第十二話「大人達の推理」

第十二話「大人達の推理」

 僕らが椅子に座ると、スクリムジョールは杖を振ってホットチョコレートを注いだカップを出した。僕はそれを飲む気にはなれず、ジッと彼が話し始めるのを待った。
 スクリムジョールは鼻を鳴らすと話し始めた。

「まずは諸君には謝っておかなければな。理由はどうあれ、君達には不快な思いをさせた」
「……そうれはどうも」

 ハーマイオニーが憎憎しげに応えた。僕は彼に対して返事をするのも億劫だ。今でも腹の底が煮えくり返ってる。
 謝るくらいなら、初めからやらなきゃいいんだ。

「理由があったのだ」

 そりゃそうだ。理由も無しにやったんだとしたら、今度こそ唾を吐き掛けてやるところだ。

「理由って?」

 優等生のハーマイオニーでさえ、もはや相手に敬意を示そうと言う気が欠片も無い。
 
「継承者の狙いがハリー・ポッターである事は明白だった。それに、ユーリィ・クリアウォーターと親しいアルフォンス・ウォーロックも狙われる理由は十分にある。故に二人の警護をムーディに依頼した。彼が単独で動く事に違和感を抱かせない為に演技もしてもらってな」
「全てが演技では無かったがね」

 ジロリとスクリムジョールを睨み付けるマッドアイ。今の僕にはその姿さえ演技に見える。
 
「……彼には君達の警護と自衛に必要な訓練を行ってもらった。尤も、後者に関しては一悶着があったがね」
「一悶着?」

 アルが尋ねた。アルは僕やハーマイオニーと違って平然とした表情でスクリムジョールの相手をしている。彼らが憎らしくは無いのだろうか?

「然様……。もともと、君達に訓練を施す意見を唱えたのはエドワードとキングズリーだった。だが、私を含め、多くの闇祓いは反対した。自衛の力を身に付ける事で君達が驕り、自ら危険に飛び込もうとする可能性を危惧したのだ。だが、二人が譲らなかったのでな。最終的に中立的な立場だったムーディ本人に決めて貰う事にした。訓練するに足るか否かをな。結果、ムーディは君達を鍛える事に決めた。これは他の誰でも無いムーディ本人の意思であった事は本当だ。信じてもらいたい」

 それが本当なのか嘘なのか僕には見抜けなかった。ただ、それが本当ならいいな、と思った。
 僕はもしかしたら、今でもムーディの事が好きなのかもしれない。ただ、裏切られたと思って哀しくなっているだけで……。

「俺は別に構わない。元々、鍛えてくれた事には感謝してるし、最終的にユーリィを傷つけた奴にそれ相応の代償を払わせてやれるなら、それでいい」

 アルの事を凄いと思う。彼は自分の考えを貫き通している。裏切られたとか、そういう事を毛ほども気にしていない。気にしているのはユーリィの仇を討てるかどうかの一点のみ。
 
「そんな事より、いい加減教えてくれ。継承者について、どこまで分かってるんだ?」

 アルの問いに僕とハーマイオニーも耳を傍立てた。スクリムジョールは深く息を吐き、ゆっくりと口を開いた。

「そうだな。では、話すとしよう。少し長くなるからホットチョコレートを飲みながらで構わない。まずは最後まで話を聞いて欲しい。質問はその後に受け付ける。構わないな?」
 
 僕らが頷くのを確認してスクリムジョールは語り始めた。

「まず、我々は今回の事件に関し、幾つかの疑問を持っていた。一つ、ユーリィ・クリアウォーターが何故、あれほどの拷問を受けたのか? 二つ、ユーリィ・クリアウォーターは何故、あれほどの情報を残す事が出来たのか? 三つ、ユーリィ・クリアウォーターの遺した日記という言葉の意味は何なのか? 四つ、二番目の被害者であるアラン・スペンサーは何故、無傷のまま襲われたのか? 五つ、何故、継承者はこの学園が閉鎖される事を拒んだのか? 六つ、三番目と四番目の被害者が同時に襲われた理由が何なのか? 七つ、継承者は何故、伝承通りにマグル生まれを狙わないのか? そして、これは最近になって増えた疑問だが、何故、ドラコ・マルフォイが襲われたのか? そして、ネビル・ロングボトムとロナルド・ウィーズリーは何故襲われたのか? 更に、ロナルド・ウィーズリーは何故全身に火傷を負っていたのか? これらの疑問に関して我々は議論を重ね、調査を繰り返していた。そして、継承者の思惑の全貌が徐々に見え始めて来たのだ」

 スクリムジョールの言葉に僕はゴクリと唾を呑み込んだ。チョコレートを一口飲み、彼の話の続きを待った。

「まず、一つ目の疑問だが、何より注視しなければならないのはユーリィ・クリアウォーターの書き残した一文にある例のあの人……ヴォルデモートという単語だ」
「それのどこが疑問なの? だって、僕を狙う可能性が一番高いのはヴォルデモートでしょ?」

 僕が言うと、スクリムジョールは苦い顔をして首を振った。

「それはあり得ない。ヴォルデモートは十二年前に君が葬ったからな。だが、彼はヴォルデモートと遺した。死喰い人では無く、ヴォルデモート……とな」

 それを聞いて、僕も不思議に思った。そうだ。ヴォルデモートは十二年前に滅んでいるんだ。去年、ホグワーツに現れたのも結局はヴォルデモートでは無く、ただの死喰い人だったじゃないか。
 あれは単なる死喰い人の暴走だって、日刊預言者新聞にも載っていた。ヴォルデモートの死を信じられない哀れな死喰い人の暴走。今回だって、ヴォルデモートが主犯なんてあり得ない。前にダイアゴン横丁でハグリッドがヴォルデモートはいつか必ず復活すると恐れていたけど、普通、死んだ人は甦らない。死者蘇生の魔法なんて無い事は先生方が何度も授業の中で話している。
 唯一可能性があった賢者の石も、もうこの世に存在しない。
 だから、犯人は死喰い人である筈だ。なのに、ユーリィは死喰い人とは言わず、ヴォルデモートと言った。一度気が付くと、その違和感は際限無く大きなものとなった。

「何故、ヴォルデモートと書いたのか……。三人共、この写真を見たまえ」

 スクリムジョールが僕らの前に差し出したのは一枚の写真だった。中では一人の少年が映っていた。瞳に自信の光を灯したハンサムな男の子だ。

「彼の名はトム・リドル。正しくは、トム・マールヴォロ・リドル」
 
 そう言うと、スクリムジョールは杖で羊皮紙を取り出し、その上にさらさらと上品な文字で【Tom Marvolo Riddle】と書いた。

「この名は一般的には知られていないが、闇祓いの間では有名だった。何故なら、これをこうすると……」

 スクリムジョールは文字を杖で叩いた。すると、文字はまるで生きているかのように動き出し、やがて【I am Lord Voldemort】という文字を作った。

「我が名は……ヴォルデモート卿。これは、ヴォルデモートの若かりし頃の写真か!?」

 アルの言葉にスクリムジョールは頷いた。

「然様。奴は名を変え、姿を変え、闇の世界の支配者に上り詰めた。そして、重要なのは奴の在学していた年にある」
「年……?」
「奴がホグワーツに在籍していた頃、一度秘密の部屋が開かれた事があったのだ」

 その言葉を聞いた瞬間、稲妻の如き閃きが僕の頭の中で生まれた。ユーリィがヴォルデモートと書き残したのは彼が在学中に秘密の部屋を開けたからに違いない。

「それなら、どうしてその時に彼を捕まえなかったんですか!?」

 ハーマイオニーの疑問は僕の疑問だ。その時に捕まえていたら、もしかしたら、その後のヴォルデモートの悪行を阻止出来ていたかもしれない。
 僕の両親も殺されずに済んだかもしれない。理不尽な怒りがふつふつと湧き起こるのを感じる。爆発寸前の僕にスクリムジョールは言った。

「当時、奴よりも怪しい人物が居た。秘密の部屋の怪物を操ろうなどと考えるのはその者しか居ない、と誰もが信じた」
「怪しい人物……?」
「君達もよく知っている。ルビウス・ハグリッドの事だ」
「なっ……!?」

 僕らは言葉を失った。まさか、ここでハグリッドの名前が出て来るとは思っていなかった。僕を魔法界に初めて連れて来てくれたハグリッド。いつも僕の味方をしてくれるハグリッド。
 彼が秘密の部屋を開ける? スリザリンの継承者?
 僕は思わず鼻で笑ってしまった。だけど、スクリムジョールは致命的な一言を口にした。

「ハグリッドは当時も今も危険な生き物に魅了されている。当時、実験飼育禁止令の出ているアクロマンチュラを城内で飼育していたらしい。卵ですら、魔法生物管理部の取引禁止品目Aクラスに指定されている人喰いの怪物をな……」
「……そんな」

 僕はその言葉を否定する事が出来なかった。ハグリッドが危険な生き物に魅了されている事は去年の事で否応無く思い知らされている。賢者の石を守っていたフラッフィー。ドラゴンのノーバート。
 
「故に彼はただ興味本位で開いてしまったのだろう、と当時の魔法省は考えた。そして、彼はホグワーツを追われた。だが、今回の一件で調べ直した結果、同時期にあのヴォルデモート卿が名を連ねていた事が判明した。そして、ユーリィ・クリアウォーターの遺した言葉だ。恐らく、当時秘密の部屋を開いたのはヴォルデモートなのだろう。その事をどうしてユーリィ・クリアウォーターが知っていたのかは謎のままなのだがな」

 スクリムジョールは空になった僕とハーマイオニーのカップに再びホットチョコレートを注いでくれた。お礼を言いながら僕らが口を付けるのを見届けると、彼は言葉を続けた。

「拷問を受けた理由はそこにあるのではないか? そう、我々は考えている。恐らく、継承者にとって非常に都合の悪い事を知ってしまったのだろう。その理由がどこにあるかが焦点になると考えられる」
「二番目の疑問が謎のままである以上、確証にはならないのでは?」

 ハーマイオニーはスクリムジョールの言葉を口の中で何度も租借してから尋ねた。

「謎のままではあるが、その答えこそが第三の疑問にあると我々は考えている」
「日記!!」

 僕が叫ぶと、アルはハッとした表情で言った。

「まさか、その日記はヴォルデモートの!?」

 アルの言葉に僕とハーマイオニーは同時に声を上げた。
 雷鳴が轟いたような錯覚を覚えた。それほどまでに強力な刺激が脳内を駆け巡った。

「日記がヴォルデモートの学生時代の物だとしたら!!」

 僕が言うと、ハーマイオニーは大きく頷いて言った。

「そこに秘密の部屋について記されていたのかも!! それで今代の継承者が情報を隠滅しようと!!」
「早まってはいかん」

 水を差すようにスクリムジョールは言った。

「日記がヴォルデモートの物であると確証があるわけではないのだ。現物が無いのでな。だが、そう考えると辻褄が合うというだけの話だ」

 スクリムジョールはそう言うが、僕はこれこそが真実だと確信した。ユーリィが拷問された理由も、ユーリィがどうしてあんなに情報を持っていたのかも、全ての謎が解けるじゃないか。

「続けよう。四つ目の疑問については先程の仮定を正しいと考えてみるとただの見せしめとして襲われただけであり、故に拷問する必要が無く、傷を負わされなかったと考えられる。そして、五つ目の疑問も見えて来る」

 不思議な気分だった。暗黒の闇に閉ざされつつあった真実へ至る道が再び光によって照らされていく。

「答えは二通り考えられる。一つはハリー・ポッターを狙う為。そして、もう一つは、継承者はユーリィ・クリアウォーターを本来は拷問で済ませる気は無かったという可能性が見えて来る」
「なんだと!?」

 アルが立ち上がった。その顔には保健室で見た時以上の憎悪と憤怒の表情が浮かんでいる。

「どういう事ですか?」

 反対にハーマイオニーは冷静に問い返した。熱くなっているアルの代わりに自分が冷静で居ようと考えているのかもしれない。

「ハリー・ポッターを狙うだけならばわざわざあんな脅しをする必要は無い。むしろ、生徒の帰宅に人員を裂く事になり、ハリーに対する警護が薄くなり、ハリーを襲う機会は十分に出来た筈だ。その後の第三、第四、第五、第六、第七の被害者を出せるくらいの犯人ならばな。だが、奴はわざわざ見せしめを使ってまで閉鎖を拒んだ。その理由は……、あの時から今に至るまで、校内で誰よりも厳しい監視体制にあった人間が居た」
「ユーリィ……」

 ユーリィの病室には常にお母さんのソフィーヤおばさんと仕事を休んで来ているお父さんのジェイコブおじさんが居て、他にも常時闇祓いが二人へばり付いている。被害者が増えてからは四人に増えている。

「全校生徒を帰宅する事になっても、ユーリィ・クリアウォーターは誰よりも強固な監視体制を敷かれる事は明白だ。故に継承者は見せしめとメッセージを残した」

 一度襲われたユーリィが再び襲われる可能性を僕は考えた事も無かった。保健室で静かに眠り続けるユーリィの顔が見たくて仕方なくなった。

「さて、話を続けても構わないかね?」
 
 スクリムジョールが僕らを順番に見つめ、僕らが頷くのを確認すると話を再開した。

「ここからが犯人に迫る疑問だ。六つ目の疑問を一端無視して、七つ目の疑問を解消しよう。何故、マグル生まれを狙わないのか? これについては一つの推論が立てられている」
「推論……?」
「犯人が継承者として狙ったのは二番目の被害者であるアラン・スペンサーのみだった……という推論だ」

 どういう事だろう。他の犯行は継承者としてでは無かった、という事だろうか?
 僕の疑問を察したのだろう、スクリムジョールは小さく微笑んだ。

「これは犯人に迫る大きな手掛かりになる事実なのだが、新たに増えた犠牲者を思い出してくれたまえ。シェーマス・フィネガン、ディーン・トーマス、ネビル・ロングボトム、ロナルド・ウィーズリー、ドラコ・マルフォイ。さて、彼らには共通点があるのが分かるかね?」

 聞かれるまでもなかった。僕も少し違和感を持っていた。犠牲になったのは全員グリフィンドール生だ。マルフォイは違うけど、彼もグリフィンドール寮の近くで倒れていた。

「この事は我々に大きなヒントを与えてくれた。そして、被害者達の被害にあった状況が一つのストーリーを物語っている」
「ストーリー?」

 僕が聞くと、スクリムジョールは頷いた。

「まず、第三の被害者シェーマス・フィネガンと第四の被害者ディーン・トーマスについてだが、この二人の時はなぜか同時に襲われた。聞きこみ調査の結果、彼らはとある人物にこう尋ねていたそうだ。『僕、ここで日記なんて拾ってないよ?』とな。この事を話してくれた生徒はユーリィが残した日記という言葉を知らなかったから、話してくれるまでに時間が掛かった。だが、我々はこの発言を軽視出来ない。それに、その後直ぐに、彼等は継承者に襲われているからな」
「誰なんだ……? その人物ってのは」

 アルは怖い声で問い掛けた。

「その前に、他の疑問も片付けてしまおう」
「そんな必要無いだろ!! そんな怪しい奴、犯人に決まってるじゃないか!!」
「だが、他の疑問を解決してからにするべきだ。疑問等は最後に答えると約束した筈だぞ?」

 アルはそれでも納得いかな気にエドワードおじさんやマッドアイを睨んだ。
 そんなアルを尻目にスクリムジョールは語った。

「さて、これでかなり疑問が解決出来た筈だ。無論、ユーリィ・クリアウォーターがヴォルデモートの日記から秘密の部屋や継承者の事を知っていた、と仮定した上でだがな。第六の疑問も解決した筈だ。第七の疑問に関しては、アラン・スペンサー以外は全員継承者の意図していなかった犠牲者だと考えられる。理由はそれぞれ言った通りでだ。そして、残る疑問は何故、ドラコ・マルフォイが襲われたのか? そして、ネビル・ロングボトムとロナルド・ウィーズリーは何故襲われたのか? 更に、ロナルド・ウィーズリーは何故全身に火傷を負っていたのか? この三つの疑問の答えこそが真実に至る道だと考えられる」

 そう言って、スクリムジョールは喋り疲れたのか、自分にも紅茶を用意して啜った。

「まず、何故、ドラコ・マルフォイが襲われたのか? これは確証がある。目撃情報があったからな」
「目撃情報?」

 アルが眉を顰めた。

「ドラコ・マルフォイは事件を調べていた。ユーリィ・クリアウォーターが襲われてからずっとな」
「マルフォイが!?」

 僕は思わず声を上げてしまった。あのマルフォイがどうして継承者探しなんてするのだろう? ユーリィが襲われた時点ではスリザリンは大丈夫という空気が濃厚だった筈なのに。

「彼はユーリィ・クリアウォーターが襲われた事が解せなかったそうだ。ユーリィ・クリアウォーターは純血だったからだ。その時点できな臭いと感じたのだろう。独自に調査を開始した。そして、被害者が出るにつれ、我々が導いた仮定に限り無く近い解答を持ち、継承者と思しき少年の下を訪れた。恐らく、自分の手で教師や闇祓いに突き出すつもりだったのだろう。だが、彼は侮った。結果、彼は返り打ちにあい、第五の被害者となってしまった。だが、ここで継承者にとって思わぬ出来事が発生した」
「思わぬ出来事?」

 僕が尋ねた。

「そう。彼と最も近くに居た少年が彼の犯行の現場を押えたのだろう。その証拠に継承者は第六の被害者、ネビル・ロングボトムの杖から直前に発射されたらしい麻痺呪文と同じ魔法傷を全身に受けていた」

 まさか……。スクリムジョールの言葉を聞くうちに僕の背中にはうっすらと冷たい汗が流れた。
 そんな筈は無い。だって、彼がユーリィを傷つける筈が無い。彼だって、僕らと同じユーリィの友達なのだから。

「……シェーマスとディーンから日記の事で問い詰められたのは誰だ?」

 アルは恐ろしく平坦な声で問い掛けた。
 スクリムジョールは静かに答えた。

「ロナルド・ウィーズリー」

 その答えを聞くと同時にアルは立ち上がり、真っ直ぐに入り口へ向かって歩き出した。その目には狂気的な色が宿り、彼が今から何をしようとしているのか聞かずとも分かった。

「だ、駄目だよアル!!」

 僕は叫びながらアルの手を掴んだ。だけど、アルの力は僕の非力な力では抑えきれず、まるでトランクケースを運ぶみたいに引き摺られる。そんなアルにエドワードおじさんが声を掛けた。
 
「アル。話は最後まで聞く約束だ」
「最後まで聞いた。継承者はロンだった。だから……、殺してくる」
「アル!!」

 僕は気が付いたらアルの頬を殴っていた。ハーマイオニーが小さな悲鳴を漏らす。
 アルは頬を押え、俺をジッと睨み付けた。

「邪魔する気か?」
「……ああ」

 僕が頷くのを見るや否や、鋭い拳が僕の顔面に向かって来た。それを止めたのはエドワードおじさんだった。

「話はまだ終わっていない」
「終わっていない……?」

 エドワードおじさんはアルに言った。

「忘れたのか? ロナルド・ウィーズリーもまた、第七の被害者として発見されたんだ」
「そんなの、ただネビルと戦った時に自爆したかなんかだろ? ネビルは勇敢だし、いざと言うときに力を発揮する奴だ」
「我々はそうは考えない」

 アルの言葉にスクリムジョールは首を振った。

「我々はその時、第二の継承者が現れたのではないか? と考えている」
「第二の継承者……だと?」

 アルは呆気に取られた表情で言った。

「そもそも、ロナルド・ウィーズリーはユーリィ・クリアウォーターを拷問にかけるような人間だったのか?」

 スクリムジョールの言葉に俺とハーマイオニーは真っ先に否定した。アルも渋々否定の言葉を口にした。

「聞き込みしていて、我々も彼の人物像と継承者の人物像に齟齬があるのを感じた。そして、一つの推論を立てた」
「それは……?」
「ロナルド・ウィーズリーは操られていた可能性がある」
「操られていた!?」

 僕らの驚きの声にスクリムジョールは頷いた。

「嘗て、暗黒の時代に猛威を振るった禁術がある。服従の呪文という相手を洗脳し、操る魔法の事だ。この事は時折彼がボーッとしている事があった、という目撃情報がありある程度の確証を持っている。そして、ネビル・ロングボトムによって正体がバレてしまったロナルド・ウィーズリーは真なる黒幕に切り捨てられた」
「つまり、第二の継承者というのは……」
 
 ハーマイオニーは怖々と言った。

「その黒幕の事……ですか?」
「我々はそう考えている。そして、その黒幕は間違いなくグリフィンドールに居る。それも、ロナルド・ウィーズリーと比較的仲の良い人物。服従の呪文は定期的に掛け直す必要があるからな。怪しまれないように行う必要がある」
「それは一体!?」

 アルが問うと、スクリムジョールは首を振った。

「もっとも可能性が高いのは彼の友人か家族だ。今、他の闇祓いが全員の荷物を検査している。そろそろ結果が届くだろう。全校生徒を対象としたならばそうそう易々とは出来ぬが、ある程度の人数相手に絞れれば問題無い。継承者は恐らく持っている筈だ。日記をな……。まあ、我々の仮定が正しければの話だが……」

 丁度その時だった。扉をノックする音が聞こえ、仲に闇祓いの一人が入って来た。
 血相を変えて仲に入って来た闇祓いは言ったのは予想とは全くちがうものだった。

「大変です!! 保健室に奴が……、バジリスクが現れました!!」

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