第八話「ルーナ・ラブグッド」

第八話「ルーナ・ラブグッド」

 カーテンの隙間から零れる光で目を覚ました。なんだか、久しぶりに良く眠れた気がする。

「……なんだろう、これ」

 俺は何かに抱き付いていた。抱き枕なんて持っていない筈なんだけど、と思って瞼をゆっくりと開くと、目の前に金の糸で縫われた獅子の姿があった。直ぐに制服に縫い付けられているグリフィンドールの紋章だと気が付いた。だけど、どうして、俺は制服に抱き付いているんだろう。
 困惑しながら制服から体を離すと、俺は漸く勘違いに気が付いた。俺は制服に抱き付いていたんじゃなかった。俺は制服を着たままのアルに抱き付いていたんだ。鼻孔を擽る匂いはアルの臭いだったみたい。余計に困惑しながら、寝る前の状況を思い出そうと頭の中を探る。
 昨日はハロウィン。ボーバトンとダームストラングの代表団が来て、大広間で炎のゴブレットによる選定の儀式が行われた。俺はダリウスの策略にまんまと嵌り、選手になる事が出来なかった。その後、みんなに慰められながらバタービールをたくさん飲んで、飲んでる内に頭が真っ白になってしまったんだ。
 漸く思い出した。つまり、俺はバタービールで酔い潰れてしまったんだ。その後、多分、アルが俺を寝室に運んでくれたんだろう。情けなくて涙が出て来る。でも……、

「……もうちょっとだけ」

 折角の機会だし、もう少しだけアルの臭いと体温を堪能しよう。どうして、アルを抱き締めながら寝てたのかは謎だけど、そんなのどうでもいいと思うくらい、この瞬間が幸せだった。
 だから、俺は完全に油断していた。頬を緩ませてアルの腰回りに手を伸ばして、おへその辺りに頭を寄せ、ウットリしていると、頭上から冷たい声が降って来た。

「起きたんなら、そろそろ離れろ……」

 頭の中が真っ白になった。まさか、起きているなんて思ってなかったから、寝ている時の無意識の行動に見せ掛ければ良いと思って、とんでもなく恥ずかしい事をしてしまった。
 ううん。恥ずかしいなんてもんじゃない。はっきり言って、端から見たら変態にしか見えない。せめて、腕に抱きつく程度にしておけば……それでも十分変態的だけど、腰回りに頭を寄せている今よりはずっとマシだった筈。血の気が引く音が聞こえるかのよう。俺は身動き一つ取れなくなった。

「おい……、ユーリィ?」

 返事なんて無理。何を言えばいいの? こんな変態行為にどう説明をつければ言い訳が立つというの? でも、何か言わなきゃ。
 
「起きてんだろ」

 駄目だ。冴えた言い訳が少しも思いつかない。それに、アルの声を聞いていると頭がボーっとしちゃう。意識を集中するのが困難な程、魅惑的な響き。
 このまま、いつまでも彼を堪能していたい。彼の体温を、彼の臭いを、彼の声を、彼の息遣いを、彼の心臓の音を……。

「おい、コラ」

 アルが急に起き上がったせいで、俺はベッドから転がり落ちてしまった。元々、そんなに大きくないベッドに二人で寝ていたからかなりギリギリだったみたい。
 俺がベッドから落ちた音でハリー達が起きたみたい。

「んん……んぅ? 何の音?」

 ネビルの声。

「何でもない。まだ、朝食にはかなり時間があるぞ。もう少し寝とけよ」

 アルが言うと、ネビルは大人しく言う事を聞いて、再び寝息を立て始めた。窓の外を見ると、まだ朝日が昇ったばかり。ハリーとロンも夢の世界に戻っていった。
 アルは立ち上がると、俺の頭を掴んで、膝を曲げた。尻餅をついている俺に視線を合わせて耳元で囁いた。

「ついて来い」

 耳元にアルの吐息が掛かってぞくぞくした。頭はふわふわした状態のまま、何も考えられない。
 アルは俺の手首を掴むと力強く俺を引っ張り起こした。捕まれた手首がジンジンと痛む。それがアルに与えられた痛みだと思うと、口元が緩む。
 アルに引っ張られて、寝室を出て、階段を降り、談話室を抜け、廊下を歩き続けた。途中、警護の為に巡回している闇祓いの人――確か、クリストファー・レイリーという名前――に遭遇した。

「どうしたんだい?」

 落ち着いた、深みのある声。黒い髪に瑞々しい肌の彼を見て、四十過ぎのおじさんだと分かる人間は居ない。だけど、その眼差しや声には子供に持ち得ぬ風格があった。
 
「こんな朝早くから校内をウロウロするのは感心しないな。特に、君達の立場を顧みるとね」
「少し、二人で話がしたいんです。必要の部屋を使いたいんですよ」
「必要の部屋か……。では、部屋に入るまで付き添わせて貰おう。マッドアイも言っていただろう? 油断大敵だ。三大魔法学校対抗試合の選手になりこそしなかったが、君達を……特に、ユーリィ君を狙う魔の手は常に狙いを定めている筈だ」
「……ありがとうございます」
「礼には及ばないよ。むしろ、君達のプライベートに横槍を入れる無作法を許して欲しい。君達、未来ある若者の安全を護るのが私の……闇祓いの使命なのでね」
「恩に着ます」

 二人の会話が殆ど頭に入って来ない。意識は全てアルに捕まれている手首に集中している。
 アルに手を引かれながら、三人で廊下を歩き続けた。不意にアルが立ち止まり、俺の手首を離した。急に心細くなり、どこかへ行こうとするアルの手を掴んだ。

「ユーリィ?」

 困惑している。俺自身、自分の行動に困惑している。
 朝から変だ。五感の全てがアルを求めている。幾ら何でも異常だって、分かっているのに止められない。まるで、ドラッグ依存者のよう。
 アルというドラッグが欲しくて堪らない。一時も手放したくない。目も口も耳も手も足も全てが欲しい。

「どうしたんだ?」

 顔が近づく。鼓動が早まる。ブロンドの髪が眉の下まで伸びている。なのに、全然野暮ったく見えない。切れ長の瞼の奥の吸い込まれそうな翡翠色の瞳が俺をジッと見つめている。
 
「おい、ユーリィ!?」

 どうしたんだろう。アルは慌てた様子で俺のおでこに手を当てた。ひんやりとしていて気持ち良い。
 だんだん、頭が重たくなって来た。
 視界が何だかぼんやりとして来た。アルの口がパクパクと開いている。何か言っているみたいだけど、よく聞こえない。
 あれ……、体に力が入らない。アルが離れていく。
 行かないで! 叫んだつもりなのに、声が出ない。背中に強い衝撃を受けて、俺は意識を失った。

 ※※※※

 その日は雲一つ無い爽やかな陽気の日だった。
 僕は今度こそ彼女と仲直りをしようと思って、彼女の家に向かった。小学校の頃、彼女から告白されて、付き合うようになって早六年。
 僕は彼女が大好きだ。大人しくて、あまりお喋りな方じゃないけど、彼女と居る時間は特別で、時間の経過なんて気にならない。
 二日前の深夜、突然彼女から別れ話を持ち掛けられて、昨日は一日中電話をしたり、彼女の家を尋ねたり、彼女の学校に行って見たりしたけど、電話は無視され、家には誰も居らず、学校ではどういう訳か、誰も彼女の事を教えてくれなかった。
 中学は同じ学校に進学したけど、高校は別々の道を選んだ。僕らの愛の前には学校の違いなんて些細なものだと信じていたんだ。だけど、今は少し後悔している。やっぱり、ランクを二つ下げてでも、彼女と同じ高校にすれば良かった。また、あの頃のようになっていなければいいんだけど……。
 今日は日曜日だ。学校は休み。きっと、この時間なら家に居る筈だ。朝の七時に家を尋ねるなんて迷惑かもしれないけど、どうしても考え直してもらいたい。
 彼女の家に行くのは昨日と今日で二回目だ。彼女の両親はとても厳しい人で、男を家に招く事を決して許してくれないらしい。もしかしたら、彼女を不利な立場に陥らせてしまうかもしれない。そう考えると、つい二の足を踏んでしまいそうになるけど、意を決して彼女の家の前に立ち、呼び鈴を鳴らした。

 僕は走っている。ああ、どうして僕はこんなに愚かなんだろう。アレはまだ続いていたんだ。アレはもはや取り返しのつかないレベルにまでエスカレートしていた。
 始まりは些細な切欠だった。僕は必死に彼女を護り続けた。中学を卒業する頃には、もう大丈夫だろうと高を括っていた。まさか、こんな事になるなんて、想像もしていなかった。
 警察に電話しようかとも思ったけど、彼女の心を思うと、踏ん切りがつかなかった。中央特別快速で目的地に急いだ。途中、三鷹で鈍行に乗り換え、ノロノロと流れる車窓に焦りながら手を合わせた。
 目的の駅に到着すると、人にぶつかるのも構わず、僕は走った。連絡をくれた彼の教えてくれたカラオケ店に急ぐ。古い建物の三階にあるカラオケ店の受付を通り、奥の部屋を目指す。
 そこで見たのは……、最悪の想像を遥かに超える最悪の光景だった。

『あ、ああ…………』

 何があったのか直ぐに理解した。僕は赤い血溜りの中で呆然と虚空を眺めている彼女に服を着せ、彼女の持っていた包丁を取り上げた。
 僕は直ぐに彼女を連れてトイレに向かった。知らなかったでは済まない事実を目の当たりにしながら、僕は泣きながら彼女の体を拭いた。
 やるべき事はまだある。心を強く持って、僕は赤いカラオケルームに向かった。部屋の中に監視カメラの類は無かった。
 包丁の持ち手や刀身をトイレで念入りに洗って来た。彼女の指紋は出ない筈だ。僕は指紋がべったり出るように強く包丁の柄を握った。そして、足下の血溜りに包丁の刀身をしっかりと漬け、入り口の近くに放り投げた。上着に着ていたパーカーにも血をベッタリつける。これで、受付は僕が何か恐ろしい事をしでかしたに違いないと確信してくれる筈だ。
 トイレに残してきた彼女を連れて、パーカーの帽子を目深に被り、彼女にもいつも身に着けている帽子を目深に被らせた。受付を通る時に受付にわざと血の付いたパーカーを見せた。焦った顔で追い掛けて来る。彼女を抱き上げて、僕は走った。心臓が破れるかと思うくらい必死に走った。

『ごめん……』

 ※※※※

 目が覚めた時、背汗で服がビッショリになっていた。
 凄く怖い夢を見ていた気がするのに、どんな内容だったかが思い出せない。
 起き上がろうとすると、頭がズキズキと痛んだ。

「起きたのですね。無理をしてはいけませんよ。貴方は熱を出して倒れたのですからね」

 聞き慣れたマダム・ポンフリーの声。

「熱……?」

 そう言えば、朝、目を覚ました後、何だか頭がボーっとしてたっけ。
 
「さあ、この薬を飲みなさい。直ぐに良くなりますからね」
「はい」

 マダム・ポンフリーに渡された薬を飲むと、急激な眠気に襲われた。
 
「さあ、よくお眠りなさい。目を覚ましたら体の調子は戻っている筈です」

 彼女の言葉に従って、俺は眠気に身を委ねた。あっと言う間に意識が闇に沈み、今度は何も夢を見なかった。
 意識が戻ったのは夕方になってからだった。マダム・ポンフリーに退院の許可を貰って、俺は夕食を食べようと、食堂に向かった。
 廊下を歩いていると、奇妙な姿の女の子と出会った。ダーク・ブロンドの髪を腰まで伸ばした、銀色の瞳の女の子。奇妙というのは彼女の首に下がっているネックレスの事。
 彼女のネックレスはバタービールのコルクを繋ぎ合わせた物だった。杖を左耳に挟んでいる。
 何かを探しているのか、辺りをキョロキョロと眺め回している。

「どうしたの?」

 あまりにも不思議な動きをするものだから、つい声を掛けた。すると、彼女は大きくて飛び出し気味のギョロッとした目を更に大きく見開いて俺を見た。

「あんた、ユーリィ・クリアウォーター?」
「俺を知ってるの?」
「知らない人の方が珍しいと思うよ」
「そうなの?」
「そうだよ」
「そうなんだ」
「うん」

 自分が有名になってるなんて知らなかった。悪い意味でじゃないといいな。

「両方かな」

 顔に出ていたみたい。女の子は言った。

「あのアルフォンス・ウォーロックにいっつもくっ付いてるオカマちゃんって言ってる人も居るし」
「え゛!?」
「毎年保健室に運び込まれてる人って噂にもなってるし」
「ええ!?」
「でも、炎のゴブレットの選定を受ける選抜試験で凄く良い所までいったから、素敵って言ってる子も居るよ」
「そ、そう……」

 良い噂がつい最近追加されたみたい。それまでは酷い噂が大半だったらしい。

「“あのアルフォンス・ウォーロック”って、どういう意味?」
「あたしが一年の頃、あの人、ハリー・ポッターに化けて変な奴と戦ってたの」
 
 アルがハリーに化けてって、どういう事だろう。

「最初はみんな、ハリー・ポッターが戦ってるんだって思ってたんだけど、変な奴を退散させた後、顔が変わってアルフォンス・ウォーロックになったんだよ。相手の変な奴、すっごく強かったんだけど、二年生と思えないくらい凄い戦いをしたんだ。それから、結構色んな女の子達があの人を視線で追うようになったんだよ」

 二年生の時って事は、あのトム・リドルとの戦いの事を言ってるのかな。確か、アルはハリーを秘密の部屋に行かせる為にハリーに変身して、トムを足止めしたらしい。
 どんな戦いだったかはあまり詳しく聞いてないけど、どうやら凄くかっこ良かったみたい。
 アルって、知らない内に女の子のファンを作ってたんだ……。

「えっと、君も……」
「あたしは興味ないよ。カッコいいとは思ったけど。それよりバジリスクの背中に乗ってみたかったな」

 夢見るような口調。映画の俳優と全然容姿が違うから分からなかったけど、もしかして、彼女は……、

「君はもしかして、ルーナ・ラブグッド?」
「そうだよ」
「ルーナって呼んでも構わない?」
「もちろん」
「ルーナは何か探してたの?」

 ルーナは少し困った顔をした。

「靴が勝手に歩いてどこかに行っちゃったんだ」

 ルーナは確か、その容姿と言動のせいで虐められていた筈。なんだか、他人事のように思えなかった。
 ポケットから杖を取り出して、軽く振った。

「アクシオ、ルーナの失くした靴」

 しばらくすると、靴が揃って宙を漂って来た。

「わぁお!」

 ルーナは喜色を浮かべて靴をキャッチした。

「凄いね、あんた。ありがとう」
「どういたしまして。他にも隠され……隠れちゃった物ってある?」
「うん。いっぱい!」

 俺はルーナの探し物を片っ端から呼び寄せ続けた。あっと言う間に両手で持ち切れないくらいの探し物が集まった。

「凄い数だね……」

 山のような失くし物。この数の分だけ、ルーナは虐めを受けて来たという事だ。
 凄く嫌な気分になった。

「あら? ルーナじゃない」

 とにかく、レイブンクローの寮まで運ばないといけない。かなりの数だから骨が折れそうだと気合を入れていると、後ろから声が聞こえた。
 振り返ると、黒い髪のアジア系の顔立ちをした少女が立っていた。凄く美人だ。

「どうしたの? これ」
「こんにちは、チョウ。ユーリィが私の探し物を見つけてくれたんだ」

 チョウ・チャン。ハリーの本来の初恋の相手。ハッとする程の美人だ。パーバティ達とは別種の美しさ。

「あ、えっと、こんにちは」
「こんにちは。それにしても、凄い数ね」

 チョウもある程度事情を察しているのだろう。顔には苦々しさが滲んでいる。

「レイブンクローの寮まで運ばないといけないんだけど、ちょっと多過ぎて、困ってたの」

 ルーナが言うと、チョウは「任せて」と言った。

「私も手伝うわ。三人でなら、何とか運べそう」
「ありがとう、チョウ」
「ありがとう」

 ルーナと俺がお礼を言うと、チョウは優しそうに微笑み、両手でルーナの失くし物を持ち上げた。見た目より力があるみたい。さすが、レイブンクローのシーカーだ。
 俺とルーナもそれぞれ失くし物を持ち上げて、西塔にあるレイブンクローの寮を目指した。寮の手前まで来ると、俺は失くし物を床に下ろした。

「俺は中に入れないから、これをお願い」
「ええ、任せて」
「ありがとね、ユーリィ」

 二人が寮の中へ入って行くのを見送ってから、俺は今度こそ食堂に向かって歩き出した。かなり遅くなってしまった。まだ、食べられるといいんだけど……。
 食堂の近くまで来ると、後ろからチョウとルーナが追い掛けて来た。

「折角だから、一緒に食べようと思ったの」

 チョウが言った。

「早くしないと、食べ損ねるよ?」

 ルーナの言葉に俺達は駆け足で食堂に向かった。
 食堂に到着すると、人の姿はまばらになっていた。手近な席に座り、食事を大皿に向かって注文すると、美味しそうな料理が用意された。
 俺達三人は食事を取りながら互いの事を話し合った。何だか、不思議な気分。アル達以外とこうして会話をするなんて俺にとっては凄く珍しい事だ。
 
「そう言えば、ダンスパーティーの相手って決めた?」

 話の流れで炎のゴブレットや三大魔法学校対抗試合の試合内容について話していると、チョウが言った。

「クリスマスのだっけ?」

 ルーナはあんまり興味無さそうに呟いた。

「チョウは決まったの?」

 俺が聞くと、チョウは照れたように頷いた。

「セドリックに誘われたわ」

 心の底から嬉しそう。

「おめでとう、チョウ」

 お祝いの言葉を送りながら、俺は自分の立場を思い出した。
 そう言えば、俺はまだ相手を決めてない。ハーマイオニーがハリーのパートナーになる以上、俺に親しい女の子は残っていない。
 どうしようかと悩んでいると、ルーナがミートパイを口に運んでいる姿が目に止まった。

「ねえ、ルーナ」
「なーに?」
「その……」

 ちょっと恥ずかしくて躊躇いながら俺は言った。

「一緒にダンスパーティーに出席しない?」

 俺が言うと、ルーナは持っていたフォークを落とした。
 ギョロッとした目が更に大きく見開かれた。

「いいよ」
「ありがとう」

 ルーナが良い子だって事は知ってるし、直接会話をしていて楽しかった。
 彼女と居れば、ダンスパーティーも不安ばかりじゃなくなりそう。

「たくさん、踊ろうね」
「いいよ」
「あ、ミートパイもっと食べたい? 注文する?」
「いいよ」

 さっきから、「いいよ」しか言ってない気がするけど、とりあえずミートパイを注文して、俺は大皿からルーナの小皿にミートパイをたっぷり盛りつけた。
 
「それにしても、セドリックが優勝するといいね」

 チョウに言うと、彼女は自身満々に言った。

「もちろん、彼が勝つに決まってるわ!」

 その後、それぞれの寮に向かう為に分かれるまで、俺達はいろいろな話をした。
 寮に戻ると、アル達が熱を出した事を心配してくれたけど、ルーナとダンスパーティーに行く話をした途端、ハリー以外の全員が愕然とした表情を浮かべた。
 みんな、まだ誰も誘ってないみたい。

「あ、朝のアレは何だったんだ……」

 アルがよく分からない事を呟いたけど、俺は少し発破を掛ける事にした。

「クリスマスまでたっぷり時間があるけど、早くパートナーを見つけた方がいいよ?」

 これが、勝者の余裕なのかな? もう、パートナーが居る俺は一人じゃない。だから、何も怖くない。

 数日後、少し浮かれた気分になりながら、俺は三大魔法学校対抗試合の第一試合の日を迎えた。

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