第七話「炎のゴブレット」

第七話「炎のゴブレット」

 十月三十一日。ホグワーツは例年と比べ物にならない豪華なハロウィンの飾りつけに彩られていた。廊下には様々な怪物の剥製が並び、天井を見上げると蝙蝠が羽ばたき、様々な調度品に命が拭き込まれ、近寄る生徒の前でおどけて見せている。ハロウィンパーティまでたっぷり時間がある。俺はゆっくりと飾りつけを見て回る事にした。
 廊下を歩いていると、物陰や脇道に何かの気配がある。チラリと視線を向けると、手の平サイズの可愛い妖精が居た。蝶の羽が付いた可愛い女の子が俺の視線に気付くなり隠れてしまった。別の場所には別の妖精。楽しくなって、目の前の扉を開けようとすると、扉は勝手にバタンと開き、動く階段の前に出た。吹き抜けになっているフロアを縦横無尽に飛行する影がある。何だろうかと目を向けると、顔の無い鳥や蝙蝠だった。階段を登ると、また扉が勝手に開く。どうやら、今日のホグワーツは全ての扉が自動ドアになってしまっているみたい。
 なんて、考えてたらいきなり床が動き出した。自動ドアの次は歩く歩道だ。足を止めると、辺りから不思議な歌が聞こえて来た。歌い主は子供のようなソプラノボイス。陽気で愉快な歌詞を元気一杯に歌っている。何だか楽しくなって来て、俺は鼻歌混じりで歩き続けた。

「おいおい、ホグワーツはいつからテーマパークになっちまったんだ!?」

 大広間に着くなり、ハシャギ回るフレッドとジョージと出会った。宙に浮かぶハロウィンお化けの蝋燭から溢れる怪しい光。
 足下には異形の生き物達が走り回っている。壁を見ると、黒い何かが這い回っている。まるでサメかイルカのような形の黒い影。背中には大きな瞳があって、キョロキョロと辺りを見回している。
 ふと、怪物と目が合った。すると、吃驚するくらい素早く俺の目の前まで来て、黒い影が壁からぬっと伸びて来た。思わず後ずさると、影は手の形になり、掌から四角い箱がゆっくりと浮かび上がって来た。箱は勝手に開き、中から白いハトが飛び出して来た。驚いてひっくり返りそうになる俺を怪物は楽しそうに見つめ、去って行く。
 すると、ハトが何かを落とした。一瞬、糞を落とされたのかと思ったけど、落ちてきたのは帽子だった。ハロウィンお化けのマークが所狭しと刺繍された三角帽子。おかしくって、ついつい笑ってしまった。

「お! ユーリィも貰ったのか!」
「俺達もこの通り!」

 フレッドとジョージは踊りながら指の先でクルクルと三角帽子を回している。フレッドの帽子は蝙蝠の刺繍。ジョージの帽子は黒猫の刺繍。

「今日はいよいよ炎のゴブレットに名前を入れるんだよな? ったく、羨ましいぜ! 俺も試験に参加しようと思ったのに、素行で羊皮紙に資格無しって判断されちまった」
「この品行方正な生徒の鑑の如き我らのどこに問題があるというのだ!!」

 二人は相変わらず陽気だ。ロンもウィーズリー夫妻も二人に俺の事や連合の事を教えていないらしい。二人の事だから、盗み聞きしたりして、とっくに皆が秘密にしている事を探り当てて入るんだろうけど、態度を変えずに接してくれる。
 あれ以来、アルとは一切会話をしていない。俺もアルも互いの顔を見ようともしない。ダリウスやハリー達ともあまり会話をしていない。みんな、事あるごとに試合への参加を棄権するよう訴えて来る。みんなの気持ちはありがたいけど、棄権なんて出来ない。俺はアルに勝って、資格を得たんだ。だから、アルの代わりにみんなの危険を引き受ける義務がある。

「……でもさ、あんまり無茶はすんなよ?」
「え?」

 一瞬、フレッドは彼に似合わない真剣な表情を浮かべて言った。でも、次の瞬間にはいつもの陽気な笑顔に戻って走り去ってしまった。
 
「心配……してくれてるのかな」

 一人で席に座ってパーティーの開始を待っていると、次々に生徒達が大広間に入って来て、瞬く間に席に埋まってしまった。みんな、大広間の異様に豪華な飾りつけに夢中になっている。
 ドンという大きな音がしたかと思うと、突然頭上に大きな垂れ幕が現れた。グリフィンドールの席の上には赤地に金の獅子の模様が描かれた垂れ幕。レイブンクローは青地にブロンズの鷲。ハッフルパフは黄色に黒い穴熊。スリザリンは緑地にシルバーの蛇。教職員用のテーブルの頭上にはホグワーツの紋章だ。
 
「諸君!!」

 バタンと大きな音を立てて、大広間の扉が開いた。
 扉の向こうには先生方が並んでいる。

「これより、ボーバトン魔法アカデミーとダームストラング専門学校からのお客様方をお迎えする!! 各寮の生徒達は先生方や監督生の指示に従い、整列してワシに付いて来なさい!!」

 ダンブルドアの言葉にみんな慌てて動き始めた。

「一年生が先頭です!! あなた、頭に妙なものを付けるのはお止しなさい!!」

 マクゴナガルが叫ぶ声が響く。学年ごとに並び終えると、俺の後ろにはアルの姿があった。偶然だと思うけど、凄く気まずい。極力意識しないように前の女の子の髪飾りに注目しながら俺はみんなと一緒に歩き出した。
 学校を出て、禁じられた森の方に歩いて行く。空は既に真っ暗だ。満月の銀光が眩く大地を照らす中、俺達はその時を待った。

「さあ、ボーバトンの代表団がおいでのようじゃ!!」

 ダンブルドアの声にみんな周囲を見回した。馬車道の向こうからは何も来る気配が無い。禁じられた森からは獣の唸り声だけ。湖は沈黙を保っている。
 空を見上げた生徒だけがその存在に真っ先に気付く事が出来た。

「アレを見ろ!! ドラゴンだ!!」

 上空を指差す一年生の声にみんなの視線が上空へと向けられた。
 銀に輝く月を何かが覆い隠している。巨大なソレは一見すると確かにドラゴンにも見える。

「違う!! アレは……家!?」

 二年生の誰かが悲鳴を上げた。
 その子の言う通り、家にも見える。だけど、違う。アレこそがボーバトンの代表選手団。彼らの乗る天馬に引かれた超巨大馬車だ。金銀に輝く巨大な天馬が巨大な屋敷を引いて速度をグングン上げて迫って来る。阿鼻叫喚の叫びの中、馬車は俺達の頭上を翔け抜けていった。
 着陸の瞬間、大地が揺れ動いた。一年生達は多くが立っていられずに転んでしまった。凄まじい衝撃と共に降り立った馬車からは一人の少年が飛び出してくる。少年は金色の踏み台を引っ張り出すと優雅に飛び退く。すると、戸口の先から次々に青いローブを着た生徒達が姿を現した。最後の――とても美しい――生徒が出て来た後、ピカピカの黒いハイヒールを穿いた巨大な女性が現れた。ハグリッドやダンブルドアに匹敵する長身の女性。彼女こそ、ボーバトン魔法アカデミーの校長オリンペ・マクシームに違いない。
 ダンブルドアの拍手を皮切りにみんな一斉にボーバトンの代表団に向けて歓迎の拍手を送った。

「お会い出来てまっこと嬉しいですぞ、マダム・マクシーム。ようこそ、ホグワーツへ」
「ダンブリー・ドール。おかわりーありませんーか?」
 
 深いアルトボイスでマクシームは言った。英語を喋りなれてないみたいで、発音がところどころ間違っている。
 
「上々じゃよ」
「わたーしのせいとーです」

 マダム・マクシームが巨大な手で生徒達の事をダンブルドアと俺達に紹介した。
 ボーバトンの生徒達はみんな震えている。この寒空の中、薄い絹地のローブ一枚では無理も無い。それに、男の子も女の子もみんなホグワーツを不安そうに見つめている。その気持ちは良く分かる。見知らぬ土地で心細いのだろう。
 
「カルカロフはまだでーすか?」
「もう直ぐの筈じゃ。外で待ちますかな? それとも……、中で暖を取りますかのう?」
「あたたまりたいーです。でも、ウーマが……」
「そちらは我が校の優秀な魔法生物飼育学の先生が喜んで引き受けてくれるじゃろう」

 ダンブルドアはマクゴナガルの隣に立っているハグリッドにウインクして見せた。ハグリッドは俺達が三年生になった時、魔法生物飼育学の教師になった。
 マクシームは始め少し不安そうにしていたけど、暖を求めて城の中へ入って行った。
 それから十分ほどして、突然雷鳴が轟いた。何事かと思って空を見上げると湖から巨大な水柱が立ち上り、降り頻る大量の水の向こう側から真っ黒な船が現れた。まるで幽霊船のような姿をした船が岸に到着すると、船のあちこちに火の手が上がった。火事かと思ったら、松明の灯りだった。
 船の扉が開くと、タラップが降りて来て、船員が下船して来た。みんな、一様にモコモコした毛皮のマントを身に纏っている。
 
「ダンブルドア!!」

 一人銀色の毛皮を身に纏った男が最後に降りて来ると、ダンブルドアと抱擁の挨拶を交わした。
 
「しばらくぶりだな!! 元気だったか?」
「元気一杯じゃよ。カルカロフ校長」

 ダームストラング専門学校の代表団の登場。彼こそがダームストラングの校長、イゴール・カルカロフ。痩せて背が高く、髪は銀色。
 ダンブルドアと握手をすると、彼もマダム・マクシームのように自分の生徒達を紹介した。
 ダームストラングの代表団と共に城に戻り、大広間に入ると、大広間にはボーバトンとダームストラング用の席が追加されていた。垂れ幕も二つ追加されている。それぞれの学校の紋章が記された垂れ幕の下の席に両校の生徒達が座り、カルカロフとマクシームは教員用の席に着いた。
 全員が着席するのを見計らったかのように大広間の扉が大きく開き、その向こう側から一人の男が現れた。

「バグマンだ!!」

 生徒の誰かが叫んだ。入って来たのは色鮮やかなローブを身に纏い朗らかに微笑む魔法使いだった。
 彼は背後に数人の魔法使いを引き連れている。魔法使い達は巨大な物体を大広間へと運び入れて来た。
 教員テーブルの前までソレを運んでくると、バグマンは大きく腕を広げた。

「諸君!! 私は魔法省魔法ゲーム・スポーツ部部長のルード・バグマンだ!! ボーバトンの代表団の皆さんとダームストラングの代表団のみなさんは到着早々でお疲れでしょうが、今宵は特別な夜です!! もうしばし、意識を現実の世界に留めて頂きたい!!」

 バグマンは大袈裟な動作でボーバトンとダームストラングの生徒達に顔を向け、胸を大きく逸らした。

「時は来た!! 参加する魔法使いは三人!! されど、彼らの勝利は即ち各校の生徒達全員の勝利である!! 彼らの敗北は即ち各校の生徒達全員の敗北である!! さあ、選ばれし者達よ!! 今、ここに君達の命運を分ける運命の【炎のゴブレット】をお披露目しよう」

 バグマンの合図と共に運び込まれた物体に掛けられていた布が取り払われた。ソレは宝石が散りばめられた大きな木箱だった。

「代表選手となる者が挑むは三つの試練!! この試練に挑む者に求められるのは魔力の卓越性!! 果敢なる勇気!! あらゆる謎に挑む論理と推理力!! 各校それぞれ試練に挑むに値すると思われる生徒を四人ずつ選出している事でしょう。故に今宵、この瞬間に選手の選抜を行う!! この!! 炎のゴブレットで!!」

 バグマンが杖を振るうと、木箱の蓋がゆっくりと軋みながら開き始めた。中から現れたのは大きな荒削りの木のゴブレット。一見すると見栄えのしない杯だけど、その縁からは溢れんばかりの青い炎が踊っている。

「さあ、代表選手の選抜に参加する資格を持つ者はそれぞれ前に来なさい!!」

 俺はゆっくりと立ち上がった。ハリーやアル達が必死に止めろと目で訴えかけてくるけど、止まるわけにはいかない。
 炎のゴブレットの前に立ち、隣を見ると、スリザリンの七年生のウィリアム・ウィンゲイトとハッフルパフの七年生のセドリック・ディゴリー、それにレイブンクローの七年生のアドルフ・ソロモンが並び立っている。みんな、俺よりも二学年も上の生徒達だ。
 そして、ボーバトンからも四人の生徒が現れる。一際美しい少女を筆頭とした少年少女達が炎のゴブレットの前で息を呑んでいる。
 ダームストラングの生徒達も立ち上がった。屈強な肉体を誇る少年を筆頭とした四人。リーダー格の少年は雑誌で見た事があるから間違い無い。ビクトール・クラムだ。

「では、これより諸君らには羊皮紙に名前を記し、ゴブレットに投げ入れてもらう」

 バグマンの合図と共に大広間に炎のゴブレットを運びいれた三人の魔法使いがそれぞれの学校の代表選手の前に立ち羊皮紙と羽ペンを配り始めた。俺達に羽ペンと羊皮紙を渡したのは何とダリウスだった。俺はダリウスを一瞥し、受け取った羊皮紙に名前を書いた。
 全員が書いたのを確認すると、バグマンの合図で全員が一斉に名前を書いた羊皮紙を炎のゴブレットに投げ入れた。その瞬間、俺は見た。炎に投げ入れた羊皮紙から俺の書いた俺の名前が消えるのを……。
 咄嗟にダリウスを見ると、ダリウスはすまなそうに顔を伏せた。
 
――――騙された。

 ダリウスは俺を三大魔法学校対抗試合に出さない為に強硬手段を取った。文字が消える羽ペンで名前を書かせたんだ。
 名前を書かなきゃ、三大魔法学校対抗試合の選手にはなれない。アルの代わりにアルの請け負った使命を全う出来ない。呆然と青い炎を見つめていると、炎が突然赤くなった。バブマンは杖を振り、大広間中の明かりを消した。赤々と燃える炎のゴブレットのみが大広間を照らし、やがて、ゴブレットから焦げた羊皮紙が現れた。どうでもいい。
 もう、代表選手にはなれない。最後の最後で俺は油断した。悔しさと晴らす機会を失った罪悪感が押し寄せてくる。涙が溢れ、何も見えない。バグマンが真っ暗にしてくれて良かった。今なら泣き顔を見られずに済む。

「ボーバトンの代表はフラー・デラクール!!」

 次々に代表選手が選ばれる。

「ダームストラング代表はビクトール・クラム!!」

 最後の羊皮紙がゴブレットから飛び出し、バグマンは轟くように叫んだ。

「ホグワーツ代表はセドリック・ディゴリー!!」

 明かりが戻ると、代表選手に選ばれなかった者達がみんな泣いていた。おかげで俺も選ばれなかった悔しさで泣いていると勘違いしてもらえる。
 見れば、スリザリンの上級生も泣いていた。選ばれたかったんだ。彼も、レイブンクローの上級生も。俺のように罠を仕掛けられたわけじゃなくても、選ばれなかった苦痛は途方も無いに違いない。
 ダームストラングやボーバトンの生徒も泣いている。そんな中、代表選手に選ばれた三人の魔法使いだけが堂々とバグマンの下へ歩いて行く。
 物語のように第四の選手が選ばれる事は無く、代表選手の選別は終わりを迎えた。
 項垂れて席に戻ると、アルが居た。合わせる顔が無い。顔を背けて、別の席に行こうとすると、アルに手を掴まれた。強い力で俺は振り解く事が出来なかった。椅子に座ると、アルは俺の頭に手を乗せた。

「これで良かったんだ」

 アルは優しく俺の頭を撫で続けた。
 優しくしないでと叫びたいのに声が出ない。甘えてしまいたい欲望に駆られ、理性が機能しない。本当に最低だ。

「……ごめんなさい」
「いいんだ。ぶっちゃけ、お前の考えは全部分かってたしな」

 アルは言った。

「お前にあの方法を悟られないように俺達はみんな、最後まで説得を続ける演技をしてたんだ」
「俺達って……」

 そうか、みんなグルだったんだ。ハリーもロンもネビルもハーマイオニーもダリウスもみんな最初から……。

「……酷いよ」
「ごめんな。でも、お前もハリーも出ないなら、きっと死喰い人達も選手に敢えて手を出したりはして来ない筈だ。万が一があるかもしれないから、予防措置として俺が出る事になってたらしいが、大人達が頑張ってくれるとさ。だから、俺達は楽しもうぜ。三大魔法学校対抗試合を観客としてさ」
「……うん」

 本当に俺は最低な人間だ。多くの人の努力を踏み躙った癖に、それでも欲望に負けて欲してしまう。

「おい! 元気出せよ、ユーリィ!」

 突然、背中に衝撃を受けた。フレッドだ。

「ううん。お前さんの雄姿を是非とも堪能したかったが、まあ、選抜試験の時に十分見せてもらったし、満足しとくか。お前さんは代表選手にはなれなかったが、ホグワーツのトップ4に選ばれたんだぜ? 十分すげーんだから、これでも飲んで元気になりな!」

 ジョージがジョッキにバタービールを並々と注いで渡してくれた。
 二人共、どこか安心した様子で俺を見つめている。

「さあ!! みんなも我等がグリフィンドールの誇りを称えようではないか! ユーリィ・クリアウォーターこそが我等にとっての代表選手なのだ!!」

 おどけながらみんなを先導し、みんなもフレッドとジョージの音頭に合わせて俺の名前を叫んだ。

「ユーリィ・クリアウォーターに乾杯!!」

 バタービールを一気に飲み干すと、体がポカポカし始めた。バタービールは溶かしたバターにビールを注いで温めて作る。アルコールは殆ど飛んでしまうんだけど、やっぱり少しは残るみたいで、ついでに俺はアルコールに弱いみたい。

「残念だったね、ユーリィ!」

 ケイティ・ベルがそんな俺にまたバタービールをなみなみと注いでくれる。

「残念だけど、お前は四人の代表資格者に選ばれたんだ。十分過ぎるぜ!!」

 ディーンは陽気に言った。

「けど、あんな鈍間が選ばれるなんてな!」
 
 リー・ジョーダンはハッフルパフの席に向かって舌を突き出した。

「あんな奴より絶対にユーリィが上だった筈よ!」

 鼻を鳴らしてアンジェリーナ・ジョンソンが言った。

「ねえ、今年、またクィディッチのグリフィンドールチームの選手選抜をするのよ。ユーリィも試験に出なさい。あの最終試験で見せたガッツがあればきっと良い選手になれるから!」

 そう言って、俺が漸く飲み干したバタービールのジョッキにまたバタービールを注いでくる。
 段々、頭がボーっとして来た。

「お、おいおい!! 飲ませ過ぎだ!!」

 アルが何か言ってるけど、何だか頭が働かない。
 さっきまで、たくさん悩んでいた筈なのにそれも思い出せない。ただ、幸福な気分でゆらゆらと揺れる小船に寝そべっているみたい。
 幸せ。

「ああ、ったく!! 寝ちゃったじゃねーか!!」
「ッハハ! アル、寮に連れ帰ってやれよ!! ついでにちゃんと仲直りしときな!」

 フレッドの声が聞こえたのを最後に俺は意識を完全に手放した。
 幸せ。すごく、幸せ。

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