第十二話「彼の名は……」

「どうして、生きてるんだ?」

 目が覚めた時、最初に頭に浮かんだのは自分が生きている事への疑問だった。死の呪いを受けたわけでは無いにしろ、最後に視た紅蓮の龍は己の死をこれ以上無く痛感させた。空は暗かったし、俺は湖に落ちた筈だ。救出されたにしても、その頃には溺死か、あるいは失血死していた筈だ。なのに、生きている。
 体に痛みは無い。起き上がろうと思って、腕を動かそうとした時、漸く自分の体に起きた不調に気がついた。
 左腕は問題無い。爆発の呪文を受けたダメージは既に完治しているらしい。
 問題は右腕だ。全く動かない。それ所か、感覚自体が存在しない。

「そうか……、あの炎の龍に焼かれて……」

 炎に燃やされる激痛と炭化していく己の腕を見る恐怖が甦る。
 恐ろしい。右腕のあるべき場所を見るのが怖い。あるべき物が無かったら、そう思うとジワリと嫌な汗が流れた。
 ここは保健室だ。つまり、俺を治療したのはマダム・ボンフリーという事になる。彼女の治療の腕は確かだ。だけど、燃え尽きた腕を蘇生する事が出来るとは思えない。

「俺の……腕」

 恐る恐る左腕を動かす。何度も躊躇いを覚えながら右腕のあるべき場所を探っていく。
 右腕がまだあるのなら、後十センチ左腕を動かすだけで何かに触れる感触がある筈だ。願わくば、ただ触覚が麻痺しているだけだと信じたい。
 覚悟を決め、左腕を動かそうとした瞬間、鋭い声が響いた。

「まだ、それに触れてはなりません!!」

 驚いて声の方に頭を向けると、マダム・ボンフリーがせかせかと駆け寄って来た。

「あの……、俺の腕……あるんですか?」

 自分でも間抜けな質問をしていると自覚している。でも、聞かずにはいられない。触れてはならない。彼女はそう言った。俺の右腕のあるべき場所に触れる物がある。
 泡沫の如き僅かな希望。吹けば消え去るような儚い願い。分かっている。分かっていても、望まずには居られない。

「無論です」

 彼女の肯定の言葉が脳に浸透するまでたっぷり時間が掛かった。

「本当……ですか?」

 恐る恐る、俺は首を動かした。右腕のあるべき場所。ゴクリと唾を飲み、視界に捉えたのはまるでミイラのように包帯でグルグル巻きにされた俺の腕だった。
 あった。俺の右腕は確かに存在した。喜びに浮かれ、思わず左手で右腕を掴もうとすると、マダム・ボンフリーは鬼のような顔を浮かべて怒鳴り声を上げた。
 どうやら、まだ完全に治癒出来たわけでは無いらしい。
 マダム・ボンフリーの話では、俺の右腕は表皮は愚か、神経や筋肉まで炭化してしまっていたらしい。辛うじて骨と幾らかの肉だけは残っていたそうだが、あまりにも無残な状態だ。尚更、どうして俺の右腕が残っているのか不思議になった。思ったままに口にすると、マダム・ボンフリーは鼻を鳴らして言った。

「誰が貴方を治療したと思っているのですか?」

 言葉も無かった。説得力があるんだか無いんだか分からない。だけど、俺に出来る事は彼女を信じる事だけだ。

「右腕を自由に……戦えるくらいに回復するにはどのくらい掛かりますか?」
「戦うですって!?」

 マダム・ボンフリーは素っ頓狂な声を上げた。逆にこっちが驚く程の大声を上げると、彼女は猛然と詰め寄って来た。

「なりません!! 貴方はどういう状態で発見されたか知らないのです!! 右腕は焼け落ち、左半身は至る所を粉砕骨折していて、その上無数の石が深々と突き刺さっていたのですよ!?」

 よく生きていたな、俺……。
 思った以上に酷い状態だったらしい。左手を握ったり開いたりしてみても、特に痛みは感じない。さすが、マダム・ボンフリーだ。

「……俺は何日眠っていたんですか?」

 マダム・ボンフリーは今度は素直に教えてくれた。三日だと……。
 
「……ユーリィは?」

 声が震えた。ユーリィは何事も無く無事に助けられた。そう言って欲しい。俺は失敗した。だけど、俺より優れた魔法使いは幾らでも居る。ダンブルドアを含め、学校の先生達は皆凄い魔法使いの筈だ。特にスネイプは去年、日記のヴォルデモートと対峙し、その卓越した戦闘技術を見せつけた。あの先生ならきっと……、そう期待してマダム・ボンフリーの顔を見た。その瞬間、期待は粉々に打ち砕かれた。
 この世の終わりを思わせる哀しそうな顔。涙が頬を伝い、床に滴る。

「まさか……」

 マダム・ボンフリーは何も言わない。言えないのだ。何度も言葉にしようと口を開こうとしているけど、その度に嗚咽が漏れるばかり。
 彼女はこの三年の間に何度もユーリィと接していた。一年目はネビルの救出で骨折した時。二年目はヴォルデモートに拷問を受け、バジリスクの魔眼によって石化された時。
 
「三日……」

 俺の眠っていた三日の間にユーリィはどこで何をしていたのだろう。豪華な食事と快適な住居を提供され、丁重なお持て成しを受けているなどとは夢にも思わない。去年、拷問され廊下に打ち捨てられていたユーリィの姿を思い出した。
 深い絶望感に襲われ、自分でも感情をコントロールが出来なかった。動く左手で頭を押え、獣のように叫び声を上げた。そうでもしないと、狂ってしまいそうだった。
 三日。闇の帝王が何の目的でユーリィを攫ったのか、確かな事は知らない。だけど、何らかの情報を引き出そうとしているなら、酷い拷問を受けているに違いない。だけど、ただ拷問を受けているだけならまだマシだ。もし、ユーリィが秘密をばらしてしまったら、ユーリィの命の価値は格段に落ちてしまう。どうでもいい存在として処理されてしまうかもしれない。
 物言わぬ骸となったユーリィの姿を想像して涙が出た。

「頼む。マダム・ボンフリー!!  教えてくれ!! いつになったら俺は戦えるんだ!? いつになったら、ユーリィを探しに行けるんだ!?」

 冷静さはもはや無かった。今すぐにでも飛び出して行きたい。当てなど無いが、それでもジッとしているのが辛い。

「……すく、なくとも、後一日はジッとしていなければなりません。この三日間で貴方の体は素晴らしく順調に回復しています。ですが、今無理に動こうとすればまた寝たきりに逆戻りですよ?」
「一日……か。あの、俺がユーリィと死喰い人を取り逃がした後、何がどうなったんですか?」
「それについてはむしろ話したがっている人達が居ます。ですが、今は治療に専念なさい。余計な事をして、入院を長引かせては元も子もないでしょう?」
「……はい」

 ユーリィを救うには完全に体調を回復させる必要がある。
 腹立たしいが、今はマダム・ボンフリーの言う事を素直に聞いてジッとしているほか無い。

第十二話「彼の名は……」

 俺はそれから二十四時間、湧き上がる焦燥感と絶望感、そして怒りの感情に揉まれながら過ごした。包帯はまだ解かない方が良いらしいが、感覚は戻ってきている。指先まで包帯でグルグル巻きにされているせいで動きは鈍いが確かに可動する。
 治癒が完了すると同時に保健室には人が雪崩れ込んだ。見知った顔もあれば、知らない顔もある。マダム・ボンフリーはあまり良い顔をしなかったけど、ユーリィを救う為に目を瞑って貰う。

「随分と無茶をしたな」

 父さんは少しやつれた様に見える。この四日間、ずっとユーリィの捜索をしていたんだろう。結果には結びついていないらしいが……。

「貴方が生きていて本当に良かったわ」

 ソーニャの顔を見た瞬間、俺は罪悪感で頭がおかしくなりそうだった。散々泣いたんだろう。目の周りが真っ赤になっている。鼻も赤い。
 後ろに佇むジェイクも同様だ。
 去年の事で散々苦しんだ二人がまた辛い思いをしている。それが溜まらなく苦しい。

「……ごめん。ユーリィを……助けられなかった」

 唇を強く噛み過ぎて血が滴った。

「アル!!」

 ソーニャは慌ててハンカチを俺の口元に当てた。本当に優しい人だ。ジェイクも息子の事を思って気が狂いそうな程悲しんでいる筈なのに、それでも俺を心配している。ユーリィを助けられなかった俺を心配してくれている。
 
「ごめん……。本当にごめん……。ちくしょう……ちくしょう……」

 それまで抑えつけていた感情が暴発しそうになり、俺は瞼を固く瞑り、深く溜息を吐いた。

「アル……」

 再び瞼を開くと、ロンとネビルが居た。二人共死人のような青褪めた顔をしている。

「覚えてるのか……?」

 俺が聞くと、二人は頷いた。

「二人は悪くない。ただ、操られただけだったんだ……。っていうか、悪かったな。ロンには腹に一撃入れちまったし」

 茶化そうとして、上手くいかなかった。二人共、今にも泣きそうな顔で首を振った。

「違うんだ。アイツは僕の鼠だったんだ!!」

 ロンは言った。正直、意味が分からない。

「ロン。そんな説明じゃ分からないでしょ?」

 嗜めるような口調で言ったのはハーマイオニーだった。ハリーも一緒だ。

「アル。ユーリィを誘拐した男は動物もどきだったのよ。ロンの鼠を覚えてるでしょ? スキャバーズの事よ。スキャバーズは人間だったの」

 スキャバーズの事は勿論知っている。餌をやった事もあるし、浮遊呪文で虐めた事もある。あれが人間だっただと?
 
「僕、知らなかったんだ。あ、あんな……あんなのと一緒にベッドで寝てたなんて……」

 今にも吐きそうな顔でロンは言った。ユーリィを攫った小太りの中年男を思い出す。

「ワームテールか……」
「ワームテールだって!?」
 
 俺の言葉に反応したのは見知らぬ男だった。みすぼらしい継ぎ接ぎだらけのローブを着たスネイプくらいの年齢の男。
 彼は真っ青な表情で俺に掴み掛かってきた。

「本当なのかい!? 本当にユーリィ・クリアウォーターを攫った死喰い人はワームテールだったのかい!?」

 男は慌てて駆け寄って来た父さんと後ろに待機していたスクリムジョールに取り押さえられた。
 尋常じゃない様子の男に呆気に取られているとダンブルドアが話し掛けてきた。

「お主が玄関ホールを出た後の事は誰も知らぬのじゃよ。どうか、わしらに教えてくれぬか?」
「勿論。ユーリィを救う為なら何でもする」

 俺が言った瞬間、皆が息を呑む音が聞こえた。

「な、なんだよ?」

 驚いて皆の顔を見回すと、誰も彼もが悲しそうな顔を浮かべた。
 そんな中、ジェイクが俺の傍まで歩いて来て言った。

「もう、良いんだよ」
「……は?」

 何が良いんだ? 意味が分からない。

「ユーリィはもう帰って来ない。だから、アルは無理をせず、しっかりと体を休ませるんだ」

 普段のジェイクからは考えられない程冷め切った声。冷め切った考え。冷め切った表情。

「ふざけるな!!」

 誰にその事を告げられるよりも頭にきた。
 怒りで頭が真っ白になり、俺は気がつくとジェイクの服の襟を掴んでいた。

「ユーリィの死体が見つかったってのか!?」
「……いいや」
「だったら、なんでそんな諦めたみたいな事を言うんだ!?」

 冷静になればジェイクの考えている事も分かる。四日経ったのだ。拉致されてからそれだけの時間が経ち、ユーリィの生存の可能性はもはや風前の灯だ。嘗て、闇の勢力が跋扈していた時代を生きていたジェイク達なら尚の事、ユーリィの生存が絶望的である事を感じている事だろう。
 だが、それがどうした? 

「ユーリィはまだ生きている!! アイツが助けを待ってる!! 絶対に助けるんだ。絶対にだ!!」

 ただの感情論な事は分かってる。だが、それがどうした。冷静ぶって、諦めを口にするなんて冗談じゃない。

「……アルフォンス君。君は自分がどういう状態で発見されたか分かっているのかい?」
「片腕が燃え尽きて、半身が粉砕骨折しただけだろ!! マダム・ボンフリーが治してくれた。もう、戦える!!」

 呆気に取られたような表情を浮かべるジェイクに俺は段々と冷静さを取り戻しつつあった。
 思わず怒鳴ってしまったけど、相手はユーリィの両親だ。幼い頃から俺の事も気に掛けてくれていた彼に怒鳴ってしまった。
 段々気まずくなって来た。

「……えっと、ごめん」
「……ううん。こちらこそすまなかったね。ありがとう、アルフォンス君」

 照れくさくてソッポを向くと、頭に重みを感じた。ジェイクの掌だ。頭を撫でてくれるのはかなり久しぶりな気がする。

「アイツは絶対に生きてる。だから、諦めなんて口にしないでくれ。頼むよ……」
「本当にあの子は愛されているね」

 漸く、ジェイクの顔にいつもの穏やかな笑みが戻った。やっぱり、彼には笑顔で居てもらわないと困る。冷め切った表情なんて、ジェイクには似合わない。

「私の息子を危険から遠ざけたいと思ってくれるのは嬉しいけど……」

 母さんだ。酷く哀しそうな顔をしている。

「アンタの口からあの子の生存を諦めるなんて言葉……吐かないで欲しいわ」
「すまない」

 母さんは鼻を啜ると、俺を見た。

「でも、望みが薄いのは確かだわ。だから、アル」

 母さんの言わんとしている事は分かる。
 だけど、

「俺はユーリィを助ける。それだけだ」

 俺はベッドから立ち上がり、ダンブルドアに顔を向けた。

「話すより、直接見て貰った方が良いと思うんです。ついて来てもらえますか?」

 ダンブルドアだけは納得したような表情を浮かべたけど、他の面々は困惑した表情を浮かべている。俺は構わずに必要の部屋へ向かった。作り上げるのはユーリィが俺に秘密を明かすために作った部屋だ。
 あの時、俺はあまりにも衝撃的過ぎる光景に圧倒され、ユーリィを直ぐに追い掛ける事が出来なかった。あの時、直ぐにでもアイツの全てを受け入れてやっていれば、こんな事にはならなかった筈だ。そう思うと、堪らなく悔しい。
 必要の部屋は人数によって広さを変えるらしい。俺とユーリィだけで入った時よりもずっと広い空間がそこにあった。中央の水盆の大きさは変わらないが、元々かなり大きな物だったから、むしろこの方が自然に見える。

「これは憂いの篩ね?」

 見知らぬ魔女が言った。

「わしの部屋にもあるんじゃが、こちらの方がずっと大きいのう」

 ダンブルドアは感心したように髭を撫でながら言った。

「ここに記憶を投影する。俺、あんまり説明が上手な方じゃないからさ」

 言いながら記憶を移そうとして、俺は肝心な事に気がついた。
 記憶を移すって、どうやればいいんだろう?
 突然固まった俺に皆が不思議そうな表情を浮かべている。気まずい。

「えっと……、記憶ってどうやって抜き取ればいいんだ?」

 俺の言葉に皆が何とも言えない微妙な表情を浮かべた。
 どう思われようが、知らないものは仕方ない。

「ウォーロック。抜き出したい記憶に意識を集中し、額に杖を当てるのだ」

 背後から咳払いをしながらスネイプが声を掛けてきた。
 先生も呆れた表情を浮かべている。忌々しい事この上無いが大人しく言う事を聞いて、記憶に意識を集中させる。
 戦いの記憶。取り逃がした喪失感。奪っていく者への怒り。額に杖を当てると、銀色の光が漏れ出した。記憶だ。
 篩の中に注ぐと俺は少し意識がクリアになるのを感じた。不思議な心地良さを感じる。
 
 自分の記憶を客観的に視るのは実に不思議な感覚だった。
 結果がどうなるか分かっているからこそ、自分の行動の一つ一つの粗が分かる。あの場はああするべきだった、この場はこうするべきだった。そんな事ばかり頭に浮かぶ。もっと、上手く立ち回れた筈なのにと思いながら、俺は再びユーリィを取り逃がす喪失感に襲われた。
 記憶の再生が終わると、俺達は必要の部屋へと戻って来た。皆、思い思いの表情を浮かべている。最初に口を開いたのはネビルだった。

「……ごめん。僕らが邪魔をしなければ、間に合ってたかもしれない……」

 それがネビルの出した結論だ。否定の言葉は思いつかない。二人の足止めは本当に一瞬だった。だけど、その一瞬があまりにも致命的だった。
 二人を沈黙させ、ワームテールを追うまでの数秒が無ければ、あるいは玄関ホールの外へ逃がすことも無かったかもしれない。
 確信した事がある。あの小太りな中年男は戦闘が得意では無い。真っ向からやり合えば、子供の俺でも勝てない相手じゃない。だからこそ……いや、そんなIFを考えても仕方が無い。

「二人は悪くない。取り逃がした責任は俺にある」

 ロンが何か言おうとするのを遮る形で言った。俺は自分の器の小ささを弁えている。これ以上、二人が何か言えば、俺は取り返しのつかない言葉を発してしまう気がする。
 俺は二人の事を大切な友達だと思ってる。その関係を壊したくない。だって、その関係を壊してしまえば、俺は二人をもうただの同級生とすら見れなくなってしまうだろう。

「それより、何か分かったんですか?」

 話の矛先をダンブルドアに向けた。さっきから、ダンブルドアとマクゴナガル、スネイプの三人がしきりに何かを囁き合っている。さっき、俺に掴み掛かってきた男も他の見覚えの無い面々と意見を交し合っている。どうやら、俺の記憶の中に何か手掛かりがあったらしい。
 比較的、話を聞き易いダンブルドアに聞くことにした。
 
「あまり、期待に沿える内容では無い」

 ダンブルドアは深く消沈したような表情で言った。

「ただ、あの二人の死喰い人の正体が分かった。そして……、怨敵だと考えておった男が実は味方であった可能性が浮上したんじゃ。じゃが、クリアウォーター君の居場所に繋がる手掛かりは……」
「正体ってのは?」

 落胆はある。だけど、全く関係ないと思われる事柄が取っ掛かりになる可能性もある。
 ダンブルドアは小さく咳払いをすると、皆の視線を集めた。

「まずは奴らの正体を共有しておこう。まず、ワームテールと名乗った男の真の名はピーター・ペティグリューじゃ」
「で、ですが、アルバス。そんな……でも……」

 マクゴナガルは苦悩に満ちた表情を浮かべた。彼女はピーター・ペティグリューを知っているらしい。いや、彼女だけじゃない。この場に居る大人達の殆どが皆一様に似たような表情を浮かべている。

「では、シリウス・ブラックは……」

 見知らぬ面々の一人の言葉にダンブルドアが頷いた。

「無罪……じゃった。そう考えるのが自然じゃろう。十三年前、数本の指のみを残し、肉体その物が消失したと考えておったが……よもや」
「……スキャバーズはパーシーに譲られる前から指が欠けてた……」

 青褪めた表情で呟くロンに続くように、あのみすぼらしい男が言った。

「そして、ピーターは鼠の動物もどきだった。それに、ワームテールはピーターが学生時代に使っていた秘密の名前だ」

 顔に深い憤りの色を浮かべる男にダンブルドアは大きく頷いた。

「確定的じゃな。ワームテールはピーター・ペティグリューじゃ。そして、もう一人の死喰い人。奴の名もわしは知っておる」

 ダンブルドアの口から聞かされた名は俺も知っている名前だった。
 もっとも、正確には父親の名前として知っていたに過ぎないのだが……。
 奴の名は日刊予言者新聞に掲載されていた。

「バーテミウス・クラウチ・ジュニアじゃ」

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