第一話『終わりの始まり』

 その日、日刊預言者新聞の一面に一枚の写真が掲載された。そこに映るのは金髪の青年と赤髪の子供。
 記事には二人が如何に仲睦まじく暮らしていたかが詳細に記載されている。
 その記事を書いた記者の名はリータ・スキーター。

【ハリー・ポッター。救世主の真実】

 そのタイトルの下で踊る文字の羅列に魔法界は帝王復活の時以上の衝撃を受けた。

 ◆
 
【青年の名はニコラス・ミラー。子供の名はノエル・ミラー。二人はウェールズの南に位置する街ロンザ・カノン・タフでパン屋を営んでいる。この写真は街のグルメを紹介する地域情報紙に掲載されたものだ。この二人の顔に見覚えのある読者も多い筈。特に死喰い人によるテロ行為が頻発する昨今では。そう、この二人は名前を偽っている。真の名はハリー・ポッターとトム・リドル(トム・リドルはヴォルデモート卿の幼名である)。闇の帝王は滅んでいなかった。死を偽装し、自らの後継者を育てていたのだ。救世主と持て囃された軌跡の子。その真実はヴォルデモート卿に見初められた邪悪の種子だった】

 一度文章が区切られ、そこに一枚の写真が掲載されている。
 どこかの聖堂内で撮影されたもの。写真の中で二人は巨大な蛇を従え、殺人行為を行っている。

【この写真は筆者が勇敢な被害者の親族から提供された物である。ハリー・ポッターは既に帝王の後継者としての片鱗を見せていた。この背後に控える蛇はバジリスクと呼ばれる怪物だ。その怪物をけしかけ、多くの尊い命を奪った。そして、この写真は更に重要な事を筆者に伝えた。バジリスクは蛇語でなければ操る事が出来ない。そう、あのサラザール・スリザリンのように蛇語に堪能でなければならないのだ。ハリー・ポッターはホグワーツでもスリザリンに在籍している。彼は帝王の後継者であると同時にスリザリンの継承者でもあるのだ】

 再び区切られた場所に被害者と思われる人物達の顔写真とプロフィールが掲載されている。

【ご覧のとおり、被害者達には一つの共通点がある。それはマグルやマグル生まれの魔法使いである事だ。これは一つの事実を我々に伝えている。そう、帝王の後継者はマグルやマグル生まれを人間とは思っていないのだ。まるで、子供が賢明に生きる蟻を無邪気に殺すように、彼は彼らを殺したのだ】

 その下にハリー・ポッターとトム・リドルの写真が掲載されている。

【この愛らしい顔に騙されてはいけない。彼は帝王の後継者。邪悪の種子を植えられた暗黒の魔法使いなのだ】

 トム・リドルが表立って行ったテロの写真。

【この凄惨な事件はほんの一部でしかない。そして、今頃彼は満悦の笑顔を浮かべているに違いない。また、マグル生まれが死んだ、と……】

 ◆

 その記事を読んだ者の中には五年前の騒ぎを思い出す者もいた。
 アーサー・ウィーズリーが裁判に掛けられた事件だ。当時、魔法省では一つの噂が広がっていた。
 突如行方不明となったハリー・ポッター。彼はダイアゴン横丁に現れる。魔法使いの助力が無ければ入り込めない場所に魔法界と隔離されていた彼が入り込んだのだ。
 何者かが彼を援助した。普通の者なら、まずは魔法省に一報を送る筈。故に、その援助者が闇の陣営に属する者だったのではないかという噂が流れたのだ。
 その後、ハリーはウィリアム・ウィーズリーに保護される。名前を偽り、数ヶ月を過ごした。そして、正体がバレた日、彼は再び行方を晦ます。次に現れるまで二年という空白の期間が空いた。
 あまりにも異常な事だと、当時ルーファス・スクリムジョールが主張した。ハリーの裏には闇の魔法使いが存在する、と。
 魔法省の役人の中にも彼の意見を支持する者が現れ、ウィーズリー家の闇の魔法使いに加担していたのではないかという話まで飛び出した。それがアーサーの裁判の話へ繋がっていく。最終的にはアルバス・ダンブルドアの証言によってアーサーの無実は証明されたが、ならばハリーは何処にいるのか、何者が裏に潜んでいるのか、そうした疑問が蔓延し、ある者は帝王の影を感じ取った。
 当時の混乱は酷いものだった。結局、ダンブルドアが全責任を持ってハリーの捜索に乗り出した事で落ち着きを取り戻したが、当時を知る魔法省の役人達は今回の記事がまったくの出鱈目とは到底思えなかった。
 ハリーを擁護する声は少なく、その数少ない内の一人に嘗て帝王に与した過去を持つルシウス・マルフォイがいた事で火に油を注ぐ結果となった。
 そして、六月の終わり、魔法省は遂にハリーを捕縛する命令を闇祓い局に下した。
 証拠は出揃い、完全武装の闇祓い達がホグワーツに向かい、出動した。

第一話『終わりの始まり』

 あの時の敗北は今尚記憶にこびり付いている。
 魔王を自称する我が分霊。幼子に絆され、理想を捨てた愚か者。
 奴の存在を許す訳にはいかない。

「我が覇道の前に立ちはだかると言うのならば、我が分霊であろうと容赦はしない」

 アルバス・ダンブルドア。ハリー・ポッター。魔王。
 この三人を消し去れば、もはや敵はいない。

「いよいよ、お前達の出番だぞ」

 日記の分霊が試したマグルの医療技術と魔法の併用による洗脳術。
 その成果たる二人に俺様は命令を下す。

「ルビウス・ハグリッド。ゲラート・グリンデルバルド。貴様等の命を賭して、アルバス・ダンブルドアを殺害せよ!」

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