Act.21 《Legend of Astolfo》

 英雄・アストルフォ。
 いつだったか《シャルルマーニュの伝説短篇集》を薦めてくれた友人が言っていた通り、彼の伝説は《奇抜で奇怪で奇矯》だ。

 イングランド王の長男として生まれた。彼は生まれた瞬間から神に愛されているとしか思えないほど恵まれていた。
 性格は自由奔放。その衝動の赴くままに大冒険を繰り返す。
 ナルシストであり、口だけ達者で腕っぷしはからっきしな彼は仲間の騎士達から敬遠されがちだった。
 そんな彼の旅路を支えたもの、それは――――、《美貌》と《財力》と《幸運》。
 勇気や武勇などではなく、この三つである。
 
 ある所にアンジェリカという類まれな美貌を持つ女がいた。
 彼女の為に生まれた戦乱は数知れず、狂人や死者が続出した程の美女だ。
 ある時、大帝シャルルが開催した御前試合に彼女が現れ、弟のウルベルトに負けた者は捕虜にする。逆に勝てたら己を差し出すと宣言した。
 実は彼女、アンジェリカというのは偽名であった。その正体は|遠い異国《スキタイ》の女王。ちなみにウルベルトも偽名であり、本名は《アルガリア》という。彼女は国王の命により、シャルルマーニュを堕落させる為に参上したのだ。
 彼女の正体に気付く者もいた。マラジジという名の魔法使いだ。他の者達が彼女の美貌に籠絡される中、女性に興味を持たない彼は彼女の真実を悟り、計画を阻止しようと動いた。
 そして、捕まってスキタイに送られた。計画を阻止するどころか、アッサリと捕虜にされてしまった。彼の勇敢な行動は誰にも気付かれず、結局、計画はそのまま進行する。

 そして始まる御前試合。最初に登場したのがアストルフォだった。
 彼は戦った。そして、一瞬にして負けた。御前試合に出るにはあまりにも弱過ぎた。
 だが、そんな彼に熱いまなざしを向ける者がいた。そう、アンジェリカことスキタイの女王である。
 捕虜になったアストルフォにとても手厚いもてなしを部下に命じ、試合そっちのけでアストルフォとお喋りをしていた。
 ところが、二番手として登場したフェローという戦士がアッサリとアルガリアを倒してしまった。突いたら確実に馬から落とすという馬上槍試合において反則的な能力を持つ武器を使っていたアルガリアだが、馬から落とされても『来いよ、ウルベルト。槍なんか捨てて掛かって来い!!』と挑発する彼に『野郎!! ぶっ殺してやらぁ!!』と折角の魔法の槍を捨てて剣を使って挑んでしまった事が運の尽き。フェローの圧倒的な力を前にアルガリアはアッサリと敗北してしまった。
 すると、アンジェリカはフェローと結婚する事を拒み、さっさと魔術で姿を消してしまった。こうなるとまずい立場に立たされたアルガリアも馬に跨がり必死の逃走。そんな事は許さんと鬼の形相でフェローが追い掛ける。
 取り残されたアストルフォ。アルガリアが投げ捨てた魔法の槍を勝手に使い、再開された御前試合で無双した。その後、彼が魔法の槍をアルガリアに返す事は無かった。彼は追いかけて来たフェローに殺されてしまったから仕方ない。
 ちなみに彼の従兄弟のローランやリナルドもアンジェリカに一目惚れしていた。くじ運悪く、順番が回ってこなかったが、フェローから逃げたという事は自分にもチャンスがある筈だと悟り、全力で彼女を追い掛け王の御前である御前試合の会場から脇目もふらずに走り去って行った。

 近くの森でローランとフェローとリナルドとアンジェリカが恋のバトルロイヤルを繰り広げる中、シャルルマーニュの国を付け狙う者達がいた。
 セリカンの軍が攻めてきたのだ。特に何の理由も無くスペインを滅ぼしたセリカン軍はシャルルマーニュに宣戦布告をする。
 いろいろあってアンジェリカが嫌いになり、更にいろいろあってアンジェリカから好意を抱かれ、彼女を振った後に森から戻って来たリナルド。早速出陣を命じられるが、いろいろあってリナルドが好きになったアンジェリカに決闘中に誘拐されて異国に持ち帰られてしまい、シャルルマーニュ軍は一気に劣勢になっていく。
 ローランもとっくに居なくなったアンジェリカを求めて森の中を走り回り戻ってくる気配がない。
 最期、シャルルマーニュ本人も敵の前に敗れてしまう。
 主君や仲間達が惨敗する中、戦力外通告を受けていたアストルフォが立ち上がる。

『ボクが相手だ!!』
『ハッハッハ!! 貴様のような雑魚にこのセリカン王グラダッソが負ける筈無い!!』

 そして、魔法の槍によって馬からアッサリと落とされるグラダッソ。
 魔法の槍というイカサマを知らない彼は素直に敗北を認めた。捕虜を解放し、颯爽と去って行く。
 救国の英雄になったアストルフォ。誰もが彼を讃えようとした。だが、彼は|従兄弟《リナルド》の愛馬・バヤールを主人の下に連れて行ってあげようと東へ向かい出発していた。

 旅の途中、何故かアストルフォに惚れ込んだサクリパン王にストーキングされつつ、道端で出会った騎士に決闘を挑まれた。
 騎士は出会ったら決闘するものなのだ。
 
『勝負だ!』
『いくぞ!』
『勝った!』

 名馬バヤールが巧みに騎士の槍を避け、その間に魔法の槍をてきとうに振って騎士を倒すアストルフォ。
 そのまま馬で東へ進む。
 そこには橋があり、その先には魔法の城があった。
 橋の上で乙女が言う。

『あの城で出された杯は飲んではいけません』

 乙女は通る者全てに忠告を与えていた。アストルフォは彼女の言葉に従い、城に行っても杯を断った。
 すると、忠告されたにも関わらず杯を飲んでしまった|ローラン含む騎士達《バカども》が現れる。

『友と戦うなど、ボクには出来ないよ! というわけで、さらば!』

 颯爽と逃げ去るアストルフォ。そこに躊躇いは無かった。
 そして、漸くリナルドがいるはずのアンジェリカの城に到着するが、そこにリナルドはいなかった。リナルドはとっくの昔に逃げ出していたのだ。
 するとアストルフォは何故かアンジェリカの軍に入ってしまう。そして、そのままアンジェリカの親衛隊に任命されてしまう。
 アンジェリカの親衛隊として戦うアストルフォ。その後、なんやかんやで敵として現れたリナルドを見て、アッサリとアンジェリカの下を去り、彼と共に国に帰っていく。本来の目的は忘れていなかった。
 
 ところが、帰る途中で魔女アルシナに出会う。そして、アッサリと彼女の甘言に騙されて身包みを剥がされ木に変えられてしまう。
 その後、ヒポグリフに乗ったロジェロという騎士が彼の前に現れる。リナルドから事情を聞き、数少ない心優しい人物であるロジェロは彼を助けようとする。
 だが、ロジェロもまた……、バカだった。
 魔女アルシナの悪行を散々聞かされていたにも関わらず――――、

『美人に悪い人なんかいるわけねーだろ!!』

 と、美人な魔女にアッサリ籠絡されてしまう。
 だが、彼には味方がいた。恋人と師匠が彼を救い、ついでにいろいろなものに変えられていた騎士達をも救った。
 アストルフォも救われた。
 道中で出会った善の魔女と謳われるロジェスティラ。彼女からあらゆる魔術の秘奥が記された知恵の書と窮地を打破する魔法の角笛をプレゼントされ、意気揚々と紆余曲折の後に巨人に襲われピンチになっているロジェロの下に向かう。
 ロジェスティラがくれた便利なアイテムと一生借りた魔法の槍を使い、彼はロジェロの窮地を救った。そして、ロジェロが乗っていたヒポグリフに勝手に跨がり飛び立っていく。
 近くにロジェロの恋人はいたが、彼女は何も言わなかった。
 ヒポグリフの行き先は誰も知らない。乗ってる主人すら分からない。だから、彼女は恋人にあまり乗らないで欲しかったのだ。アストルフォが乗ってくれて助かったとさえ思っている。

『アイツなら何処に行こうがどうでもいいしね』

 彼女は数少ないアストルフォよりも恋人を優先する女性だった。
 
 一方、主だった騎士達が国をほっぽり出して全く関係ない場所で大冒険なり、大恋愛などをしている間にシャルルマーニュの国は大惨事に見舞われていた。
 あまりにもまずい事態にシャルルマーニュを救うため、天から聖ヨハネがアストルフォの下へやって来る。
 異教徒であるアンジェリカに対してのストーキング行為が目に余った為に呪いを受けて正気を失ったローランの思慮分別を保存している月に取りに行って来いと命じられる。

『よーし! このアストルフォに任せたまえ!』
 
 そうして、彼は月に旅立った。
 それからも彼は波瀾万丈の大冒険を繰り返す。
 
 夢から起きた時、士郎は昨晩セイバーに斬られた所よりも腹筋が痛くて呻いたのだった――――。

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