第六十一話「英雄王」

「イリヤ……」
「違うわ、セイバー。私は桜。間桐桜」

 桜の言葉にモードレッドは唇を噛み締めた。
 
「ずっと、騙してたのか?」

 モードレッドが問う。

「言い訳にしか聞こえないと思うけど、私は記憶を改竄されていた。衛宮切嗣とアイリスフィール・フォン・アインツベルンの娘として、順風満帆な人生を歩んだイリヤスフィールという記憶を植えつけられ、私はその記憶が本物だと思い込んでいた」
「じゃあ……、嘘じゃないんだよな?」

 モードレッドは言った。
 
「俺達が過ごした日々は嘘なんかじゃないんだよな……?」

 不安そうに瞳を揺らすモードレッドに桜は小さく頷いた。
 
「なあ……」

 モードレッドは言った。
 
「お前も生き返れよ」
「それは嫌よ」
「どうして?」
「だって、資格が無いんだもの」
「資格?」

 桜は言った。
 
「私は十年前に死んだのよ。体も心もぐちゃぐちゃにされて、大好きだった人も殺された。それに、私は母親をこの手で殺したの」
「母親を……?」
「今思うと、どうしてあんな事をしちゃったのか分からないの……」

 桜は目の前で繰り広げられているギルガメッシュとジャンヌ・ダルクの壮絶な戦いを傍観しながらぽつぽつと語った。
 幼少の頃、親元から離れ、間桐の屋敷に連れて来られた事。蟲蔵で行われた拷問の事。聖杯戦争の最中、家族を敵に回し、母親を殺してしまった事。
 語る内に涙が零れ、体が震えていた。前は平気だった筈なのに……。
 
「サクラ……」

 モードレッドは桜を強く抱き締めた。
 
「きっと、貴女のせいよ……」

 桜は声を震わせて言った。
 
「貴女と過ごした日々があまりにも幸せだったから……。そんな資格なんて無いのに、人を慈しむ心を育んでしまった」
「なんで、そんな事を言うんだよ」
「だって、私は多くの人を殺した。母親まで殺した。姉さんの事だって、散々苦しめた……」
「でも、お前はそれを今、後悔してるんだろ?」
「そうよ……。最低だわ……、私。後悔なんて、する資格無いのに!」

 モードレッドは溜息を零した。
 
「なあ、サクラ。俺の伝承は知ってるよな?」
「……うん」
「俺も父親を殺してるんだ。そんで、その事を後悔してる……」

 モードレッドは言った。
 
「俺も人を大勢殺したし……。何が言いたいかっていうと、俺達は似てるって事だ」
「……私と貴女じゃ違うわ。私は蟲に犯されてよがって、男の精子と女の肉を食べて生きる怪物なのよ。信念をもって、戦った貴女とは違う」
「……同じだよ。俺は俺の欲望の為だけに国を滅ぼしたんだ。怪物って言葉は俺にこそ相応しい」

 モードレッドは桜の髪を撫でた。
 
「それでも、俺達は人間なんだよ、サクラ」
「……私は」
「人間だ。それに、子供だ。俺もお前も未熟過ぎたんだ。だから、他人の操る糸にまんまと引っ掛かった。でも、人間は成長するんだ。子供は大人になるんだ」

 モードレッドは言った。
 
「俺もお前と過ごした日々が楽しかった」

 モードレッドの言葉に桜は瞳を揺らした。
 
「……私だって」
「俺はお前の甘さが好きだった」
「それは……」
「それはきっと、お前の本質だったんだ」

 モードレッドは言った。
 
「記憶を改竄したって言ったよな? でも、その本質までは手を加えて無いんだろ?」
「う、うん……」
「って事は、あの天真爛漫なお前も、あの甘ちゃんなお前も、お前なんだ。俺が好きになったのはお前なんだ。俺が守りたいと思ったのはお前なんだ」

 モードレッドの真摯な言葉に桜は顔を上げ、ジッと彼女の瞳を見つめた。
 
「そんなお前の心が歪んだのはお前のせいじゃない。罪は償わなきゃいけないかもしれない。でも、全てがお前のせいって訳じゃないんだ。今、お前は本当の自分を取り戻しつつある。だったら、後悔したって良いんだよ。それが成長で、自立で、大人になるって事なんだ。お前はお前を歪めた奴等の呪縛から抜け出したんだ」

 それでも、自分が母親を殺した事は事実だ。多くの人の血肉を喰らった事も事実だ。
 
「後悔しちゃいけないんじゃない。後悔すべきなんだ。たくさん、後悔して、たくさん、涙を流して、罪を償うんだ。そして、生きるんだ」
「……無理よ」

 桜は言った。
 
「私の罪は償いきれるものじゃない。死ですら償えない」
「償えるさ」

 モードレッドは言った。
 
「彼らを殺した罪を背負って生きる事。それは償いになる。だって、それは死ぬ事以上に辛くて苦しい事だろ?」
「……そんなの耐えられないわよ」
「でも、耐えなきゃいけないんだよ」

 モードレッドは言った。
 
「殺した相手に許してもらう事なんて一生出来ない。それでも、背負って生きるんだ。そして、幸せを掴むんだ」
「無理よ……、そんなの」
「出来る」
「無理だってば……」
「出来る」
「どうして、そう言い切れるの?」
「だって、お前が幸せになってくれなくちゃ、俺が困る」
「……はい?」

 首を傾げる桜にモードレッドは言った。
 
「俺はお前が大好きだ。だから、どうしても幸せになって欲しい」
「えっと……」
「そんで、お前も俺の事が大好きだろ?」
「そ、それは! ……そうだけど」

 顔を真っ赤にして呟く桜にモードレッドは言った。
 
「なら、大好きな俺のたった一つのお願いを桜は叶えてくれるよな?」

 モードレッドの言葉に桜は言葉を失った。
 酷過ぎる。そんな事を言われたら……。
 
「幸せになってくれ、桜。じゃないと、俺が不幸だ。桜は俺を不幸にして平気なのか?」
「……平気な筈無いじゃない」

 唇を噛み締めて、桜は言った。
 
「大好き! セイバーの事が大好き! 嫌いになんてなれない! ずっと、私と一緒に居てくれて、私を守ってくれたセイバーを不幸になんて……、出来るわけ無いじゃない……」

 桜の言葉に満足そうな笑みを浮べ、モードレッドは立ち上がった。
 
「お前の為なら俺は何だってしてやれる。だから、お前も俺の為に幸せになってくれ」

 その瞬間、彼女が何をするつもりなのか、桜は直感した。
 
「ま、待って! ダメ! 止めて、セイバー!」
「俺の命をお前にくれてやる! だから、生きろ!」

 モードレッドは駆け出した。
 ギルガメッシュとジャンヌ・ダルク。二騎の英霊が繰り広げる激しい戦いの中心に飛び込み、高らかに叫んだ。
 
「|我が終焉の戦場《バトル・オブ・カムラン》!!」

 モードレッドの宝具が展開する。嘗て、王とその息子が殺し合った決戦の舞台が闇の中に浮かび上がる。
 無数の屍を踏み締め、モードレッドは叛逆の証たるクラレントを握り、ジャンヌは白く長い槍を握らされる。
 
「不明。何が起きている!?」
「あるがまま、見るがまま!」

 如何に抑止力と言えど、この宝具の前では無力。
 不死の怪物だろうと、命のストックがあろうと、圧倒的な力を持つ化け物だろうと関係無い。この宝具に囚われた者は両者相打ちの運命を背負わされる。
 
「アーチャーのマスター!」
「モ、モードレッド!?」

 突然の事態に立ち尽くす凜にモードレッドは言った。

「桜を甦らせろ! アイツは幸せにならなきゃいけないんだ!」
「……それは」
「頼む。アイツだって、本当は生きたいんだ! 幸せになりたいんだ! 分かるだろ!? アイツの姉なら、アイツの本心くらい!」

 モードレッドの叫びに凜は目を見開いた。
 
「頼む!」
「……分かったわ」
「……ありがとう」

 モードレッドは剣を大きく振り被った。その動きに呼応するようにジャンヌもまた、槍を振り被る。
 
「警告。今直ぐに宝具の発動を解除しなさい」
「嫌だね。桜の幸せの為にお前は邪魔だ」
「宣告。ならば、力ずくで解除します。死になさい、モードレッド」

 圧倒的なまでの|圧迫感《プレッシャー》。
 本来、この宝具に囚われた時点で全てのステータスやスキル、宝具が無効化される筈。にも関わらず、ジャンヌは膨大な魔力を迸らせ、モードレッドの宝具に軋みを上げさせている。
 
「ば、馬鹿な……」

 あり得ない。破られる筈の無い無敵の宝具と自負しているバトル・オブ・カムランが崩壊を始めている。その光景に愕然となり、モードレッドは唇を噛み締めた。
 桜を助けたい。そう願いながら、叶えられない己の無力さに涙が零れた。
 
「いや、良くやったぞ、モードレッド」

 そんな声が背後から響いた。
 それと同時に飛来したのは一本の美しい槍。ジャンヌの胸に突き刺さったそれは光を迸らせる。
 
「その槍は神に対して、人の自由意志を尊重するよう求め、堕天し、魔と化した者の槍。その槍に貫かれた者は神の意思に寄らぬ人の意思を取り戻す」

 ギルガメッシュの呟きと共に光が収まり、ジャンヌの瞳から黄金の輝きが掻き消えた。
 嘗ての紫眼を取り戻したジャンヌは言った。
 
「感謝します、アーチャー。けれど、時間が無い……。私を殺して下さい」
「断る」
「ありが……、え?」

 ジャンヌはギョッとした表情を浮かべてギルガメッシュを見た。
 
「で、ですが、早くしないとまた、私、抑止力になっちゃいますよ!?」
「だが、しばらくは保つであろう?」
「ですが……」
「問答無用だ。時間が無いのは確かだからな。凜! そこの小娘を生き返らせろ」
「え? あ、はい! えっと、桜!」

 ギルガメッシュに命令され、凜は慌てたように桜に駆け寄った。
 
「姉さん……」
「……あのさ。正直、こんな事言う資格無いの分かってるんだけどさ……」

 自分を見上げる妹に凜は言った。
 
「幸せになって欲しいの……。貴女がこの世界でイリヤとして過ごした時間のように、幸せな時間を、今度はちゃんと間桐桜として過ごして欲しい」
「私は……」
「ごめんね。こんな事、私に言われても迷惑だよね? でも、ライネスにも言われたし、ちょっと我侭になって言ってみるよ」

 凜は言った。
 
「愛してる。生きて欲しい。幸せになって欲しい」
「……私も愛してる。ごめんなさい……、姉さん」
「心から愛しているわ……、桜」

 凜は桜に手を触れた。すると、桜の体は光に包まれ消えた。
 同時に頭上のステンドグラスが割れ、桜の本体が現実の世界へと戻っていく。
 
「これで、私一人になっちゃったな……」

 呟いてから、凜は辺りを見回した。
 
「みんなー!」

 遠くから傷だらけのライダーが走って来た。
 
「大丈夫!? なんか、ボク、いきなり気を失っちゃって……」
「すみません。それ、私がやりました……」
「え、ルーラーが!? なんで!?」

 現れた途端、頭が痛くなる会話を始めるライダーに凜は苦笑いを浮かべた。
 
「ライダー。とりあえず、全部終わったわ」
「全部?」
「フラットとイリヤは生き返って、現実の世界に帰還したの」
「そうなのかい? なんだー、挨拶くらいしてくれもいいのにー」

 唇を突き出して不満を口にするライダーに凜は「ごめん」と呟いた。
 
「私が強制送還しちゃったのよ……」
「凜が?」

 首を傾げながら、ライダーは言った。
 
「まあ、いっか。それより、凜は帰らないの?」
「うん。私はここに残るのよ。そして、この世界を終わらせる」
「どうやって?」
「簡単よ。今の私が死ねば、聖杯はアンリ・マユごと滅びる。だから、アーチャー」

 凜はギルガメッシュに顔を向けた。
 
「私を殺してくれる?」
「断る」
「ありが……、え?」

 ついさっきジャンヌがしたみたいな反応をしてしまった。
 
「えっと……、自殺はちょっと怖いから、出来れば貴方に一思いに……」
「二度も言わせるな。断ると言ったのだ」
「……じゃあ、アーチャー」

 凜は堅い表情を浮かべるエミヤシロウに顔を向ける。
 
「なんだか、再会したばっかりなのに、こんな事を頼むのも何だけど、私を……」
「殺そうとしたら、その前に我がお前を殺すぞ、エミヤシロウ」
「ちょっと!」

 ゲート・オブ・バビロンを展開して言うギルガメッシュに凜の堪忍袋の緒が切れた。
 
「江戸時代の罪人だって、切腹のときは介錯してもらえるのよ!?」
「時間が無いのだから、喚くな」

 拳骨が凜の頭に降り注いだ。
 火花が飛び散ったように感じ、凜は頭を押えながら悶絶した。
 
「お、おい、ギルガメッシュ?」

 エミヤシロウが凛の頭を必死に撫でながら首を傾げる。
 
「君は何を……?」
「これから、凜を外に出す」

 その言葉に凜はハッとした表情を浮かべて立ち上がった。頭の痛みを気にしている余裕なんて無い。
 
「それは駄目!」
「何故だ?」
「そんな事をしたら、アンリ・マユまで……」
「お前、我を馬鹿にしているのか?」
「え?」

 腹立たしげに睨むギルガメッシュに凜は後ずさった。
 
「で、でも、私を出すって事はつまり……」
「凜。お前はまさかと思うが、我よりも賢いつもりでは無かろうな?」
「……はい?」

 ギルガメッシュは言った。
 
「我が貴様のお粗末な頭で懸念している事を考えていないとでも思ったか、戯け! 我が外に出すと言った以上、その程度の事は考慮済みだ!」

 ギルガメッシュの怒声に凜は「ひぃ」と悲鳴を上げた。
 
「いいか? お前は頭が悪いんだ。その事をキチンと自覚しろ! 世間知らずの未熟者が! 無い知恵振り絞って愚かな決断をするんじゃない!」
「そ、そこまで言わなくても……」

 徐々に涙目になる凜にギルガメッシュは言った。
 
「いいから自覚しろ。お前はまだまだ経験不足だ。知識も足らん。だから、生きて、学び、経験を積め」
「アーチャー……?」

 ギルガメッシュは言った。
 
「言っただろう? 希望はあると。お前の未来に立ち塞がる生涯は我が切り払うと」

 ギルガメッシュは微笑んだ。
 
「お前を外に出す。その為の準備は整えてある」

 そう言って、彼はライダーに向き直った。
 
「力を借りるぞ、ライダー」
「……ボクに出来る事なら何でも言ってくれ」

 ギルガメッシュが指を鳴らすと、虚空から光り輝く馬車が現れた。ただし、馬車を牽く獣の姿は無い。
 
「これより、我がこの世界を滅ぼす。その際、一瞬だが現実へ繋がる穴が出来る筈だ。そこにこれを操り飛び込め。出来るな?」
「任せてくれ」

 ライダーの言葉にギルガメッシュは微笑み、エミヤシロウに顔を向けた。
 
「貴様は護衛だ。恐らく、邪魔が入るだろうからな。どんな手を使ってでも凜を守れ」
「……分かった」

 頷くエミヤシロウにギルガメッシュは言った。
 
「今度は中途半端に投げ出すなよ?」
「……ああ、勿論だ」

 彼から目を離すと、ギルガメッシュは今度はジャンヌに顔を向けた。
 
「貴様は貴様の責務を果たせ」
「私の責務……?」
「外側に出た後、聖杯を破壊しろ。七千を越える英霊の魂を喰らった聖杯だ。抑止の後押しがある貴様にしか壊せんだろう」
「……分かりました」

 ジャンヌが頷くと、今度はモードレッドに顔を向ける。
 
「貴様も外へ出ろ」
「俺も……?」
「今の聖杯の魔力ならばサーヴァントを受肉させる事も容易いだろう。それで凜とあの小娘を守れ。恐らく、外に出た後、面倒な輩がこやつらにちょっかいを出してくるだろうからな」
「……分かった」

 ギルガメッシュは瞼を閉ざすと言った。
 
「そういう訳だ、凜。ライダーとモードレッドを受肉させろ。それと、そこの似非シスターも生き返らせておけ」
「……うん」

 凜が軽く手を振ると、モードレッドとライダー、そして、エミヤシロウの体が光り輝いた。
 
「アーチャー」
「なんだ?」
「貴方はどうするの? 一緒に来てくれないの?」

 凜の言葉にギルガメッシュは鼻を鳴らした。
 
「甘えるな。我が貴様のお守りをするのはここまでだ。外の世界に出たら、後は自分の力で生きてゆけ」
「……アーチャー」

 情け無い声を出す凜にギルガメッシュはやれやれと肩を竦めた。
 
「あまり、ガッカリさせるな。お前は強くなった。我の加護など無くとも、今度こそ自分の力で幸福を勝ち取れる筈だ」

 そして、と彼は言った。
 
「精一杯、輝かしい未来を創れ」
「アーチャー?」
「それが我の貴様に対する王としての命令であり、相棒としての頼みであい、サーヴァントとしての嘆願だ」

 ギルガメッシュは凜の頭に手を置いた。
 
「我は先を見通す眼を持っている。空を見上げれば、時を重ねずとも遥か遠い未来を見る事が出来る」

 ギルガメッシュが語る言葉を凜は黙って聞き入った。
 
「――――人類最古の物語。後の世に語り継がれる英雄の責務であり、我の悦び。それは人の世の理を見据え続ける事」

 ギルガメッシュは凜と視線を合わせて言った。
 
「我を興じさせる未来を創るのだぞ、凜」
「……はい」

 凜は言った。
 
「必ず、貴方を魅せてみせます!」

 体を震わせ、涙を流しながら、別れの辛さを必死に抑えつけて凜は言った。
 
「だから、見てて下さい! 王よ!」
「ああ、見ているぞ」

 ギルガメッシュは凜から手を離すと、蔵から一本の剣を取り出した。
 それは彼が持たぬ筈の剣。特徴的な円柱状の刀身を持つ始まりの剣。
 
「どうして、それを……」
「下界で戦っている時に理性を失い畜生に堕ちた無様な我自身から回収した」

 唇の端を吊り上げ、ギルガメッシュは言った。
 
「さあ、馬車に乗り込め! 今より、この世界の幕を下ろす! 目覚めよ、|乖離剣《エア》! 先達者として、後塵を往く者に道を示さねばならぬ!」

 凜は最後に己の相棒の雄姿を眼に焼付け、馬車に乗り込んだ。ジャンヌとモードレッドが後に続き、ライダーが御車台に乗り、エミヤシロウが馬車の天井に上がる。
 
「往け! ライダー!」

 ギルガメッシュの号令に従い、ライダーは馬車を奔らせた。牽くモノの居ない馬車の車輪は虚空を踏みつけ、天に上がる。
 大地が揺らぐ。彼が凜の頭をに触れた時、凜とアンリ・マユの繋がりは断たれた。故にこの世界の真の主が目を覚ましたのだ。
 
「|この世全ての悪《アンリ・マユ》よ。王の決定に逆らおうと言うのならば是非も無い。人類最古の地獄を見せてやろう! さあ、幕引きだ!」

 乖離剣の三つに別れた円柱状の刀身が回転を始める。巨大な魔力がうねり、世界が歪む。
 
「滅び去れ! |天地乖離す開闢の星《エヌマ・エリシュ》!」

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。