第一話「真実に挑む者達」

第一話「真実に挑む者達」

 事件後、ホグワーツは一時閉鎖される事になった。俺がバーテミウス・クラウチ・ジュニアに誘拐された時、闇の印がホグワーツに出現した事が原因だ。恐らく、アルが死んだものと勘違いしたバーテミウスかピーターのどちらかが上げたのだろう。生徒達の多くが目撃し、ホグズミード村の魔法使い達にも目撃され、魔法省は事件を揉み消す事が出来なかった。結果、ホグワーツ特急の襲撃事件についても認めざる得なくなり、ヴォルデモートの存在こそ認めないものの、魔法省は危険思想の死喰い人の存在を明かし、警戒を促している。
 日刊予言者新聞の一面は【暗黒の時代再来か!?】という文字が躍っている。クラウチ邸とホグワーツに上がった闇の印の写真が恐怖を掻き立てる。
 でも、絶望ばかりではない。スクリムジョールはインタビューにこう答えている。

『我々、闇祓い局は全力を持って危険思想の死喰い人の行方を追っている。だが、常に油断大敵である事を肝に命じ、嘗ての暗黒の時代を生きた者はそうでない者に身を護る術を伝えるのだ』

 希望はある。闇の勢力に対して、物語とは違い戦力が整いつつある。スクリムジョールの言う【我々】とは、闇祓い局の事だけを指すわけじゃない。今、彼の下に結集して戦いを共にするのは闇祓いだけじゃない。【不死鳥の騎士団】が彼に力を貸している。物語では相容れなかった不死鳥の騎士団と闇祓い局がタッグを組んだ。ダンブルドアとスクリムジョール。二人の偉大な指導者の下、強力な魔法使いの連合が闇の勢力と戦っている。世界は今、大きな流れの中にある。
 俺達は一時的に自宅に戻る事になり、ホグワーツが再開する日を待っていた。あれから既に半年が経過している。バーテミウス・クラウチ・シニアの殺害事件を皮切りにホグワーツ特急襲撃や魔法省侵入など精力的に動いていた闇の帝王の陣営はピタリと消息を絶ち、地下に潜ってしまったらしく、スクリムジョールを初めとした闇祓い達はヴォルデモートの一派の捜索に精を出したけど、結果は実らなかった。ダンブルドア率いる不死鳥の騎士団も物語とは違い闇祓い局に全面協力をしているけれど、まるで雲を掴むかの如く手掛かり一つ見つからない。
 事態は膠着状態に陥り、スクリムジョールは俺に会いに来た。目的は情報だ。ソーニャとジェイクが怒りを顕にしたけど、俺はスクリムジョールの申し出を受ける事にした。勇気を出さなきゃいけないと思った。
 そして今、俺はホグワーツに戻って来ている。

 生徒達が居なくなった空っぽの学校。静まり返った大広間は普段とは一風変わった雰囲気が漂っている。椅子の配置もいつもと違う。まるで、アーサー王伝説に登場する騎士の円卓のように円形の机が中央に置かれ、その机を取り囲むように屈強な大人達が並んでいる。俺とアル、ハリー、ハーマイオニー、ロン、ネビルの六人はその中で少し浮いている気がする。
 
「この会議の目的は皆で【全ての情報】を共有する事にある。まずは自己紹介から始めよう。私は闇祓い局・局長のルーファス・スクリムジョール」

 この会議の発案者は堂々たる居住まいで名乗りを上げた。自己紹介が誰のためかは明白。彼らの事を殆ど知らない俺達、子供チームの為だ。
 スクリムジョールに続き、彼の右隣の屈強ながら端正な顔立ちの金髪の魔法使いが口を開いた。

「私はガウェイン・ロバーズ。スクリムジョール局長の補佐官をしている。以後、よろしく頼む。ハリー・ポッター。ユーリィ・クリアウォーター。君達の命、必ず我々が護ってみせるよ」

 甘い笑顔の内に強い意思の光が宿っている。清廉な空気を纏う、まるで中世の騎士のような人。
 隣に座るマッドアイはそんな彼の言葉に鼻を鳴らした。

「若造が一丁前な口を利くようになったもんだ。さて、わしの名は言うまでも無いな? アラスター・ムーディ!! わしから言うべきは一つ。油断大敵!! 忘れるでないぞ」

 この二年間、俺達……特に、アルにとって一番長く接してきた闇祓い。誰よりも頼りになる最高の師匠。

「マッドアイってば、ソレばっかり」

 おかしそうに笑いながら、マッドアイの隣の魔女は髪の毛をピンクや青、緑や紫と次々に変化させる。顔の形も節操無く変える彼女の名前は聞かなくても分かる。

「私の名前はニンファドーラ・トンクス。トンクスって呼んでちょうだいな。実は今年から闇祓いになったの。よろしくね」

 輝く金髪の美女になって満面の笑顔を浮かべる彼女にアル達はポカンとした表情を浮かべている。

「ちなみに、この変身能力は【七変化】って言うんだ。面白いでしょ?」
「そのくらいにしておけ、トンクス。お前の能力は貴重なのだ。あまり大っぴらにするのは……」
「いいじゃないのよ、ロジャー。ここには身内しか居ないわけだし」
「そういう問題では無い……。まったく……」

 紅いローブが印象的なトンクスの隣の魔法使いは深々と溜息を吐き、眉間に手を当てながら言った。

「失礼した。ロジャー・ウィリアムソン。よろしく頼むよ」
「あんまり、ガミガミ言ってやるなよ、ロジャー」

 快活に笑う黒人の魔法使いはこの場でダンブルドアに次ぐ長身だった。
 
「俺はブラウドフットだ。ダリウス・ブラウドフット。気軽にダリウスでいいぜ? よろしくな、ボーイズアンドガール」

 ウィル・スミスそっくり。夜寝る時は絶対にジーンズと上半身裸だ。

「気を付けなさいね。この男、男女問わずな所あるから」
「おいおい、アーニャ! そりゃないぜ!」
「お黙り!! 若い子があんたにセクハラを受けたって色んな部署から苦情が来てるのよ!! しかも、男女問わず!! もう少し、節度を持ちなさい!!」
「オーケー。落ちつくんだ美人さん。子供達に悪い印象与えるのは得策じゃないぜ」

 まるで夫婦漫才のようなやり取りの後、赤毛の魔女は咳払いをしつつ名乗った。

「アネット・サベッジよ。アネットでも、アーニャでも構わないわ。とりあえず、この男には注意するように。以上」

 最後に思いっきりダリウスを睨みつけてアーニャは隣に座る小柄な男に順番を回した。
 俺達とあまり変わらない体躯の上に凄く童顔で、最初は俺達と同い年なんじゃないかって思った。

「私はクリストファー・レイリー。クリスと呼んでくれ。これでも、この中ではかなり年長者だ。どうにも若く見られてしまうがね」

 そうは見えない。皺も無ければ白髪も無い。黒髪の美少年という形容詞がこれ以上無くピッタリな彼に俺達は驚きを隠せない。
 クリスは気にした風も無く肩を竦めて見せると、隣の筋骨隆々な大男に順番を回した。
 背の高さでこそ、ダリウスやダンブルドアには敵わないものの、その鍛え抜かれた筋肉は彼を何倍も大きく見せる。
 腕回りなんて、俺の胴ほども太い。どうやったら、あんなに強靭な肉体を作れるのか不思議。

「俺はディエゴ・ヴァン・ルイス。よろしくな」

 顔にはマッドアイのような傷が幾つもある。一体、どんな人生を歩んで来たのか気になる。
 そして、闇祓いの取りを飾るのはエドワードだった。

「この十人が闇祓い局の中でも特に精鋭と言える十人だ。よく、名前と顔を覚えていなさい」

 そう締め括ると、今度はスクリムジョールのガウェインとは逆隣に座るダンブルドアが口火を切った。

「さて、わしは今ここではホグワーツ校長という肩書きを降ろし、不死鳥の騎士団の団長として名乗るとしよう。わしの名はダンブルドア。アルバス・ダンブルドアじゃ。どうか、この名前を覚えておいて欲しい」
「あなたの名前を忘れる愚か者など居る筈が無いでしょう」

 隣に座るマクゴナガルは俺達よりも闇祓いに向けた自己紹介をした。
 彼女の後にスネイプが続く。彼も同様に自己紹介をした。闇祓いの中では彼にあからさまに反応する者こそ居なかったけど、ロジャーやアネットは不快そうに眉を顰めた。スネイプの過去を考えての反応なのだろう。
 彼の後に続いたのは継ぎ接ぎだらけのローブを着た男性。もしかして、この人は……。

「私はリーマス・ルーピン。これから共に戦う君達には先に明かしておかねばならない秘密がある」

 ルーピンは少し迷う素振りを見せながら言った。

「私は狼男だ」
「何だと!?」

 真っ先に反応したのはアルだった。闇祓いや不死鳥の騎士団の間では既に周知の事実らしく、誰も反応を示さない。

「落ち着け」
 
 エドはルーピンを睨み付けるアルに鋭い眼差しを向けた。

「悪いが無理だ。狼男なんざ、信用出来ない」
「彼の人格はわしが保障する。彼は信頼に足る人物じゃ」

 ダンブルドアが言うと、アルは首を横に振った。

「そうじゃない。別に人格を疑ってるわけじゃない。だが、人狼は一度変身すると理性が吹き飛んで凶暴な本能のみで動くらしいじゃないか。そんな奴をユーリィやハリーの近くに置くなんて冗談じゃない。少なくとも、二人の傍には絶対に寄り付かせるな」
「アル。人狼の本能は薬で抑えられるんだ。だから……」
「確実にそうと言えるのか?」

 エドワードがフォローを口にしようとすると、アルは冷たく切り捨てた。

「万が一、薬を飲めない状況だったらどうする? リスクを負ってまで、その人狼を傍に置くメリットがあるのか? まさか、そいつへの同情心か何かで判断を鈍らせてるわけじゃないよな?」
「我輩も同意だ」

 アルの意見にスネイプが賛同した。
 ルーピンを良く知るのだろう面々から非難の視線が向けられる。

「薬が有ると言えど、過信は出来ぬ。保護対象を危険に晒す可能性がある以上、こやつをポッターやクリアウォーターの傍に置くのは下策としか言いようが無い。同情心など論外。違いますかな?」

 反論は出なかった。ルーピンは確かに人狼だけど、その人格は間違いなく善だ。物語の中でもハリーを助け、命を散らした。
 二人の言葉はあまりにも非情だ。

「……勿論、二人の言う通りだ」

 だけど、当の本人が認めた。その表情はとても哀しそうで、どうしても助け舟を出したくなる。

「私は彼らに近づかないと誓うよ」
「そんな――――」
「当然だ」

 俺が口を開き掛けると、アルは遮るように言った。

「本当なら、こういう会議の場でも同席させたくない」
「アル!!」

 堪らず俺は叫んでいた。
 アルは目を丸くして俺を見た。

「言い過ぎだよ!! 幾ら何でも……」

 アルは小さく息を吐いた。

「すみません。口が過ぎました」
「……いいや、君の意見は正論だ。個人的に、君の在り方はとても好感が持てるし、頼もしいよ。さすが、エドワードの息子だ」
「彼とはそれなりに付き合いがある。戦力としても申し分無い。お前の言い分も十分に理解出来るが、人狼である事を念頭に入れても頼りになる」
「だとしても……、いや、二人に近づかないならそれでいい」

 中断した自己紹介がまた再開された。
 紫のシルクハットを被ったキーキー声のディーダラス・ディグル。ゼイゼイ声の老魔法使い、エルファイアス・ドージ。顎の角張った、麦わら色の豊かな髪の持ち主、スタージス・ポドモア。赤茶けたくしゃくしゃの髪のマンダンガス・フレッチャー。ピンクの頬をした黒髪の魔女、ヘスチア・ジョーンズ。そして、俺をホグワーツに連れ帰ってくれたエメリーン・バンス。
 個性が強烈な不死鳥の騎士団の面々に続くのはロンの両親。アーサーとモリー。

「私はアーサー・ウィーズリー。マグル製品不正使用取締局の局長を務めています。この度は不死鳥の騎士団に入団させて頂きありがとうございます。この場を借りて、改めて礼を言います」

 前にロンの家で会った時よりも少し痩せている感じがする。映画とは違い、頭が禿げてる。

「そして、ユーリィ。君にはまたしても申し訳ない事をした。勿論、謝って許して貰おうなどとは思っていない。だが、償わせて欲しい」

 そう言って、アーサーは俺に対して頭を下げた。

「ま、待ってください。貴方が謝る事なんて一つも!」
「私の息子は君を傷つけてしまった。今回も一歩間違えれば君が命を落としていた」

 アーサーの言葉にロンも泣きそうな顔をしている。

「違います!! 悪いのはロンじゃなくて、ヴォルデモートやピーターです。ロンはむしろ被害者なんです! だから、頭を上げて下さい」
「それでも、私の息子がしでかしてしまった事は……」
「でも、俺は……」
「ユーリィ。素直に謝罪を受け取っておけ」

 アルが俺にしか聞こえない小さな声で囁いた。

「じゃないと、彼らは自分を許してやる事が出来ない。例え、被害者が罪を訴えなくても、加害者が罪を感じる事もある。そうした時、加害者の罪を認め、許してやれるのは加害者自身でも、関係無い第三者でもない。被害者しか居ないんだ」

 やっぱり、俺は人の気持ちを理解する能力が欠けている。アルに言われなければ気付かなかった。
 
「……分かりました。謝罪の気持ちを受け取ります。ですから、どうか頭を上げて下さい」

 頭を上げたアーサーの表情はとても暗い。

「本当にごめんなさい」

 アーサーの隣に座るモリーも頭を深々とさげてきた。 
 俺は無言で気持ちを受け取り、微笑んだ。

「俺は二年目の事も今回の事も誰の事も怒ってません。だから、どうかロンの事を許して上げて下さい」
「……貴方は良い子なのね」

 モリーはしみじみと言った。その言葉に俺は何も返せなかった。
 怒っていないのは本当。だけど、俺が良い子だなんて、そんな事、ある筈無い。

「私達は君達を守る為に全力を尽くす。必ず」

 その顔に浮かぶ覚悟の表情に不安を感じる。使命感とでも言うのか、まるで、強迫観念に突き動かされているように見える。
 本当に彼らの贖罪を受け入れて良かったのだろうか? 迷いが生じる。彼らに取り返しのつかない覚悟を決めさせてしまったのではないか、そんな恐ろしい予感がする。

「あの……、どうか、自分とお子さん達の命を最優先にして下さい。お願いします」
「……ありがとう」

 俺の言葉に対する応えは了解ではなく、感謝だった。その言葉が余計に不安を駆り立てる。
 だけど、どう言えばいいのか分からない。彼らの決意に対して、俺は何を言えば良いんだ?
 その後、気まずい空気の中でソーニャとジェイクが自己紹介をして、会議は次の議題へと移った。だけど、俺はどうしてもウィーズリー夫妻の事が気になった。

「次の議題は予言についてだ。これも皆で共有しておこうと思う。特に、ユーリィ・クリアウォーターは己に纏わる予言を知るべきだ」

 そう言って、スクリムジョールは空中に光る文字を浮かび上がらせた。

「まず、ハリー・ポッターの予言だ。『闇の帝王を打ち破る力を持った者が近づいている……七つ目の月が死ぬとき、帝王に三度抗った者たちに生まれる……そして闇の帝王は、その者を自分に比肩するものとして印すであろう。しかし彼は、闇の帝王の知らぬ力を持つであろう……一方が他方の手にかかって死なねばならぬ。なんとなれば、一方が生きるかぎり、他方は生きられぬ……闇の帝王を打ち破る力を持った者が、七つ目の月が死ぬときに生まれるであろう……』。これはヴォルデモートを倒す存在が生まれる事を示した予言だ。この予言に当て嵌まる子供は当時二人居た。そして、その内の一人が予言通りにヴォルデモートを滅ぼした。この予言で一番肝心なのは【一方が生きるかぎり、他方は生きられぬ】という部分だ。これはヴォルデモートかハリー・ポッターのどちらかのみが生き残る事を意味している。つまり、ハリー・ポッターこそが我々にとっての【希望】であり、勝利に必要なピースなのだ。そして、それは同時に闇の勢力にとって、ハリー・ポッターを滅ぼす事がそのまま【勝利】を意味している。即ち、我々にとっての【絶望】だ。故に、我々はどんな犠牲を払ってでも、ハリー・ポッターを護る必要がある」

 当の本人であるハリーは事の重大さに真っ青になっている。隣に座るハーマイオニーが手を握り、励ましているけれど、あまり効果は無いみたい。
 ハリーはヴォルデモートと正に鏡合わせの関係にある。二人が揃う事でこの世界は均衡を保っている。一方が滅べば、一方の世界が全てとなる。ハリーが勝利し、秩序と善性が尊ばれるか、ヴォルデモートが勝利し、混沌と悪性が尊ばれるか、二つに一つ。
 スクリムジョールの言う通り、ハリーは正に俺達にとっての希望だ。何者にも変えられない唯一無二の希望の光。 

「次はユーリィ・クリアウォーターの予言だ」

 ついに来た。アル達はある程度既に聞いているみたいだけど、俺はこれが初めてだ。
 確実に言えるのは、ハリーのように己の存在を秩序と善性の立ち位置には居ないだろうという事。
 恐怖で体が震える。こんなんじゃ駄目だと分かっているのに、俺はこんな時でも臆病なままだ。

「大丈夫だ」

 アルがそっと手を握ってくれた。
 驚く程、心が温かくなって、震えが止まった。
 アルが居れば、俺は少し強くなれる気がする。アルの存在が俺に勇気をくれる。
 スクリムジョールは俺が顔を上げるのを待ってくれていたみたい。俺が聞く準備を整えるのを見届けてから、彼は口を開いた。

「君の予言はこうだ。『希望を覆い尽くす絶望の足音が聞こえる。穢れた魂は八つ目の月が生まれる時、帝王に抗う純血の下に生まれるであろう。その者は希望を絶望へ変えるであろう。その者が在る限り未来は無い。その者を封じなければ、死が世界を覆うだろう。しかし、その者の死は新たなる絶望の呼び水となるであろう。その者の異界知識を帝王が手に入れた時、天秤は傾き、帝王の望む世界が不破なるものとなるであろう。されど、その世界に勝者は無く、敗者は一人……嘆きの丘で朽ち果てるであろう』。これが予言の全文だ」

 読み上げられた内容は俺という存在を否定するものだった。穢れた魂。絶望。世界を死で覆う……まるで、悪魔を指し示すかのような文章。

「これが……俺の?」
「確実にそうだという確証があるわけでは無い。だが、現時点で君がこの予言に最も当て嵌まっている」

 スクリムジョールの言葉を聞きながら、空中に浮かぶ予言の文字を読み、俺はその文章の一節に眼を止めた。
 スクリムジョールの読み上げた文章は一部が改変されていた。きっと、意味が通じなかったのだと思う。
 それはそうだろう。その言葉は日本独自のメディアが作り上げた造語だ。日本で野球中継を見ていれば、耳にした事があるかもしれない。
 だからこそ、余計に予言は俺に当て嵌まる。その言葉は現役高校生ながら、高校生のレベルを超えた次元にある実力者に対する賞賛を意味するキャッチコピー。

「でも、どうして……?」
 
 どうして、メディアのキャッチコピー? 
 意味が分からない。絶望というだけなら、予言の文章として違和感は無い。だけど、その言葉だけが違和感を伴っている。

「超高校級の……」

 呟いた途端、酷い頭痛がした。見覚えの無い光景が視界にチラつく。
 暗い路地。隣街の電気店。店頭に並ぶテレビ。そこに映るのは見覚えのある公園。
 連続殺人。猟奇的犯行。犯人は高校生の少年。
 逃げる。逃げる。逃げる。
 どこまでも、歩き続ける。
 知らない公園。地面に落ちた真新しい雑誌。

『高円寺連続猟奇殺人事件!! 犯人の少年の家には三体の死体!! 少年の部屋には殺人をモチーフにしたゲームや漫画が多数発見される』

 雑誌の写真。少年の部屋。少年がプレイしていたゲーム。
 仮想と現実の区別がつかなくなった異常者。
 低俗な雑誌がゲームに登場する単語をもじって付けた加害者少年の呼び名。

――――超高校級の……人殺し。

 見覚えの無い光景。俺はこんな光景知らない。俺はこんな事していない。俺は……人を殺してなんて……。

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