第十三話「クィディッチ・ワールドカップ開戦」

第十三話「クィディッチ・ワールドカップ開戦」

 翌朝、ダリウスに起こされて目を覚ますと、テントの外は大賑わいだった。遠くの空に第一回戦のフランスVS中国の文字が浮かんでいる。あそこが会場らしい。
 準備を整えて会場に向かうと、途中で露天がいくつもあった。高性能な双眼鏡を一人ずつ買って、その他に俺は日本とイギリス、それにソーニャの故郷のロシアのチーム・エンブレムのワッペンを買って服に魔法で縫いつけた。アルはイギリスチームの選手のユニフォームをモデルにした上着を買って、ハリーとハーマイオニーもお揃いでイギリスチームのエンブレムが刺繍された旗を買った。ダリウスもアメリカのチーム・エンブレムを制服の肩袖部分に縫いつけ、俺達は会場に入った。
 会場はとにかく巨大でびっくり。滑らかな石をくり貫いて作ったみたいな巨大コロシアムの中を上へ上へと目指し、両チームのゴールを丁度左右に見渡せるフィールド中央近くの特等席に座った。ボックス席でダリウスとトンクス、マッドアイの他に数人の連合メンバーが居る。会場内は一万人を軽く越える大勢の観客で賑わい、隣同士でもまともに会話が出来ないくらい騒がしい。
 マッドアイが杖を軽く振るうと歓声が突然小さくなった。

「防音呪文だ。これで漸くマシになった。まったく、耳がイカレルかと思ったぞ」

 不機嫌そうなマッドアイだけど、彼のローブにもイギリスチームのエンブレムがしかりと縫い付けられている。
 
「第一回戦はフランス対中国。んで、二回戦目はアメリカ対タンザニア。日本は今日の最終戦みたいだな。相手はドイツだ」
「まあ、今日中に二回戦が無事行われれば順調と言えるがな。シーカーが両方お粗末だと、延々試合が終わらねーし」

 ダリウスの言葉に心配になった。俺のお目当ては日本チームの試合だ。肝心の試合が見れないんじゃガッカリだ。

「大丈夫よ、ユーリィ! フランスチームにはシャルル・ニコラが居るわ。彼って、素晴らしいシーカーだそうよ。中国なんてあっと言う間に片付けてくれる筈だわ」
「ハーマイオニー。まさか、君はあのナルシストっぽい奴のファンなのかい?」

 ジトッとした目でハリーが睨み付けると、ハーマイオニーは明後日の方向を向いて乾いた笑い声を上げた。

「ま、奴がフランスチームのエースとして面目躍如してくれる事を祈ろうぜ。それより、我が祖国の英雄【マイケル・キッド】の活躍を俺は見たいね」
「その人もシーカーなの?」

 聞いてみると、ダリウスは首を振った。

「いいや。彼はチェイサーだ。自軍のゴールポストの傍から一直線に相手ゴールに向かってクァッフルを投げつける【レーザー・ショット】はとてつもないスピードで誰も防げないらしい。フィッチバーグ・フィンチズって、アメリカリーグで七回も優勝してる常勝チームのエースよ」
「私は中国チームも面白いと思うんだけどねー」

 とトンクス。

「中国チームなんて、毎回初戦敗退じゃん」

 アルが馬鹿にしたように言うと、トンクスは首を振った。

「甘いなー。中国チームが毎回負けてるのはシーカーに差があるからよ。チェイサーの三人とビーター二人が一丸となってゴールポストへ突っ込む【チーロン】って技を今まで止められた選手は居ないそうよ」
「【ホークスヘッド攻撃フォーメーション】の変形技か? ビーターまで一緒に飛ぶのかよ!? 迫力あるだろうなー」
「得点力では他国に決して負けてないのよ。だから、もしかしたら大番狂わせもあるかもしれないわよ」

 いよいよ始まる試合にみんな平静を装っていられなくなってる。
 あのマッドアイですらお気に入りのチームについてダリウスに語り出した。

「タンザニアチームも甘くはないぞ。あの編隊を組んで旋回するプレイはとにかく凶悪だ。奴等のコンビネーションはまさに狩りをするライオンやトラそのものだ。わずかな隙も見逃さずに首元を狙ってくるぞ」
「へっ! 畜生なんかに負ける我らがアメリカチームじゃないさ! キッド以外にもアメリカチームにはとんでもない選手がわんさか居るんだぜ。テキサスのスピードスター、【スティーブ・タイラー】は一度視界に捕らえたスニッチは決して見逃さねぇ」

 盛り上がるクィディッチの話に俺も加わろう。

「日本チームだって、凄いんだよ! チェイサーの風魔小太郎は相手が持っていたクァッフルを相手に気付かせないで奪う【隠密】って技を持ってるんだって!」
「けど、相手はあのドイツだぜ? 相手の動きをこれでもかってくらい分析して徹底的に計算されたプレイが有名なチームだ。そう簡単に勝てる相手じゃない」

 どの国が勝利するかの論争がヒートアップする中、突然上空に花火があがった。
 いよいよ、試合が開始されるみたい。

『さあ!! お待たせ致しました――――ッ!! いよいよ始まります【クィディッチ・ワールドカップ】!! 当会場の実況をやらせて頂きます。私はカーライル・ムーニーです!! それでは、始めに当国魔法省大臣による試合開始の宣誓です!!』

 突然響き渡った実況の言葉が終わると同時に上空に魔法省大臣のファッジの姿が現れた。ここには居ない筈だから、別の会場の光景を魔法で映し出しているんだと思う。
 ファッジの試合開始の言葉と共にフィールドの右側から光の爆発と共に無数の星を従えるフランスチームが入場して来た。色とりどりの光の星がフィールドを舞い、徐々に中央に集まっていく。 
 何だろうと思っていると、星がいきなり四散して、立体映像のシャルル・ニコラが現れマントをはためかせた。

「ウゲェ」

 アルとハリーはそれを見て吐く真似をしてハーマイオニーに拳骨を喰らう。
 シャルルの立体映像は瞬く間に消え去り、フランスチームは自軍のフィールドに滞空し始めた。
 すると、今度は右側から炎の龍が現れた。観客席から悲鳴が響き渡る中、龍は上空へと駆け上り、雲を突き抜けたかと思うと、途端に身を翻して地上めがけて大きく顎を開いた。その口からはブレスの代わりに七人の中国人チームの選手達が現れた。ドラゴンはそのまま選手の後を追い、選手達が自軍のフィールドに到着すると同時に四散して、彼らの背後に炎の国旗が現れた。

「かっけええ」

 アルは目を輝かせて興奮してる。ドラゴンが大好きみたい。
 でも、気持ちは良く分かる。中国チームの入場パフォーマンスは文句無しにかっこよかった。

『さあ、始まります!! フランスチームVS中国チーム。フランスの英雄、シャルル・ニコラ率いる強豪フランスチームに中国チームの大番狂わせはあるのでしょうか!? 今、試合開始です!!』

 試合スタートと同時に攻撃を仕掛けたのはフランスチームだった。

『おっと!! 最初に動いたのはフランスチーム!! アルフレッド・アラゴンがクァッフルを持って中国チームに迫っていくぞ!!』

 双眼鏡なんて覗いてる暇が無い。アルフレッド選手はとてつもないスピードでフィールドを疾走していく。みるみるフィールドの半分以上を走破されてしまった中国チームが慌てて彼に突っ込んで行くけど、その瞬間、信じられない事が起こった。

『こ、これは!! 【逆パス】だ!! ボールは後方を飛んでいたアレクセイ・ボールドウィン選手の手に渡った!!』

 今、彼は後ろを振り向いて居なかったように見えた。
 振り向きもせずに肩越しにクァッフルをパスしたんだ。信じられない。絶対的な信頼関係が無かったらとても真似出来ない技だ。

「すっげええええ!!」

 アルとハリーの歓声が重なる中、試合は動く。アレクセイはそのままゴールポストへ一直線だ。いきなり得点が入ってしまうのか、そう思った瞬間、中国チームの二人のビーターがブラッジャーを同時に叩きつけ、アレクセイ目掛けて攻撃を仕掛けた。いつも、学校で見てるブラッジャーのスピードじゃない。まるでミサイルみたいに錐揉み回転しながら襲い掛かるブラッジャーをアレクセイはギリギリで見事に回避に成功したけど、その隙を見逃さず、中国チームのチェイサーがクァッフルを掠め取った。

『大技炸裂!! 中国チームのビーター、道・王選手と李・小龍選手の【ドップルビーター防衛】だ!! そして、クァッフルは中国チームの紅一点、金・麗華選手の手に!! そして、これは!! チェイサーの孫紅雷選手と陳道明選手が金選手の下へ集まって行く!! ビーター二人も集まり、これは!! 【チンロン】だ!!」

 凄い迫力。五人の選手が一つの弾丸のようにまとまり一気にフィールドを押し返して行く。フランスチームがブラッジャーをぶつけようとしてもビーターの二人が見事に防いでしまい、チェイサーの三人がボールを奪おうとアタックを仕掛けても、金選手を護る鎧のように他の四人の選手が彼女を取り囲んでいて手が出せない。故意にぶつかりにいくのは【ブラッチング】という反則になってしまうからだ。

「こうなってくると、スコア・エリアに入ってからが勝負だな」

 アルは唾をゴクリと呑み込みながら言った。
 スコア・エリアに入れるのはチェイサーの二人だけだ。それ以上の人が入ると【スツージング】という反則になる。
 フランスチームはスコア・エリアで迎え撃つ気らしい。選手全員が全速力で後退していく。

「どうするんだろう」

 ハラハラしながら見守っていると、スコア・エリアに入る直前にチェイサーの一人、孫選手が速度を上げた。鉄壁の護りに皹を入れる攻城兵器の如き突進。その手にはいつの間にかクァッフルが握られている。フランスチームはマークを金選手から慌てて孫選手に移す。だけど、それが孫選手の狙いだった。

『こ、これは!!』
 
 実況のカーライルも度肝を抜かれたような絶叫を上げた。
 孫選手はゴールポスト寸前で肩越しにボールを金選手にパスしたのだ。しかも、後方を確認もせずに。

『逆パスだ!! アルフレッド選手とアレクセイ選手のお株を奪うフェイトによって、クァッフルは再び金選手の手に渡る!! そして――――ッ!!』

 先取得点は中国チーム。ハラハラドキドキする激闘を最初に制したのは中国チームだった。
 そこから先は中国優勢のまま試合が進んだ。攻撃力を極限まで特化させた中国チームを前にフランスチームは策を弄するけど、悉くを真正面から打ち砕かれていく。
 チーロン……赤龍によって、フランスチームは無残に食い千切られていった。
 唯一人を除いて……。

『ああっと、ついにこの時がやってまいりました。フランスが誇る英雄、シャルル・ニコラ選手がついに……ついに、動いた!!』

 百三十点差。五時間にも及ぶ攻防戦によって両者の間に付けられた絶望的な点数。だけど、中国チームの選手の目に浮かぶのは希望では無く絶望だった。
 二十点。後、二十点あれば、彼らの勝利は確定していた。だけど、時の女神はフランスチームに微笑んだ。
 流星の如く、シャルル選手は一直線に急降下していく。中国チームのシーカーも慌てて後に続くけど、スニッチを捉えられていない。その隙にシャルル選手はぐんぐんスニッチに近づいていき、やがてその手に金の輝きを宿した。

『試合終了!! 金のスニッチはフランスチームの手に渡りました!! この瞬間、六十対百九十の点差がいっきに逆転します!! この試合、二百十対百九十でフランスチームの勝利です!!』

 会場が爆発したかのような歓声に包まれた。その声の殆どはシャルル・ニコラを称える声。
 
「ああ、クソッ!! フランス野郎の勝利かよ!!」

 アルは不機嫌そうに地団太を踏んだ。ハリーもむっつりした顔をしている。

「あらあら、やっぱりシャルル選手には勝てなかったみたいね」

 反対にハーマイオニーは嬉しそう。本当に彼のファンなんだ……。
 中国チームは箒に跨ったまま涙を流し、大声で吼えている。だけど、それ以上の歓声が彼らの嘆きを踏み潰す。これが試合なんだ。敗者の嘆きは勝者の栄光に潰される。弱肉強食。
 残酷な光景なのに、俺の胸は高鳴りっぱなしだ。

「かっこいい」

 今まで、そんなに興味を持っていなかったけど、今日、俺は初めてクィディッチに興味を持った。

「クィディッチって、かっこいい」
「マジでかっけぇよな。ああ、俺もあんな風に飛んでみてぇ」

 アルは心の底から憧れているみたい。アルがこの大舞台に立って戦う姿を想像してみた。

「きっと、凄くかっこいいよ!!」
「俺、俺さ……休み明けのグリフィンドールのクィディッチチームの選抜で挑戦してみるぜ」

 去年、チームのキャプテンのウッドが卒業して、今年は補欠だった人がキーパーに就任したんだけど、来年は一気に人数が減ってしまうために今年度中に来年からの選手の選抜をする事になってる。

「アルならきっと受かるよ。きっと!」
「そ、そうだよな。俺、俺もいつか……あんな風に……」

 目を輝かせるアルに俺は頬が緩んだ。
 最近、少し距離が離れてしまった気がしていたアルがようやく戻って来てくれた感じがする。
 勇者を目指して毎日手作りの木刀を振り回していた頃の可愛いアルが戻って来てくれた気がする。

「俺、応援するよ、アル」
「あ、ああ!」

 拳を握り締めて観客の声に応えるフランスチームを見つめながら彼は輝くような笑顔を浮かべた。
 彼の横には彼と同じように決意に燃えるハリーの姿がある。ハーマイオニーはそんな彼の後ろで熱っぽく彼を見つめている。
 ハリーはアルにとってライバルになるんだ。なんだか、楽しくなってきた。早く、次の試合を見たい。日本チームだけじゃない。色んな国の色んな戦いを見て観たい!!

『では、これより会場の整備の為に休憩を挟みます。二回戦のアメリカ合衆国VSタンザニアの試合は一時間後を予定しておりますので、観客の皆様はこの休憩時間の間にトイレや食事などを済ませて下さい。それでは、また後程お会いしましょう』

 肩透かしを食らった気分。観客からは早く始めろとのブーイングが飛んでいる。
 休憩時間の間、フィールド上では立体映像のコマーシャルが延々と流され続けた。炎の雷・ファイアボルトのコマーシャルを見た途端、アルとハリーは揃って羨望の溜息を零した。そんな二人がおかしくて、俺はハーマイオニーと一緒に吹き出してしまった。
 ご飯は彼女と二人でお弁当を作って来たからその場で食べた。
 食べながら、俺達は次の試合のアメリカ対タンザニアについて論議を交し続けた。
 どっちが勝つんだろう。どんな選手が出るんだろう。どんな戦い方をするんだろう。すごく気になる。
 
 一時間が経ち、会場の整備が終わった。試合中に破損した部位が修復され、フランスと中国の一戦が始まる前の状態に戻った。

『さあ、お待たせ致しました!! 一時間の休憩が終わり、今、第二回戦の準備が整いました!!』

 カーライルの声が轟く。試合が再び始まる。最初の試合の時とは違う。全身を駆け巡る血液の動きが分かる程、俺は興奮している。
 
『さあ、入場です!! まずは、タンザニアチーム!!』

 カーライルの号令と共にフィールドの左側から黒人のチームが現れた。彼らの背後には真っ黒な煙が追走している。

「な、何あれ!?」
「あれは黒魔術ってやつだな」

 ダリウスは興味深そうに言った。

「黒魔術って?」
「生贄とかを使って悪霊なんかを手駒にする術らしい」
「悪霊って、ビーブズみたいな奴の事か?」

 アルの言葉にダリウスは首を振った。

「あれはまた別物だな。ま、もしかしたら共通点があるかもしれないが、そもそもアイツは死者の霊じゃないからな。どっちかっていうと、ゴースト達に近いかもな。ただ、ホグワーツに居るような連中とは違って、タンザニアチームの従えてる悪霊は生者に害を為す類の存在だ」
「そんなのをワールドカップに連れてくるなんて!!」

 ハーマイオニーは悲鳴を上げた。

「完全に制御し切る自信があるって事だろうな。タンザニアチームには」

 悪霊はタンザニアチームが自軍のフィールドに到着すると同時にフィールド全体に散開した。黒いもやに見えたのは様々な種類の生き物だった。黒い煙が色々な種類の生き物の形を象り、フィールドを縦横無尽に暴れ回る。観客席に襲い掛かりそうであちこちから悲鳴が上がっている。
 そんな中、ピーッという音が響いた。聞こえる筈の無い音が響いた。
 この一万人以上が声を張り上げている会場内でタンザニアチームのキャプテンが口笛を吹いた。その瞬間、悪霊達は一斉に中央に集まり、自分達の体でタンザニアの国旗を描いた。

『な、なんというパフォーマンスでしょう!! 正直、試合自体が滅茶苦茶にされてしまうのでは無いかとヒヤヒヤしました……。さあ、気を取り直しましょう!! 続きまして、アメリカ合衆国の入場です!!』

 その瞬間、マッドアイの貼った防音壁が壊れてしまったのかと思った。アメリカチームの入場。その瞬間、まるで耳の近くで爆弾が爆発したかのような音がした。もはや物理的な衝撃を伴う音の爆発はアメリカチームの観客の歓声だった。
 観客席で観客達が巨大なアメリカの国旗を作り、入場と同時に光の玉が会場中へ広がった。
 アメリカチームが自軍のフィールドに到着すると、光の玉は一気に膨れ上がり、一斉に爆発を始めた。花火だ。色とりどりの光の奔流の中、アメリカチームのリーダーは箒の上に二本足で仁王立ちになり、右手の人差し指を突き出して天高く掲げた。

「我々がNo.1だ!!」

 リーダーの声に呼応するように、観客達が一斉にナンバーワンコールを開始した。

『こ、これは凄い!! 観客まで一丸となったアメリカチームのパフォーマンス!! 彼らの団結振りが伝わって来ます!! それでは、両軍が位置につきました!! 今、試合開始です!!』

 激突する両チーム。だけど、結果はあまりにも圧倒的だった。

「おいおい、一方的過ぎるだろ」

 ダリウスは苦笑いを浮かべている。タンザニアチームは編隊を組み、縦横無尽なパスを駆使した戦法で抗ったけど、アメリカチームはその圧倒的なパワーで彼らの戦略を真っ向から叩き潰した。
 ビーターの【ウィリアム・パーカー】と【ソニア・アンダーソン】は暴れ回るブラッジャーを完全に手懐けていた。針の穴を通すかのような正確さでブラッジャーをクァッフルを抱えている選手目掛けて飛ばしていく。威力はドップルビーター防衛ほどのスピードが無かったけど、抜群のコントロールによって、それ以上に凶悪な戦果を上げている。
 縦横無尽に動いている筈のタンザニアチームの動きを完全に先読みし、確実に当てている。取りこぼしたクァッフルはチェイサーの【ニコラス・マーフィー】と【エリザベス・カーター】のコンビが確実に捕らえ、ダリウスが祖国の英雄と称した【マイケル・キッド】に渡す。そうなったら、もうタンザニアチームに抗う術が無い。彼の【レーザー・ショット】はフィールドのどこにいてもあらゆるガードを振り切ってゴールにクァッフルを叩き込む。巨人に見紛う巨躯が生み出す怪物染みたパワーにタンザニアチームのキーパーは吹き飛ばされてしまった。
 そして、百四十対零という圧倒的な差をつけられる中、タンザニアチームのシーカーがスニッチを見つけ、逆転の可能性を信じて走り出すと、後から動いたアメリカチームのシーカー、スティーブ・タイラーがあっと言う間に距離を詰め、スニッチを掻っ攫っていった。わざわざユニフォームの袖でスニッチを捕まえる【プランプトン・パス】というパフォーマンスまで魅せて。

『あ、圧倒的!! 圧倒的過ぎるぞ、アメリカチーム!! 強豪タンザニアチームを相手に二百九十点の差をつけ、完全勝利だ!! 強い!! あまりにも強過ぎるぞ、アメリカチーム!!』

 試合が終了した事も忘れ、俺達はフィールドに釘付けになっていた。あまりにも圧倒的過ぎるアメリカチームの選手達。連携ならタンザニアチームは決して負けていなかった筈なのに、アメリカチームは軽々と彼らの上をいった。強力なチームワークと凄まじいまでの個人の力量。フランスチームはシャルル・ニコラというエースが一人居るだけだった。だけど、アメリカチームは選手全員がエースを名乗るに相応しい力量を備えている。アメリカチームの観客の歓声とは裏腹に他の観客達は拍手一つ無かった。ただ、不安だけを抱いている。このチームに勝てるチームはあるのだろうか? って。

『さて、再び休憩時間を挟みたいと思います。次の日本対ドイツの対戦は一時間後を予定しております。それではまた、後程お会いしましょう!!』

 いよいよ、次は待ちに待った日本チームの試合だ。だというのに、俺は疲れ切っていた。ただ、選手達の試合を見ているだけなのに、立ち上がるのもシンドク思える程疲れている。

「すげぇな、アメリカチーム」
「圧倒的だったね……」

 アルとハリーは戦慄の表情を浮かべている。

「俺、中国チームのビーターとか見て、ビーターがいいなって思ったんだけど、チェイサーやシーカーもいいなって思った」
「僕も同じだよ。なるなら、やっぱりチェイサーかシーカーだよね」

 二人が燃えている。ハリーは本当ならとっくにシーカーとして活躍出来ていた筈だ。なのに、俺のせいでシーカーになれずに居る。
 俺に出来る事があれば何でもしよう。二人にグリフィンドールチームの選手になって欲しい。
 時間はあっと言う間に過ぎて行く。
 二回戦目がたった三時間で終了してしまい、まだ空は茜色に染まり始めたばかりだけど、既にライトが点灯している。
 いよいよ、日本チームの戦いが始まる。相手は情報分析のエキスパートらしいドイツチームだ。

『さあ、本日最後の試合の時間となりました。いよいよ、日本チーム対ドイツチームの対決です!! まずはドイツチームの入場だ!!』

 左側から最初に入場したのはドイツチーム。七人の選手は真っ直ぐにフィールドに向かう。今までのチーム入場と比べると凄く静かで肩透かしをくらった気分。そう思った瞬間、ソレは突然現れた。
 彼らが自軍のフィールドに到着した瞬間、彼らの後方に巨大な円が現れた。光輝く円の中にはハーケンクロイツが禍々しく輝いている。

「あれって、ナチスの国旗!?」

 俺は驚きのあまり身を乗り出してしまった。間違い無い。あの逆さ卍模様はナチス・ドイツの国旗だ。

「ああ、よく知ってるな。ドイツは世界で唯一、マグルと結託して魔法を戦争の道具にしようとした国なんだ」
「魔法を戦争の道具に!?」
「ああ、当時のドイツのマグルのリーダーだったアドルフ・ヒトラーは精力的に魔法使いと協力関係を築き、魔法使いにとって住み良い環境を作ったらしい。理由はどうあれ、ドイツの魔法使い達にとって、アドルフ・ヒトラーは暮らしを良くしてくれた良きリーダーらしくてな。未だに彼らにとっての国旗はあのハーケンクロイツなんだそうだ。当時は亡霊の軍団をマジで実用化寸前までもっていったりと、危険な事をしでかした奴だから、俺からしてみりゃ、とんでもない大悪党って感じだけどな」

 嘗て、ユダヤ人を虐殺したり、恐ろしい事をたくさんした人だって生前に社会の授業で習った事がある。
 そんな人を未だに崇め続けるドイツの魔法使い達に俺は少し怖くなった。

『おっと、これはドイツチームの気迫が伝わって来るパフォーマンスだ。さて、日本チームはどんなパフォーマンスを魅せてくれるのでしょうか!! 日本チームの入場です!!』

 いよいよ、日本チームが入場してくる。高鳴る胸が抑え切れず、俺は観客席から身を乗り出した。

「あれが……日本チーム」

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。