第二話「闇の印」

第二話「闇の印」

 空気が重い。ハリーを連れて帰って来ると、既に家にはロンやネビル、ハーマイオニーが到着していた。アルはロンを見ると途端に目つきが鋭くなった。ロンも申し分けなさそうに顔を顰めている。アルは未だにロンの事を許していないみたい。俺の事を拷問したのはヴォルデモートがロンを操ったからなんだから、ロンを責めるのはお門違いもいいところなのに。
 
「アル。去年の事はもう――――」
「いや、分かってる」

 アルは片手で額を抑えながら後退さった。

「分かってるんだ。ロンは悪くない。分かってるんだよ。ただ……、どうしても……」
「アル。俺の事なら気にしないで――――」
「気軽に言うなよ!!」

 アルの大声に俺は口を開けたまま凍り付いた。皆も驚いている。

「お前! 僕がどんな思いだったか分かってるのか!? 血だらけで、手なんかグチャグチャで、腕や胸や足に穴空けられてて、あちこち火傷負ってて……。本当に死んじゃったのかと思ったんだぞ。体も冷たくなって、胸に耳を当てても鼓動の音がしなくて、僕が……どんな気持ちだったか……お前……お前は分かってんのかよ!?」

 胸に溜まったものを吐き出すように言うアルに俺はどう応えるべきか分からなかった。

「……分からないよ」

 漸く言えたのはその一言だった。

「俺はこうして生きてるんだ。痛かったし、苦しかったけど、今、生きてる。それじゃ、駄目?」
「駄目なんだよ」

 アルの腕が俺の襟首に伸びた。アルは泣いていた。鼻水を垂らして、顔をぐしゃぐしゃに歪めて、泣いている。

「駄目なんだよ。生きてるだけじゃ駄目なんだ。転んだり、ドジ踏んで怪我をする事はあるかもしれない。でも、誰かに傷つけられて怪我するのは駄目だ!!」

 困った。俺は癇癪を起こした子供のように泣くアルを見て、実に困った事に嬉しいと感じてしまっている。こうまで真正面から俺の事を思っての言葉を浴びせられると、まずい事に頬が緩む。

「しょ、しょうがないな、アルは」
「なんで、笑ってんだよ!?」

 怒られてしまった。さすがにちょっと不謹慎過ぎたな。とりあえず、いつまでもこうしてるわけにはいかない。

「分かったよ」
「分かったって、何がだよ?」

 ちょっとアルの手の力が緩んだ。その隙に抜け出して、言った。

「俺がアルの目の届かない所に行かなきゃいいんだろ? ペットじゃあるまいし、そうそういつも一緒には居られないけど、勝手に居なくなったりしないよ。それでいい?」
「いや、ペット扱いしたわけじゃ……」
「もういいでしょ? 今日はハリーとネビルと俺の誕生日パーティーなんだから」

 アルは渋々頷いた。まるで捨てられた子犬のような目。凄く落ち込んでる。

「やっぱり、僕……来るべきじゃなかった」

 ロンまでそんな事を言い出した。どうして、被害者本人が気にして無いって言ってるのに皆引き摺るんだろう。部屋全体に重苦しい空気が流れる。ハリーとネビルも気まずそうだし、ハーマイオニーもどこか呆れた表情を浮かべている。折角の誕生日パーティーなのに、これじゃ台無しだ。いい加減、少し腹が立ってきた。
 そうこうしている内に耐え切れなくなったのか、ハリーが無理に明るい声を出して言った。

「そ、そうだ! みんなでクィディッチの練習に行かない?」
 
 空気を変えるのにピッタリだと思う。

「いいね。皆で行こう。ネビルとハーマイオニーも箒を買ったんでしょ?」
「う、うん。婆ちゃんが皆と箒の練習をするかもって言ったら最新式のニンバス2001を買ってくれたんだ」

 ネビルはチラチラとロンとアルを見ながら言った。

「私も折角だから最新式を買ったの。そう言えば、高級クィディッチ用品店で凄く仰々しい宣伝をしてた箒があったわね。何て名前だったかしら……」
「それって、炎の雷――――ファイア・ボルトの事?」

 ハーマイオニーの言葉を聞き付けて、ロンが咄嗟に口を挟んだ。クィディッチの事となるとロンは本当に生き生きとした顔になる。アルも興味を引かれたのか顔を上げて不思議そうに尋ねた。

「ファイア・ボルトって?」
「レース用に開発された最新式の箒だよ。500ガリオンもするんだ!」

 ロンはさっきまでとは打って変わってウキウキとした様子で言った。アルも興味津々な様子。

「凄いんだよ。なんと、10秒で約240Km/hまで加速出来るんだ。柄には最高級のトネリコ材が使われていて、ダイアモンド硬度の研磨仕上げがしてあるんだ。おかげですっきり流れるような形状に仕上がってる。一本一本に固有の登録番号が手作業で刻印されてるんだ。尾の部分も凄いよ。シラカンバの小枝を1本1本厳選し砥ぎ上げているんだ。国際試合でも採用が決まってて、来年のクィディッチ・ワールドカップの主役はファイア・ボルトで間違いなしさ!!」
「そいつは凄いな!! ああ、今すぐダイアゴン横丁に行って見てみたいな」
「チラシならあるよ!」
「本当かい!? 見せてくれ!」
「待ってて、直ぐ取ってくる!」

 僕らは呆気に取られながら二人のやり取りを見ていた。さっきまでの重苦しい雰囲気は何だったんだろう。すっかり元の仲良しに戻ってしまった。二人してファイア・ボルトを褒め称えている。恐るべし、ファイア・ボルトの魅力。
 ネビルとハリーも二人の箒談義に混ざってしまって、白熱する四人に割り入る透間が無い。箒で空を飛ぶのは好きだけど、正直、その性能に瞳を輝かせるのはちょっと分からない。

「紅茶でも淹れてこようかな」
「私も手伝うわ」

 呆れたようにアル達も見ながらハーマイオニーは立ち上がった。
 アルはもうすっかりロンと普通に話してる。本当によく分からない。

「切欠が欲しかったんでしょうね」

 お湯を沸かして、簡単なお菓子を用意しながらハーマイオニーは言った。

「切欠?」
「アルもロンの事をとっくに許してたのよ。だけど、いざとなると、すんなり元の態度は取れない。不器用なのね、二人共」
「でも、あんなにすんなに仲直り出来るんだから、凄いや」

 俺なんかじゃとても真似出来ない。

「まあ、元々誰が悪いってわけじゃないし。肝心なのは、貴方がロンを許してる事よ。もし、貴方がロンを許してなかったら、アルもロンの事を憎んだままだったでしょうね。貴方が寝ている間のアルは本当に怖かったんだから」

 俺が眠っている間のアルは人が変わったみたいだった、と誰もが言う。ロンを殺そうとした、なんて話を聞いた時は冗談だと思った。もしくは、悪い夢。

「でも、貴方達って本当に仲が良いわね」
「生まれた時からずっと一緒だからね。アルの事、ずっと弟みたいに思ってた」
「確かに、ちょっと手間の掛かる弟って感じよね、彼」
「でも、最近ちょっと違うかな」
「違うって?」
「なんだか、一気に成長しちゃったって言うか……」
「まあ、ユーリィにとっては半年以上振りだもんね」

 紅茶とお菓子の用意が出来た。居間に戻ると、四人はまだ箒談義に熱中している。喧嘩するよりはずっといいけど、なんだか蚊帳の外。

「お茶入れたよ」

 返って来たのは空返事のみ。俺とハーマイオニーは溜息を吐いて先に紅茶を飲みながらお菓子を摘んだ。
 ハーマイオニーと他愛ない話をしながら過ごす時間は悪くない。なんだかんだで、ホグワーツでも一番長く接しているのはハーマイオニーな気がする。趣味も合うし、話していて楽しい。生前は女の子と話すと緊張してしまって、ただ疲れるだけだった。虐められっ子だった事もあって、よく病原菌扱いされた事もあった。男の子から受けた肉体的な暴力と女の子から受けた精神的な暴力のどっちがきつかったかって言えば、答えに迷ってしまうくらいだ。
 だけど、ハーマイオニーはそんな女の子達と違う。本当に優しくて、賢くて、可愛い。感情的になる事もあるけど、その思いには共感出来る部分が多い。本当に不思議な女の子だ。

「ハーマイオニーもクィディッチの選手になってみたいって思ってたりする?」

 興味本位で聞いて見ると、ハーマイオニーは少し迷ったように舌で上唇を舐めて首を振った。

「あんまり、自分でやるのは興味無いわね。ああいうのは見てるだけで十分。そう言うユーリィはどうなの?」
「俺もあんまり……。見ている分には楽しいんだけどね」
「応援してる方が楽しいって感じ?」
「そうそう。それそれ」

 取り止めの無い話をしていると、空が茜色に染まり始めた。ふと、四人に目を向けると、いつの間にか四人ともダウンしていた。話し疲れて眠ってしまったみたい。結局、紅茶とお菓子は俺とハーマイオニーで消費してしまった。四人を浮遊呪文でソファーに寝かせて、夜までそっとしておく事にした。パーティーの後もどうせはしゃぎ回るだろう事は目に見えている。
 ソーニャとマチルダはもうとっくにパーティーの準備を始めている。俺とハーマイオニーも手伝いを申し出たんだけど、メインとゲストに手伝わせるわけにはいかない、と追い出されてしまった。
 マッドアイはジェイクと一緒に開場の飾りつけをしている。顔に似合わずノリノリだ。
 意外な事にマッドアイはジェイクと馬が合うみたい。二人はまるで旧来の友のように語り合ったり、釣りやチェスを楽しんだりしている。

「そうだ、ハーマイオニー。パーティーの前に家の中案内するね。ドタバタしてて忘れてた」
「お願いするわ。ロンとアルのせいでそれどころじゃなかったものね」
「二人が仲直りしてくれてホッとしたよ」

 クスクス笑い合いながら俺はハーマイオニーに家の案内をした。居間にお風呂にトイレの場所。
 宿泊用の部屋に案内しようと二階の廊下を歩いていると、ハーマイオニーは壁に掛かっているスプーンを不思議そうに見つめた。
 荒削りながら、綺麗な模様の木製のスプーンだ。

「それ、昔、パパがママに送ったラブスプーンなの」
「ラブスプーンって?」
「男が女に愛を示すアレだよ」
「へー」

 ハーマイオニーは興味深そうにラブスプーンを見つめている。ハートやベルや鎖模様。鎖の枠の中には小さな珠が二つ。

「ハートは愛。ベルは結婚。鎖模様は二人の繋がり。小さな珠は子供の数。要は【愛してます!! 結婚してください!! 子供が二人欲しいです!!】って意味」

 ハーマイオニーは耐え切れず吹き出した。俺も初めてソーニャに聞いた時は思わず笑ってしまった。あの時のジェイクの真っ赤な顔が忘れられない。

「ウェールズでは伝統的な愛の告白なんだってさ」
「おじさまは随分とロマンティストなのね」
「ほんとにね」

 家の中を案内し終えて居間に戻るとハリーが起きていた。

「あ、ごめんね。僕ら寝ちゃったみたいで」
「気にしないで。誕生日パーティーまでまだ時間があるから」
「そっか……。ねえ、ちょっと二人に相談があるんだけど、いいかな?」
「もちろん」
「相談って何かしら?」

 ハリーはあまり人に聞かれたくない話なのか、辺りをキョロキョロと見回すと、意を決した様子で話し始めた。

「実は……、最近、変な夢を見るんだ」
「変な夢?」

 ドキッとした。ハリーが変な夢を見る。それが思春期特有のものなら問題無い。だけど、ハリーの場合はただの夢と切って捨てられない可能性がある。

「どういう夢?」

 俺が聞くと、ハリーはゆっくりと口を開いた。

「変な夢なんだ。僕、まったく知らない人になってて、それで、変な事を言ってるんだ」
「ハリー。変な事って、何を言ったの?」
「夢の中で、その人は何か焦ってるみたいだった。こう言ったんだ。【時間が無い。気づかれた。手を打たねばならない】って。その時に……」

 ハリーはおでこに手を当てた。

「ここが痛むんだ。傷が……」
「ヴォルデモートに付けられた傷だね?」

 ハリーが頷くと、ハーマイオニーは不安そうに言った。

「今まで、傷が痛んだ事はあったの?」
「実は……、一年目の時に何度か痛みが走った事があったんだ」
「どんな時?」
「スネイプ先生が……いや、違うかも……」

 ハリーが一瞬言い掛けてから少し考えるように首を振った。

「もしかして、近くにクィレル先生が居た時?」

 俺が言うと、ハリーはハッとしたように頷いた。

「確か、クィレル先生は死喰い人だったのよね? そんな人が近くに居て、ハリーの傷が痛んだって……。それ、今すぐマッドアイに相談するべきだわ!! あの人なら、きっと何か分かる筈!!」
「それは……」

 ハリーは躊躇うように口を噤んだ。
 ハリーはマッドアイに苦手意識を持っているみたい。去年、彼に騙された事が原因なのかも。最終的に納得したつもりではあっても、やっぱり思うところはあるみたい。
 
「ハリー。専門家の意見を聞くべきだよ」
「でも……」
「ハリー。俺もハーマイオニーも素人考えでしか意見が言えないんだ。だけど、これだけは言える。その傷はヴォルデモートに付けられた傷で、その傷を付けた呪文はこの世で最も恐ろしく、最も謎に満ちた呪文なんだ。もしかしたら、その呪文には誰も知らない副作用があるのかもしれない。夢や痛みはその事に関係があるのかもしれない」
「そうよ、ハリー。その呪文を付けた死の呪文は研究そのものが進んでいない凶悪な闇の魔術なの。今までは平気だったのかもしれない。でも、この先は分からない。十年経った今、何か、恐ろしい事が起こり始めているのかもしれない」
「お、脅かさないでよ……」

 ハリーは青褪めた表情で言った。

「脅してるんじゃないよ、ハリー。その可能性が高いっていう話をしているんだ。なにせ、アバダ・ケダブラを受けて生き残ったのは君だけなんだ。生き残った後に起こる副作用なんて、誰にも分からないんだ」

 本当は知っている。ハリーの傷の痛みの正体はハリーがヴォルデモートの分霊箱となった事で入り込んだヴォルデモートの魂がハリーの中にある事が原因だ。それを取り除く方法はヴォルデモート自身によって、再度アバダ・ケダブラを受け、ハリーの中のヴォルデモートをヴォルデモート自身に殺させる事だけ。もしかしたら、他にも方法があるのかもしれないけど、俺に分かるのはそれだけだ。
 
「行きましょう。マッドアイに見せに行かなきゃ」
「う、うん……」

 マッドアイは庭に居た。ジェイクと一緒に魔法で外部から庭が見えないように呪文を掛け、空中に色鮮やかな蝋燭を飛ばしている。
 俺達が来ると、二人は歓迎してくれた。早速、ハリーの傷の痛みについて相談すると、マッドアイは義眼をクルクル回してハリーの傷跡を見た。

「ハリー。二人の忠告は正しいぞ」

 マッドアイの言葉にハリーは体を震わせた。俺とハーマイオニーはハリーを支えるように両脇からハリーの手を握った。
 酷く冷たい。恐怖で体が冷えてしまっている。

「二人も言ったように、脅しではない。本当にアバダ・ケダブラについては分からない事が多過ぎるのだ。元々、闇の魔術の深淵に位置する最悪の魔法だからな。研究しようなどと考えるのは闇の魔法使いの中でも特に最悪な部類に入る邪悪な魔法使いだけなのだ。しかも、生き残る術が殆ど無いからな。歴史的に見ても、お前さんは希少な存在だ。故に、その痛みがかの魔法の副作用なのかどうか、わしには判断が出来ぬ」
「じゃあ、僕はどうすれば……」

 震えている。怖いんだ。無理も無い。死の呪いの副作用なんて、良いものを想像出来る筈が無い。考えれば考える程恐怖は膨れ上がる。

「ハリー。きっと、大丈夫よ。大丈夫だから」

 ハーマイオニーがギュッとハリーを抱き締めた。恐怖に耐えるハリーに俺も何かしてあげたい。だけど、出来る事はただハリーの手を握ってあげる事だけだった。

「安心せい!!」

 マッドアイは吼えるように言った。ハリーはビクッと肩を引き攣らせ、目を丸くしてマッドアイを見た。

「わしが必ず何とかしてみせよう。闇の魔法使いには知り合いが大勢居る。まあ、良好な関係とは真逆だがな。そいつらの中に死の呪いについて詳しい者も居る筈だ。きっと、お前さんの今の状況を解決する手段を見つけ出す。約束するぞ」

 カッと笑みを浮かべて言うマッドアイにハリーは呆然とした表情を浮かべ、よろよろと頭を下げた。

「お願いします。……ありがとう」
「気にするな。お前さんらには去年酷い事をしてしまったからな。その罪滅ぼしだ。さあ、もう直ぐパーティーが始まるぞ!! 皆を呼んでくるがいい!!」

 パーティーは盛り上がった。ハリーもマッドアイのおかげで元気になり、ソーニャとマチルダが作った豪華なディナーにみんな大喜び。遅れてきたエドとマッドアイ、それにジェイクの三人が杖で色々な種類の花火を出して俺達を楽しませてくれた。
 それ以降、ハリーの傷が痛む事は無かった。クィディッチの練習をしたり、ハーマイオニーとお菓子や料理の研究をしたり、みんなで夏休みの宿題に取りかかったり、キャンプをしたり、毎日が楽しくて、夏休みは瞬く間に終わりを迎えた。
 そんな日の夜の事だった。ダイアゴン横丁の買い物も済ませ、いよいよ翌日、ホグワーツに出発するという日に再びハリーの傷が痛みを発した。
 ハーマイオニーは俺の家の客間に泊まっていて、ネビルとロンはアルの部屋に泊まっている。そして、俺はハリーと一緒に眠っていた。
 突然、夜中にハリーの絶叫が聞こえて目が覚めて、何事かと隣で眠るハリーに顔を向けると、ハリーは額に手を当てながら痛みに悶えていた。

「やめろ!! やめろ!! やめろ!!」
「ハリー!! 起きて、ハリー!! ハリー!!」

 あまりにも尋常じゃない様子に俺はハリーの頬を何度も叩いて無理矢理起こそうとした。だけど、そんな痛みよりも傷の痛みの方が強いのか、一向に目を覚まさない。ソーニャとジェイクとハーマイオニーも血相を変えて部屋に飛び込んで来た。
 皆でハリーを起こそうと躍起になったけど、結局起きたのは一時間後、悲鳴が収まってからだった。マッドアイとマチルダと久しぶりに帰ってきていたエドも俺の部屋に集まっている。
 ハリーは全身にべったりと汗を掻きながら、恐怖に凍り付いた表情で言った。

「殺された。誰かが殺された。僕は……僕は……奴だったんだ。奴になっていたんだ」
「奴って誰の事?」

 ハーマイオニーが聞いた。

「奴は……ヴォルデモートだった」

 ハリーの一言に騒然となった。誰もが恐怖に顔を引き攣らせている。
 人が殺された。でも、この時点でヴォルデモートはまだ行動を起こさない筈。何が何だか分からない。

「奴は焦ってた。復活しようとしていた!!」
「どうやってだ!?」

 エドがハリーの肩を揺さぶりながら問い詰めた。慌ててマチルダが引き剥がそうとするけど、エドは必死の形相でハリーの答えを待った。

「分かりません……。ただ、生贄が居るって……。敵の血が居るって……」

 エドは飛び出して行った。俺達は恐怖のあまり眠れなくなり、居間で夜明けを待った。
 そして、ナインチェが持って来た朝の日刊予言者新聞は俺達を更なる恐怖へ叩き落とした。
 新聞の一面には恐ろしい蛇と骸骨の模様が空に浮かんでいる写真が掲載されていた。
 見出しはこうだ。

【クラウチ邸に闇の印現る】
 

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