

 溜息を吐かれた。困らせたいわけじゃないのに、どうしても自分の感情を抑え切れない。アルを失う事は身を切られる以上の痛みを齎す。もしも、アルを失ったら、俺はきっと、もう戻れないだろう。

「俺は生きてるってのに……」
「そういう問題じゃ無いだろ」

 ハリーは呆れた様子でアルを見てる。不服そうに顔を顰めるアルにやれやれといった感じで肩を竦める。
 警備の都合やダーズリー家との複雑な関係もあって、ハリーはホグワーツが閉鎖になった時から家に居候している。今日も、アルの杖購入に同伴している。ついでに羊皮紙や魔法薬の材料の補充もするつもり。
 ホグワーツの再開は四月からだ。七月には学期が終わってしまうから、僅か二ヶ月ちょっとしか無いから買い過ぎないようにしなきゃ。
 そして、実はもう一人同伴者が居る。

「アルってば、自分の事となると大雑把よね」

 ハーマイオニーも随分前から家に来ている。
 表向きは一緒に課題をこなす為。実際はハリーが気になるから。
 あの不死鳥の連合の会議の後、ハーマイオニーとハリーは正式に恋人同士になった。ハーマイオニーは当初、ハリーが応えてくれるとは思っていなかったらしくて、会議の後直ぐにハリーが思いを告げると、その場で泣き崩れてしまったそうだ。ちなみに、俺達はその頃丁度、ジャスパーの話をしていた。
 二人は仲良く手を繋ぎ会ってる。ちょっと、羨ましい。恋人が居るって素敵な事だと思う。その証拠にハーマイオニーもハリーも実に幸せそう。
 予言の話や俺の語る未来の話を聞いて、待ち受ける残酷な運命に打ちのめされても仕方無いのに、ハリーは真っ直ぐに前を見つめている。その強さが羨ましい。でも、きっと、その強さを支えているのはハーマイオニーの愛なんだ。だから、俺は二人の関係を心から祝福している。願わくば、二人が永遠を共にして欲しい。
 
「ちょっとはユーリィの気持ちを汲んであげなきゃ、嫌われちゃうかもしれないわよ?」

 ハーマイオニーもハリーも俺の話を聞いても俺に対する態度を変えなかった。二人共、俺に前世の記憶がある事に特に関心は無いみたい。さすがに最初はちょっと混乱していて、年上相手なら敬語を使うべきかしら? なんて言うハーマイオニーに対して丁重にお断り申し上げた。
 シーカーになれたかもしれない事をハリーは全く気にしていないみたいだった。

『むしろ、そんな経緯でなるより、自分の実力でシーカーを勝ち取りたいな。ユーリィの話の通りにシーカーになったとしたら、ちょっとずるい気がするし』

 そう言って、『優勝杯を君に捧げるから』、とハーマイオニーに熱い眼差しを向け始めるハリーに俺は『あ、うん。ありがとう』と言い残して立ち去るしかなかった。
 愛というのは人を変えるらしい。純情そのものだったハリーが歯の浮くような台詞を平気で口にする姿に衝撃を受けたのは俺だけじゃない。
 アルなどは気持ち悪そうにハリーを見る時がある。対して、ハーマイオニーはハリーの傍に居る時だけ、脳内から明晰さが消え去り、変わりにお花畑が展開する。
 
「アルも私達みたいにユーリィと手を繋げばいいのよ。そしたら、ユーリィの不安も吹っ飛ぶと思うわ」
「いや、お前等と一緒にするなって……」

 アルは二人に少し苛々してるみたい。

「ほらほら、オリバンダーのお店が見えて来たわよ」

 少し前を歩いていたソーニャとマチルダが振り返った。今日はトンクスやエメリーンも一緒に居る。
 オリバンダーの店に入ると、久しぶりに見たオリバンダー老は前と変わらない様子で元気にしていた。だけど、アルの杖消失の一報を聞くと、穏やかな笑みを顰め、顔を顰めた。

「命を取りとめたのは幸いでしたな。じゃが、本来は一生を共にする杖を失う事はとても辛い事じゃったろう。新しい杖は前の杖とはやはり別物じゃ。違和感が付き纏うやも知れぬ。じゃが、お主にピッタリの杖を再び選んであげよう。少し、待っていなさい」

 オリバンダー老は前に来た時とは違い、確信を持った表情で一本の杖を運んで来た。

「樫にドラゴンの心臓の琴線。以前、お主に渡した杖と同じ材質じゃ」

 アルが杖を握った途端、杖から強い光が溢れ出した。

「その杖に使用したドラゴンの心臓の琴線はとても特別な種の物じゃ。種とは言ったが、個体数はこの心臓の琴線の持ち主たる唯一頭のみ。突然変異なのか、はたまた群れから逸れただけで生息地が確認出来て居らぬ種なだけなのかは分からぬ。ただ、とてつもない力を有しておった。お主ならばもしやと思ったが……」

 何だか、とても凄い杖みたい。正直、よく分からないんだけど……。

「そのドラゴンって……?」

 ハーマイオニーが問い掛けると、オリバンダー老は謎めいた表情を浮かべた。

「名は無い。遥か古の時代に今で言うデンマークを治めて居った王が打ち倒したという恐ろしき力を持ったドラゴンだそうじゃ。何しろ、伝承があまりにも古い物でな。あまり詳しい事は分からんのじゃ。強力な守護に護られ、保管されておったそのドラゴンの心臓の琴線をわしの先祖が杖の材料としたんじゃよ。正にマスターピースというに相応しい出来栄えじゃった。じゃが、何しろ人の好みに煩い杖でのう」
「そんな強力な杖に認められるなんて、凄いじゃない!」

 ハーマイオニーの賞賛の声はアルに届いていないみたい。
 アルはしきりに杖を振るい、感覚を掴もうとしている。

「それにしても、デンマークで且つ王様のドラゴン退治って言ったら、もしかして! 凄いわ!! 正に伝説的な代物じゃない」

 ハーマイオニーは何がそんなに嬉しいのか不思議な程テンションが上がっている。
 
「貴重な材料を使っておるのは間違い無いが、その杖の兄弟にあたる杖を手にした魔法使いはそれなりに居る」
「そうなんですか?」
「中々に強力な杖じゃ。故に使いこなすには苦労するじゃろう」
「だけど、良い杖だ。これを頂きます」

 杖の料金は通常の杖と同じだった。マスターピースって言っても、同じ材料を使った杖は他にもあるらしく、材料の希少さはある物の扱いは他の杖と同じらしい。
 それに、この杖の材料に限らず、希少な材料を使用した杖は幾つかあるみたいだけど、それらも皆、値段は一律だそうだ。
 オリバンダー老にとって、どのような杖も価値は等しいらしい。
 杖は魔法使いに使われてこそ、というのが彼の主張だ。

「じゃあ、羊皮紙を買いに行きましょうか」

 マチルダが杖の料金を支払い、そう言った瞬間、視界が暗転した。
 意識が無くなる寸前、誰かの声が聞こえた気がする。

――――ごめんね。ちょっとだけ、変わるよ。

 そして、ボクは目を覚ました。

「ああ、ごめんごめん。ちょっと、いいかな?」
「どうしたんだユー……ッ」

 さすがはアルフォンス君だ。直ぐに中身の違いに気付いたみたいだね。
 でも、別に隠してたわけじゃないし、関係無い。

「お母さん。ボクにも杖を買ってくれないかな?」
 
 お母さんは直ぐにはボクの言っている言葉の意味が把握出来なかったらしい。前々から思っていたけど、やっぱり頭の回転が人より遅い気がする。マイペースと言えばいいのかな?
 
「ジャスパーか?」

 殺意の篭った視線に思わずゾクゾクしてしまった。まったく、彼は本当に困った人だ。ボクの肉体はボクだけじゃなく、マコちゃんの物でもあるんだから、そんな風に殺気を向けられて、体調を崩したらどうするつもりだろう?

「そうだけど?」

 ボクが応えると、場の空気が一瞬で凍り付いた。凄いね。こんな表現を実際に使うのはこれが初めてだよ。
 さすがは小説の世界と言えばいいのかな? まさに文学的な事態が当たり前のように起きる。
 まあ、このままだと埒が開かないし、とっとと正気に戻ってもらおう。

「とりあえず、オリバンダーさん。ボクに杖を選んで貰えないかな?」
「お主は……良かろう。少し、待っていなされ」

 そう言って、彼は早々と店の奥へ姿を消して行った。この中の誰よりも人を見る目がある彼はボクとマコちゃんが別人である事に気付いたみたい。さすがはオリバンダーさんだ。
 オリバンダーさんが戻って来るまで、少し時間があるし、誰かと話をしてみようかな? こうして、表に出て来るのはこれで三回目だし、次はいつになるか分からないからね。
 まあ、出て来ようと思えばいつでも出て来れるけど、それだとマコちゃんに辛い想いをさせてしまう。それはボクにとっても本意じゃない。
 
「お父さん」
「ひゃ、ひゃい!」

 噛んじゃった……。息子との会話でそんなに緊張する必要なんて無いのに、全く可愛い人だね。
 マコちゃんの新しい親としては悪くない。古い方は本当にどうしようも無い産廃だったからね。
 
「おい、ジャスパー!!」

 折角、お父さんと話をしようと思ったのに、アルフォンス君は強引にボクの腕を取って振り向かせた。
 強引なのは減点対象だ。まったく、ボクをあんまりガッカリさせないで欲しい。

「君の強引さは場合によっては暴力と変わらないよ」

 親切心でアドバイスしてあげたのに、どうやら通じなかったらしい。
 
「どういうつもりだ!?」
「……何が?」
「何故、表に出て来た!?」

 一々、大声を出さなくてもいいと思うんだけどね。
 昔の彼は素直で愚かで、実に良い子だったんだけど、最近は粗暴さが目立つようになってしまった。
 反抗期なのか、厨二病なのかは分からないけど、このままだと彼はマコちゃんを襲ってしまいそうだ。少し、釘を刺しておこうかな。

「そうだね……。まあ、強いて言うなら危機感からって感じかな?」
「危機感だと……? 自分が封じられるかもしれないからって、今更ビビったのか?」

 どうにも小物っぽい言い回しをするね。
 ティーンエイジャーにありがちな自分をカッコいいと思ってしまっているナルシズムな言葉遣い。

「ダンブルドアが余計な事を言ったからかもしれないけどさ。君、今、マコちゃんの事をどう思ってる?」
「は? 大事な親友に決まってるだろ!!」
「本当に?」
「何が言いたい!?」

 どうやら、本当に分かっていないらしい。
 ボクとしても、ダンブルドアの言葉は気に入らないけど、彼とボクとの共通点はさすがに分かる。

「君は気付いてるんだろう? なのに、認めない。それって、結構危険なんだよね。いざ、気付いた時にブレーキが効かないって言うかさ」
「だから、お前は何を言って――――」
「お持ちしましたよ」

 丁度、オリバンダーさんが戻って来た。
 まあ、これだけ言って分からないならそれまでだ。その時になって、マコちゃんに彼が嫌われようと、ボクの知った事じゃない。だけど、彼はマコちゃんを護る上で最適なガーディアンだし、彼が過ちを犯せば、一番傷つくのはマコちゃんだ。それは頂けないね。
 その時はボクが責任を持って、彼を始末するとしよう。
 
「此方ですね。榛にドラゴンの心臓の琴線。少々、独特な感触があるじゃろうが、お主にはピッタリな筈じゃ」

 彼から杖を受け取り振ってみると、暗い光の玉が幾つか飛び出してボクの周りをグルグル回り始めた。
 
「アハハッ、これは面白いね。うん、気に入ったよ。お父さん、お母さん。ボクにこの杖を買ってくれないかな?」
「し、しかし……」

 お父さんは助けを求めるようにお母さんを見た。お父さんの欠点は優柔不断な所かな?

「こいつに杖なんて渡したらどうなるか分かったもんじゃないぞ!!」

 それにしても、ちょっと煩いな。

「ねえ、黙ってくれない?」

 杖を向けると、彼は声を発するのを止めた。
 杖を首筋に当てていると、彼が動揺している様が手に取るようにわかる。
 まったく、口ではカッコいい事を言いながら、この体たらくだ。大言壮語は実践出来るようになってから言って欲しいね。

「杖を買って貰えないと、マコちゃんと変われないし、それだと君達も困るでしょ?」
「脅す気か……?」
「脅すだって……? とんでもない!」

 まったく、心外だ。

「ボクは事実を言ってるだけだよ。それよりさ、ボクはマコちゃんに早く体を返してあげたいんだけど?」
「……分かった」

 お父さんは漸く分かってくれたみたい。ボクの杖を買ってくれた。物分りが良くて助かるよ。
 ボクは杖を服の内側に入れて、マコちゃんの杖で細工を施した。

「ありがとう。杖を買ってくれて、本当に感謝しているよ。じゃあ、ボクはまた眠るからね。おやすみ」

 ボクは安心して意識を手放し、体をマコちゃんに返却した。

 目が覚めると、俺はまだオリバンダーのお店に居た。だけど、周りの空気がどう見てもおかしい。
 その理由をハリーから聞いて、愕然とした。
 また、ジャスパーが出て来たらしい。彼はいつでも俺の人格と入れ替わる事が出来るみたい。
 この時になって、俺は初めてジャスパーというもう一つの人格に恐怖を抱いた。
 ただ、不思議な事が一つある。ジャスパーの買ったという杖がどこにも無いのだ。どこかに隠したにしても、一体どこに……?
 わからないまま、俺はそれから数日後、再開したホグワーツへと戻って行った。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。