第二話「予言の真実」

第二話「予言の真実」

「ユーリィ!!」

 アルの声に意識が戻った。ハッと目を見開くと、俺は頭を抱えて椅子に蹲っていた。直前の事が上手く思い出せない。断片的に奇妙な映像が脳裏に浮かぶだけ。だけど、幾つかおかしい光景がある。
 公園だ。【阿佐谷けやき公園】という名前が見えた。だけど、俺は阿佐ヶ谷に行った事が無い。そもそも、俺が住んでいたのは八王子市で、中々新宿方面に行く用事も無かった。
 それに、ダンガンロンパというゲームは知ってるけど、俺はプレイした事が無い。というか、俺の家には据え置きの旧いゲームが一台あるだけだ。昔、おじいちゃんが買ってくれたスーパーファミコンを大事に遊んでいた。ソフトはドンキーコングとロックマン7、ロックマンX、テトリス、プヨプヨ、ボンバーマン。友達も居なかったから、誰かに貸してもらってプレイするなんて事も無かった。
 漫画だって、おじいちゃんが買ってくれた物やお年玉で買った物ばかり。俺はママやパパから直接何かを買って貰った事が無い。唯一、パソコンだけは古くなったのを譲って貰えたけど、インターネットはさせてもらえなかった。ハリー・ポッターシリーズだって、近所の古本屋さんで買ったくらいだ。
 今の映像は明らかにおかしい。それに、あんな週刊誌の隅っこに載っていた記事の煽り文がどうして予言に直結するのか分からない。あんな、【加害者の少年はゲームの登場人物にでもなったつもりなのかもしれない】と締め括られた記事の上に【超高校級の人殺し(自称)君の恐怖!!】と書かれていただけだ。 
 やっぱり、俺は人を殺してなんていない。そもそも、万年虐められっ子だったのは体が弱かった事も原因の一つだった。徒競走でも何でも、いつもビリばっかりだった俺が連続殺人なんて不可能だ。それに、人を殺したなら穢れた魂なんて表現は使わない筈だ。だって、物語の中で魂が穢れる、なんて表現は一度も無かった。人を殺した時、魂が引き裂かれるという表現があるだけだ。それなら、引き裂かれた魂って表現が正しい気がする。
 この現象は何かに似ている気がする。何だっけ、と思いながら目線を動かすと、心配そうに俺の顔を覗き込むハリーの顔が映った。ああ、そうだ。この現象はハリーがヴォルデモートの記憶を見る事と似ている。そう悟った時、全身が恐怖で震えた。

「俺の中に誰かが居る……」

 記憶がおかしい。生前の記憶に別の記憶が混在している。
 気持ち悪い。

「大丈夫か!?」

 アルが心配そうに俺に声を掛けてくれる。アルに触れて、少し安心した。その瞬間、俺は予言の意味を理解した。

「穢れた魂……、穢された……。別の魂が混在してる……」
「何……? どういう事だ、ユーリィ!?」

 【穢れた魂】という言葉の前に【希望を覆い尽くす絶望】という文章がある。勘違いしてた。この文章の希望は【俺の魂】の事だ。その魂を覆い尽くす【絶望】が居る。俺の中に居る。そのせいで魂が穢れた。
 【希望を絶望に変える者】。この希望はたぶん、ハリーの事だ。だから、ハリーは予言を手に取る事が出来た。そこ以外にハリーが関係しそうな文章は無いから多分、間違い無い。
 問題はその後だ。【その者が在る限り未来は無い。その者を封じなければ、死が世界を覆うだろう】。未来が無いのは俺の事だ。絶望を封じなければ、俺の世界は死に覆われる。
 心当たりがあった。俺はどうやってバーテミウス・クラウチ・ジュニアから逃れる事が出来たのか覚えていない。だけど、俺は奴の杖を持っていた。あの時、俺の中の絶望が表に現れたのかもしれない。
 今回は俺に利のある方向に事が進んだ。だけど、もしもこの先、絶望が俺の意識を乗っ取るような事があったら、予言は真実となるのかもしれない。その後の文章はまだ良く分からないけど、この予言の意味は理解出来た。

「俺の中に別の魂がある……」
「どういう事なんだ?」

 アルは困惑した表情を浮かべている。

「あの予言の解釈は間違ってる……。封じないといけないのは俺の中にあるもう一つの魂の事だ」
「もう一つの魂……? なあ、何が分かったんだ?」

 俺は自分の考えを口にした。混在するあり得ない記憶の事も包み隠さず語った。アル以外の人は困惑した表情を浮かべているけれど、アルだけは反応が違った。
 
「もしかして、あの時の……」

 アルは心当たりでもあったのか、目を見開くと、ダンブルドアを見た。

「俺はユーリィの中のもう一つの魂を見た事がある気がする」
「それはいつの事かね?
「ユーリィが戻って来た時です。あの時、俺はユーリィの目を見た瞬間、無意識に【お前は誰だ……?】と言ったんです。よく考えて見ると、あの目は明らかに何か違っていた。俺はどんな姿形をしていてもユーリィかどうか分かる自信がある。だから、断言します。あの時のユーリィはユーリィであって、ユーリィじゃなかった」
「魂の混在……。ユーリィや。お主は先ほど、ハリーの症状に似ておると言っておったな。お主はハリーの症状について知っておるのか?」

 キラキラとした碧い眼差し。隠し事に意味は無い。俺は覚悟を決めた。

「知っています。ハリーの事だけじゃありません。俺は物語として、この世界の未来を知っています」
「未来……。つまり、ワシの事も知っておると?」

 ダンブルドアの眼差しが少し険しくなったように感じる。

「……はい」
「それを全て話してくれるかね?」
「はい」
「いいのか?」

 アルは心配そうに俺を見つめた。

「俺、怖くないんだ。アルに話した時は凄く怖かったのに、不思議だけど……。例え、皆に嫌われても、アルは俺を嫌わないでいてくれるんでしょ?」

 俺はもうアルの思いを疑わない。アルは一瞬目を見開くと、ニッと笑った。

「勿論だ。世界を敵に回したって、俺はお前の味方で居続けてやる。お前が嫌だって言っても最後まで味方で居続けてやるさ」
「なら、俺は何も怖くないよ。アルが傍に居てくれるだけで俺……」

 本当に幸せだ。こんな素晴らしい人と出会えて、こんな素晴らしい人が傍に居てくれて、こんな素晴らしい人が俺を思ってくれている。
 なら、何を恐れれば良いというのだろうか?
 今なら、きっと守護霊の呪文を失敗無しで作り出す事が出来ると思う。アルとの出会いから今に至るまでの全てが幸せの感情を際限無く生み出してくれる。
 
「ダンブルドア先生。それに、ハリー」

 俺はダンブルドアとハリーを交互に見つめた。

「もしかしたら、俺が語る話は二人にとって良い気分になれる話じゃないかもしれない。それでもいいかな?」
「ワシは無論構わぬとも」
「僕もだよ。君が何を話そうとしているのかは分からないけど、僕はユーリィが話してくれる話なら聞きたい」

 俺を心配して席を離れていた皆が席に座るのを確認して、俺はゆっくりと話し始めた。
 まずは第一章・賢者の石から。

 全てを語り終えるまでにすっかり空は暗くなってしまった。
 第一章・賢者の石から秘密の部屋、アズカバンの囚人、炎のゴブレット、不死鳥の騎士団、謎のプリンス、死の秘法。
 ハリー・ポッターという物語を綴る全七章の本の内容を語る途中、何度も質問や驚愕、憤怒の声が上がったけど、その全てをダンブルドアとスクリムジョールが黙らせた。
 ハリー達が誰と恋に落ちるか、とかはハーマイオニーとハリーの様子を見て省いたけど、ハリーがヴォルデモートを倒すに至るまでの経緯は全て話した。
 誰もが口も開けなくなっている。

「……僕、シーカーで、名づけ親が生きてて、それで……、ちゃんとヴォルデモートと戦って勝ったんだ……」
「僕……、キーパー? それに、監督生。ゆ、夢みたいだ……」
「僕がグリフィンドールの剣でヴォルデモートの蛇を斬ったなんて……」

 漸く落ち着いてくると、皆、話の内容を口々に話し始めた。だけど、殆どは独り言。みんな、頭の整理に時間が掛かっているみたい。
 そんな中、ソーニャとジェイクは冷静な表情で俺を見つめていた。

「ユーリィ。貴方は何者なの?」

 その言葉は俺が最も恐れた質問だった。そして、その質問を発したのは俺が最も恐れた人だった。

「ユーリィ。大丈夫だって」

 だけど、アルがついて居てくれるおかげで、逃げ出さずにすんだ。

「俺……、生まれ変わる前の人生の記憶があるの……」
「それで?」

 ソーニャはまるで学校での事を聞く時みたいに言った。

「俺……、生まれ変わる前も友達が居なくて……」

 口は自分でも不思議なほど饒舌に動いた。

「いっつも虐められてて……」

 話したかった……。

「皆が俺を取り囲んで……」

 ずっと、秘密を打ち明けたかった。

「おじいちゃんだけが味方してくれて……」

 ソーニャとジェイクは怒る事も悲しむ事も無く、ただ俺の話に聞き耳を立てるばかり。

「俺、古本屋でハリー・ポッターとアズカバンの囚人を読んだの……。それは三巻だったんだけど、面白くて……」

 二人の事を心からママ、パパと呼びたかった。

「俺、友達も居なくて、親からも要らない子で……」

 だけど、俺の秘密がそれを邪魔した。

「だから、俺……、耐え切れなくなって……」

 いつの間にか涙が溢れていた。

「飛び降りたんだ。何もかもから逃げ出したの……」

 こんな俺の事、嫌いになって当たり前だ。だけど、嫌われたくなかった。

「ママ達と会えて、幸せで仕方無くて……」

 全てを話し終えた。二人の反応を見るのが怖くて、顔を上げられなかった。
 勇気が欲しい。そう思った瞬間、アルが俺の手を強く掴んでくれた。その拍子に顔を上げると、ソーニャとジェイクはいつもみたいに穏やかな笑顔を見せてくれた。

「……そっか。前世の記憶があったのか」

 ジェイクはおかしそうに笑った。

「その事で僕達がユーリィの事を嫌いになるって思ったのかい?」

 俺が弱々しく頷くと、二人は揃って笑った。

「一つ言っておくけど、魔法使いの中で前世を知ってる人って、結構多いのよ?」
「え!?」

 俺は吃驚して目を見開いた。

「そ、そうなのか?」

 アルも驚いている。

「まあ、前世が人だったっていう例はあんまり多く無いけど、前世の記憶のおかげで動植物と話す特殊な力を持つ人も居るしね。それに、僕達が愛したユーリィは君なんだ。前世では辛い思いをしたんだろうけど、僕は君を愛しているよ」

 そう言って、ジェイクは俺を抱き上げた。

「僕の息子は世界に君一人なんだ。僕とソーニャが結婚して、生まれて来てくれたのは君なんだ。君の名前を付けたのは僕達なんだ。だから、一人で抱え込んじゃいけないよ? パパやママに何でも相談しなさい」

 胸が張り裂けそう。哀しいんじゃない。嬉しい気持ちがあまりにも強過ぎる。

「ユーリィ」

 ソーニャは俺の頬にキスをした。

「パパとママの事、好き?」
「大好き!!」
「私達もよ!! 他の誰が何と言っても、私はユーリィの事が大好きよ。ママもパパもいつだって、ユーリィの幸せを願ってるんだから。そうだわ。今度、皆で日本に遊びに行きましょう。私の可愛い息子のもう一つの故郷を見に行きたいわ。勿論、アル君も一緒に」
「いいな、ソレ」

 ソーニャの提案にアルもノリノリ。悩んでいたのが馬鹿馬鹿しくなる程、俺は幸せだ。パパとママはこの世の誰より素敵な人達だった。この人達の子供に生まれて心から良かったと思う。

「パパ……。ママ……」
「ユーリィ。日本に行ったら、観光案内頼むぜ?」
「……うん」

 ジェイクに降ろしてもらって、俺はアルに抱きついた。

「アル。俺、幸せかも……。アルのおかげだよ……」
「俺が何したってんだ?」
「勇気をくれたよ。いつも一緒に居てくれて、本当にありがとう」
「……まだまだ、色々障害は残ってるけどな。全部、やっつけてやろうぜ。一緒に日本に遊びに行く為にもさ」

 アルから離れて俺は大きく頷いた。

「……初めてだな」
「え?」
「お前がそんなに晴れやかにニコニコしているの見るの」
「そうかな……?」
「そうだよ。ずっと見てきた俺が言うんだから、間違い無い。っと、皆待ってるみたいだ。席に座ろうぜ」
「え?」

 いつの間にか、皆頭の整理が終わってたみたい。表情人それぞれだけど、みんなが俺達を見てる。
 恥ずかしくなって、いそいそと席に座ると、何人かの魔女と魔法使いがクスクス笑い出した。恥ずかし過ぎて顔が真っ赤になる。

「しかし、前世の記憶とはのう。なるほど、異界知識というのはそういう意味じゃったか」

 ダンブルドアの言葉にどうやら俺達の会話は皆に聞かれてしまったらしい事を悟った。
 ハリー達は何か言いたそうにしているけど、今は話す時間が無いみたい。
 スクリムジョールが大袈裟な咳払いをすると、会議の空気を変えた。

「信じ難い事実などもあったが、私はユーリィ・クリアウォーターの証言を全て真実と考え、ここからの会議を進めたいと思う。異論がある者は?」

 スクリムジョールの言葉に手を上げたのはスネイプだった。

「一つ、よろしいでしょうか?」
「何かね?」
「クリアウォーターの証言を全て鵜呑みにして話を推し進めるのは如何なものかと……。あやつの言葉に虚言があれば、我らは窮地に立たされる事にもなり兼ねません」

 それはむしろ出るべき意見だった。スクリムジョールも同じ意見なのだろう。反論する様子も無く、俺に視線を向けた。

「君の証言に虚言は無いかね?」
「ありません。俺は全てをお話しました。真実薬を使って頂いても構いません」
「……いや、その言葉だけで十分だ。君の話にあった三大魔法学校対抗試合はクラウチ氏の死で延期にはなったが、実は君達が五年生に進級した時に開催が予定されている。魔法省魔法ゲーム・スポーツ部部長のルード・バグマンがやる気を出していてね。だが、この情報は魔法省でも限られた者にしか明かされていない。その事実が君の話が真実であると裏付けている」

 そう言うと、スクリムジョールはスネイプを見た。

「それで、構わんな?」
「ええ、異論は特に」

 スネイプもただの確認のつもりだったのだろう。スネイプの死やその後の事についても語ったのだけど、彼は殆ど眉一つ動かさずに聞き続けていた。ただ、彼を見る周りの目だけはかなり違っているけど……。

「さて、会議を進めよう。時間も押している事だしな。これからの事について話し合いたいと思う。まず、子供達の件から先に片付けるとしよう」

 そう言って、彼は俺達を眺め回した。

「アルフォンス・ウォーロック。ネビル・ロングボトム。ロナルド・ウィーズリー。ハーマイオニー・グレンジャー。君達をこの会議に出席させた理由は君達がハリー・ポッターとユーリィ・クリアウォーターの二人を取り巻く様々な因果に深く関わりを持っているからだ。我々では不可能な領域での守護を頼みたい。無論、これは強制では無い。ただ、君達ならば、と私が判断し、打診したまでだ。危険はかなり大きいからな」
「答えるまでも無い。俺はユーリィを護る。ハリーの事もな。その為に鍛え続けてるんだ」

 アルは即答だった。危険だと言うなら、辞退してくれた方が嬉しい筈なのに、どうしても、彼の判断を喜んでしまう自分がいる。

「一つ、質問をしてもよろしいですか?」

 ハーマイオニーはまるで授業の時のように手を真っ直ぐに上げて、ダンブルドアを見つめた。

「何かね?」

 ハーマイオニーは敵意すら篭った目でダンブルドアを睨み付けた。

「貴方もユーリィの話は真実だと認めるんですよね?」
「然様」
「という事は、ユーリィが語った貴方の思惑も真実だという事ですか?」
「その通りじゃ。わしが当初考えておった考えをユーリィは見事に言い当てた」
「ハリーをいずれ自分から死なせる為に育てたというのもですか?」

 ハーマイオニーの表情に浮かぶのは怒りだった。
 教師に、それも校長先生にハーマイオニーがこんな表情を浮かべるなんて信じられない。ハリー達も同じ気持ちなのだろう。ハーマイオニーの隣に座るネビルとハリーが必死に彼女を抑えようとしているけど、ハーマイオニーは全身からエネルギーを吹き出すかのように言い放った。

「なら、ハッキリ言います。私は貴方が嫌いです」

 あまりにもハッキリと言い放つハーマイオニーに俺達だけじゃなく、他の面々も皆凍り付いた。
 ただ一人、ダンブルドアだけが嬉しそうに微笑んでいる。

「……愛なのじゃな?」
「……ええ」

 その言葉にハーマイオニーがあれほど怒っていた理由が全て篭められていた。
 一体、いつの間に二人の間にそんなロマンスが展開していたのかは分からないけど、最近の二人の様子を見ていると、案外不思議でも無かったりする。
 ハーマイオニーはいつもハリーを気に掛けていたし、ハリーも事ある事にハーマイオニーを見つめていた。

「え、ええ!?」
 
 ハリーは吃驚して目を見開いているけど、ハーマイオニーは余裕綽々な表情で席に座り、ハリーに向けって真っ直ぐに言った。

「そういう事だから、私は貴方を守る為に全力を尽くすわ」
「え? あ、うん。え? って、え?」

 困惑しているハリーの隣で、ロンは少し悲しそうな顔をしている。もう、この時には彼は彼女の事を好きになっていたみたい。
 きっと、俺が色々な事を変えてしまったせいで、彼は彼女と結ばれる運命から外れてしまったのかもしれない。そう思うと、申し訳なくて仕方が無い。
 だけど、人の思いをどうにかする事なんて出来ない。
 俺はただ、彼に心中で謝罪する事しか出来ない。

「僕も勿論戦うよ。僕なんかで、何が出来るのか分からないけど、出来る事を探して全力を尽くす」

 最近、背が急激に伸びて、かっこ良くなったネビルが俺を見つめながら言った。

「ユーリィには今までいっぱい助けてもらったからね。今度は僕が助ける番さ!!」
「……僕も戦うよ。勿論さ」

 ロンも少し暗い表情で言った。その顔は何だか凄く不安を覚える。
 俺のせいで一番変わってしまったのはウィーズリー家に違いない。本当なら、もっと良い意味で違う形でハリーを助ける筈の彼らが重い空気を背負いながらここにいる。
 俺は彼らにどうしてあげるべきなんだろう。分からない。
 俺に出来る事があればいいのに……。

「勇敢な子供達だ。では、次の議題に移ろう。我々はこれより、三つのチームに別れようと思う。闇祓いと不死鳥の騎士団の混合チームだ。それぞれ、重要な役割を担って貰う。それに際して、我々一同の総称も決める。これより、我ら闇祓い局と不死鳥の騎士団は【不死鳥の連合】という一つのチームとして活動する。では、これよりチーム編成を言い渡す」

 スクリムジョールが言い渡した三つのチームの一つ目は俺やハリーの護衛チームだ。マッドアイを始め、トンクス、ダリウス、クリスの四人が闇祓い組から送り出された。
 二つ目のチームは引き続き闇の勢力の調査を行う。このチームには闇祓いからはアーニャ、ディエゴ、エドの三人。それに不死鳥の騎士団からはスネイプ、ルーピン、ディーダラス、マンダンガス、ヘスチアの五人。計八人がこの任務に当たる。
 そして、最後のチーム。政治関係で不死鳥の連合が戦う為の準備を行うチームは残ったメンバーが全員。実の所、今回の会議に出席していない不死鳥の騎士団のメンバーや闇祓い局の面々も居るのだけど、そちらも追々チームに編成していく予定らしい。
 
「さて、最後になるが……。我々はまず、一人の男をアズカバンから出してやらねばならん。故に、我々政治チームはこれよりシリウス・ブラックの件を再調査し、無罪を勝ち取る為に動く。ユーリィ・クリアウォーターの言葉通りならば、我らの勝利には彼の隠れ家へ入る必要がある。その為にも何としても救わねばならん!!」

 スクリムジョールは立ち上がると、吼えるように叫んだ。

「来月より、ホグワーツが再開となる。諸君!! 努々忘れるな!! 油断大敵!! これより、我らは闇の勢力に対して攻勢を掛ける。勝利するのは我々だ!! まずはシリウス・ブラックの無罪を勝ち取るぞ!! 作戦を開始する!!」

 世界は大きく蠢き始めている。
 だけど、俺にはまだ大きな不安が残っている。
 予言の意味。俺の中にあるもう一つの魂。
 会議が終わった後、俺は直ぐにダンブルドアの下へ向かった。

「来ると思っておった」

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