第三話「ジャスパー」

第三話「ジャスパー」

 ダンブルドアは俺とユーリィ、ソーニャ、ジェイク、それに父さんを初めとした数人の闇祓いを必要の部屋に連れて来た。ダンブルドアが作り出したのは飾り気一つ無い空室。

「さて……」

 ダンブルドアはユーリィに視線を落とした。

「お主の見解が正しいかどうかを確かめる方法は一つじゃ。お主の中に別の魂があると仮定すると、お主の今の状態はヴォルデモートの魂が一部偏在しておるハリーの状態に一見すると、とても似通っておる。ここで重要なのはその魂の【結びつき方】じゃ」
「結びつき方……ですか?」
「然様。まず、ハリーの場合を考えてみようかのう」
「ハリーの場合……ですか?」
「ハリーとヴォルデモートの魂の関係性は言ってみれば、同じ皿の上に違う料理をそれぞれ別々に盛り付けておるようなものじゃ。肉体という器にハリーの魂が内包され、同時にヴォルデモートの魂の一部が寄生しておるんじゃ」

 言いながら、ダンブルドアは分かり易くする為か、空中に皿を出現させ、その上に大きなリンゴと小さなレモンを置いた。

「じゃが、お主の場合は少々異なる。穢れた魂。即ち、魂と魂が混ざり合っている状態。つまり、先の例のように言うならば、同じ器の中で違う料理を混ぜ合わせておるような物、と言えよう」

 今度は皿の上にチキンライスを作り出した。その上に半熟の卵焼きが覆い被さる。オムライスの完成。どうでもいいけど、この料理、どっから出て来たんだよ。

「このような状態なわけじゃ。つまり、ハリーの場合とお主の場合はその結びつき方が根本的に違っておるんじゃよ」

 分かり易いのか分かり難いのか微妙な例だったけど、言わんとしている事は理解出来た。
 だけど、解決するにはハリー以上に厄介な気がしてくる。肉体という器の中で別個に共存しているハリーと違い、ユーリィの場合は魂自体に寄生されているという事だ。そんな状態で、どうやって解決策を見つけ出せと言うのか……。

「魂と魂が結びついておるならば、解決する方法はある」
「本当かよ!?」

 まさか、ハリーみたいに死の呪いを受けろ、なんて言うつもりじゃないだろうな。この爺さんはもはや善性の権化とは言えない。必要とあれば自身を悪とする事も出来る善の執行者だ。
 より多くの善を救う為なら、少数の異物を切り捨てる覚悟がある。切り捨てられる側からすれば恐怖の対象でしかない。
 
「開心術じゃ」
「開心術……?」

 とてもじゃないけど、この問題を解決出来る術とは思えない。開心術というのは、相手の心を覗き、秘密を暴く術の筈。それが魂に寄生する存在にどう対処出来るのだろうか。

「何故、開心術なのか? そう疑問に思うじゃろうが、それを説明するにはまずは魂と心……即ち、精神の関係性を説かねばならん」

 ダンブルドアは虚空に三つの光を生み出した。赤と青と緑の光の珠がまるで火の玉のように揺らぎながら空中を漂っている。

「人を構成する要素は霊魂と肉体、そして精神の三つじゃ。これを三位一体、あるいは三原質と言う。さて、まずは精神について説くとしよう」

 そう言って、青い光をダンブルドアはピックアップした。大きく膨らんだ青い光を指差して、ダンブルドアは講義を続ける。

「精神とは即ち、知性を有する者に宿る認識能力と意思能力、そして、判断能力の総称じゃ。要するに、人が物事を考える為の根幹じゃ。そして、次に霊魂じゃが……」

 今度は緑色の光をピックアップする。

「霊魂とは、無意識を司る【存在の根幹】じゃ」
「存在の根幹……?」 
「即ち、その者がその者足りえる根幹。【自我】じゃよ。そして、精神と霊魂は密接に繋がっておる。霊魂が無意識であるとするならば、精神は意識じゃ。霊魂の在り方を精神が決定する。通常じゃと、人が死ぬ時、肉体から霊魂と精神は解き放たれ、霊魂と精神の結びつきも解けてしまうものじゃ。そうじょのう……お主等は亡者という存在を知っておるかな?」
「えっと、魔法によって操られている死体……の事ですよね?」

 ダンブルドアは模範的な生徒を見る目でユーリィを見つめた。

「正解じゃよ。亡者は死体……即ち、精神と霊魂が解き放たれた状態の肉体に仮初の霊魂を注ぐ事で作られる。じゃが、精神が存在しない為に、亡者には意識というものが存在せんのじゃ。ただ、命令に従うだけの操り人形となってしまう」

 一拍おいて、ダンブルドアは先を続けた。

「さて、肉体を離れた霊魂と精神の結びつきは解けてしまうと言ったが、例外がある。お主等はその存在を知っておる筈じゃ」
「ゴーストですね?」

 俺が答えると、ダンブルドアは満足そうに頷いた。

「然様。ゴーストとは、死後も意識と無意識の結びつきがとても強く、解ける事の無かった存在じゃ。それはあるいは無念だったり、願いだったりと人それぞれじゃろう。さて、長々と話したが、精神と霊魂の密接な繋がりは分かってもらえたかのう?」

 俺とユーリィが頷くのを確認すると、ダンブルドアは本題に入った。

「お主が生前の記憶を有しておるのもお主が死の間際に何か意識と無意識が一致する【強い意思】を持っておった事が理由じゃろう。そして、お主の魂に寄生しておる【絶望】もまた、同じと考えられる。二つの魂が絡まった理由は分からぬが、世界そのものを飛び越えた理由が判明せぬ限り、答えは見つからんじゃろう。じゃが、知らぬ事と御せぬ事はイコールでは無い」
「その為の開心術なんですか……?」
「然様。まずはお主の中に居る【絶望】を呼び覚ます」
「なっ!?」

 ダンブルドアのあまりにも突拍子も無い発言に俺は言葉を失った。
 絶望を呼び覚ます。そんな事をしたら、一体どうなってしまうのか見当もつかない。
 ユーリィの意識を絶望の意識が塗り潰してしまうかもしれない。それに、絶望が真に目覚めてしまったら、予言がいよいよ成就してしまうかも知れない。
 あまりにも愚かしい考えだ。

「そんな事――――」
「分かりました」

 俺の言葉を遮るようにユーリィは言った。
 俺が驚愕に目を見開くと、ユーリィは儚げに微笑んだ。

「必要な事なんだと思う。俺達は……ううん。俺自身が俺の中の絶望を知らなきゃいけないんだと思う。それに、俺の中の絶望をどうにかするにはダンブルドア先生を信じる以外に方法が無い。だから、俺は信じるよ」

 本当に信じていいのか?
 ユーリィの語った【ハリー・ポッター】という本の内容。ダンブルドアの秘められた目論見を知ってしまった今、俺は安易に彼を信じる事が出来ない。

「……それに、知りたいんだ」
「知りたい……?」
「俺の中の絶望……。一体、どういう存在なのかを俺は知りたい。……あの断片的な記憶の持ち主の事を知りたいんだ」

 ユーリィの意思は固いみたいだ。だけど、俺は……。

「万が一にもお前が居なくなるなんて、俺は嫌だ」
「……居なくならないよ。居なくなる筈が無いよ……」

 ユーリィはニッコリと微笑んだ。下手をすれば自分の意識が消えてしまうかもしれないのに、まるで恐怖が無いみたいだ。
 何か、根拠でもあるのだろうか? 

「だって……、俺の居場所はアルの隣にしか無いんだからね。だから、どんな事があっても、アルから離れるなんてあり得ないよ」
「……約束だぞ」
「うん」

 ユーリィはダンブルドアの前に立ち、瞼を閉じた。これから、何が起こるのか分からない。ただ、恐ろしい。万が一にもユーリィを失うのが怖い。
 ソーニャとジェイクを見ると、二人共顔が真っ青だ。
 当たり前だ。これで三度目になる。ユーリィが命を……存在その物を危うくするのは……。
 アイツはとんでもない親不幸者だ。俺がアイツの親だったら、もうとっくに気が狂ってるに違いない。
 決して強くない二人がそれでも狂わずに居るのは彼らが親だからだ。子供の事を思い、必死に理性にしがみ付いている。ユーリィが帰って来れるように、必死に……。
 だから、帰って来い。必ず、二人の下に、俺の下に帰って来い。
 拳を握りながら俺は心の中でそう叫び続けた。
 そして、ダンブルドアは杖を振るった。

「レジリメンス!!」

 その途端、俺はあの時と同じ感覚を覚えた。
 ユーリィが戻って来た時にユーリィの目を見た時と同じ感覚。

「超高校級の人殺し……」

 俺の呟きに、奴は反応した。

「超高校級の人殺し……?」

 奴は振り返った。そして、俺は確信した。

「【ボク】はそんな名前を名乗った覚えは無いよ」

 こいつはユーリィじゃない。
 
「まったく……、困ったもんだよ。あんなの、雑誌の編集者が適当に考えた煽り文じゃないか。そんなので呼ばれるなんて、不本意極まり無いね」

 まるで、死んだ魚のような目をしている。深い絶望の光を宿し、ユーリィの声でソイツは流暢に話し始めた。
 ここまで明確な自我があるなんて、予想していなかった。ダンブルドアや彼が万一の備えとして連れて来たのだろう闇祓い達が警戒心を顕にする。

「……そんなに怖い顔をしないで欲しいな。ボクはこれでも臆病なんだ。そんな風に怖い顔で取り囲まれたらゾクゾクしちゃうよ」

 気持ちが悪い。ユーリィの顔で、ユーリィの声で話すコイツが気持ち悪くて仕方無い。

「……お前は何者だ?」

 俺の言葉に奴は満面の笑みを浮かべた。

「そうだなぁ、なんて答えようかな。生前の名前なんて。言った所で君達には分からないだろうし、マコちゃんには教えたくないしね」
「教えたくないだと……?」
「ボクみたいなクズの名前なんて聞かせて、マコちゃんの耳を汚すような真似はしたくないからね」

 何を言ってるんだ? 
 言っている言葉の意味が上手く理解出来ない。
 それに、マコちゃんってのは何だ? それはユーリィの生前の……マコトの愛称なのか?

「お前……、本当に何者なんだ!?」
「そうだね。ねえ、ボクに名前を付けてよ、お母さん」
「……はえ?」

 そいつは突然ソーニャに向き直った。
 突然の事にソーニャは目を瞬かせた。

「だから、ボクにも名前を付けてよ。だって、お母さんなんだしさ」
「おかあ……さん?」
「あれ? 違うの?」

 まるで、心外だと言わんばかりの奴の態度に俺は頭が痛くなって来た。

「だって、ボクもお母さんとお父さんの間に生まれた子供でしょ? 今まで、こうして話した事は無かったけど……。ちょっと、寂しいな……」

 まるで、傷つけられた純真な子供のように奴は呟いた。
 その態度にソーニャはすっかり絆されてしまったらしく、慌てた顔で首を横に振った。

「も、もちろん、貴方の事も息子だと思うわ!! ご、ごめんなさいね。なにしろ、いきなりだったし……」
「ううん。嬉しいよ、お母さん。ボク、二人の子供としての名前が欲しいんだ」

 ソーニャは慌てたようにジェイクを見た。
 ジェイクも心底慌てた声で次々に思いつく名前を口にした。
 本気で名前を付けるつもりらしい。

「待てよ、二人共!! なに、いきなりコイツに絆されてんだ!!」
「い、いや……」

 ジェイクは決まり悪そうな顔で言った。

「絶望なんて言うから身構えてたけど、思ったよりいい子だし……」
「この子も私達の子供なのは間違い無いし……」

 どこまで善人なんだこの二人は……。
 ユーリィの過去を聞いてもアッサリと受け入れた二人に俺は感動していたけど、さすがにここまで来ると頭の中がただ端にお花畑なだけじゃないかと疑いたくなる。

「と、とりあえず名前が無いと不便だし……。ジャスパーなんてどうかしら?」
「素晴らしいよ。良い名前をありがとう。ジャスパー。これからはボクの事をそう呼んで欲しいね」

 ジャスパー。それが奴を示す名前になった。不快感はあるが、今までの絶望だとか、超高校級の人殺しだとかよりはずっと実体を感じられる名前だ。
 
「……ジャスパー」
「なんだい?」
「お前はユーリィが見た記憶の持ち主なのか?」

 俺の質問にジャスパーは奇妙な間を置いた。否定するでも無く、肯定するでも無く、ただ沈黙する。
 
「おい、答えろ!」
 
 焦れて、怒鳴り声を上げると、ジャスパーは歪んだ笑みを浮かべた。

「そうだよ。マコちゃんが見た夢はボクの記憶だよ」
「なら……、お前は人を殺したのか?」

 俺の言葉にソーニャとジェイクの表情が凍り付いた。言いたく無いけど、やっぱり二人はどこか抜けている。

「一つ……、君達の間違いを正しておきたいな」
「間違い……?」
「そうだよ。君達はどうやらボクをマコちゃんの魂に寄生したマコちゃんに絶望を齎す邪悪な存在だと思ってるみたいだけど……」

 ジャスパーはまるで涙を拭うかのように片手で目を覆った。

「ボクはマコちゃんの事が大好きなんだよ」
「……は?」

 予想外の言葉に俺は一瞬凍ってしまった。
 いきなり、何を言い出すんだ。

「だから、マコちゃんが望むなら、ボクは幾らでもマコちゃんの意識の奥底に封じられても良いと思ってる。貴方が思いついたボクに対する対処法ってソレの事でしょ? 先生」

 ジャスパーはダンブルドアに向き直って言った。

「閉心術でボクの心を封じ込めるというならボクは別に逆らったりしないよ。だけど、一つだけ……」
「何だ……?」
「さすがに、マコちゃんがピンチになった時にまで大人しくはしていられないよ。あの時だって、ボクが出てこなきゃマコちゃんが壊れちゃってただろうしね」

 その言葉の意味は直ぐに理解出来た。

「やっぱり、ユーリィが逃げ出せたのはお前のおかげなのか……?」
「そうだよ。あの馬鹿な男を殺して、マコちゃんを助けたのはボクさ」
「……殺した?」

 ソーニャは呆然とした表情で呟いた。

「殺したって……どういう意味?」
「もちろん、そのままの意味さ。だって、殺さなきゃ脱出なんて出来なかったしね。それに、あんな奴、死んで当然じゃない? だって、アイツはマコちゃんに酷い目に合わせたんだよ? それに、アイツが嬲り殺しにした子供の死体が廊下には散乱してた。きっと、あの子達は彼のストレス発散に使われたんだろうね。まったく、恐ろしいよ。だからさ、ボクは正義の裁きって奴を下してやったのさ。ね? ボクは悪くないでしょ?」

 無邪気を装っている。俺にはそうとしか思えなかった。
 こいつはやっぱり……。

「お前、人を殺したんだな……。ユーリィの見た記憶にあった殺人事件は実際にお前が起こしたものだな?」

 ジャスパーは無言だった。表情が掴めない。何をしでかすか分からない。俺は万が一にもソーニャとジェイクが襲われないように意識を研ぎ澄ませた。

「彼らだって、死んで当然さ」

 そう、微笑みながらジャスパーは言った。

「だって、彼らはマコちゃんを自殺に追いやったんだよ? 死んで当然じゃない」

 まるで、世間話をするような口調で奴は言った。

「マコトを……ユーリィを自殺に追いやったって……まさか」
「そうだよ。彼らはマコちゃんを虐めていた奴等さ。ボクは一人残らず正義の裁きを下したのさ」
「一人残らず……?」

 一体、こいつは何人殺したんだ?
 だって、ユーリィの記憶を見た限り、ユーリィを虐めていた奴は二人や三人じゃなかった。明らかにクラスメイト全員から敵意を向けられていた。

「まあ、ボクが知る限りだけどね。でも、マコちゃんを虐めて良い気になってた割りには呆気なかったな。いや、ボクも吃驚したんだ。人間って、あんなに簡単に死んじゃうんだね」

 まるで、昆虫を観察していて大発見をしたと騒ぐ子供のようにジャスパーは語った。
 人を殺したという事実を楽しそうに語っている。

「だけど、ユーリィは場所が違うと言っていた……。殺人が起きた場所とユーリィの居た場所は全然違うと……」
「それは最初に殺した五人の話だよ。彼らはいつも高円寺まで遊びに来てたからね。あそこには彼らが行き着けにしてる風俗があるんだよ」
「風俗……?」
「まあ、あんまり関係無いから省くよ。ボクは彼らを高円寺で殺したんだ。ただそれだけの話」
「お前は……」

 俺はジャスパーに恐怖していた。人を殺す事を悪い事だと認識していない。今まで、出会った事の無い殺人鬼という人種に俺は抑えきれない恐怖を感じている。

「ああ、そうだ」

 ジャスパーは何かを思いついたように俺を見た。

「今はマコちゃんは眠ってるんだ。だから、ボクからの伝言を伝えて上げてもらえるかな?」
「伝言だと……?」

 眠っているだけ。そう聞いて少し安堵した俺にジャスパーは淡々と恐ろしい事を口にした。

「もう、君を虐めた酷い人達は誰も居ないよ。ちゃんと、ボクが殺して上げたから。クラスメイトも先生も……君の両親と妹もね」
「…………え?」

 聞き間違いだと信じたかった。今、こいつは何と言った?

「あれ? 聞こえなかったの? だから、マコちゃんのクラスメイトや先生や家族はみんな殺して上げたんだよ。特にマコちゃんの両親は一番近くに居たくせにみすみす死なせて、一番罪深かったからね。たっぷりと後悔させてあげたんだ。最後には三人揃ってマコちゃんに謝ってたよ」

 聞きたくなかった。
 こんな事、言える筈が無い。
 絶対に秘密にしないといけない。
 だって、どんなに酷い親でもアイツにとって……前世の両親は……。

「お前、ユーリィに……マコトに何の恨みがあって……」
「恨み? そんなのある筈が無いじゃない」

 ジャスパーは実に不思議そうに首を傾げた。

「だって、ボクはマコちゃんが大好きなんだよ。愛しているんだ。恋してるんだよ。だから、全部マコちゃんの為にやった事なんだよ。きっと、マコちゃんも喜んでくれる筈さ」

 確信に満ちた声。
 狂っている。そう思わずには居られなかった。

「ふざけるな!! 愛してるだとか、恋してるだとか、ふざけた事を言って煙に撒こうとしているだけだろ!! お前の本心はなんだ!?」
「ふざけるって、何の事? ボクはマコちゃんを心から愛してるんだけど?」
「お前は男だろ!! マコトも男だ。男同士で恋なんてあり得ないだろ!! お前は一体、何を考えてるんだ!?」

 俺の言葉にジャスパーは心底不思議そうな表情を浮かべた。

「え? 君がソレを言うの? っていうか、さすがにちょっと心外だな。ボクはマコちゃんを心から愛しているさ。っていうか、人をゲイみたいに言わないでよ。君と違って、ボクはそういうんじゃないから」
「何を言って――――」
「っと、そろそろマコちゃんが起きるみたいだ。だんだん……、眠くなって……きた」

 ジャスパーは突然膝を折ると、瞼を閉じた。
 しばらくして、再び瞼が開き、キョロキョロと辺りを見回し始めた。

「あれ……? 俺、今まで何してたんだっけ?」

 ユーリィは戻って来た。
 だけど、俺は少しも安心出来なかった。
 ユーリィの中に居た【絶望】は想像以上に危険な存在だった。

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