第十話『闇帝再臨』

 広大な屋敷のエントランスホールに数十人もの魔法使い達が集まっている。
 その中央で闇の帝王は配下の男の報告を受けていた。

「ご命令通り、例の記者に写真を渡して参りました」
「御苦労だ、ロドルファス」

 これで、状況は全て整った。

「さあ、復活祭を始めるとしようか!」

 第十話『闇帝再臨』

 3月の末。世の中が|復活祭《イースター》ムード一色に染まったある日の事、魔法界に激震が走った。
 イギリス全土で同時多発的に死喰い人によるテロ行為が発生したのだ。
 不意打ちの如きタイミングで多くの魔法使いとマグルが殺害された。完全に対応が後手に回った魔法省が体勢を整える前にダイアゴン横丁も大きな被害を被った。
 フォーテスキューやオリバンダーが行方不明となり、襲撃時に買い物に来ていたマグル生まれの魔法使いが十一人殺害された。
 
「何をグズグズしている!」

 スクリムジョールはこの期に及んでも腰の重い役人達に苛立ちを覚えていた。
 刻一刻と被害が拡大している現状。猶予など微塵も無いというのに、高官の一部が闇祓い局の出動を渋っているという。

「ええい、埒が明かない! ファッジに活を入れてくる」
「きょ、局長!」

 副官のガウェインに現場を任せ、スクリムジョールは魔法省大臣の執務室へ向かった。
 その途中、誰かにぶつかった。同時に腹部に鋭い痛みを感じた。見下ろすと、突き立てられたナイフと夥しい量の血が目に入った。

「なっ……、何を……」

 ぶつかった男はスクリムジョールがよく知る男だった。誠実で真面目な男だった。
 その男が杖を向けている。

「アバダケダブラ」

 緑の閃光が走る。

「馬鹿な……」

 スクリムジョールが死亡した頃、他の場所でも殺人事件が発生した。
 犯人達は捕縛後に死亡。原因は破れぬ誓いによる呪詛。彼らは捕縛される事を互いに禁じ合っていたようだ。
 裏切り者の発生と有能な者の死が重なり、魔法省は混迷を極めた。
 情報が錯綜し、連絡系統も崩れ去り、立て直す為に指示を下せる者は軒並み殺されていた。

「大臣!! アナタが指示を出さなければ!!」
「わ、分かっておる……」

 闇祓い局副局長のガウェイン・ロバーズに詰め寄られ、青褪めた表情を浮かべながら魔法省大臣のコーネリウス・ファッジが陣頭指揮を取り始める。
 全ての指揮系統を撤廃し、新たな連絡網の構築に二夜を費やした。更に体勢を整える為に一週間が経過し、その間に更なる被害が発生していた。
 あまりの被害の大きさに隠蔽工作が間に合わず、マグルの世界でも事件がニュースとして取り上げられている。
 
 そして、誰もが心に暗雲を抱いていると、その男は魔法省の中心部に現れた。
 最強最悪の魔法使い。闇の帝王。名前を呼ぶ事すら恐ろしい邪悪。
 ヴォルデモート卿がその姿を晒した。

「やあ、諸君。初めましての者もいるが、敢えて、久しぶりと言わせてもらおうか」

 黄金の髪を靡かせ、威風堂々と彼は立っている。

「ヴぉ、ヴォルデモート卿!?」
「馬鹿な、死んだ筈だぞ!」
「どうして……」
「嘘だ。こんなの嘘だ!」

 悲鳴を上げる者達にヴォルデモート卿は微笑む。

「死んだ筈? はて、俺様がいつ死んだのだ?」
「……え?」

 誰もが戸惑いの声を上げる。

「だ、だって、ハリー・ポッターに……」
「聞かせて頂こう。この俺様を倒せる赤子が本当にいると思っているのか?」

 その言葉は恐怖に怯える者達の心に染み渡っていく。

「俺様は時を待っていただけに過ぎない! そして、今こそ時は熟した!」

 ヴォルデモート卿は両腕を広げて言う。

「魔法界よ! 我に従え! 忠誠を誓う者には生を、反逆者には死を与える!」
「ふ、ふざけるな!」

 ガウェインがヴォルデモート卿の前に躍り出る。

「こんな場所にノコノコと現れるとは、愚か者め!」

 ガウェインに付き従うように闇祓い達が杖を掲げる。降り注ぐ呪いの雨を見ながら、ヴォルデモート卿は呟く。

「無駄な事を」

 ヴォルデモート卿の杖から炎の竜が現れる。竜は呪詛を次々に飲み込んでいく。
 
「馬鹿な……」

 恐怖が次の一手を封じる。動けなくなったガウェイン達にヴォルデモート卿は言った。

「俺様は寛大だ。貴様等に考える時間をやろう。従うか、死ぬか、一週間後に答えを聞かせてもらう」
 
 その言葉と共にヴォルデモート卿の姿は消えた。
 立ち尽くす魔法使い達を置いて……。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。